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ダンジョンアタックは第10階層で中ボス戦を終えた所で小休止をしていた。
「ちょっと腹になんか入れるか……」
サイは鞄から丸くて平べったい物を取り出すと口に運んだ。
「ソレ何?」
「トウモロコシの粉に卵、バター、砂糖、塩、砕いたナッツ類なんかを混ぜて焼いた物……オレ流の兵糧丸、現代風に言えば自家製カ◯リーメイトだな」
「おぉ、サイも現代知識の流用をしてたんだな」
『一欠片食す事を希望』
「美味くはないぞ」
そう言いながら割ったものをキュリヤに手渡す。
『……』
「な?」
『肯定、ただし携行食としての有用性は高いと補足』
「ふっ、こいつにとっては最大級の褒め言葉だな」
そう言ってサイは水の入った皮袋に口を付ける。
「ステンレスの水筒なんて無いからな?」
「それぐらい想像出来るわ!」
「ふっ、何やら不思議そうに見てる様な気がしたもんでな」
「そっちの方向じゃなくて、実物は見た事ないけど皮袋で飲み物を飲む感覚を考えてたんだよ」
「ああ……すぐぬるくなるし、日持ちはしないし、嵩張る。ステンレス製があれば有無を言わさずそっちを選ぶ」
「現代日本の文明の利器が懐かしいな」
「ああ、情報伝達速度があまりにも遅いとかな。ん? 神さん、その能力でメッセンジャーでもやりゃ一財産稼げるんじゃないか?」
「ん〜、断る。それしか出来なくなる未来が見える。昼夜問わず一日中配達員なんてブラック過ぎるだろ」
「ふっ、さて、そろそろ行くか……」
サイは荷物をまとめて立ち上がると階段を降り始めた。第11階層はこれまでの洞窟の岩肌剥き出しに戻っていた。中ボス部屋の様に四角く切り出された石が組まれた場所は特別なイベント区画なのだろう。勿論、灯りも無いのでサイはランタンに火を灯している。魔物が出現する事なく分岐する道をサイの勘に頼り進んでいく事暫く、久しぶりに遭遇した魔物はゲルだった。廊下の隅で黙っているのだが魔法発動を予見して一応身構える俺。一方でサイは猛ダッシュで接近すると腰の辺りから取り出した棒手裏剣を投擲、的確に核を貫通した。
「一応の確認なんだけど、サイは今の魔法発動の兆候を見越して接近したのか?」
「……いや、魔法なんてオレが分かる訳ないだろ? なんか嫌な予感がしただけだ」
「そうか……。いや、もう一歩突っ込んで聞くが、それが【マナ感知】なんじゃないか?」
「……否定は出来ないがマナを感じて動いた自覚はゼロだ。オレの中の何かが先手必勝を訴えてきた感じだな」
「戦闘中にあれこれ考えてると危ないとは思うけど、マナは意識して感じる方が理解度というか解像度が増していくから頭の片隅には置いておくと良いぞ」
「そうか、助言感謝する」
「ハハッ、やめろって、こっちこそ講釈垂れてすまんな」
その後もまだまだ余裕があるサイを先頭にどんどん進むと第16階層へ辿り着き、尚も先を目指して進み続けていた。
「蒸し暑いな……」
周囲の温度はよく分からない俺には気遣いは出来ない。水分塩分だけは摂る様に言いながらも進軍速度は全く落ちないまま初遭遇の魔物と対峙する。
「こいつは、見た事がないな」
サイも初めて見た魔物らしいのでキュリヤに聞いてみる。
「ちゃんキュリ、分かる?」
『肯定、金属生命体。当ダンジョン内の傾向としては脅威度が急上昇したと報告』
「強いんだな? サイ、注意しろ!」
「ああ、まずは様子見に徹する」
「ヤバそうならすぐ手を出すからな」
見た目は人型が金属で構成されている。ゴーレムの様な無機質な生命体に見えるが体内のマナの動きは有機生命体のそれに近い。
「キュリヤ、他には?」
『高い物理耐性、多少の熱変動は無効、言語による意思疎通は不可と推測』
「どこの地球外生命体だよ!? 弱点とかは?」
『極低温においては活動が低下、ただし零下50°c以下の状況下で5分以上晒された場合』
「で? あとは?」
『該当無し。ミチオであれば単純にどうとでも対処可能と補足』
「サイには荷が重いか? とりあえず見に徹するか……」
動き自体は然程速くはなく体格もやや大柄な男性程度。
「俺の予想だと体の形を変えるかもしれんぞ!?」
「ふっ、昔映画で見たな」
相手と組み手を続けながらサイも予測していた。ゴッ! ドッ! と、攻撃は鈍い音を立てて当たってはいるがダメージの程は分からない。サイは様子を見ながらも攻め手を微妙に変えていく。直接的な打撃はやはり効果が薄いと見て金属生命体の動きに合わせて関節部分を重点的に叩き始めた。踏み込みに合わせ膝を、振り回される腕の肘を、そうして体勢が崩れた時に相手の腰の辺りを両掌を突き出し打ち付ける。
「あ!」
短く声を上げて打ち込まれた両掌が相手を吹き飛ばした。ゴゥン……と、仰向けに倒れた相手の手首を掴み右腕を引き上げながら頭部を踏み付ける。人間であれば下手すると絶命の一撃だが掴まれた右腕を振り解きのっそりと立ち上がる金属生命体。俺の視覚情報だと今の攻撃で相手のマナが削られたのが分かった。
