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サイは表で朝のルーティンである武術の型を繰り返していた。時差ボケの影響は無さそうで何よりだ。宿では朝食が出るというのでキュリヤとサイは遠慮なく食べてから出発し、海沿いの桟橋までやって来て思う。

「ここから瞬間移動で飛ぶのはまずいな……」

朝の港は活気に溢れ人の往来が絶える事はなかった。大型の船に貨物を運ぶ人夫、魚の水揚げをしている漁師、その他にも働く者、買い物客、ただぶらついている者、様々な人の営みによって港は騒がしくもエネルギーに満ちている様子だ。

「さて、どうしよう……」

「よう、兄さん達、昨夜(ゆうべ)の……」

「あぁ、どうも、昨日はごちそうさん」

昨夜、海老の唐揚げを奢ってくれた男は漁師だった様だ。

「水神龍王様を拝みたいって寸法だろうが無理だと思うぞ? なんせ広い海の中を自由に泳ぎ回ってんだからな」

そう言うと大きな声で笑った。

「可能性がありそうなのは、ほら、あの船、ネーシアの西都(せいと)まで行くんだ。あれならもしかすっともしかして……ってな確率だな」

「そっか、ありがとう」

「気にするな」と言ってまた大きな笑い声を上げて仕事に戻っていった。

「まぁ、困ってるのは人目の問題と、海の真ん中でサイをどうするかなんだけどな」

「ふっ、適当に浮かんでおけ。とか言うなよ?」

「流石に大丈夫だ」

北に向かって港町を抜けて歩いていく。水龍の位置はリアルタイムで捕捉しているし移動手段も問題無し、今回はサイは留守番にしようか?

「なあ、神さん、あんた姿形は自由なんだよな?」

「あ? あぁ、あーそうか、魚なりの水棲生物になれって事ね?」

「そうだな。可能ならばだが……」

「随分と挑発的な言い方だな? 神を舐めるなよ」


水龍の進行方向を見極めてその前方の水中へと移動。大きな球体の中にキュリヤとサイを収めて酸素供給、二酸化炭素排出。半透明のゲルボディだから中からでもぼんやりと水中を見る事も出来るだろう。

「息は大丈夫か?」

「今の所問題無い」

「キュリヤ、異常があったらすぐ知らせて」

『了承』

大きな球体の体から放射状に触手を伸ばして先端を【光源(ブライト)】の魔法を使って点滅させる。上手く気付いてくれれば良いのだが……。

「かなり強烈なストロボだな?」

「これなら遠くからでも見えるだろ」

水龍と俺達の間を捉えている沢山の視覚情報がどうやらこちらを認識したと思われる動きをキャッチした。速度を落として真っ直ぐにこちらへ向かって泳いでくる全長50mを軽く超える巨体。東洋風の龍の様に細長い体に直接四肢が生えている。

「なんじゃ、お主?」

視認出来る距離まで近付いてくると大きな球体状のゲルを見て【念話(テレパシー)】を送ってきた。

「あ、いや、こっちの方が主に用があるというか……」

俺の体内でサイがしどろもどろになって答える。全員に一斉に語りかけていたらしい。

「ごめんごめん、急に呼び止めちゃって」

「な、なんじゃ? お主はなんなんじゃ?」

「何と聞かれるとコレはゲルなんだけど、俺は新しく神になったミチオって者だな」

「何? お主が……? まあ、待て、話しやすい環境を作ろうではないか」

そう言うと水龍は俺の体を大きな口で咥えて泳ぎ始める。程なくして着いたのは小島……と、呼ぶにしても足りない程のちょっとした岩礁だった。一応の足場は確保出来た為、キュリヤとサイを解放して俺も最近使っている人型の人形の姿を取る。

「悪いねぇ。それにしてもデッカいな!」

「ヌフフフフ……そうじゃろう!」

頭だけを海上に出した水龍は得意げに俺達3人を眺めていた。

「お主は……新たな神と言ったな? ……嘘、ではない、な……。御前にお目に掛かれる僥倖、この広い海よりも大きな喜びじゃ」

(ドラゴン)の皆んなは大袈裟なんだよ。俺よりも遥かに長い時間この星を守ってる皆んなの方が凄いよ」

「その様な言葉を頂けただけで報われる……」

「ハハッ、突然呼び止めたこっちの非礼をまず詫びなきゃいけないってのにさ」

「して、このちっこいのはなんじゃ? 同胞の匂い、それも複数が混ざっておる様じゃな?」

『ミチオのサポート役、キュリヤ』

「ハハッ、この説明も慣れてきたな。ミルユーが創った俺の相棒だ。これまでに闇、光、地、木の(ドラゴン)達と出会って鱗を貰ったんだけど、それを取り込んで肉体を構成してるんだ」

