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無事にダンジョンをクリアした後、ダンジョンマスターの元地球人エイト(ゲームオタク)と会話をしていた。日本に居た時期が近いサイはゲームの知識に乏しく、彼が惑星ディートへ来た頃に生まれた俺は昔のゲームという程度の認識の為オタク話に花を咲かせたかったエイトは打ちひしがれていた。
「それにしても業が深いよな。ダンジョンで何人死んでる?」
「そ、それは分からないナリ……。ただ、ここ暫くは人がきてない筈……」
「外で聞いた話だと1年程前に挑戦者が訪れたとなっていたが?」
「1年前……あー、ああ、確か5階で力尽きたかと思うナリ」
机の操作盤の様な物をいじり出すエイト。
「……あったナリ。やっぱり5階で死亡が確認されてる……」
「ほう、パソコンみたいなもんか?」
「近いかもしれないナリな。このダンジョンのコントロールパネルと言えるものナリ」
「ほうほう、ほう、なるほど……」
サイがあちこち弄りだした。
「よ、よすナリ! それはボクの大事な物ナリ!」
「ふっ、ダンジョンマスターともあろうお方がなんと狭量な……」
「ま、まあ、少し位なら、だ、大丈夫ナリ。設定やなんかは触ったら駄目ナリよ?」
「これ、神さんならもっと上手く扱うんじゃないのか?」
「ん〜、まず、触れない。なんとなくコンソール状になってて、ここがモニターなんだろ? 文字が分かりにくいな……」
「ミチオ殿は目が不自由ナリか?」
「ぷふぉっ! やめろ! そのネタは駄目だ!」
サイは相変わらず俺の素性を知らない者の的外れな指摘がツボの様である。
「?? それにしても先程の分身の術は見事ナリ。ミチオ殿の職業は忍者ナリか?」
「いや、無職だな」
「ぶはっ! 神さん、あんた狡いって……」
「職業無しでスタート出来るナリね」
「お前は勿論ダンジョンマスターだろ?」
「そうナリ! この地下迷宮に限れば神に等しき存在ナリ」
「ひ、ひくふ、ぷくく、頼むから……やめ、ぷぷっ!」
「凄いな! 神なんてなろうと思ってもなれるものじゃないからな」
「そ、そうナリ! 最近神になったとか言う邪神ゲルボーヤーもボクの後輩ナリ!」
「ブヒャー……っはは、やめてくれぇー! ぃひぃぃ、ひひ、ぶはぁー! イーヒヒ……」
「サイ殿はボクを馬鹿にしてるナリか?」
「違うと思うぞ。コイツの笑いのツボは独特でな。気を悪くしたなら俺が代わりに謝る」
「そ、そうナリか? で、では、ぐふ、キュ、キュリヤ殿はどんなご職業ナリか?」
『質問意図不明、回答不能』
「まぁ、物理も魔法も使える万能職だな」
「凄いでござる!」
「ござる?」
「まるで勇者みたいナリ!」
「ぶふぉふふ、お、お前が誰よりも勇者だろ!? ぷっくく……」
「話は変わるんだけど、ここら辺て地上含めて物凄いマナが充満してると思うんだけど、なんか分かる?」
「え? わ、分からないナリ」
「そうか、管理人なら何か分かると思ったんだけどな……」
「この洞窟自体はミルユー様からお預かりしている様な形ナリね」
「ちなみに、ここより下層は存在しないのか?」
「ここより下ナリか? 無い……んじゃ、ない……?」
「そうか、あと、ここの直前のフロアな、アレなんだったの? なんか不具合っぽいアナウンス流れてたけど」
「そ、そうナリ! 10階と26階で登場するコロッサスが更にパワーアップしてコロッサスmk2として復活するギミックだったナリ! 26階で倒されたコロッサスはどうなったナリ? 細切れも細切れの微粉末にでもされない限り復活出来る筈ナリよ。ま、まさか、本当に細切れに? すり潰したり?」
「い、いや、俺達は、な? 必死だったから分かんないかな? 扉が開いたら走って抜けたからな! うん」
予想と合致したのでひとまず納得だ。
「そうナリか……。こんな事今までなかった、と、思うナリ……」
