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世界中あちこちに顔を出しては見聞を広めているつもりになって暫く経ったある日、ウニを所望する相棒に応える為にナラン王国南端ケントニス領の港街イマメアに再びやって来た。すっかりウニに魅了されたキュリヤは街へ着くや1人駆け出していった。市場通りへ行けば合流出来るだろうと俺はのんびり歩いていく事にしたのだが見覚えのあるマナを持った人間から声が掛かる。

「あれ? お兄さん、以前クラーケ騒動の時に収束を教えてくれましたよね?」

「おぅ、その節はどうも」

「お兄さんが来た次の日にはネーシアから高速船で連絡が来て無事に航行が再開されましたよ」

「それは良かった」

「なんでも凄腕の傭兵2人組がクラーケを簡単に討伐したんだとか」

「マ、ジか……」

「凄いですよね。なんでもミチオとキュリヤという名の男女2人組だったらしいですよ」

名乗った記憶は無かったが何気ない会話から分かったんだろうな。

「す、凄いな。で、その2人は?」

「クラーケを持ち去って、その後の行方は分かってないんですって」

「へ、へー、捜索されたり?」

「そこまでは分かりませんが北島(きたしま)西都(せいと)では記念碑が作られているらしいですよ」

記念碑か……。別にバレたらいけない隠し事ではないけど面倒事に巻き込まれたくはないのも事実。

「あれ? ミチオ・ササゲ? それって何かの識別章ですか?」

俺の人形の胸元を指差して男が尋ねた。……しまった! サーチャル遺跡で作った入場許可証代わりのタグを首からぶら下げたままだった。

「もしかしてお兄さん……?」

「ちょーっと話そうか?」

男と肩を組む格好で人の少ない場所を目指す。音声でのお喋りに違和感は出なくなっていたのに思わぬ伏兵(うっかり)でボロが出る。

「あんたはこの街の行政機関の人間か?」

「え、ええ、あの……」

「そういう立場の人間が一個人の情報をべらべら吹聴するのはいただけないよな?」

「そ、そうですね……」

「こっちは何も悪い事をした訳でもないし大事(おおごと)にしたくないだけなんだよ。分かる?」

「か……格好良いぃぃ! お兄さ、いえ、兄貴っ! 偉業を成しておきながら報酬も受け取らずに颯爽と立ち去るなんて!!」

「ちょ、落ち着け。声がデカいって」

「素晴らしい! 誰もが困り果てていたクラーケをたったお2人で倒してしまうなんて!」

「お前、マジで声が……」

まずい……周りの連中がこっちを気にし出している。

「兄貴は一見細い体つきなのに凄まじい力をお持ちなんですね。それとも魔法に精通してるんですか?」

「シー! 静かにしてくれ」

物理的に男の口を手で塞ぎ、更に人の少ない塔の側まで移動する。

「フガッ! 兄貴! もっと聞かせて下さいよ! あるんでしょ? 冒険譚や英雄譚みたいな……」

「良いか、小役人。俺は面倒事を避けて生きている。お前がガチャガチャ騒ぎ立てたらその面倒事に遭遇しちまうんだ」

「はっ、はい! あまりにも突然の事で我を忘れてしまいました……」

「ほんとに頼むよ」

「それで兄貴、次はこの街にも巨悪の影が?」

「違うっての! ただの観光だよ」

「そうですか……」

残念がるなよ! 問題無いのが1番だろうが。

「そう。連れが待ってるから俺は行くけど、くれぐれも他言無用だからな」

「はい! 大丈夫です!」

「……釘を刺す様で悪いが俺は自分を害するものなら人間でも容赦なく殺すし、クラーケを倒せる腕前だって事を忘れるなよ?」

「ゴクッ、肝に銘じておきます」

とんだ時間の無駄だった。急いでキュリヤを探して市場へと向かう。多少変な目で見る人もいる様だが問題にはなってはいないだろう。前にウニを買った店を目指して進むと店の前で男2人と話しているキュリヤ。こっちも余計な所から身元が割れたのかと多少焦ったがどうも様子が異なる。

「ウニいっぱい食べて良いからさぁ、遊びに行こうぜ?」

『否定、先にウニを要求。その後対応を検討』

「じゃあ、とりあえず1個買うからどっか行こうよ」

ナンパされとる……!