「そうか、吾輩も捧げねば面目がな……」

そう言うとザバンッと頭を海中へ戻すと底へ向かって泳いでいった。暫くの間海の真ん中の岩礁に遭難したかの様に佇む3人……。

「御前、貰っていただきたい」

暫くして戻ってきた水龍は咥えてきた鱗をカシャカシャと岩場に広げた。

「ありがとう。遠慮なく……」

5枚を拾い上げて1枚キュリヤに渡す。

「水龍、ウォータードラゴン、それとも水神龍王様と呼ぶか?」

「ヌァハッハッ! 水神龍王は勘弁してくれ! あれは西の大陸の連中の戯言じゃよ。そうじゃな、前の2つが通りが良かろう」

「んじゃ、略してウォーさんだな」

例の如くこれまで出会った(ドラゴン)達の話をしていく。

「地の奴……そうか。ありがとう御前、知らせてくれて……。その時の前に一度顔を拝んでやろうかのう……」

ドレキの子が立派に育つ事を祈っていると言うウォーさんは今度はツーさんの悪口を言い始める。

「木の野郎ときたら、あいつ自身に根っこでも生えてんのか全く森から出てきやしねぇんじゃよ」

「ハハッ、でも、あのデッカい木を守護するのがツーさんの役目なんだろ?」

「そう言っちゃあそうなんじゃが、たまに顔を見たいではないか」

聞けば世界中の海を泳いで渡るウォーさんはダーさんライさんドレキに火龍、金龍とは会おうと思えば会えるのだとか。ところが、流石に内陸の森の中から出てこないツーさんとは顔を合わせる機会が無いという。その話から察するとツーさんは他の(ドラゴン)とは会っていないって事だろう。それでなくともこれまでに会った(ドラゴン)達は夫婦のダーさんとライさんを除けばそう頻繁に会っている話は聞かなかった。

「ウォーさんは自由に海を動き回れる役目そのものが役得だから良いけど皆んなそう簡単に動けないんじゃないか?」

「そうなんじゃが……」

意外と寂しがり屋なのかもしれない。

「ん? 御前、もしや大蛸を喰ろうたか?」

「おぉ、ネーシア辺りに居たクラーケか?」

「す、すまぬ! 吾輩、人の土地の名はよぉ分からんのじゃ。ここからやや北と東へ行った島の近くに現れておった筈じゃ」

「それなら少し前に倒したよ」

「そうじゃったか……。あれは人の手に余るで、吾輩がどうにかしようか迷っておった所じゃ」

どうも(ドラゴン)は長命だからかのんびり構えていて、あと2、3ヶ月もしたら助力しようと考えていたらしい。人間からすれば一刻も早く解決したかった問題だろうに……。

「な、なぁ、当たり前の事の様に話してるがクラーケ騒動はナラン王国まで届く程の大事件だったんだぞ?」

「であれば御前に感謝せよ人間」

「あ、ああ、いや、そうではなくてですね……」

「御前、この人間を従者としておるのかな?」

「従者じゃないんだけど……ウォーさんは超移動(エクソダス)って分かる?」

「あれじゃな、この地ではない別の場所で生きた魂が新たな生命を与えられてこちらで生まれ変わった者共じゃな」

「おぉ、そうそう。簡単に言えば俺達はそれで、元同郷って所なんだよ」

「なるほど、お主、名は?」

「サ、サイ・シグインです」

「サイよ、御前に仕えるお主を羨ましく思うと同時に、吾輩は不安も感じておるのじゃ……」

「な、なんでしょうか?」

「脆弱な人間が御前の盾となり剣となりて……」

「だー! ウォーさん待って! 違うよ? もっとこう、俺がコイツの成長を見守ってる様な感じだ」

「なんと! そうであったか……。御前もなかなかに酔狂じゃのう」

その後も会話を楽しみ、人間の面白さ、愚かしさ、その多様性は見ていて飽きないと語るウォーさんに分かる範囲で質問にも答えた。更には海老が美味いという話には、キュリヤが乗っかってきてウニの方が美味だと対抗して大いに盛り上がった。

「御前、最後に吾輩から慶びを形にしようと思うのじゃが……」

そう言うと俺達の居る岩礁の周りを円を描く様に泳ぎ始めたと思うと、その円の内側の海面が鏡の様に凪いだ。

【属性魔法(水)】

悲劇の水槽(テラーアクアリウム)

「あぁ、祝福してくれたんだな。ウォーさん、ありがとう」

「お、おい! オレもスキルアナウンスで【水生成(ウォーター)】って魔法を覚えたみたいなんだが!?」

「サイよ、御前のおまけにお主にも吾輩の加護を少々くれてやったのじゃ。精進する様に」

「ゃ、はい! ありがとうございます!」

「キュリヤよ、お主だけ仲間外れは忍びないで、これを授ける」

もう一度海底に向かって泳いでいった後に、グォォーッと体を海面に大きく飛び出させると左前脚で掴んでいた物を岩礁の上に降ろした。

「お主にこそじゃな。ヌゥッフッフッ……」

『!? ウォーさんは素晴らしい! 海の王者に相応しい!!』

「ヌフフ……じゃろう?」

巨大な、スイカ位の大きさのウニが数個転がっていた。

「それでは御前、陸地まで送って行こうかの?」

「それには及ばないよ。俺は何処へだって一瞬で跳べるからさ」

「そうであるか、いつでも声を掛けて下され。御前の為ならば海の続く限りどこへなりとも馳せ参じる所存じゃよ」

「ハハッ、ありがとう! また会いに来るから」

『ウォーさんに感謝!』

大事そうに、愛おしそうに巨大ウニを抱き抱えるキュリヤは色んな意味で痛々しく見えた。

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