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結論から言うと巨大ウニはそんなに美味しくはなかった様だ。
『大きさ、または品種による味の相違点、データ更新』
金属並みに硬い殻も勿論キュリヤが吸収。一度半分に割った形で肩パッドの様に出現させてみせた。
「ハハッ、良いなソレ」
「神さん、それは神さんの記お……」
「サイ、男の浪漫だよ!」
「浪漫て……」
「さて、また長距離を移動したいんだけど、どうだ?」
「ちなみにそこは今どんな時間帯なんだ?」
「夜明け前って感じだな」
「そ、そうか、5、6時間戻る感覚か?」
「そんなもんかな」
「分かった。行ける」
火龍の居場所は不明ながら世界有数の火山帯に目星を付けて向かってみる事にした。
「壮観だな……」
サイの感想も分かる。はっきり言って人間の視界で見ても麓から全容は知れないだろう。大小の山々が連なり、所々から噴煙が上がっている。
「寒さは大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
「火山性ガスの心配とかは? どうなんだろ?」
「硫黄の匂いは少しだけ感じるな」
『人体に影響のあるレベルを検知した場合、速やかに警告する』
「頼んだぞキュリヤ」
ご来光を拝むつもりは全く無いのに夜明け前の山へと歩み始める。まだ暗い為サイは腰にランタンを提げていた。滅びの山という物騒な名称の割に緩やかな裾野に広がるのは灌木や高山植物に類されるものであろう。斜面を吹き下ろす柔らかな風、夜明け前の静寂がそれらを包み込んでいるのだろうが、俺は何も分からない。マナによる視覚情報から予測しているだけだから……。
「なんか、雰囲気良さそうな気がする。ハイキング日和?」
「ああ、確かに初心者でも挑戦出来そうな山だな」
暫く進んでいると東側にある山の向こうから明るくなってきた気配を感じた。
「そろそろ夜明けか?」
「そうだな……」
サイはランタンの灯りを消して鞄に仕舞う。なんとなく休憩の様な感じになって足を止めて佇んでいた。
「ふっ、ここがどこなんだか分かってないってのに、朝日ってのはどこで見ても悪くないな」
「……そうかい」
「ん? 待て、神さん! あれ、あっち、太陽より左の方だ! もうひとつ何かが燃えてる様な物がないか!?」
「どれどれ?」
多数の視点を駆使して発見したものは、これぞ龍といった姿で大きな翼を羽ばたかせて宙に浮かんでいた。見ていると空に向けて口を開いた次の瞬間、真上に向けて火柱が上がる。
「ド、ドラゴンブレス!!」
「あ、ああ、か、神さん! 大丈夫なのか? あんなの……体術がどうのこうのってレベルじゃないぞ!?」
「サイは待っとけ! キュリヤ、悪いがついててくれな。何かあったら離脱! 生存最優先の行動! 良いな!?」
『了承』
炎を吐き出した後、ゆっくりと羽ばたきながら下降してくる火龍。その足元へ瞬間移動をして声を掛ける。
「おぉーい! ちょっと良いか!?」
両手を振って待っていると威嚇めいた行動で接触してくる火龍。
「なんだ貴様? 死にたいのか?」
ドスン! と、着陸した後にわざと踏み付ける様な仕草で俺の人形スレスレに足を下ろす。
「偉そうに呼び付ける理由はなんだ?」
「あぁ、悪い悪い、ちょっと話でも出来ないかと思ってさ」
「!! 貴様! 俺様が誰だか分かって口を聞いているのか!?」
「火龍だろ? 他の呼び名だとファイヤードラゴンとかか? まぁ、とりあえ……」
「人間風情が偉そうな口を聞くなと言っている!!」
翼を大きく振るうと突風が巻き起こる。吹き飛ばそうとでもしたのだろうが瞬間移動して火龍の鼻先へ浮かんで問い掛ける。
「お前こそ相手を見て言葉を選べよ?」
「何? 貴様……」
そのまま鼻の頭を地面に押し付ける様に急降下。ダンッ!
