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クラーケという巨大な蛸の魔物を仕留めた俺は南にある漁村で大魚を釣ってきた漁師にお前よりデカい獲物を捕らえたぞ! と、心の中で妙な対抗心を抱きながら郊外で釣果の大半を食らいながらキュリヤの感想を聞いていた。

超越種(ダブルエックス)には劣りつつも有用な素材と報告』

「そうかい、俺もまだ存在値(ダーザインレベル)が上がるとは思わなかったよ」

特大蛸(クラーケ)の肉は魚介類に目がなかった俺にしてみれば味も知りたかった部分とそれはちょっとという感覚がせめぎ合いを見せていた。そして256オーバーで不明となっている俺の存在値(ダーザインレベル)が上昇した事に驚きもあった。数字では分からないが明らかにレベルアップ時の酩酊感を感じていた。

『肯定、ミチオは既に当機の測定範囲を超えた部分がある』

「そうみたいだな。でもそれは創造神(あの女神)に与えられた範疇だろ? お前も一緒に(ことわり)の壁を越えようぜ? ハハッ」

『肯定、ただし方法は不明』

「意欲はあるってか? 流石は俺の相棒だ」

ネーシアという地名(仮)にある北の島の西にある大きな街から海沿いに北へ歩きながら次の目的地を考える。このまま北へ海を越えるとナラン王国南端のケントニス領という土地だ。時刻は昼過ぎ、漁業を営む割と大きな規模の街では早くも酒宴を行う集団に目がいく。早寝早起きの漁師達だろうか? 男達が騒々しく酒場で次から次へと酒の入っているであろう器を空にしていく。

「ふぅ、膨満感は無いんだけどあの大きさの蛸をほぼ食ったと思うと満足感は半端ないな」

『否定、今のミチオに……』

「だー、もう、知ってる分かってる感じてる! マジツッコミか茶化してんのか知らんが気分の話だからね?」

『肯定、並びに了承』

「オーケー、ちゃんキュリも気に入ってる魚介類グルメツアーに出発だ」

俺の人形とキュリヤが並び立ちケントニス領の海沿いの街を目指して歩き出した。


一方でネーシア諸島の北島(きたしま)にある西都(せいと)のクラーケ対策局は安堵と混乱がない交ぜの不思議な空気に包まれていた。ふらりと現れた傭兵と思しき2人組がゲル退治にでも行く様な気軽さでもって街、ひいては国を脅かす魔物を倒してしまったのだ。

「あの方達は一体なんだったんでしょうね……」

「クラーケが海上に浮いてきた時はビビったぞ!」

「な? どんな規模の魔法だよ!?」

「あの力があれば……」

「あのバケモンを倒した証を何か残した方が良かったんじゃねーか?」

「名前も聞いてなかったんだろ?」

「あ、それでしたら男性の方はミチオ、女性の方はキュリヤと呼ばれてましたね」

「ミチオとキュリヤ、ネーシアの(もん)じゃねぇんだろ?」

「確か、北から来たとか……」

「王国か? 船も出てないのに?」

「他の島を経由したとか?」

「そうです。どの島までかは分かりませんけど……」

「最後、俺らがしつこくついてくもんだから怒らせちまったんだけど、あの細い見た目に反して凄い圧を感じたな」

「そういえば報酬をお渡ししてませんよね?」

「ねえ、あんた、一緒に行ったんだろ? 他にはなんかないのかい?」

「自分が痴態を晒したって事しか覚えてませんね……。あとはク、クラーケを食べる様な事を言ってたかも?」

「あいつ等も化け物なのか? クラーケを食うなんてよ」

「救国の英雄に失礼でしょ」

「証拠もないんだしいいだろ」

「だな、最後言ってたぞ慈善でも正義でもねぇって」

「しかし、正式な礼をしなくては西都(せいと)の行政には不義理を感じるな」

「討伐報酬の確認はしていたんですけど……ほんと私が悪いんです……」

「悪いったって、遠巻きに見てたあたし等が感じた恐怖を目の前で見てたんだろ? 無理もないさ」

「私がもたもたしてる間に去ってしまったから……」

「あんま自分を責めんなよ。あんなもん見せられてまともじゃいれんて」

「せめてもの……って訳でもないが、クラーケ討伐の記念碑を作って名前だけは刻ませてもらおう」

「だな、賛成だ」

「良いんじゃないかい?」

約1ヶ月後に役場の前にある小さな広場に岩を削り出した簡素な石碑が置かれる事になる。海を荒らした巨大な魔物を倒した2名の英雄としてミチオとキュリヤの名前も彫り込まれるのだった。


