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墓虎との戦闘後、その子供を発見してしまった俺は、殺す事も見過ごす事も出来ずにいた。苦肉の策として【調教】スキルの習得を希望として虎の子にちょっかいを出す事に決めた。子虎の所には、分体を一体置いてきてあるし、何かあれば気付くだろう。今は、親が仕留めたであろう獲物を掘り返して食べている様だ。
さて、虎の巣からは4km以上離れている場所にいる俺は、樹上で眠る猿の群れを見付けていた。また7匹だな。
「キュリヤ、こいつらは7匹で1チームって決まっているのか?」
『肯定、基本的な構成です』
リーダーは……マナ保有量の一番多いあいつだな? 無音で木の幹を登っていく……。
ま、匂いでバレる可能性があるんだがな。よし、射程内!
極細触手をこめかみ目掛けて突き刺す。と、同時に溶解液注入。サイレントキル成功。
地面に落下して音が鳴るのを防ぐ為に分体を作り枝に括り付けておく。2匹目、3匹目と順調に始末していく。うん、作業だな。大した苦労もせずに7匹全部倒し終える。ボドッ、ドサッ、バタッ……。分体に全て木の上から落とさせて順番に捕食。今回は存在値は上がらない様だ。眠っている相手を殺して回るだけの簡単なお仕事では経験値も少ないのか? 音を出さない様に多少は気を使ったんだがな。
それにしても眠くもなければ、疲れも感じない。異世界転生1日目は目まぐるしく過ぎていく。なのに、俺はというとむしろ活力溢れる感覚にすらある。
「キュリヤ、イーヴルゲルって夜間に行動が活発になる魔物なのかな?」
『肯定、闇のマナとの親和性が高い為と推測』
「そんな気はしていたよ」
このまま徘徊しながら昼行性の生物の寝込みを襲っていくか? それとも闇のマナが濃い夜間に闇魔法の熟練度を上げようか? ん? 闇のマナに違和感が……。俺の今の視界はマナを感知する事で成り立っている。半径30m程の範囲にあるマナ保有物を知覚出来る訳だが、魔法【闇拡張】により闇のマナに限り半径200m近く感知出来る様になった。時折使っては異常が無いか確認していたんだが、120〜130m程離れた位置に何かいるな。闇のマナに干渉するものであれば、虫、小動物、風に揺れる草木等も含まれる為に精度は高いものの情報量が多過ぎて扱いにくさを感じていたが、そういったものとは違う違和感を感じた。
「キュリヤ、捕捉している?」
『肯定、浮遊霊です』
「名前から察するに霊体系の魔物か、こんな夜中、しかも深い森の中だし居てもおかしくはないか……」
『物理的な接触は不可』
「想定内だが、どうしたもんか」
こちらも邪悪の化身みたいなもんだから、光の魔法で浄化……なんて事は出来ないな。火も使えないし、無属性魔法【衝撃】でちまちま削る?
「キュリヤ、対策はある?」
『まず、浮遊霊は魔法攻撃型の魔物と報告。脅威度は低く、ミチオであればマナそのものに干渉し消滅、または霧散させる事は可能と推測』
「あぁ、体に触れる事は出来なくてもマナ自体を吸収する事は可能って事ね?」
『肯定』
オーケー、やる事は分かった。あとは出来るかどうかだけだな!
「おっと、ちなみにキュリヤの知覚範囲? 索敵範囲? って、どの位なの?」
『1番長距離なものでおよそ半径500m、近い程情報の精度が上がります』
「マジかっ!? 広っ! 頼りになる相棒だ!」
【接続強化】
とりあえず距離50m位まで接近する。
なんか、嫌な感じのマナの集合体だな。遠距離に視界を伸ばして捕捉した相手は……、うん、色が……とかじゃなく、凄く嫌な感じとしか表現できないな。よし、もう少し接近だ。通常視界の有効範囲に入った所で視界を望遠モードから戻す。更に接近、15m程の距離で相手もこちらに気付いた様だ。マナがクルクル回っているから魔法の準備に入ったんだな? さて、どんな魔法を打って来るのか……。
ゾクゾクッ!
