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カルト公国の首都パラストで神々の研究をしているという
学者の男性とこの地に住まう龍のドレキについて語り合っていた。
「今、この鱗はどこから出てきたんだい? 君は荷物も持っていないし、急に手に持っていた様に見えたんだけど……」
「ん、ん? そうか? これは、どうだっけ? サイ」
「オレが分かる訳ないだろ?」
「あれだね、あの、アイテムボックスだよ。そう、アイテムボックス」
「アイテムボックス? それはどこにあるんだい?」
「いや、アイテムボックスだぞ? 物を収納するスキル? インベントリか! そっちのヤツか!?」
「なんだか不明瞭な言い方をするね。物を収納するスキルは聞いた事が無いかな?」
「神さん、そんなのはオレも聞いた事がない……」
サイが小声で伝える。
「マ、マジッ、ク、マジックバッグから出したのよ! そうだったそうだった……ハハッ……」
「それはなんだい? 魔法の鞄という認識で良いのかな?」
これも無いのか? どうしよう? 焦るが【超個体】の演算で弾き出された回答を試みる。
「き、貴重な品だからな、透明化して持っていたんだよ。不埒な輩に目を付けられても厄介だろ?」
「何故? ドレキ様から直接鱗を与えられる程の君が?」
「隙を見て掠め取る奴がいるかもだろ?」
「うーん、なんだかはぐらかしているよね? これって本当は何なのかな?」
ヤバい、信憑性の方に疑いが向いてしまった。キュリヤ、言い訳は何か無いだろうか?
『マナ化して収納していた』
「マナ化?」
『肯定、物質をマナ単位に変換して質量をゼロにする』
「ん? ん? なんだいそれは? 僕の考えに無い理論だね……」
『肯定、現在の人類には再現不可』
「え? 人間には再現出来ない技術って聞こえたけど?」
『肯定、ミチオには可能、その他には不可能』
「それを可能とする理屈は?」
『ドレキも認める超常の存在である為』
「ドレキ様が認めた超常の存在? ど、どういう事だろう?」
『ドレキに鱗を貰える程の存在、異能のひとつやふたつ有ってもおかしくはない』
「そうか、彼が君等2人は特別だと言ったのはそういう事が関係してくるのか……」
キュリヤが理屈無視の力技で理論派を論破した。はっきり言って破綻した論理だ。鱗はどこから出した? 謎のスキルで。 そのスキルって何? ドレキが認める異能力。そして、それがあるから鱗を貰えた。有無を言わせずねじ伏せた。全く回答になっていないのに。
「ん、んー? あれ? なんかおかしく……」
「先生! ドレキは今も仕事は欠かしていないと言ってた。大地のマナを循環させる様な事を言っていたんだが、何か分かるかい?」
「あ、ああ、勿論。ドレキ様の本質は大地を司る。君等には不毛な地に見えるかもしれないけど、確かに命が育まれてるんだ。夏季と冬季に分けられた命のサイクルを回す為にドレキ様はマナに干渉しているというのが通説だね。それもご本人から直接聞いたのかい?」
「そうそう! ハハッ、子育てと仕事の両立ってとこだな」
最初はドレキの事を教えてやりたくて仕方がなかったのにボロが出始めたので早く帰りたい気持ちになっていた。
「それで、君の特別な事情についてなんだが……」
早速話題を戻されてしまった。
「他言無用で頼む。これ以上は大いなる者達との契約に抵触するおそれがあるんだ」
適当なでっち上げで躱せるだろうか?
