8話 嫉妬に駆られし者と巻き込まれる悪魔
あれからツミキの兄がツミキの親父に猛抗議したが、その声が聞き入れられることは無く……夜になった。
ツミキの親父が、ツミキの部屋は今までと同じ状態に維持してある。今日はその部屋で休むと良い。とか言ってツミキだけを執務室から出し、夕刻になるとメイドらしき人間がツミキの部屋に豪華っちゃあ豪華な食事を持って来た……レシピとか教えて貰えるかな……
俺としてはツミキの親父が兄妹が集まったらとか言って同じ部屋で食事するとか言い出すと思っていたが、ツミキとその兄との関係性は存じているようで安心した。
あの手紙を呼んだツミキの表情からどんなクソ親父かと思ったが、案外ちゃんと我が子のことは考えているようだ。
「それにしても何でツミキはそんな嫌なんだ?あの面倒くさい兄を除けば、当主としての階級や地位でかなりのメリットがあると思うんだが。当主なんて適当に威厳を振り撒いて部下に仕事を振る程度の役目じゃないのか?」
俺がそう聞くと、ツミキが困ったような笑みを浮かべて俺を持った。
「……私はただ、面倒なだけなんだよ。階級とか地位とか威厳とか……そんな物より私は人形を愛でていたい。面倒な規律が立ち並ぶ魔法の世界よりも、現代科学と人間社会で構成された分かりやすいあの日常の方が私に合ってる」
……俺には、人間の考えなんて分からねぇ。そりゃそうだろ……俺は悪魔で、ツミキは人間。種族や価値観とかが丸っきり違う……
いつだっけかな……俺が人間の召喚に応じる事無く、俺自身の足で人間の世界に来たのは……
『……』
……誰だ?ツミキの就寝中のこんな真夜中に窓から入る輩は。
人数は5人くらいか?電車に乗ってた時に現れる前に片付いた刺客に似てるな。俺の存在を気にも掛けていないか……取り敢えず人形のふりして何をしたいのか観察するか。
ま、どうせやろうとしていることは1つだろ。
「……あっ」
一緒に着いて来ていた人形達があの刺客らしき人間を不意打ちで殴り飛ばしそのままボコボコにして気絶させた。
2日前も見たなこの光景……
やっぱ強ぇな……しかもツミキが完全に寝てる時すら動くときたもんだ。あ、持って来た縄が変な結び方に……流石にツミキが起きなければ精密な操作は苦手なんだな。
全員完全に気絶したみたいだし、コイツらを縄で縛るのを手伝うか。
朝になった。
ベットから起き上がったツミキがその場で背伸びをすると、欠伸をしながらベットから降りた。
ツミキが刺客らしき人間が縛られている光景を見ると、やっぱりと言う顔ですぐに視線を逸らし1人で寝巻きからの着替えを始めた。
「ツミキ、どるする?この不法侵入者共は」
「お父に渡す。私だけで処理できる問題じゃ無いし」
それもそうか。
直後に朝食を持って来たメイドがボコボコにされて縄で縛られた刺客らしき人間を見た瞬間、ぎょろりと目を見開き数瞬固まった。
そりゃそうだよな。普通驚くよな。ここに来てからのツミキが色々と達観しているだけだよな。
ツミキが朝食を受け取って、メイドにツミキの親父に面会を求めるように伝えて……メイドと比べたら恐ろしいほど平常だな。ほんとに。
「それほどの力と魔力が無ければ当主には推薦しない。だが、まさか暗殺者を送り込むとは……」
昨日の執務室に来て、俺はただの人形のふりをしてツミキと一緒にツミキの親父と面会すると、開口一番そう言いやがった。
ツミキの親父は全く心配した素振りは見せていないが、流石に堪えるようで額に皺を寄せていた。まぁツミキの実力を幼い頃から見ていたと考えれば、当然の反応か……
次期当主に推薦されたツミキの命を狙うなんて、もはやツミキの兄以外には考えられねぇな。電車の時もだし。
「お父。このまま兄を放置すると大変なことになるよ。考えたくないけど、万が一があったら……」
「それもそうだな。次期当主が暗殺されかけたとなれば、我が一族の見聞が地に堕ちよう。あれも完全な独り立ちをしても良い頃合いだろうからな。丁度良い、私の方から勘当しておこう」
「それでお願い」
ツミキ……嫌なはずだろ。面倒だって言ってただろ。何で、嫌がっているのに、どうして自分から当主になるのを反対しないんだ……?何でだ?
刺客共を渡して、そのままツミキと一緒に部屋に戻った。誰もいない……疑問をぶつけるなら今か……
「ツミキ……どうして当主になるのを反対しないんだ?当主を面倒だって言ってたじゃねぇか」
「昨日も言ったけど、面倒からだよ。私に合って無いって分かってる。でもね、いつまでも見てないふりをしても、それは我儘だから。兄は当主の器じゃないし、ただ権力に満足したい人だから……消去法で私になっただけ」
……俺から見ても、それも我儘だ。考えすぎなんだ……ツミキは……もっと自由になれば……
「……私は怖い。怖くなった。私の我儘で、お父に失望されたらって。ずっとそう考えて、普通の生活を経験したいっていう勉強の体で、あの普通な社会人の生活は成り立ってた。もう終わりなんだよ…………でも……でも、もし我儘が許されたら私は――!」
『…………っ!!』
ば、爆発か?!この揺れは普通じゃない!
揺れが落ち着くと、ツミキが慌てた様子で扉を開けて……固まった。何が…………?!
屋敷が半壊して……メイドや執事達が混乱に吞まれるままその場で右往左往。
「お父!」
ツミキが周囲を見渡した瞬間、人形を連れて走り出した。部屋の近くにツミキの親父が壁に叩きつけられた様子で倒れていた。
危なかった……咄嗟にツミキの肩に掴まって無かったら部屋に置いて行かれる所だった。
「あの馬鹿者が……まさか禁忌を侵すとは……!」
こいつ……全身から血が垂れても意識を失って無いのか。だが周りが全然見ていてないな。ツミキに気付いている様子は無いし。
ツミキの親父が拳を握り歯を食いしばりながら起き上がると、腹から大量の血を噴き出して……いや、腹に穴が開いていた。重傷だ。即刻救急車で病院に連れて行くか治癒魔法で回復させないと死ぬだろこれ。
「かの者を癒せ!」
ツミキが即座に腹の穴に手を押し当て治癒魔法をかけた。
数秒の時間で蒼白になっていた顔色が戻り、ツミキが手を退けると既に穴が塞がってた。本当に凄ぇよ。俺も治癒魔法は使えてもそんなに早くは直せない。
「……はぁはぁはぁはぁ」
ツミキ……流石にこの重傷を直すのには、いくら魔法の才があってもそりゃキツイか。
治癒魔法をかけられたツミキの親父はそのまま意識を失った。
だが何が起きたんだ……?ツミキの親父が言った禁忌とは……一体何だ?