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極寒の雪山に4人組の影。4人とはいうものの人間は1人だけ、極寒を感じているのも1人だけだった。

「これはなかなかキツいな」

サイは防寒具を揃えたものの冬山へ足を踏み入れるとなると流石に堪える様だ。それでもこの地に住まう(ドラゴン)通称ドレキ様とやらが座す場所まで徒歩で10分程度という所まで瞬間移動で皆んなを運んできてやったのだが……。

「神さん、いよいよならば離脱するかもしれないぞ」

「なんだよ情けないな。これで少しはましになるか?」

魔物の毛皮で適当に作ったコートを与える。

「すまんな。い、いや、焼け石に水か……」

そうして、なんとかサイも脱落せずにドレキの元へと辿り着いた。

「…………」

大きな体躯を持つ西洋型の竜が横たわったまま首をもたげ一同を睥睨する。

「なにか……」

「急にすまんね。雪山でずっと寝たままのアンタが気になって……」

「いや、待て。(ドラゴン)の残滓……闇のと光のだな? 貴様は何者か?」

「畏れ多くもドレキ様、こち……」

「貴様には聞いていない精霊。己れで語れ」

「端的に言うと新しく神になった者だ」

「それを信じると思うか? (たばか)りにわざわざここまで来るとは……スンスン、いや、そうか、仮初の体……? 御前よ、本来の姿は見せてもらえぬか?」

「どれくらい?」

「ど、どれくらい? い、いや、本来の、姿……?」

「……本来の姿?」

目の前から人型の人形が消えるとドレキは更に困惑する。

『ミチオ、そうではない模様』

今度はゲル人形を現してから聞いた。

「やっぱ、高密度のマナとかって事か?」

「し、然り」

「だから聞いたんだよ。どれくらいだ? って……」

「どれくらい。と、いうのはどういう事だ?」

「俺は神としての本来の姿は無い。遍く存在する個であり多、そんなものだ。だから……まぁ、良いや、やってみるわ」

人型になりつつ人形が弾け飛ばない様に途中からは注意をしながらマナを集中させていく。

「ゴクリ……分かった。御前よ、手間をかけさせて申し訳ない」

「え? もう良いの?」

ミルユーやフレールにはまだ届かない程度でドレキはあっさり認めてくれた。

「御前は……いや。して、人間と精霊と、そちらの我等の残滓を纏う娘は……? 皆目見当もつかない」

『ミチオのサポート役、キュリヤ』

「本質を語ると長くなるがミルユー謹製の擬似生命体だな」

「そうか、創造神の……。なんたる組み合わせ。最期に我が理想の形に近いものが見られて僥倖である」

「最期ってのは、(ドラゴン)は子供に役割を託して代替わりするみたいな?」

「!? 御前よ、いや、なれば神であるか……。語る通りだ」

「え? どうい……ぅ……」

「神さん、オレ等にも分かる様に頼む」

「へ? 今、ドレキは"最期に"って言葉を使ったから、この子に次代を担い役目を終えるのかなぁ? って」

額に拳を当てサイが続ける。

「やっぱ、あんたの見てる世界はオレ等とは違うんだな……」

「ミチオ様、この子というのは?」

俺はドレキの首の根元にいる小さな(ドラゴン)にゆっくり近付く。子龍は何かを確める様に鼻を寄せてきて匂いを嗅いでいる。顎の下に手を当てても嫌がる素振りがなかったので撫でていると……。

「おい! なんかいるのか!?」

「そ、そこにドレキ様のお子が?」

「あれ? 見えてないの?」

「御前よ、視覚だけではなく、音、匂い、熱、あらゆる隠蔽を施してあるのだぞ?」

「でも、マナは見えるぞ?」

「それも我のマナと同化して見える様になっている筈だがな……」

「確かにそっくりだけど区別はつくな。……ふむ、面白い。数千年生きた命と生まれて間もない命では見え方が違うというのかな?」

「グルゥフッフッ……。我は確かに長くないであろう。されど、こんなにも祝福に満ちた時を与えられるなど長き時の果てに全てが報われるというもの」

すっかり俺に慣れた子龍がゴツゴツとした頭を擦り付けてくるのをポンポンと優しく叩きながら話を聞く。

「我が子は祝福されてこの世に生まれたのだな……。御前よ、感謝しきれぬ温情である。今暫くこの子が独り立ちするまでに時を有する。それまでこの幸福を噛み締めて過ごせる事、そして神より祝福をあたえらた我が子に未来を託せる事、この上ない喜びである」

