登校中の出来事。
朝の通学路、敦が足早にやってきた。
「よう!ウイッス!」
息を弾ませ俺の隣で歩き出す。
「朝からテンションたかッ。」
俺は若干呆れて言った。
「朝だから元気なんだろうよ。」
敦は明るくにこやかに言った。
「お前は田舎の爺さんか。」
こいつのテンションの高さに既に疲れる。
「で、なんか用か?」
「朝会って挨拶をしただけだろが。用がなければ挨拶してはいかんのか?ボケが。」
敦はさっきのテンションどこへやら、むくれて俺に言ってきた。
「そりゃ悪かったな。しかも俺は挨拶を忘れてるわ。おはようございます。敦さん。」
「うむ、よきに計らえ。」
「お前また日本語の使い方間違えてんぞ。」
そして俺らは黙って歩き出す。
「おい、ホントは用があるんだろ?」
俺は敦に本心を聞いてみる。
「なんでお前は見透かしたように言うんだよ。キモイわ。」
「付き合いが長いからな。知りたくなくても分かっちまうんだ。」
マジだった。
「聞いてやらんでもないぞ。」
俺がそう言うと、すかさず
「流石我が親友。ぜひ聞いてくれ。」
おどけた調子で言ってくる。
「やっぱあんじゃねーか。なんだよ、言ってみ?」
「うーん、この間さ、委員長に紹介して貰っただろう。」
敦は言い難そうに口を開いた。
「飯山か。どうした?うまくいってたんだろ?あんだけ浮かれたくせに。」
飯山理沙。委員長から敦が紹介された彼女だ。
「それがさ、S高に行くっていうんだよ。俺、ほら偏差値足りないじゃん。高校分かれんのマジ嫌なんだよ。どうしよう。」
「勉強しろ。以上。」
俺はバッサリ斬り落とす。
「それが出来れば苦労しないだろ!」
「みんな苦労しながら勉強してんだよなぁ。」
「くぅ…」
「今までサボって楽しんでたんだ。それくらいのしわ寄せは覚悟完了していたんだろう?」
俺は追い打ちをかける。
「あんま正論パンチでフルボッコ止めてくれ。」
普段、能天気な敦がマジへこんでいる。
面白れぇ。
いや、ちょっとかわいそうかな。
「一緒に勉強するか?」
ぱぁ!と敦の顔が明るくなる。
「本当か?付き合ってくれんの?」
敦は今にでも俺に抱き着きそうな勢いだ。
「お前とは付き合わねーよ?俺には委員長がいるもん。」
「じゃねーよ。勉強付き合ってくれんのかってんだよ。ざけんな。」
せっかくの俺の渾身のボケをマジレスで返しやがって。
「構わんぞ。せっかくだから4人で勉強するか?」
俺は最上の提案をした。
「お前と委員長と俺と理沙ちゃんか。いいねぇ。へへっ。」
もう鼻の下伸ばしやがって。
「俺ら本気でやるからな、付いて来いよ。」
「なんでだよ!お前らが受験するX農林高校は偏差値50も行ってないんだろ?お前と委員長なら余裕じゃないかよ。俺に合わせてくれよ。俺も第一志望はX農林高校にしたかったんだ。そうすりゃお前らとも一緒だろうが。」
「バカ!お前に合わせたら、飯山もお前もS高に受からんだろうが。それにな、受験で手を抜けるわけないだろ!本番で何が起こるかわかんないんだ。出来ることはやっとくに越したことはないんだよ。」
「バカ言うなよ。俺だって分かってんだよ。」
バカがバカと言われてへこんでら。
「それにお前言っていたじゃないか、普通科じゃないと進路が狭まるって。実業高校に入るとその先が辛いって分かってんだろ?あんま甘えんなよ?コラ。」
そう、こいつには俺と違って選択肢があるんだ。
羨ましい。
「分かった、分かったって。マジで怒んなよ。」
ビビっても居ないのに、敦はそのふりをする。
「お前にマジで怒って何の得があんだよ。敦、お前にいいことを一つ教えてやるよ。」
「何?勉強の秘訣か?」
「そんなんじゃねーよ。女の子は、一生懸命な男にときめくそうだぞ。」
「マジかぁ…」
「だから本気になれ。本気で勉強しろ。その本気がちゃんと身に付く。すれば飯山もちゃんとついてくるぞ。ひゅー。」
敦の顔が急に真面目に変わった。
「ひゅーじゃねーし。わーったよ。人生で一番頑張って見せるよ。その代わりバックアップ頼むぞ。」
「ああ、任せろ。骨くらい拾ってやるさ。」
「負け確定にすんなぁ!」
こうして俺らは秋空の下、母校の校門をくぐった。