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ダンジョンアタックも佳境だろうか? 何事も決め付けは良くないが連続中ボスゾーンの様な感覚にそんな気がしていた。第26階層で巨人型の魔物を倒したサイは第27階層への階段の手前で休息を取る。
「まだいけるのか?」
「ああ、呼吸が整えば大丈夫だ」
金属生命体、悪魔、謎の巨人の素材をタダで貰って大した仕事もしていない俺は少しだけ申し訳ない気持ちになっていた。
「なんでも言ってくれよ? 俺に出来る事なら手伝うからな」
「ふっ、ありがたい。神様の後ろ盾とはこんなに心強いものはないな」
「そうか? 茶化すだけの余裕はあると捉えるぞ?」
「ああ、まだ大丈夫だ」
第27階層もまた短い廊下の先に石扉。迷う事なく進むサイに続く。見慣れた部屋、中央の床下にはマナ溜まり。
「さっきと同じっぽいな」
「分かった」
入り口が閉じると魔物が出現……。
「お次はどんなんだ?」
徐々に現れた姿は四足獣。体長2mを超える大型、狼よりも大きく長の月狼よりは小さい程だろうか。
「キュリヤ、あれ分かる?」
『肯定、狼亜種のヴァーグ、サイでは敗北の可能性あり』
「オーケー……サイ! 強敵だってさ」
「了解」
「オォォーゥ!」
大気を震わせる雄叫びをひとつ上げると俺達にも理解出来る言語で話し始める。
「人間、遠い、時、隔て、自分、共に、ここ」
「お? 言葉を話せるのか」
それとも、都合よく変換されている?
「自分、人間、食べる、食べる、人間、自分、人間、食べない、自分」
「なんか話してるけど物騒だな……」
「全部、食べる、人間……」
サイは部屋の中央付近で間近に大きな狼型の魔物と対峙していたのだが初動に反応はしたものの呆気に取られていた。体躯に見合わぬ速度で駆け出したヴァーグは自分に近いサイを無視してキュリヤに向けて動いていた。高速での踏み込みから両前脚での引っ掻き、及び踏み付け。キュリヤは両手を無造作に内側から上へ伸ばし外側へ円を描く様に振るう。
「ギャィィー!?」
両前脚から血飛沫を上げて大声で鳴くヴァーグ、ボト、ボトッと、人間で言う手首から先の部分がキュリヤの背後に落ちる。
『敵対行動に対する反撃に移行』
ヴァーグが狼狽えている間にキュリヤが急襲、相手の頭のてっぺんを右手で掴むと慣性を無視した角度で真下に物凄い速さで落ちると床に顎から喉にかけた部分を叩きつける。
「フグゥゥーィィ……」
徐に両目に両手を差し込み眼球を引き抜く。
「ギャァアァァーァアアッ!!!?」
ビチャ、ビダッ! と、それを背後へ投げ捨てると鼻先を地面へと押さえ付けながら問う。
『何故、当機を優先?』
「ギリャァッ! ワゥォー!」
更に力を込めていくと……。
「づよぃ、ざぎ、ごろっ」
『強い者を優先?』
「つよっ、ね゙ら゙ぅ、あ゙だま゙、フグィィ、たべっ、ばど、ブジュルゥゥー……」
抑え付けていた力を緩めると相手の口の中に右足を突っ込み、両手で上顎を掴み一気に上へ持ち上げた。バキン!
「アガッ!?」
随分ご立腹な様子のキュリヤはトドメに移る。顔の横へと歩くと首筋に右の貫手を突き刺す。数瞬後にボグッ! と鈍い音が聞こえるとヴァーグは絶命した。頸椎が砕かれた音だった。程なく部屋の奥で石扉が開く。
「ハハッ、馬鹿だな。リーダー格から殺るのはセオリーだけど力量を見誤っては意味が無ぇだろ」
キュリヤはさっさと水魔法で体を洗っていた。
『肯定、当機の実力も分からない愚者』
「ふっ、辛辣だな。だが、助かったのかもしれん……」
「どした? 自信無かったか?」
「……分からん。だが、簡単ではなかった筈だ」
「ハハッ! キュリヤ、サイは自分と相手の力量差をわきまえてる時点でこの犬っころよりは優秀そうだぞ?」
『肯定、サイの実力は種族名・人間では突出していると報告』
「おい、2人で茶化すなよ……」
珍しく照れた様子のサイだったが現実的な提案をしてくるのだった。
「次の階も順当に強さが増すのならオレ単独では無理かもしれん」
「大丈夫だって! 元々お前が自ら課した修行の一環であって一応俺達はパーティだと思ってるんだから、1人じゃ無理なら皆んなでやれば良いだけだぞ」
ヴァーグの亡骸を収納した。
「!? そ、ま、そうなんだ、が……何故か1人で解決したくなるというか……」
「根っからのソロプレイヤーかよ! ハハッ、第10階層を思い出せって! 皆んなでいたからクリア出来たんだからな?」
「そう、だな……。ふっ、その通りだ」
「そうそう! 次は28階層だ。何が来ても良い様に気持ちだけはしっかりな?」
「ああ、行くか」
部屋を出ると短い廊下の先に下階への階段、今回サイに疲労はみられないのでさっさと降りていく。同じ様な石扉の向こうには同じ様な部屋、同じ様な中央床下のマナ溜まり。
「同じだな……」
「ふっ、マンネリだが相手は変わるのだろ?」
「たぶんな」
入り口が閉じ、部屋の中央に魔物が現れる。形作られてきたのは二足歩行? いや、両腕を地面に突けているのはゴリラの様に見えるか?