……どさくさに紛れてで戴いて帰ろう。今更出しても気まずくなるだけだ。
「じゃあ、俺達は行くかな?」
「そうナリか? 折角だからゆっくりしていけば良いナリよ? 特に、キュ、キュリヤ殿とか……ぐふ」
『キモヲタ爆発しろ』
「おい! 地球の知識の無駄遣いをするな」
「なんと! なんと簡潔で強烈な罵倒!? も、ぐふ、もっと言って欲しいでござる!」
「お前も大概だな……」
「ふー、そろそろ行くのか?」
「だな、やり残しは無いか? なんせサイの武者修行だからな」
「ふっ、こいつは討伐対象じゃないのか?」
「ん? んー、どっちでも良いぞ」
「そそ、そんなっ! ボクは管理者であって魔物じゃないナリ」
「だが、ダンジョン側なんだろ?」
「立派な魔物だろ!」
「殺さないでほしいナリ! さっきの話でダンジョン健全化計画も考えてるナリ!」
「ふっ、冗談だ」
「ダンジョン健全化計画ね……。特に大々的に宣伝するつもりはないけど、一応久し振りの踏破者が現れたってのは広まるかもな」
「よ、よろしく頼むナリ」
「最後にひとつ確認したいんだが、この玉はどんな魔物にも効果があるのか?」
「そ、そう言われると分からないナリ……。他人の従魔とか超越種とかは無理かもしれないナリ」
「そうか、やはり無理か……」
「お前、ほんとに俺で試そうとしてたのか?」
「あ、人間には効果は無いナリよ?」
「試した事あるのかよ……(指摘自体は的外れだがな)」
どれだけの人間がダンジョンで命を散らしたのかは分からないが、こうやって攻略出来た者がいるという事はただただ理不尽な構成という訳でもないし、これから改良もするみたいなので俺達に言える事は無い。
「あ、ちなみにクリア特典として入り口まで一気に戻れるワープ装置もあったナリ」
一応、仕組みを探ってみたが理屈は俺の瞬間移動と変わらない様でこの部屋と入り口付近のポータル装置の間をマナ化して飛ばすという原理だな。
「いつでも待ってるナリよ」
「あぁ、じゃあな」
ブンブンと手を振り見送るエイト、善人ではないが悪人とも言い切れない。そもそも善悪二元論で扱うのが乱暴なのだが、どこまでも人間臭い俗人、利己的で承認欲求を隠そうともしない。そっくりそのまま自分にも言えると思うと苦笑いが浮かんでくる。
時刻はすっかり陽が沈む頃、洞窟に程近い集落へと戻ってきた俺達は入場券のカードを作った施設の中にいた。
「ッベェー! パネェー!」
「ほんとなんですよ! い、いえ、ほんとなんですか? いやいや、ほんとですね!」
「だからな、カードのここを見ろと……」
サイが辟易しながら何度か同じ説明をしていた。
「すっごいですよね! どうやって刻まれたのでしょう」
「マジ、ヤベェーわ、モノホンだわ!」
「まぁ、別にクリアしたからって報告の義務は無いんだし、もう良くないか?」
「それもそうか……」
「じゃあな、邪魔した」
集落を南に向けて出ていくと港町を目指した。
「流石にクタクタだ……」
「ハハッ、丸一日ダンジョン漬けだったもんな。さっさと宿でも取って休んだら良い」
「ああ、そうさせてもらう」
町の中央付近で目に付いた宿へと向かうサイ。無事にチェックイン出来たので明日の朝また合流する事を約束して別れた。なんの気無しに海に向けて歩き始めたのだが途中で声が掛かる。
「お兄さん! 朝のお兄さんですよね? 洞窟へは明日向かうんですか?」
「いや、今帰ってきたとこ」
「帰って……? ?? やっぱり難しかったですか?」
「踏破してきたぞ……ほれ」
踏破者の証が刻まれているであろう入場カードを見せてみた。
「あ、は、はは……え? えぇぇっ!! たった1日で攻略して帰ってきた!?」
「おぅ、なかなか面白かったな」
「ちょ、ちょっと、ちょっと、いや、え!? ごめんなさい! 頭が……」
「ハハッ、まぁ、並の人間なら無理だとは思うぞ」