『警告、回避行動を取る事を推奨』
「あれ? 今、何かされたの?」
『種族固有魔法【見えざる手】による攻撃』
「えっ? あれ? 溜め込んだマナが少し持っていかれている?」
『肯定、闇属性の魔法でマナに干渉しています』
「闇のマナは俺の専売特許だと思い込んでいたな」
確かに闇のマナがフワーッと相手の方に流れていった感じはあった。あれが魔法だったのか。ふん、小癪な真似をされたが、負ける気はさらさら無いんだよ! 回転移動で急接近、地上1.5m前後をふわふわ浮いている相手目掛けて体を広げる様にダイブ! やはり物理的に触れる事は出来ない様だが、すり抜ける間に相手のマナを出来るだけ吸収。
【マナ感知】
うわぁ……、嫌な感じだぁ……。味覚は無いものの、これは食べたくない奴だ。相手はまだ健在。吸収ではなくマナを散らせる? 破壊する? そうこうしている間に相手はフワーッと距離を取りつつマナをクルクル回転させている。2発も食らってたまるか。
「ゲルクレイモア!」
当たった相手のマナは砕く様に発射して討伐完了。嫌な相手だったな……。負の感情の集合体とでも言うのか、マナにもあんな質的変化があるのね?
『肯定、ミチオのマナ感知能力向上が思いがけずマイナスに働いた模様』
「返す言葉もありません」
次に霊体系の魔物と遭遇した場合は捕食せずに存在を抹消していく方針を取ろう。コレ、絶対!
『しかしながら、多様なマナを吸収していく事も有用と提案』
「うっ、好き嫌いはいけません! ってか?」
『肯定』
「あの怖気の感覚は避けたいんだがな……」
『続けて提案、マナ感知の精度を下げる事で回避可能と推測』
「あ……、マナに集中する事ばかり考えていて、感度を下げる方向には思い至らなかったわ」
『更に報告、半径500mの範囲内に浮遊霊を2体確認』
「仕方ない、やりますか」
キュリヤの言う通りに回転移動していくと程なく地上約1m付近を漂う浮遊霊を発見。相変わらず嫌な感じのするマナの集合体だ。距離10mを切った所で相手は魔法の発動準備に入ったが、お構いなく先程と同様に急接近して体を広げる様にダイブ。
【マナ操作】
【情報処理能力】
ふぅ、気持ち悪さを感じないで吸収できた。続いて2体目に向かう……。
瞬殺した所で……。
『350m先にもう1体確認』
「へいへい、やりますよ」
回転移動していく途中でキュリヤから警告。
『警告、通常個体の浮遊霊とは異なると判明』
「どういう事?」
『不明』
「不明? キュリヤでも分からないならどうすれば良い?」
『分析完了。純粋霊と特定。遭遇率は非常に低いです』
「レアモンスターか!?」
『悪意なき霊体の為、接触は止めませんが、無闇に討伐する事は非推奨』
「善性のある魔物?」
『概ねその解釈で間違いありません』
とりあえず引き続き接近してみる。
50m程の望遠視界に捉えた相手は綺麗だった。女性に見惚れているとか、大自然に圧倒されるだとか、そういうものではなく、ただただ無心に見つめていたくなる。感嘆も羨望も興奮も崇拝も超えた何かが心に降りてきた感覚だ。周囲のマナとは一線を画す虹色、玉虫色に輝くマナの集合体が浮かんでいる。
更に近付いていくと分かった。
周囲のマナ全てが秩序だっている様で、一枚の完璧な絵画を目の前にしている様だった。そうして輝くマナが、ゆっくりと同心円を描く様に回転している。
『警告、魔法の発動を確認』
ついつい目を奪われているとキュリヤから警告を受けたが、周囲のマナには特に気になる点もなく、ぼんやり相手を眺めていた。
『ミチオ、呆けている場合ではありません!』
「特に何もされていないだろ?」
『…………』
「へぁっ!? い、痛い!」
『ミチオに痛覚はありません』
「今のは何だよ?」
『魔法【魅了】の影響を受けていた様なので、ある種のパルスを送り解除を試みました』
「【魅了】?」
『肯定、純粋霊より発動されています』
「あの妙なマナの動きは魔法か!」
『肯定』
敵意は無いんじゃないのかよ!?