「ブグフゥ……」
「俺は平和的な会話を望んでるんだけど、どうする?」
火龍の鼻の上でマナをどんどん凝縮させていき顔を地面に押して付けていく。
「ブジュー……ブギュルュゥゥ……」
「なんとか言えよ? あ?」
「……ジュルギィィッ!」
「はっきり言え! 何言ってるか分かんねぇぞ?」
人型の人形は破裂しそうな程のマナを凝縮させた状態で火龍を解放してもう一度問い掛ける。
「誰風情だ? お前の目に映るのは?」
「か、神よ!? すみません! ただの人かと思ってしまい……」
「お前はただの人間にならば高圧的に力を振るい威圧する様な言動を取るというんだな?」
「……滅相もない……。起き抜けに声を掛けられて少し苛立ってしまっただけでして……」
「じゃあ、寝起きの機嫌が悪いのにかこつけて踏み潰す様な仕草で威嚇して翼の風圧で吹き飛ばすのがお前の挨拶なんだな?」
「も、申し訳ありませんでしたぁっ!」
「うん、違う違う、もう一回聞くぞ? お前は人間程度の存在であれば多少の無礼があったら威圧して吹き飛ばす。そうだな?」
「い、いえ、その様な事は決して……」
「それじゃあ、さっきの行動の合理的な説明を頼むよ」
「ヒググググゥゥ……平に御容赦下さい」
「だから! 謝って欲しいんじゃなくて説明を求めてるんだよ。ほら?」
「も、申し訳……」
「謝罪は求めてない! お前の行動の説明を求めてる」
「ニギギィィ、……人を舐め、イタズラに高圧的な態度を取りました……」
「それじゃあ、俺の供の人間もお前の目に映る場所には連れて来られないんだな?」
「お、御前の従者へはこの様な態度は……」
「俺の供以外にはするんだ?」
「い、いえ、その……」
「口籠もるな! はっきり答えろっ!」
「その様な事は決して! 御前、どうか御慈悲を……」
「ふむ、あんまり責めてはお前と同じになってしまうか?」
「お、御前、俺様の愚かな考えですが、今、何者かを害する事はございません。どうか、寛大なお心で……」
「そうか。確認だけど、お前は最初の7体の龍で火を司る者か?」
「はっ、その通りです……」
「じゃあ、ちょっとついて来い」
マナを拡散させゲルの球体へと形状変化させて転がりながら進む。山の斜面を下るのは初めてで、思ったよりもスピードが乗って爽快だった。程なくキュリヤとサイが待つ場所まで戻ってくると急制動。上を飛んで追ってきた火龍も降り立つ。サイは腕を顔の前に翳して前傾姿勢なって風圧に耐えていた。
「コッチは俺の連れだ。んで、コイツが火龍だ」
「か、神さん、本当に大丈夫なんだよな?」
「なんだ? サイ、ビビってんのか? ハハッ、火龍よ! 仲良く出来るよな?」
「御前の仰せの通りに……」
「だってさ」
「な、なら、良いんだが……」
「スンスン……この女は……?」
「ハハッ、皆んな不思議がるのもお約束だな。ミルユーが創り出した俺の相棒だ」
『ミチオのサポート役、キュリヤ』
「同族の様な匂いですが……」
「お前と金龍以外の5人と出会って鱗を貰ったんだけど、それを使って体を構成してるんだよ」
「なんと? という事は、木の野郎にも?」
「ん? そうだな」
「御前はあの不可思議な領域を超えられたという事ですか!?」
「そうだぞ」
「やはり偉大なる存在、改めて敬意と新たな神の誕生に心よりのお祝いを申し上げます……」
そう言って俺の目の前に頭を下げて地面に顎を置く様にした。
「あの森の中心にはどうやっても入れなかったのに……」
どんなにスピードに乗って突っ込んでも、高空から侵入しようとしても、木々を薙ぎ倒して進んでも一向に辿り着けなかったと語った。
「で、お前の名は?」
「名ですか……ファイヤードラゴン、火山の龍、……麓の村の連中はヴルカンと呼びますね」
「じゃあ、ファイさんだな。あと、多分だけど、もっと不名誉な呼ばれ方してるだろ? 荒ぶるなんとか、みたいのとか」
「な、なぜ!? いえ、いずれ知れる事を隠すつもりはないんですが、御前にはそう呼んで欲しくないのです」
「ハハッ、そっか、絶対者は時に畏怖の対象だからな。お前の在り方そのものにケチを付ける気はないよ」
滅びの山なんていう物騒な地名は火山帯である事と同時にコイツの過去のやらかしから付けられたと推測出来る。そうして自分の名前もくれぐれもゲルボーヤーではないと念を押しておいた。
「そ、それで御前、俺様は朝を知らせて回る役割があるのですが……」
聞けば、朝日と共に飛び立つと1周ぐるっと回る飛行ルートがあるらしい。それを数千年続けている事はやはり尊敬に値する。さほど時間は掛からないというのでこの場で待っていると伝えた。
「では、少々お待ち下さい……」
飛び上がったファイさんは口から溢れ出る炎を後ろに伸ばす様に水平飛行になって消えていった。
「神さん、大丈夫なんだよな? あんな規模の炎を目の前で吐かれたら一瞬で丸焦げだぞ?」
未だ不安と恐怖の色が消えていないサイのマナ、他の龍の時よりも動揺が大きい。
「大丈夫だろ、なんかあれば俺がなんとかするし」
「確かにあんたには従順そうに見えたけど……」
「ハハッ、アイツ生意気にも喧嘩売ろうとしてきたからちょっとだけ分からしてやったわ」
「!! ……」
サイが絶句している間に先程の顛末を説明した。