「お兄さん達、物凄い腕利きだったんですね。これはもう! 行くしかないですよ!? 予定なんて聞かずに連行です!!」
「マリナ、何を騒いでやがる?」
「ヨギニ! とんでもない事をした、とんでもない人と、とんでもない事をしようかと思ってんのよ!」
大南の連中は皆んな頭がちょっとアレなのか? ガシッと俺の左腕を掴みながら港湾管理事務所の受付は続ける。
「それじゃあお兄さん、行きますよ!!」
「待て待て! 何の説明もなく連れて行かれるのか?」
「だからぁ! 踏破者ですよ? 祝勝会を開きましょう!」
「マリナ! 困らせてるのが分からんのか?」
『食事代を出すなら同行を了承』
コイツ、飲まず食わずでも平気な癖に最近やたらと食事に凝り出してやがる。
「もっちろん! お祝いですからね。ヨギニも第3亭に集合! 他にも集めてよ!」
「ったぁ〜、15分後に行く。それで良いな? 兄さん等も急な嵐にでも遭ったと思ってくれ」
そのまま連行されていくと、こじんまりとした食事処といった店に入りあれよあれよと席に座らされてテーブルの上には料理がどんどんと運ばれてくる。マリナと呼ばれていた港湾管理事務所の受付嬢は俺達に食事をしながら待っている様に言付けて一旦店を後にした。
「マリナに無理矢理連れて来られたんだね? まったく、災難だったね」
飯屋の女性店員が続けて料理を運んできて話した。
「あの子は興奮すると見境なく行動するからねぇ。ただしお兄さん達、今回は別だよ? あたし等だってまさか生きてるうちに洞窟の迷宮を踏破する人と会えるなんて思ってなかったんだから」
「ハハッ、そんなに持ち上げられてもなぁ……」
『美味、様々な魚介類を合わせたスープは複雑で味わい深いと報告』
「そうか、美味しい店で良かったな」
「あら、ありがと。いっぱい食べてってね」
状況に流されるままにしていたら本当にとんでもない事になってきた。店に入りきらない程の人が押し掛けて急遽表にも簡素なテーブルが並び、それでも席が足りない人達が酒の入った器だけを手に持って店の前を占拠した具合だ。
「えー! コホンッ、本日はお日柄も良く、お集まりありがとーっ!!」
「「イェー!」」
「よっ! マリナ!」
「この度、なんとぉぅ! しーまぁーのぉ〜、洞窟の迷宮を突破した猛者をご紹介っ! イェーィ!!」
「「イェー!」」
「あれ? そういえばお兄さん達3人組でしたよね?」
今更か? 本当に暴走しているんだろうな。
「あぁ、1人は疲れたから既に宿だな」
「じゃあじゃあ今回はお2人って事で。改めまして島の伝説を塗り替えた……ありゃ? お名前なんでしたっけ?」
ノリだけで突き進む泥舟に不安しか感じずにそれでも答えた。
「無敵の戦士ぃ、ミチィーゥオォォー! そしてぇ、可憐な魔法使い、キュリィヤァァー!」
俺達の戦いを見ていないので仕方ないのだが戦士でも魔法使いでもないのは否定しないでおく。そして1番の功労者が不在である事に若干の罪悪感もあった。
「歴戦の勇士! 光り輝く新星!!」
歴戦の新星ってなんだよ? 初っ端からグダグダだ……。
「コホン、とにかく! 今宵は、ぅうぅぅたぁぁげぇぇどぅわぁぁぁぁーっ!!」
「「イェー!!」」
コッ、コッ、コンッ、カツン、あちこちから酒の入った木製ジョッキ同士を打ち付ける音が鳴り響くと、どんちゃん騒ぎが始まった。
「なあなあ、マリナを疑う訳じゃねぇんだけど、ほんとに踏破したのか?」
「そうだな、俺も気になるぞ」
入場カードを見せては感嘆が、戦闘内容を話せば称賛が、緊迫感を出して危機的状況を語ればどよめきが上がり、意外と興が乗った俺は皆んなの質問に答えながら楽しい夜を過ごした。
――ダンジョンマスター部屋――
「あ、あれ? 悪魔もヴァーグもナクトマンボスも復活しない? どうな、って……? こ、これ絶対ミチオ殿達のせいじゃないナリか!?」