「サイ、マナだ! 体内のマナに直接攻撃する感覚だ!」
「ふっ、簡単に言ってくれる」
両手首から先を鋭い刃状へ変化させて無闇矢鱈に振り回してくる相手の攻撃もサイにはよく見えている。危なげなく全てを回避しつつ隙を窺って掌底を脇腹に打ちつける。
「んぃ!」
よろめきながら2、3歩後ずさる相手にすかさず追撃を加える。体重の乗った左膝へ神速の前蹴りが当たるとそのままうつ伏せに倒れた相手の背中に左手を手首に添えた右拳を打ち込む。
「いっ!」
すぐさま相手に跨りバックマウント状態になると左右の掌底が何度も相手の後頭部から背部を叩き続ける。終わったな。相手からはごっそりとマナが削られていく。すっかり動かなくなった相手の頭を両手で挟み込む様に掴むと、仕上げとばかりに捻り270°程グリン! と、回転させた。
「終わってるぞ」
「ふっ、はあ、そうか……。ふぅ……」
ここからコイツ等が複数現れるのならサイ1人ではきついかもしれない。
『素材の確保を推奨』
「サイ、戦利品持ってけってよ」
「いや、邪魔だろ。要るならあんた等に任せる。はあはあ……」
「ハハッ、そりゃそうだ。こんな金属の塊どうやって持ってくんだよな?」
『金属加工系の魔法、スキル、鍛冶系のスキル等』
「それ、戦闘メインの人はあんまし持ってないんじゃないか?」
言いながらとりあえずマナ化して収納する。キュリヤが持って帰れと言う位だからレアなのか?
『肯定、希少性があると報告』
「じゃあ、こっからコイツがポンポン出てくる可能性は少ないのか?」
『不明ながら肯定と予測』
「だな、人の意思が介入してるダンジョンだから何が起こるか分からんよな……」
「すぐに同じのが出たら頼んで良いか?」
「あぁ、大丈夫だ」
『人の身で打倒した事を称賛』
「そんなにか」
『肯定、単独撃破は称賛に値する』
「ふっ、光栄だ」
「んじゃ、少し気を引き締めて進むか」
その後すぐに遭遇したのはゲルだった。金属生命体はそうそう現れるものではないと分かって少し安心した様子のサイがさっさと片付けた。その後はサイの後ろをついて行くだけの優雅なお散歩状態で第20階層目前まで到着。
「次で20階だな」
「ま、なんかあるよな?」
「ふっ、だな」
階段を降りていくと案の定短い廊下の先に石扉、近付いていくと低い音を鳴らし開いていく。広い部屋には灯りがあるが、第10階層の部屋の様に分かりやすい石像などは無くがらんとしていた。
「さて、何が出る?」
頭上からも石扉が開く様な音がしている。
「魔物部屋だ! サイ、上っ!」
天井に近い位置の壁面一周に空洞が現れると、そこから続々とナクトマンが押し寄せてくる。床に飛び降りるとこちら目掛けて駆け出してくる。
「数が数だ俺達もやるからな! キュリヤも!」
『肯定、殲滅開始』
「頼む!」
一気に部屋を占拠する大群の中からリーダーらしき個体を見つけては優先的に倒していく。いくら数を揃えても所詮はナクトマン、俺は苦労せずに任意の相手を吸収していくだけ。サイは多少翻弄されつつも対処は可能な様子、キュリヤは……キリングマシーンと化し高速前衛舞踏かの様に動き回り両手両足を相手の急所に突き立てていく。
「……なんか、体を動かさないと俺だけ働いてないみたいじゃないか?」
やろうと思えば部屋中に犇く猿をまとめて消す事も可能なのでつい余計な事を考えながら2人の……というかサイのフォローに徹する。魔法を使うリーダーは見つけたら瞬殺、対多数に慣れたサイでも捌ききれない個体も消していく。
「軽く200匹は超えてないか?」
どんどん溢れてくるナクトマンの勢いはとどまることを知らない。サイの周囲には敵の死体が山となって積み上がっている。それを上手くバリケードの様に使いながら、落ち着いて対処出来ている。壁上部の出現位置からはまだまだ奥から湧いてくる猿。数の暴力には飽きてきた俺は周囲に確認出来る個体全てを消し去る。サイとキュリヤが倒した死体も含めて全部吸収した。出現位置の奥には部屋をぐるっと一周する様に第10階層の床下にあったマナ供給パイプみたいなものが張り巡らされていた。ボス部屋のギミックと関係している構造なのだろう。迂闊に破壊すると何が起こるか分からないので手は出さない。サイがいるので行動は慎重に選びつつ、打ち止めとなったナクトマンの残りが倒されると部屋の奥で石扉が開く。
「クリアみたいだな」
「ぶふぅ、ふー、はあー、はあ、……流石に、疲れた」
キュリヤは水魔法で自慢のボディを洗浄中だ。
「ふー、1人じゃ、無理だった、はあ、はぁ」
「だろうな、300匹だぞ?」
「そんなに、いたか……」
『正しくは333匹だと訂正』
「東京タワーか!?」
「東京、タワーじゃ、ねんだから」
ツッコミが被った所で奥の扉を潜っていった。
――????――
「20階も突破? ぐふふ、良いねぇ……」