「そういう事だったんだな」

「いや、神さん、1人で納得しないでくれ」

「ドレキ様はもう長くないのですね……」

「精霊よ、悲しみは不要だ。我自身がこんなにも晴れやかな心持ちであるのだ」

「はい……」

その後、色々な話をした。子龍に自分の全てを継承する為に最近はここでほとんど動かずにいた事。ただし、地龍としての仕事、土地を育むマナを流動させる事は怠っていない事。そして(ドラゴン)は単独で子をなす種族との事。闇龍(ダーさん)光龍(ライさん)に会う事があれば顛末を伝える事を約束したり、2人がそれぞれ子供を生むのか? と、笑い合い、他の(ドラゴン)に会った場合にも頼むと言われた。5000年前後を生きた大先輩と生まれたばかりの上位者が謙遜し合い互いに苦笑したり、子龍に対する大いなる愛に一同感動し、最後には地上のあらゆる生命が良き関係を持ち共に繁栄していく事を望んでいると語った。

「どれ、ひとつ……。グォォー……」

巨体を起こし翼を広げて控えめな咆哮を上げる。

地割れ(グラウンドクラック)

「あ、魔法を覚えた。そういや、ダーさん達にもやってもらったな」

「そうであったか……」

そう言いながら大きな尻尾で近くの雪を掻き分ける。

「こんな(もの)しか無いが持っていってくれ。これも闇のと光の奴等に貰ってる様だがな……」

「すまんな。ありがたく貰って行くよ」

5枚だけ……その内の1枚はこの場でキュリヤが吸収した。4枚は自分で仕舞い別れの言葉を交わす。最早、子龍の玩具(おもちゃ)となっていた俺の人形は涎塗れになっていた。

「じゃ、また来るよ。……次はお前が出迎えてくれるのかもな?」

「御前よ、今一度感謝を……」

「ドレキ様にも深い感謝を……」

ヴィルが跪き頭を下げた。立ち上がるのを待って瞬間移動でパラスト付近に飛ぶとこれからの事を聞かれる。

「ミチオ様、私はどの様に振る舞えばよろしいのでしょうか?」

「最初に言ったけど自由だ」

「自由……」

「今まで通りって事だ。この辺りを見て回るのも良いし、旅に出るのも良い。新しい旦那を探したって良いし、ついて来るならそれも良い。とにかく好きにして良いよ。連絡はいつだって出来る」

「そう、ですか……。ならば、ジルさんを訪ねてみましょうか」

「そうか、じゃあ一旦送って……」

首を横に振りながら続ける。

「旅をしながら自分の足で向かいます」

「お、それも良いな! 場所だけは教えておかないと……」

1週間やそこらで着く距離ではない。道中でどんな事に出会ったか次に合流した時の楽しみにしておくと伝えるとヴィルは恭しく跪いた。

「何かございましたら何なりとお申し付け下さい」

「分かった。そっちも困った事があれば遠慮しないで呼んでくれ。じゃあ、気を付けてな」


元の3人になった俺達はパラストの街へと帰ってきた。ヴィルの元旦那がいた場所にはちらほら人が集まり噂話に鰭を付け足している様だ。既に辺りは暗くなっていたが宿の手配は終わっているので夕食に向かう事になり早めの昼食をとった店へ再訪、昼時とは違い席は結構埋まっている。大鹿以外のおすすめを尋ねたキュリヤと同じものを3つ頼み席へ着いた。

