7話 魔法使いの一族と人形に扮した悪魔
て、敵襲?!こんなとこで敵なんて――――
「人の形よ。意思を持って、動いて…………ふう、終わった」
「……え?」
ツミキがそう言った瞬間、隣の隣の席に座ってた奴がぶっ倒れた。カバンから出て様子を見に行くと、いつの間にかいたツミキの人形達がナイフと杖を隠し持った男3人をボコボコにして縄に縛っている光景だった。
……やっぱ俺よりも強ぇ。ツミキと全盛期の俺が一対一で戦ったら、多分人形一体一体の強さと数で負ける。
「一瞬魔力と敵意と殺意を感じたからね。こんな時に武器を持った人なんて、私が当主に推薦されたことをよく思わない人からの敵襲以外ありえないし」
やっぱキサラギの血を受け継いでやがる……
「それで、こいつ等はどうするんだ?」
「次の駅で降りるから、一緒に連れてく。倒した事実を見せつければ牽制にもなるし。正直牽制になるかは怪しいけど」
特大のため息を吐いて疲れが滲み出てるツミキはそう言った。取り敢えず今の刺客でツミキがどうしてあんな様子なのかが分かった気がする。
ほぇー……人気のない洋風の屋敷だなー……
没落したとか言ってたが、敷地はデケェし草花はしっかりと整われている。ちゃんと人の手が入っている証拠だ。これが昨日までアパートで暮らしてた奴の実家なんて信じられねぇなぁ……
「お帰りなさいませ、お嬢様」
ツミキが屋敷の扉を開くと、昨日の硬そうな女が屋敷の中にいて駆け寄って来た。ずっと待ってたのか?
硬そうな女は一瞬足元の人形に運ばれる刺客達を見て、状況を察したみたいにツミキの目を見た。
で、ツミキはずっとイヤそうな顔だ。いつもの見慣れた顔とは大違いだな……
俺は不自然にならないようにツミキが持つカバンから少し出て、普通のパペット人形のように動かず静止。これなら魔法を使わないで済む。
硬そうな女に屋敷の中を案内され……そうになるがツミキが先行して歩き出した。そりゃそうか、多分実家のはずの屋敷の案内なんて普通要らないもんな。
人形達はあの硬そうな女の近くに刺客を投げ捨て、トコトコとツミキの後ろに追従した。やっぱこの姿だと人形一体にも勝てそうにないな……
「げっ……」
ツミキが急にイヤそうな声を……目の前には、ツミキが今歩いている廊下の反対側からこっちに来る、偉そうな男がいるが……
「誰だアイツ?」
「私の兄だよ。今は魔法協会の幹部に就いていて、全く帰って来ないはずなんだけど……」
あぁ、ツミキの親族の魔法協会の重鎮ってアイツか。
「おお!久しいな我が妹よ、1年振りほどか。まさかここに戻ることがあるとは……」
随分馴れ馴れしいな……ツミキがイヤがるってことは相応の理由があるはずだが……見た目と声だけじゃ分かんねぇな。
「兄……」
「其方も父上に呼ばれただろう?何故呼ばれたのかは私にも分からないが、父上は歳を取った。恐らく次代の当主を決めるだろう。話は変わるが、魔法協会の幹部であるこの私には、当主と言う箔が必要とは思わないかね?」
「…………どうだろうね。お父の判断に任せるよ」
……なんだこの違いの笑顔に秘められた険悪な空気は……
ツミキが曖昧に返事をすると、ツミキの兄は笑顔を貼り付けたまま何処かに行った。
あれが角を曲がり完全に見えなくなると、ツミキが深い息を吐いて壁に背を付けた。
「あの刺客は多分お兄の差し金だよ。知らないふりをしてるけど、私がここに帰って来た理由はもう勘付いてるはず。魔法の才で私に劣るのをいつも気に入らないみたいで、いつも私にだけ強く当たってるんだよね」
だからか……険悪な空気はそれが原因か。
凄く質素な執務室。素朴に見えるがかなり質の高い魔法の品々。寡黙に座る髭面の男……アイツがツミキの親父か。
「お久しゅう御座います父上。親子が揃うのは2年振りで御座いましょうか。それで、私達兄妹を呼んだのには、呼ぶのに足る理由がありますでしょう?」
コイツ、メッチャクチャ白々しいな……さっきあんなことを言って置いて。
「そうだ。私はそろそろ歳だ。力も魔力も年々衰える一方。そこでお前達の中から当主として推薦し、私の元で当主としての教育を施すことにした。分家の者達に認められるほどであれば、私も気兼ね無く当主の荷を下ろすことが出来よう」
今決めた。みたいな雰囲気を出しているが、あの手紙をツミキに送った以上、既に決定して、それをこのツミキの兄に周知させる狙いか。
手紙で次期当主はツミキだと知らせても納得するような奴じゃ無さそうだしな、この親父……中々に侮れねぇ。
「……父上……その推薦したと言う者の……名を、聞いても?」
動揺と怒りが混ぜ混ぜって感じか?もう知ってんだろうに、勇気あるな。
「ツミキだ」
で、肝心のツミキは……次期当主を発表してる場と言うことを理解しているのか、嫌な顔は何とか押しとどめている。だが一度間違えれば面が割れそうだな……大丈夫か?
「お父、本当に私で良いの……?」
「そ、そうですよ!一族の生まれであるのにも関わらず、魔法とは無縁な生活を望む変人では傍系の者達は納得しません!次期当主は魔法協会幹部である私が相応しいと考えておりますが?!」
コイツサラッとツミキをディスって自分を推薦してやがる。