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ネーシア諸島大南(だいなん)にある洞窟奥に続くダンジョン、第20階層のボス部屋を突破した一行は次の階層へ降りる階段の手前で束の間の休息を取っていた。

「感覚としてはオレも5、60は()れたと思うんだが……」

「70位いってなかったかな?」

『訂正、サイ68体、当機が106体、ミチオは159体。尚、ナクトマンリーダー37体は全てミチオが討伐』

「さすキュリ! 細かい数字なんて戦いながら数えられんだろ」

「ふっ、そうか……68か、しんどいな……」

「ここって一応の安全地帯って認識で大丈夫なのかな? なんならサイは仮眠でも取れば良いぞ」

「いや、睡眠はまだ必要ない。ただ、腹が減ったな」

「飯にするか」

「ふっ、あんた等は必要ないんだろ? 人間てのは難儀なもんだ」

「ホタテバターの味も分かんないんだけどな」

「すまん、失言だった」

「まぁ、厳密に言うとマナを補充しているのが食事だし、ナクトマン300匹以上を食ったばっかとも言える」

「ふっ、ふふっ、じゃあ遠慮なくオレも食うとするか」

鞄から取り出した携行食を齧りサイが続ける。

「ここは一体どこまで続くんだろうな?」

「それは、会話であって調べて欲しい訳じゃないんだろ?」

「その通りだ。洞窟の奥に広がる迷宮なんてのはガキの頃やったゲーム画面の中の、なんてゆうか、操作キャラクターが進むもので、オレ自身が直接歩く事になるなんて思いもしなかったな」

「そりゃ確かに。……俺もまさかどちらかというと倒される方に生まれ変わるとは思ってもみなかったぞ」

「ふっ、だな」

「で、アトラクションとしては楽しめてるのか?」

「そうだな、修行にはなってる」

「ストイックだねぇ」

「神さんだってそこへ至るまで修行の日々だったんだろ?」

「う、うむ、試行錯誤っていうか、思い付きの実証実験というか……」

『提案、当機がサイの護衛をしている間にミチオが一度脱出し食糧を購入して戻れば食事の品質向上になる』

「で? ウニでも買って来いってか?」

『肯定、必須』

「あー、まだ大丈夫だ。突然サバイバルな状況下に置かれる事も修行の一環だ」

「ハハッ、ストイックだねぇ」

休憩を切り上げるとサイを先頭に進軍を再開する。第21階層からは更に迷路の様に入り組んだ造りになっていた。それでもマッピングもせずに行ったり来たりしながら、また、浮遊霊(ガイスト)も敵として現れたのを撃退しながらどんどん進んでいく。

「実体の無い相手を素手で倒すのはどんな理屈だ?」

「ふっ、あんたと炎の精霊様のお陰でな」

「そうかい、まぁ対処出来るなら良いんだけど……」

金属生命体(メタリカント)はレア遭遇(エンカウント)だったらしくその後は現れていない。第24階層まで降りてくると(ガルム)の小規模な群れが出現。3匹までは難なく倒していたサイだったが4匹連れになった途端に苦労しだす。

「手ぇ貸すか?」

「まだ、いいっ!」

背後に回り込んだ1匹に気を取られると他の個体が、接近した相手に対処する間に別の角度から、それでもなんとか順番に倒し4匹を蹴散らしたサイは二の腕に多少の裂傷を負った程度で大きな怪我はなかった。

「消毒とかあんの?」

「ああ、しかし、3匹が安全ラインか……」

「猿70匹近くを無傷で倒す男が犬4匹で手こずるもんなんだな」

「猿とは違って完全に群れとして統率された動きをされると手強いな」

「あぁ、アイツ等も一応役割分担はあるけど基本バカっぽいからなぁ」

「ふっ、あとはやはり単純に奴等よりも強い」

「そうだよな大型犬並かそれ以上の体格だからな」

その後何度か迷いながらも下階への階段を見つける事が出来た。(ガルム)は5匹以上で出現する事はなく、全てサイが1人で対応した。最後の方は何か掴んだのか小さな傷すら負う事なく倒しきっていた。第25階層へと降りていくと……。

「あれ? ボス部屋の前みたいな感じだな……」

短い廊下の奥には石扉が閉じられていた。

「あんたの予想は?」

「色々ありすぎてまとまらんな……。まず、階層を股に掛けた迷い道で扉は開かないパターン、まぁ、行き止まりだな。その線でそのままトラップ部屋で先へは進めない可能性もあるか。あとは単純に10階層ごとに中ボスだというのがミスリード、それから30階層が最深部で、こっから中ボス5連戦とか? そもそもここがラスボスの部屋ってのもあるかな? いや、俺の空想だけで全部違うかもしれんな」

「いや、どの予想もオレには出てこない発想だった。ん、何が起こるか分からないが色々な可能性があるって事だけは分かった。……行くか」

サイが扉へ近付くと今まで通り重々しい音を立て石扉が開いていく。中には灯りがある。石像の様な見え見えなギミックは無し。俺は先に壁の向こうや床下を探る。中央部の床下にマナが溜まっている箇所がある。