「済まんなキュリヤ、街の入り口で一悶着あってな」

『肯定、大体の事情は理解している』

「で、何個食ったんだ?」

『3個、誘惑と自制心が当機を葛藤させる』

「なんだ? 身内か? 後から来て俺等に挨拶も無しか? この娘の相手をしてやってたってのに」

『否定、一方的な接触だったと報告』

「兄貴か彼氏か知らんが世話してやってんだ礼儀を見せろよ?」

……穏便に穏便に穏便に穏便に穏便に穏便に……。

「なんとか言えや兄ちゃん!」

「これはどうも、悪かったね。だが、相手をしてくれなんて頼んでない筈だけど?」

「なんだ? スカしやがって!」

チンピラ風が俺の人形の外套のフードを後ろに引っ張って更に続ける。

「ご大層な兜まで被って、小心者が!」

穏便に穏便に穏便に穏便に穏便に穏便に穏便に穏便に穏便に穏便に…………。

「ふぅ、ふぅ、もう良いだろ?」

ウニを売っている店員も異変に気付き声を掛けてくる。

「おいおい、店先で喧嘩なんかすんなよ?」

『ウニに被害が出れば速やかに排除する』

ウニ中心のキュリヤはともかく、往来で刃傷沙汰は避けるべきなので言葉を選ぶ。

「助かったよ。ありがとう」

「そんな言葉で……」

「おい! 待て、こいつ変だぞ!?」

「何がだよ?」

「今、口を一切動かさないで喋ったんだよ!」

「何?」

「おい、お前、なんか言えよ!」

「……」

本当に面倒臭い。めざといチンピラは揚げ足取りの達人だな。どうしてやろうか考えているとチンピラ2人の服の裾をキュリヤがクンクンと引っ張る。

「なんだ?」

するとキュリヤは市場通りの一角に木箱やロープ等が置かれた空き地の様な場所へ駆けていって手招きする。

「なんだよ、やっぱり遊ぶ気になったか?」

「へへっ……」

チンピラ達の後ろから俺も向かうと……。

『ミチオ、【醒めない悪夢ロング・ストロング・ディストーション】を3分』

「オーケー」

魔法を発動するとピタッと身動きを止めるチンピラ2人、そそくさとその場を離れる俺達2人。


「お互い面倒事に遭ってるなんてな」

『否定、ミチオだけ』

「……結果的にはそうか」

船着場をぶらぶらしていると異質な動きをする人間に気が付いた。他の人とは違い頭部のブレが極端に少なく……って、サイだった。俺が生まれ落ちた森にある社を巡礼する為に来ていた者達の護衛として同行していた元地球人で武術家。

「おーい」

軽く手を上げて声を掛ける。

「こんな場所で神さんに会うとは……」

「そっちは何か目的でも?」

「ああ、なんでも巨大な水棲型の魔物が居座って船の運航を妨げてるって話でな」

「……終わってる」

「……」

「もう1週間位前に終わった情報だぞ、それ」

「情報の伝達速度が遅過ぎだろ!」

「ま、日本とは違うだろ、ハハッ。ここは観光するにも良い所だぞ。カニとウニが食える」

「カニにウニ……悪くない、な」

「そうだろ? 市場を歩くだけでも面白いぞ」

「で、件の魔物はあんたが?」

「まぁね」

「そんな事だと思った……」

「ボーツの連中は変わりないか?」

「そうだな。ティキは王都へ向かったがそれ以外は特に変わりないな」

「そうか。ティキは教会に入る事が出来そうなのか?」

「ヤシンが言うには恐らく大丈夫との事だ」

「何よりだな」

「1つあんたの耳に入れておきたい話があるんだ。不確かな情報ながらここの領主が元地球人かもしれないって事は?」

「知らんな。マジか?」

「だから不確かだって」

「噂レベルって事ね。信憑性は?」

「意外と高い気がする」

「へぇ〜、でも領主様ともなればおいそれと会えるもんでもなさそうだな」

「……神様がそれ言うか?」

「ハハッ、確かに。あ、それと俺今ただの旅の傭兵だからな。余計な事周りに言わんでくれよ?」

「ふっ、誰もこんな所で神が海を眺めてるなんて思わんだろう」

「そりゃそうだ」

「あんたも元気そうで何よりだ」

『肯定、ウニを食べると世界から争いが無くなると提案』

「ハハッ、コイツすっかりウニにハマってさ」

「そうか、通風になるなよ? いや、心配無用だな」

「あぁ、なんなら殻まで食ったって腹も壊さんよ」

「ふっ、頼もしい限りだ」

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