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3話 隠れ潜む小さな悪魔

「ただいまー」


最近、ツミキのヤツの様子がおかしい。まだ数週間程度の間柄だが、流石に毎日見ればツミキの仕事帰りの顔は覚えてる。


俺としてはどうでも良いと無視できることでは無い。今の俺はどうしようも無いほど非力。悔しいが、ツミキに寄生している事実は変わらない。


もしもツミキが何かあったら俺の野望が終わる!だって怪しげな喋る人形なんて、ツミキ以外にそばに置く酔狂なヤツはいないはずだ。


俺は一晩考えた。まず、兎にも角にも何故あんなに『そわそわとして落ち着かないのか』を知らなければ何もできない。


だからツミキに知らせずにツミキの足を利用して、1番疑わしい仕事場を調査する。前々から気になっていた仕事風景の視察するのにも丁度良い。まさに一石二鳥。流石俺だ。




「それじゃあ行ってきまーす。今日もデーモの手料理期待してるね」


「良いからさっさと行け!」


ツミキが扉を閉め、階段を降りる音。順調に進めている。


今ツミキを送り出した声は昨晩の内に記録した録音機だ。あの部屋に何があって何が無いのかは把握している。


録音機があって良かった……


そして今俺は、ツミキのカバンの中にこっそり忍び込んでいる。ツミキが目を離した瞬間に入ってやった。


あと、それだけだとカバンを開かれた瞬間に俺がいることがバレるから、この前のすっからかん状態からやっと回復した俺の魔力で、透明化の魔法を使っている。


一応瞬間移動の魔法でツミキを追跡することはできるが、その魔法そのものと俺の視覚に頼って瞬間移動するから、連続使用が前提な分、魔力の消耗が激しい。


カバンの外からは車と人間の喧騒、そしてガタゴトと大きな音が連続して聞こえる。物置から引っ張り出して朝までに記憶しておいた地図だと……ここは最寄りの駅か。


確か、いつもツミキは電車とか言う金属の塊に乗るんだったな……




……うるせぇ……うるせぇ!


何だこれは!人間が許容限界まで乗るなんて聞いてないぞ!


あー!カバンの上から押し潰されるー!




やべぇ……精神的に疲れた……もう二度と電車には乗らねぇ。


外からは人間どもの大量の足音に、車とか言うヤツの唸る音。


流石に……ちょっと後悔してきた……だが、だがここまで来て、諦めたら俺の頑張りが無に帰す……そもそもツミキの足が無いと俺は帰れないが。


……?急に音が凪いだ。さっきまでの喧騒が嘘のように……はっ!


カバンの中から外は見えない。だからこそ、残っている魔力を使い、別方向から俯瞰して周囲を見渡せる俯瞰視点の魔法を使う。


……ふむふむ。ツミキは今さっきガラスの扉を通り抜けて、巨大な建築物。ビルの中に。


近くで見ると山みてぇにデカい……人間ってこんな物を造れたのか……昔の俺が喧嘩売ったらコテンパンにやられそうだなー……




「おはようございまーす」


カバンの外からツミキの挨拶とそれに反応するように別の声が返事した。挨拶に反応した声の数から……この場には大体10人くらいか?もしくはもっと多く……


「……」


……ツミキがカバンを開いた。ずっと無言で中を見つめ……はっ!まさか?!解けているのか?!透明化が!


い、いや。解けて……無い。ツミキのヤツは何を見て……


「ツミキさーん。ずっと中覗いてどうしましたー?もしかして……お菓子とか入れてたり?」


ツミキ以外の人間がカバンの中を見た。しかしめぼしい物は無かったようで、昼は一緒に食べましょうと言い残して離れて行っ……


おい……おい!やめろやめろやめろ!俺を見るな!


本当に透明化してるよな?!じゃあ何でツミキがまた俺を見てるんだ?!何でだ?!


「……あった」


ツミキが俺に向けて手を……こうなったら最終手段!瞬間移動の魔法を使うまで!


「やっと見つけた。びっくりしたぁ……財布無かったらどうしようってなってた……」


……ツミキのヤツ……あのチッセェ財布が見当たらなかったからカバンの中を覗いていたのか……驚いて損したなぁ……ふう……一旦ここから見るか、ツミキの仕事風景。




何もねぇ……何もねぇ!ツミキの様子がおかしい原因になる要因が分からねぇ!何もねぇ!


もう夕方……あっ、ツミキが時計を見てツミキが仕事していた机を片付け始めた。もう帰るのか。隙を見てカバンの中に入らせて貰うか。


……よし、カバンの中に入れた。


取り敢えずこれで帰還は約束された。だがなぁ……疲れた……疲れたのに、ツミキの様子がおかしい原因が全く分からない。


もう夕方だし、仕事終わったし、仕事していたビルを抜けて駅に入り電車に乗ってツミキが住むアパートに1番近い駅に到着して降りた。朝のことがあって、俺が電車に人が少なくてホッとした。


トラウマになってんな……悪魔であるこの俺が……


……ん?どうしたんだ?ツミキが見つめているのは……小さな店か?何を売って……チッ、ああそうか!ツミキの行動を毎日見てたら分かってただろうが!俺!


はぁ……もうカバンの中に居続ける必要は無くなったな……まだ残ってる魔力使って瞬間移動の魔法で先に帰るか……




料理本に書かれていた時短料理を作っていたら、ツミキがいつもより少し遅れて帰って来た。大方さっきの店で買って遅れたんだろう。はぁ……


「見て見てデーモ!新しいお人形!この前から目をつけてて、今日ボーナス貰ったから買っちゃった!」


行きは持っていなかった白い袋。ツミキがその中から50cmくらいのデカ人形を2つ取り出して俺に見せつけた。


……骨折り損、だったか。徒労に終わっちまったな……何であんなことをしたのか、マジであの時の俺を殴りてぇ……

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