「大いなる者……ドレキ様以外の? 君は昼間に会った時闇龍や光龍の事にも言及したね。それが関係していると僕は踏んだんだが?」
本当に頭の回転が早い奴だ。
「そ、その通り! そういう事で話せないんだよ。すまんな」
誤魔化したい部分は隠し通せたが、ダーさんライさんとも接触したと分かると今度はそちらの話で質問責めにされてしまった。知っている事は素直に語り、この調子で森の社の話なんて出せば今夜は帰れなくなると慎重に内容を選び話していた。
「興味が尽きないな! 面白い話が沢山聞けて良かったよ、ありがとう」
「あぁ、そろそろ遅いし俺達はここらでお暇しようかな……」
「そうかい? 君等はナラン王国から来たと言っていたから時間が許せばトレスグリューンの四神の神殿の話なんかも聞きたかったんだけど、仕方ないね……」
危ない。話題にするつもりでいた事に恐怖を覚える。学者恐るべし。そうしてそそくさと学者の家を出て宿へと向かった。他人の目を気にして今回は俺とキュリヤも宿に滞在する事にしている。
「神さん、あの学者先生の頭の回転は凄かったな」
「あぁ、最後に森の話をしてただろ? 絶対に長くなるから話題にしないようにしてたのに触れてきやがったからな」
「ふっ、あんたの読みすら掻い潜ってくるなんて恐ろしいな」
「ほんとほんと、怖ぇな……」
「あと、ドレキ様の鱗の出所は納得してないぞ。あれは」
「だろうな。ドレキにはびびって近付けなかった癖に神を詮索しようなんてな。ハハッ……」
「いっその事明かしてしまえば良かったんじゃないか?」
「いや、駄目だ! 絶対面倒な事になるぞ」
「あ、あー、そうだな。研究対象が目の前に現れたとなったら、なりふり構わずに目の色を変える手合いだな」
「だろ?」
冷静さを欠いた学者の事を想像して辟易する。何事も程々が丁度良いと改めて思う。
「それで? 次の目的地は決まってるのか?」
「いや、ノープランだな」
「てっきり龍巡りでもするのかと思ってたが……」
「ふむ、それも面白いかな? あ、まずはダーさん達にドレキの事を伝えようかな?」
実のない話を続けて特に何も決まらずに夜は更けていった。
サイが寝た後にダーさんライさんの棲家へとやって来た。
「どうも、ライさん」
「あら、御前、いらっしゃい」
「早速なんだけど地龍のドレキは知ってる?」
「地龍ね、はいはい、どこか寒い所にいるね」
「うん。そいつがもう少しで役目を終えてしまうらしいんだ」
「あらあら、そうなの? それを伝えに?」
「そうなんだ。2人の事を話したら懐かしがっていたよ」
「そうね……。最後に会って久しいわねぇ」
それから次代を担う子龍の事も伝えておいた。
「ライさん達は夫婦だけど、仮に子供が生まれるとしたらお互いそれぞれ?」
「どうなのでしょうね? ワチ等はそんな事考えもしないですよ」
時が来れば自然と分かるだろうと、のんびり答えるライさんだった。龍に与えられた役割について考えると、ふと疑問が浮かんだ。
「ライさん達みたいな龍って7体いるの?」
「そうよ、御前が会いにいけば皆んな喜ぶでしょうね」
「いやいや、ドレキとも話したんだけど、神になったとはいえ俺、全然後輩だからさ。先達がこれまで守ってきた秩序の重さに比べたらペラッペラの薄っぺらだからさ」
「そんな事言わないの。御前にはそれだけの力が備わっているんですからね?」
「ありがとう。精進するよ」
闇と光、大地を司る龍とは会う事が出来た。木と水は既に居場所が分かっている。残りの火と金属は今の所見付けられていない。
「機会があったら会ってみるよ」
「その時にはよろしく伝えてちょうだいな」
「分かった。それじゃ、また来るね。ダーさんにもよろしく」
「あら、そうですか? 分かりましたよ。いつでもどうぞぉ」
音も無く宿に戻ると全世界の景色を眺める。昼間の町、夜の荒野、暑さ寒さもそれぞれなのだろう。森自体の面積は俺が生まれた森よりも小さいが、中央にとんでもない巨木が生えた場所、その巨木の傍らで横になっている龍、多分それが木の奴だと思っている。そして、南洋を泳ぎ回っている筈……居た。コイツが多分水のだろう。火はありがちな設定だと火山とか? 金属ってどうなるんだろう? 鉱山の奥とかかな? のどかな風景、街の雑踏、様々な景色を眺めていたら、サイが起きて大きく伸びをした。




