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樹木を司ると見ている(ドラゴン)がいる森の中心部に聳え立つ巨樹を目指して歩いていた俺達だったが、いよいよ最深部という所で前に進めなくなるという謎の現象に遭遇していた。

「俺が投げた物をキュリヤかサイは取りに行けるのか?」

目印に使った金属製の小さな杭を手近な木に向けて投げつける。

「サイ、見えてるな? アレ取りに行ってみてくれ」

「あ、ああ……」

歩き出したサイは正面へ向かって歩いている筈なのに何故か右にずれていって前には進まない。

「もう良いよ」

「あれ? なんでだ?」

「じゃあ、次はキュリヤ、俺と手を繋いで」

『了承、こんな人気(ひとけ)の無い場所だから仕方がない』

「いちいちツッコまんぞ。それじゃ、あそこまで行くからな」

歩き始めるとすんなり木に刺さった杭の場所まで来られた。キュリヤも一緒だ。

「ふむ、少しずつ検証するしかないか? キュリヤ、サイ、そこの木、ちょっと太めの、それ、そこに持ち物を投げてくれ」

タッ、トスッ、ゴン! ボトッ……。

「じゃあ、各々取りに行くぞ」

数歩も歩けば手の届く距離だ。

「まだ取るなよ」

ここで他人の物を手にする事は可能なのか?

「キュリヤは俺が投げた杭、サイはキュリヤのモーニングスターを取ってみてくれ」

キュリヤは木に刺さった杭に手を伸ばす。サイはしゃがんで地面に落ちたモーニングスターを拾おうとする。2人の動きが止まった。もう手が届くという(すんで)の所で止まったまま微動だにしない。

「どうした? 早く取れよ」

「もうちょっと待ってくれ……」

『ミチオ、異常を検知。ただし、原因不明』

「異常を分かりやすく」

『当機の体感時間と周囲の時間の流れに差異を観測』

「ん? どういう……いや、止まってるんじゃなくて超スローになってるんだな? オーケー、2人共自分の物を取ってくれ」

すると何事もなかったかの様にスムーズにそれぞれ手にした。

「んー、なんか気持ち悪いな。サイの感想を聞いても?」

「感想? なんのだ?」

「サイは気付いてないか……。キュリヤ、手を伸ばして取ろうとしてる事自体には違和感はなかった。だな?」

『肯定、ミチオから見れば既に手に取っていて良い時間が経過していたと推測』

「そう。だから2人を急かす様に言ったんだけど……」

自分の物以外に触れようとすると限りなく時間が引き延ばされる? 自分の物って概念はどこからだ?

「サイ、次はコレを投げてから取りに行ってみてくれ」

そう言ってサイに俺が投げていた杭を渡す。ここまでは違和感なく受け渡し出来ている。

「いくぞ」

数m先の木に刺さった杭をすぐに歩いて取りに行くと無事に手に戻してサイは首を傾げる。

「なあ、神さん、さっさと進まないか?」

「サイは変だと思わないのか?」

「?? 変は変だが、解決策が見付かったのなら先に進めば良いんじゃないか?」

「それは軽率だな。変な現象の原因も分からずに進むのは気持ち悪くないか?」

「……。まあ、確かに……」

「もう少し試してみよう」という俺の提案で更に検証を始める。地面に落ちている枯れ枝を拾い上げて前方へと投げてみる。それを拾いに進むとすんなりと着いた。その枝は拾わずに今度は杭を投げる。難なく進み杭を引き抜く。キュリヤに先程俺が投げた枝の近くに進んでもらい枝が拾えるか試してもらうと屈んだまま動かなくなる。キュリヤにモーニングスターを拾う様に言ってサイに指示を出す。

「サイ、出来るだけ遠くを狙って投げてくれるか? くれぐれも目印が行方不明にならない程度だぞ」

「分かった……」

それまで使っていた棒手裏剣と入れ替えて十字手裏剣を取り出したサイは、左手を前に構えると振りかぶった右手を前方に振り下ろした。20m以上飛んだ手裏剣は見事に1本の木の幹に突き刺さる。それを取りに行くサイは不自然な箇所はなく真っ直ぐに進んでいく。

「取れたぞーっ!」

「オーケー! キュリヤ、俺等も行くぞ」

サイの場所まで追いつくと自論をまとめる。

「この不可侵領域みたいな場所に投げ込んだ物を拾う行為は阻害されない」

『肯定』

「投げた物は最後に触れていた人間しか拾えない。所有者ではなくてあくまでも最後に投げた人って事だな」

『肯定』

「距離は今の所関係無さそうだな」

『肯定』

「神さん、オレはあんたの事を勘違いしていたのかもな……」

「どした? 改まって」

「いやな、もっとこう、猪突猛進というか、場当たり的に突っ込んでいくタイプだと思っていたんだ」

「ハハッ、傍目にはそうかもな」

「理論的に考察を重ねる所を見て気付かされたよ」

「元々の性分て部分もあると思うけど、動かした事もないというか聞いた事もない生物の体を扱う為には試行錯誤が必要だったんだよ」

「ふっ、伊達に、だな」

「キュリヤ、他に試す事は?」

『現段階ではこのまま進んでも良いと判断』

「オーケー、じゃあサイの希望通りさっさと進んじまおう」

巨樹までの距離が残り100mを過ぎ、それでも物を投げては拾いながら進むと景色が変わる。幹の周辺50m辺りはみじかく長さの揃った芝生が生えるだけで、他の木々やボサボサの下草は無くなっている。そして幹の程近くに巨体を横たえた(ドラゴン)が1体、頭をこちらへ向けていた。そのまま芝生へそれぞれが物を投げて拾いに行く。

