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漁村でささやかな宴に参加した俺達は気持ちの良い漁師達と打ち解けていた。

「兄ちゃんも食ってくれ!」

と、釣ってきた本人に誘われたのでご相伴に預かり人形の口に入れた刺身を吸収しておいたが味は残念ながら分からなかった。

「ネーシアの(もん)じゃなさそうだし、こんな所に旅行でもないんだろ?」

露店で焼き物を出していた男に問われる。

「まぁね」

「見た所傭兵か? なら北島(きたしま)西都(せいと)の件で来たってとこか?」

「そ、そんな感じだな」

……何の話か分かんないのに乗っかっちゃったよ。

「じゃあ、もう解決したって事か?」

「いや、俺達はちょっとな……」

「なんだ、2人で抜け出してしっぽりか? ダハハ!」

北にある島の西にある都で何かが起こっている事は予想出来るので探りを入れる。この際屋台のおっさんの相手は後回しだ。……確かにここより北の島の西部にこの辺りの群島では最大規模の街があった。今こそ【超個体(スーパーオーガニズム)】の本領発揮だと言わんばかりに目には見えないマナ状態の小さな分体を街中に多数放って情報収集を行う。……ふむ、なるほど。クラーケという名の巨大な蛸型の魔物が沖合に居座り船の航行が出来ないとの事。ありがちなイベントか? とも思ったが何故か"クラーケン"ではなくダイオウイカタイプでもないらしい。大型船に乗り込んだ傭兵達が討伐に出たが2/3が船と一緒に海に消え、沿岸の高台にずらりと並べた魔法を用いた大砲の一斉掃射でも効果がなかった。水棲魔物を使役した者に頼もうにも4人しかおらず、そんな人数でどうこう出来るものでもない。大量の毒を海に流そうという過激な意見も出ているらしいが、それはまだ実行されていないとの事。

『ミチオ、手を貸す?』

刺身を満喫したキュリヤが声を上げずに聞くのだが……。

「んー、どうしような?」

あまり目立つ行動はしたくない。かといって困っているのを知ったのなら助けてあげたい気持ちもある。こっそり排除してしまおうか?

『見て見ぬ振り?』

「嫌な聞き方だな……ひとまず現地へ行くぞ」

『了承』


「すっかりご馳走になったな。美味かった」

大魚を釣ってきた男に声を掛ける。

「いやいや、まぐれまぐれ!」

『美味だった』

キュリヤも軽い挨拶を済ませ、露店のおっさんにも一声掛けてから漁村を後にして人目に付かない場所で姿を消した。偵察で街に放っていた分体も消して件の街の郊外に実体化した人形とキュリヤが現れる。

「大体の事情は分かったんだけど街の人から詳しい話を聞いてみよう」

『肯定、看板が沢山並んでいる』

「看板? あぁ、矢印の書かれた立札みたいのがあるな」

『肯定、「クラーケ対策局 意見をお持ちの方はお気軽に」と、書かれている』

「よっぽど切羽詰まってんだな。あちこち立札だらけだ」

キュリヤと共にクラーケ対策局なる場所へとやってきた。役場か行政施設の一角といった所か、大勢の人間がひしめき合っていて騒々しい。人波を避けながら受付へ向かうと女性が対応してくれる。