「群島の漁村より大っきい街だなぁ。漁業だけで生計をって感じじゃなさそうだ」

『肯定』

街の中心を流れる川が東西に居住地を分け海へと注ぐ。その川沿いに街が発展してきた事が分かる。陸側の外周には物見櫓の役割であろうか、石造りの大きな塔が広く間隔を開け5つ建っている。俺達は1番西にある塔の付近から街へと入るつもりでいたのだが……。

「ネーシア北島(きたしま)行きの船は出てませーん! 現在、ネーシア北島(きたしま)へは行けませーん!」

1人の男性が声を張り上げていた。

「すんません、それってクラーケ絡みの?」

「そうですそうです。只今ネーシア諸島北島(きたしま)への航路は封鎖中ですよ」

「たぶん間も無く再開されると思うから正式な通達を待つと良いよ」

「そうなんですか!?」

「それで悪いんだけど、この街の名前を聞いても?」

「へ? あ、ああ、コホン……ようこそ港湾都市イマメアへ!」

「イマメアか……ありがとう。あとは名物名産も良いかい?」

「ご覧の通り海沿いなんで海産物は豊富ですね。特にカニは食べてもらいたい名物です」

「カニかぁ、分かった。ありがとう」

「楽しんで行って下さいね」

まずは海沿いの道を進んでいく事にする。街には東西2箇所に港があり、西側に当たる付近を歩いていくと活気に溢れる市場通りの様な場所に辿り着いた。群島で寄った漁村の屋台通りとはまるで規模が違う。まず人の数が桁違いに多い。地元の人だけではなく観光客もいるのだろうか?

「やあお兄さん達、カニは食べたのかい?」

恰幅の良い女性が店先から声を掛けてきた。早速カニを薦められてキュリヤが……。

『否定、手軽な物を1つ』

「はいよ」

そう言って差し出された物と代金を受け渡したキュリヤは迷いもせずに口に入れる。

「何それ? 美味いか?」

『肯定、美味。カニの身をほぐして魚肉のすり身と合わせて加熱した物と断定』

「蒲鉾? カニ入りの」

「よく分かったねぇ。口に合った様で良かったよ」

その後もキュリヤの食べ歩きは続き、気になった物を次々と口に運ぶ姿を微笑ましく思っていた。

「これは……ウニか?」

大きなタライを水槽代わりにした様な物の中にイガイガの生物が生きたまま入れられていた。

「いらっしゃい! ウニならこの場で割るよ」

『1つ』

「ほいきた!」

手早く真っ二つに割られたウニを受け取るキュリヤに先の細いスプーン状の物を手渡す男性。

「これで食うんだよ」

『感謝』

一口噛んだ瞬間……。

『美味っ! 食物の頂点!』

「おお、おう、そうかい! そうだろう!」

『これより当機はウニのみを捕食して……』

「極端だな! そんなにハマったか」

『肯定、自ら養殖も視野に……』

「俺は手伝わないからな!」

『否定、ミチオが中心となって行うべき』

「やだよ! てか、無理だろ!」

「ハッハッハッハッ! そんなに美味かったか! 剥き身をまとめたのもあるぞ」

『購入希望』

おいおいウニはそんなに安くないと思うんだが。

『店にある物を全部要求!』

「ぶっ! 馬鹿! 無理無理! そんな無駄遣いしたら駄目だ! おっちゃん、1つで良いからね?」

「はははは……りょーかい!」

木製の小さなボウルを受け取り代金を支払うキュリヤは鼻息荒く続ける。

『当機の存在意義はウニを食す事にあった模様』

「俺のサポートじゃねぇのか!?」

『たった今それは2番目に降格した』

「ウニに負けた……」

『肯定、何に代えてでもウニを優先すべき』


その後ウニにどハマりしたキュリヤが「ウニみたい」という理由でモーニングスターを振り回す事になるのはまた別の話。

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