「中央に何か起こる可能性があるかな」

入ってきた石扉が音を立て閉まると部屋の中央の空中にマナが集約されていき魔物を形成する。人型のそれは悪魔(トイフェル)だと断定する。

「サイ、見覚えは?」

「あ、ああ、たぶん、フレールの神殿に来たマリスとかいう奴と同類だな。ただ悪魔(トイフェル)と戦った事は無い」

「魔法を使ってくると思うから何かあれば言ってくれ。とりあえず任せるぞ?」

宙に浮かぶ悪魔(トイフェル)は胎児の様にうずくまっていた全身をゆっくりと伸ばしていき、首を左右に傾けたり拳を握ったり開いたり体の感覚を試す様な動きを見せる。

「……ふふ、ふははははっ! 何年振りだ? この地へ再び立つ事になろうとはな……」

「おーい、立ってないで浮いてるぞー」

とりあえず悪魔(トイフェル)は馬鹿が多いのでツッコミを入れておく。ゆっくり地面に降り立ち言葉を続ける。

「随分と余裕があるな、人間共? たっぷりと恐怖を味わうがよい」

人間は1人しかいないのは敢えて言わなかった。

「なんだ? 貴様1人で(われ)とやろうと言うのか? 遠慮せずに全員で来れば生き残る可能性があるというのに……。舐めるぁ! ニンンゲェェンンーー!!」

サイへ向け飛び出した悪魔(トイフェル)は右腕を振りかぶり拳を突き出す。サイはそれに合わせ外側から自分の右手を当て軌道をずらすと同時に手首を掴み左腕で相手の肘を関節とは逆方向になる様に押し込む。相手の右手首は掴んだまま左腕は反転させる様に脇の下を通り円を描く様に胸の辺りへ二の腕全体を当てると体全体を使い体当たりの要領で相手を押し倒す。

「あ!」

仰向けに倒れた相手へ間髪を容れずに膝を腹部に落とし、左掌で顎を打ち抜き右拳を胸へ叩きつける。サイはまだ止まらない。金属生命体(メタリカント)戦で見せた動きで相手の右手首を持ち立ち上がると腕を引っ張り上げ、左足で頭を踏み抜く。何度も何度も……。ゴッ、ゴッ、ガツッ! ゴンッ、グジュッ! 頭が潰れた。

「容赦ないな、おい! ハハハハッ!」

「ふぅ、距離を取って魔法を撃たれると厄介だからな。接近戦で来てくれたのならチャンスを逃す手はないだろ」

部屋の奥で石扉が開く。

「探索続行だな?」

「ふっ、当たり前だ」

死体(戦利品)を収納するとだいぶ見慣れてきた短い廊下とその先にある下階へ続く階段へと向かう。

「さて、この先はどうなってるのか……」

階段を降りるとまたもや短い廊下の先には石扉。連続中ボスゾーンだったのだろうか。

「扉だな」

「とりあえず迷い道の線ではなかった様だな」

「ああ、進むぞ」

石扉を潜るとやはりこれまで同様の灯りの点いた広い部屋、先程の部屋と同じ中央の床下にマナ溜まり。

「さっきみたいな感じで敵が出ると思う」

背後で石扉が閉まると中央部に人影が出現してくる。片膝を突いた格好で現れてきたのは第10階層で対峙した巨人だった。しかし、体内のマナは通常の魔物や生物と同様に流動的なものだった。

「サイ、たぶん倒すパターンだ。おかしな所があったら聞いてくれ」

「ふっ、10階の憂さ晴らしにやらせてもらう」

立ち上がると3m程もある巨人相手に頼もしい限りだ。踏み込みながら大きく右腕を下から上へ振り上げた巨人、当たる訳がない大振りを最小限で躱すと踏み込まれた左の膝へ横方向から前蹴り、しかし少しバランスを崩すだけで決定的な隙は出来ない。すぐに左手でサイを頭上から叩き潰す様に地面へと振り下ろす。バスンッ! 当然躱しているサイが左肘を逆関節方向へ右掌で打ち抜く。

「あ゙ぁぁー!」

痛みか鬱陶しさか分からない声を上げた巨人は直立するとサッカーボールキックの要領でサイを狙う。ブゥォォッン! 空気が悲鳴を上げる様な音が響くが勿論当たらない。すぐに軸足の膝目掛けて踏み込みと同時に両掌を叩き込むと……。

「んがぁぁー……」

ドスン、という音と共に尻餅を突いた巨人、その顔面目掛けて飛び込みから膝蹴りを入れるサイ。ゴギャッ! そのまま仰向けになって後頭部を床へ痛打する。……これはサイの必勝パターンなのか? 相手の腕を掴み捻り上げると頭部を何度も踏み付けていく。ガッ、ゴッ、ゴリュッ! 首の骨が折れたが構わずに続ける。ドッ、ドッ、バキョッ! 頭蓋骨が砕かれようやく相手の腕を離すとバタッと力無く床に落ちた。

「それ、サイの必殺技かなんかなの?」

「ふっ、ふう、ふぅ、必殺技か……。ふう〜、理想を言えば、どんな攻撃でも、必殺の一撃とするのが、目標だな。はあはあ……」

奥の扉が開いた。

「廊下で、少し、休む」

「オーケー」

『そろそろ当機も戦闘を希望』

「ハハッ、退屈か? でも、今回はサイのサポートの約束だろ?」

『渋々了承』





――????――

「……25階に続いて、コロッサスが……やられた? ぐぶ、ボクのコロッサスが? ぐぐぐぐ……」

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