「ネーシアの方ではないですね? 傭兵ですか?」

「北から……別の島経由でな。噂を聞いて来てみたんだが……」

どうやらこの辺の群島がネーシアという国か地方の名前なのだろう。

「そうですか。ご覧の通りで現在有効な手立てが無い状況でして、何か知恵をお借り出来ますか?」

「まず確認なんだけどクラーケは討伐しても良い魔物なのか?」

「え、ええ勿論。出来るものならやっています」

少し小馬鹿にするニュアンスを含んで答えた受付嬢に更に質問する。

「倒したとして、その素材や付随する拾得物なんかがあった場合の所有権は?」

「倒した方にあります」

「討伐に際して禁止事項は?」

「有毒物質を海に入れる方法は今の所禁止です」

「討伐報酬はどうなってるの?」

「国益を損なう程に影響が出ている為、金額的なものはちょっと……。名誉とか栄誉とかそちらの方面で手厚くしようという方針でして……」

「分かった。最後に、討伐の報告には必ずここへ戻ってくる必要はあるか?」

「……質問の意図が分かりかねます」

「例えばさ、海から引き摺り上げて絶命する瞬間を多数の人間が見ていたり、お姉さんを連れていってクラーケの絶命を確認してもらったりとか」

「……、…………。んー、だい、じょぶ? ですか、ね?」

「キュリヤは聞いときたい事はあるか?」

『否定』

「オーケー、なら早いのが良いよね? お姉さん?」

「え、ええ、緊急性の高い事案ですから……」

「じゃあ、ちょっと付き合ってよ」

ちょいちょいと手招きすると首を傾げながら訝しげに受付から席を立つ。

「それじゃ、ついて来てね」

と、言って建物から出ると一直線に海辺まで向かう。クラーケは既にその所在を確認していて今も捕捉済みだ。

「さて、多分今から自分の目を疑う様な光景が広がると思うんで気を確かにね。頼むよ?」

「あのう……何をされるんですか?」

「良い質問だ。クラーケを海上に持ち上げて倒す所を見てもらう」

「なっ、はは、冷やかしの類いはもう沢山なんです! 本当に私達は困り果ててるんですからっ!」

「信じないよね? だから5分だけで良いからここで見ててよ」

「はっ! その5分ですら貴重だというのに……」

「じゃあ、ちょっくら……」

『ミチオだけ狡い』

「ず、狡いってお前、今回は殲滅魔法みたいのは駄目なんだぞ? それに、アレ、食ってみたいだろ?」

『……渋々了承』

「んじゃ、やるぞ」

水魔法でクラーケの周囲に上へ向けて強い水流を起こす。巨獣(ベヒモス)を軽く凌ぐ巨体は50mを超えそうだ。足を伸ばして端から端まで測れば100mを超えるかもしれない。逃れようとなんとか下へ向こうとする巨体をも水魔法でコントロールしながら水面までどんどん押し上げていく。やがて沖合数百mの場所に小島の様に浮かんだクラーケの一部に受付嬢が恐怖する。

「ひ、ひぃぃゃ! ぃ、嫌ぁぁっ!!」

「大丈夫だから、ちゃんと見ててよ?」

重力魔法を使い海上へとその全容を引き揚げると多少の動きはあるものの水中でなければあの巨体は制御出来ない様子のクラーケを陸に向けて移動させる。

「な、なた、貴方があれをうごご、くか、動かしてるんですかっ!?」

「あぁ、それで、どうしたら討伐を確認してくれるだろうか? 一瞬で消えても信用出来ないよね?」

「い、いやいやいやいやいやいやいやいやっ! え!? いや、えっ!?」

「頼む! 落ち着いて、簡潔に答えてくれ」

答えを待たずにとりあえず命を奪う。生命体である以上心臓が止まれば……無くなれば死ぬだろう。あとは巨体の癖に随分慎ましい脳も吸収してしまう。多少抵抗する様に動いていたクラーケの腕? 脚? が、だらりとして微動だにしなくなる。遠くから聞こえてきていた悲鳴だったがクラーケが陸に近付くにつれてどんどん大きくなる。船着場からその巨体に触れられそうな距離まで運んだクラーケの死骸を受付嬢に確認してもらいたいのだが、腰を抜かしガタガタ震えて話す言葉も要領を得ない状態になっていた。

「なぁ、頼むよ正気に戻ってくれよ」

やがて船着場に浮かぶクラーケが全く動かなくなったのを遠巻きに見ていた住民達が恐る恐る近付いてくる。

「死んでんのか?」

「もう大丈夫だぞ。既に死んでる」

「デ、デカいなぁ!」

最初に近寄ってきた男がクラーケの死骸をまじまじと眺めていると次々に押し寄せてくる住民達の間には悲鳴から一転して歓喜の雄叫びが轟き始めた。

「ウオォォーッ!! やっと悪夢が終わったんだ!」

ギャーギャー喧しく響く声は悲鳴と大差無いと思っていると受付嬢も我に帰る。

「あ、あう、本当に倒してしまったんですか?」

「そう言ってるんだけどさ」

「あ、れを?」

「そう、アレを」

「ど、どうやって?」

「その説明は必要なのか? 俺は討伐の確認を頼んでいるんだけどな」

「あ゙あ゙ん、そうですね…………」

クラーケを見つめて逡巡する受付嬢にキュリヤが業を煮やす。

『速やかに結論を要求』

「……た、確かにもう動きませんね」

『肯定、既に絶命』

「……本当ですよね?」

「だー、アンタもめんどくさいな! じゃあ、このまま持って行くから、それで良いだろ!? 行くぞキュリヤ!」

『了承』

船着場から海沿いに続いている坂道を歩き、宙に浮かべたクラーケも追随させる。呆然としてどこか現実感の無い受付嬢を尻目にこの街の住民達数人が野次馬根性丸出しで駆け寄ってくる。

「あんたが倒したのか?」

「スゲーなこれ、あんちゃんがやったのか!?」

適当に捌きながら進むとやがて護岸されていた場所から離れる。まだ4〜5人の連中が後ろをついてきているのに辟易しながら声を上げる。

「俺達は慈善活動をしてる訳でも正義の味方でもない。自分達の利益になると思ってコイツを倒しただけだ。英雄を担ぎ上げたいんならお門違いだからな。分かったら街に戻れ! 邪魔だ!!」

こんな化け物を倒した奴を怒らせてはまずいと気圧されたのか、街に戻りはしないがそれ以上付きまとう事をやめた住人達はばつが悪そうにその場に佇むだけだった。

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