「どうやら辿り着けたようじゃの」

「こんちは、突然すまんね。ここまで来れば外周を歩かされる事はないのかな?」

「ブォッホッホ……。大丈夫じゃよ。どれ……」

立ち上がった(ドラゴン)は首を空へ向けて伸ばすと吠える。

「マ゙ァ゙ァーーーー……」

野太くも不思議と不快感の無い発声には心地よさすら覚える。

「よく来た、にんげ、ん……?」

首を下げると俺達の匂いを確かめる様な仕草を見せる。

「お前は人間じゃな?」

サイの頭のてっぺんにちょこんと顎を乗せて聞いてくる。

「は、はい……」

恐怖と緊張がだだ漏れているサイは冷や汗、脂汗ダラダラかもしれない。

「そして、貴方様はもしや?」

俺の目の前の足元に顎置いて尋ねる。

「新しく神になったミチオという者です」

「お゙お゙ぉぉ……やはり……お目に掛かれて光栄ですじゃ。しかし、それは人に擬態したつもりかの? ボッフォッフ、御前は人の匂いが全くせんではないか……」

「人の匂いか、ハハッ、頭は人間のつもりだけどこの世界では人間になった事がないからなぁ……」

「して、この娘っ子は懐かしい匂いをプンプンさせおって、スンスン、闇のと光の、それに土の奴かな?」

『ミチオのサポート役、キュリヤ』

「この娘はミルユーが創り出した俺のパートナーみたいなもんだな」

「そうかそうか、それで御前よ、此度は何用か?」

「突然来ちゃって悪いね。最初の(ドラゴン)7体と会ってみようと思ってさ、コイツから匂った3人とはもう会ってきてるんだ」

「そうであったか。御前自ら訪ねて来られたというのにワシにはもてなす術が皆無なんじゃよ」

「良いってそんなの。勝手に来といてそんな事言う程我儘じゃないからね」

「どれ、では……」

もう一度首を上げると翼を広げた。

「御前に御祝い申し上げる……」

【属性魔法(木)】

「ん? スキルレベルが上がった様だが、新たな魔法は覚えなかったみたいだ……。なんにせよ有り難く頂戴しとくよ」

「ワシに出来る精一杯じゃ、あとは鱗でも持っていってもらおうかの?」

「ハハッ、皆んな同じ事言ってたよ」

「む? そ、そうか、そうじゃろうのぉ。ワシ等には人に物を贈る習慣が無いでの」

「あぁー、違う違う! 悪く取らないでよ。凄く嬉しいんだけど、あまりにもおんなじ事言ってて可笑しくなっちゃってさ」

「そうか、ならば良いんじゃが……」

5枚を頂戴して1枚はキュリヤへ……。

「それより木龍(もくりゅう)と呼べば? それとも名前があるのか?」

「そうじゃな、ワシは他者から名を呼ばれる事は無い。同族同士は属性で呼び合うので事足りるしの。以前出会った人間はただ(ドラゴン)様と呼ぶばかりであったし、御前の好きに呼んで下され」

「じゃあ、木龍(ツリードラゴン)のツーさんだな。ダーさんやライさんと同じく親しみを込めて呼ぶよ」

その後、流れでダーさんライさんの呼び名と親しくしている事を伝え、地龍ドレキの寿命と次世代の子の話をしていった。

「そうか、ワシ等の中でも過酷な土地へ身を置いた彼奴(あやつ)が最初に最期を迎えるとはの……」

穏やかな雰囲気のツーさんと和気藹々と会話していると、やっと少しだけ緊張がほぐれたサイが質問する。

「この森の途中でここまで進めなくなる仕組みはなんだったんです?」

「ブォッフォッホ……あれはこの巨大なトネリコの木を守る為に森が自発的に行っているんじゃよ」

聞けばその仕組みはツーさんにも分からないらしい。そしてこの巨樹は創造神ミルユー自らが植えたものらしいのでツーさんではなくミルユーの仕業なのかもしれない。更には決まった正解はなくたまたまここまで辿り着く者も殆んど居ないらしい。ここ100年は全くとの事。森が俺の神性に触れて難易度を下げたのでは? と、ツーさんは笑った。そうして、ツーさんはこの巨木を守る為の存在である事や樹木と会話の様な事が可能だという話に驚いたりした。

「御前は(ドラゴン)を探して旅を続けるのかの?」

「次はここからずっと東の海を泳いでる水龍に会おうかと思ってる」

「おお、おお、彼奴(あやつ)めは黙って留まる事の出来ん奴じゃからの、呼び止めるのに難儀するかもしれん」

所在の掴めない火と金の(ドラゴン)の事はあえて聞かなかった。自分で見付けるのもクエストのうちである。ひとしきり話して別れの挨拶を交わした。

「あ、この場所へは直接瞬間移動で来られるのかな?」

「瞬間移動……どうかのぉ?」

「ちょっと試してみるわ」

戻れない時の事を考えてキュリヤとサイも連れて行く。暫く経っても現れなかったら無理だと判断して立ち去ったと思ってくれとツーさんに伝えて一度森の外まで飛んだ。

「出てくるのは問題無いな」

キュリヤとサイを置いて巨木の元へ照準を合わせる様に飛ぶ。

「大丈夫みたいだな」

「御前は器用ですな」

「ハハッ、今度こそじゃあね、また来るよ」

「何も無い所ですがいつでもお待ちしておりますぞ」

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