「あれ? こんな偶然もあるんだね!?」

昼間も居た学者がすぐ隣から声を掛けてきた。

「あぁ! お昼はどうも」

「ははは、僕は食事をここと決めていてね」

「そうかい、出会い頭に本題をぶち込んでも? アンタの顔を見たら話したい事が溢れそうなんだ」

「ど、どうしたんだい? まさか、ドレキ様の事で?」

「その通り! 会ってきたんだ」

そこで、周りを気にして少し声のトーンを落として続ける。

「子龍が居た。ドレキ様の子だ」

「なんだって!?」

ガタンッと、椅子を倒して立ち上がる学者はわなわなと震える。

「ハハッ、アンタでも驚愕だったみたいだな」

「す、すまない! 心臓が飛び出る思いだ……」

椅子を起こして座り直すと学者はハンカチでも取り出したのか額や口元を拭っていた。

「それは……いや、事実としよう。その上で聞きたい。……それは、代替わりを意味するのかい?」

「アンタ、素晴らしい頭脳だよ。同席していた察しの悪い仲間よりもな。推測や仮説だけで結論へと至るとは凄いな」

「やはりか……。正直、複雑だよ。ここらの人間からすれば神と同等に崇拝されている大いなる父の最期が近いだなんてね……」

「だけど大丈夫だ。今、一生懸命に知識や経験を子龍に継承させているからな」

「……近くで見たというよりも接触したという風だね。まさか、ドレキ様と言葉を交わしたのかい?」

「あぁ、素敵な方だったよ」

「一気に胡散臭さが増して……いや、どうだろう? 食後に少し時間を作れないかい? 静かな場所の方が何かとね?」

「俺は良いぞ。サイは?」

「まだそんなに遅くないし付き合うさ」

そうと決まればさっさと食べ終え、店から少し離れた学者の家の書斎に通された。

「すまない。うちに酒は無いんだ」

そう言いながら器に入った飲み物を用意してくれる。

「構わないよ」

適当に出された木製の丸椅子に腰を下ろして受け取った。

「まず、確認したい。ドレキ様には会ったんだね?」

「あぁ、突然の訪問にもかかわらず快く迎えてくれたな」

「その言い方だとやはり会話をしたんだね? それは流石に些か信憑性がね……」

「なんで? アンタは研究者なんだから接触した事もありそうなのに」

「いやいや、恐れ多くて近付けないよ!」

「学術的興味よりも畏怖が勝るか……」

「……すまない、少し見栄を張った。恐れ多いというよりも恐ろしくて近付けなかったのが正しい」

「ハハッ、だろうな。話してみると気さくで子煩悩といった具合だったぞ?」

「き、君等は恐ろしくないのかい!?」

「ちょっと待て! 先に断っておくがオレはあんたの(がわ)の人間だ。この人とお嬢が少しイカれ……ん゙、特別なだけだ」

そう言うと自分の椅子を学者の隣に移して座り直した。

「サイが大袈裟なんだよ」

俺が神である事を明かすのは極力避けようと思って話していたのに特別扱いするとは面倒な奴め。

「それで子龍というのは? つ、番いは? 卵胎生と予測しているんだけど、どうだった?」

俺の心配をよそに生態が気になるらしく、矢継ぎ早に質問をぶつけてくる。

「子龍はまだ言語は扱えない様だったな。あと、番いはいない。単性生殖と言うのか? 単独で産んだみたいだな。卵は確認してないから正確には分からん」

「そ、そうかいそうかい……」

ガリガリと机に向かって何かを書き殴っている。

「で、で? ドレキ様ご本人はどんな方なんだ?」

「ん〜、頭が良くて理性的、懐が深く、平和を愛してるって印象だったかな?」

「ほうほう!」

「平和ってのは人間だけじゃないぞ? この地上に生けとし生けるもの全てが手を取り合い健やかに過ごす事を願っていた……」

「ぐはぁー! なんと偉大なお考えなのか! でも、やはり僕等に伝わってる文献なんかと共通するお話だね」

その後も学者の質問に分かる事は答え、俺の推論も交えて会話は続き、学者の殴り書きは数枚の紙に及んだ。

「ふうー、最後に良いかな?」

「なんだ?」

「この話の信憑性を高めるものは何かないかい? ここまで話していてでまかせとも思えないけど、やはりドレキ様と気軽に喋ってきたなんて信じられなくてね」

俺の方が立場が上だなんで言えないよな。鱗でも見せれば信用してくれるかな? と、気軽な気持ちで取り出した鱗を見て学者は悶絶する。

「な、なな、なんて事だい!! たた、大変だよ! これは……。本物のドレキ様の鱗だっていうのかい!?」

「これが本当にドレキ様の鱗かどうかを担保するものはもう無いけどね」

「少し見せておくれ!! だ、大丈夫! 傷付けたりはしないから!」

「まぁ、お前に傷付けられる代物じゃないけどな」

「そ、それがまさしく証拠になるじゃないか!!」

その後、ひっくり返しては持ち上げて、コンコン叩いてはひっくり返して……。

「素晴らしい!! なんて軽さ! なんて硬度! なんて事だよっ!! ありがとう! ちなみにいくら払えば譲ってもらえるだろうか!?」

「すまんな、それはどうあっても出来ない」

「そ、そうだよね。世界でも人間界には1枚しかない貴重な物を俗っぽい物言いで汚すのは僕も本意ではない……」

少なくともここに4枚はありますよ。とは言えずに誤魔化した。勿論金で売る気は全く無い。

「ところで、それってどこから出したの?」

「へ?」

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