「キュリヤ、アイツは?」
『ナクトマン上位種、ナクトマンボス』
「ん? あれか? 50匹の群れを統べるって奴」
『肯定』
「サイ、猿共の大ボスらしいぞ!」
両手を地面に突いた前屈み状態でも身長2m程もある。前屈みの体勢は意外と隙がなく、サイも迂闊に攻撃出来ないでいる様である。ボス猿もゆっくりとサイの周囲を回りながら隙を窺っている様子。両者間合いの取り合いという静かだが高度な読み合いに入っている。と、思われた次の瞬間、回転しながら接近したボス猿が右腕を振るう。ブンッ! と、風を切る音が聞こえたがサイには当たっていない……どころか、身を低くした姿勢から前蹴りを膝に的確に当てていた。その後も大振りな攻撃を繰り返すボス猿に関節や急所を狙い細かな攻撃を当てていくサイだったが大きな隙を見せない相手に攻め込まれる形になっていく。大振りながら戻す速度が早い左右のパンチ、合間に放たれるトリッキーな蹴り、及び間合いを詰めたり距離を取ったり自在なステップ。それらに翻弄されながら攻めあぐねると防戦一方となる。クリーンヒットは貰っていないが相手にもなかなか有効打を与えられない。
「ギャイィィー、ギャッギャ」
その場で3度跳ね吠えると4度目のジャンプで距離を取る様に後方へ飛び退き両腕を前方へ突き出す。
「ゴワッゴワッオゥ!」
魔法を発動させる様子のボス猿だったがサイは距離を嫌い急接近して相手の右側面へ回り込む。すかさず神速の前蹴りを膝に見舞うとその膝を床に突けた相手の鼻っ柱に拳骨、拳を入れ替え喉へ、もう一度拳を入れ替える様にして開いた掌で胸を強打。
「ゴゥボォ……」
前屈みになりながらも相手は右腕を外側へ向けて振るった。ドッ! 防御は間に合ったものの大きく後ろへ吹き飛ばされたサイは床を滑る。
「ゴワッゴワッオゥ……」
両手を前に翳すと今度こそ魔法を発動させる。サイはすぐに立ち上がり敵へ向け駆け寄ろうとするのだが、地面が隆起して小さな岩山が現れる。先端の直撃は免れたものの、足元がおぼつかなくなり前方へ跳躍して前転する事で魔法の範囲からは抜け出すのだが立ち上がると、目の前にはボス猿が両手を頭上に構えていてすぐさま叩き潰す様に振り下ろされる。バッバンッ! すんでの所で回避、右手を添えた左の前腕を体ごと当たる様に相手の肘に突っ込む。
「い!」
ミキッ、骨の軋む音が聞こえたが相手もまだ止まらない。右腕を振りかぶり横薙ぎにビンタ、ブゥーン! これは空を切る。サイもまだまだ落ち着いて対処出来ている。振り抜かれた右腕の付け根、脇の下へ踏み込むと拳を打ち込み、そのまま脇腹へ肘打ちを突き刺す。ミシッ、ボグッ!
「グォゥゥ……」
「ふー、ふー、タフだな……」
更に相手の膝をやや上から踏み抜くと……。
「グワォーォォ!」
両腕を出鱈目に振り回すボス猿、その尽くを見切った様に最低限の距離を動き回り必要以上に距離は取らないサイ。そうして合間に関節や脇にいやらしい反撃を入れていく事暫く……勝機は呆気なくやってきた。左拳を斜めに振り下ろした瞬間の相手目掛けて突進すると胸に頭突き、金的を蹴り上げ、振りかぶった右手で顔面を叩き、左掌で顎を打ち上げ、沈み込む様に左肘で肋骨を打つ連続攻撃。ゴグッ、トッ、両膝を床に突き戦闘意欲が消えかける相手の右脇腹へ更に強烈な突き。ドブッ!
「ォウワゥオォォーッ!?」
両手も床に突け土下座の様な格好になったボス猿にも手心は加えない。容赦の無いサイの神速の前蹴りが首筋を正確に捉えた。ゴボ! 力尽きた相手は床に腹這いになると動かなくなっていた。それでもまだ手を止めないサイが延髄辺りを踏み抜く。バギャッ! ようやく安心出来たサイが大きく息を吸う。
「お疲れ! いやぁー、見応えある戦いだったぞ。完全に観客気分だな」
「はあ、はー、はあー、ふぅー、キツッ、ふう、ふぅー……」
「素手でゴリラを制圧する人間なんて地球には居ないだろうな」
『サイ、改めて称賛を』
「ふっ、そうか、ふう、ありがとう……」
次の階層を目指し奥の扉を潜ると短い廊下で息を整えるサイ。
――????――
「28階も突破!? ぐひゅっ、久々すぎゅる……ど、どうする? どうしよ? ぐふふ、どうなっちゃう……?」




