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遺跡迷宮に潜ってから1日半、記録に残っている歴代攻略者の最速タイムは約3日だと言うから相当に速い攻略スピードで終わりが見えてきた。しかし、クリア特典として創造神との謁見てのがあるので迷いが生じている。道には一切迷っていないのに不思議だ。
「さて、ちゃんキュリ、攻略しちゃうと面倒だと思うんよ?」
『肯定、創造神ミルユーとの謁見は回避するべき』
「だな。それじゃあ切り上げるタイミングはどうする?」
『もう充分満喫した』
「そうか、お前も大量虐殺でウハウハだったな。結果的にヤベェ魔物はいなかったがな」
『否定、先程の蜥蜴王は人間には少々重荷』
「そうなの? デカいトカゲが?」
『尾の一振りで数人を巻き込み絶命させる威力』
「まさかぁ……。いや、あり得るか? ワニよりデカい巨体に人の身で挑むと考えるとやっぱ怖ぇな」
『肯定』
そんなこんなで受付を経由せずに出てきてしまった。俺達2人は行方不明になるのかな? それとも死亡扱いだろうか? 変に捜索対象とかにされるのは勘弁だが……。
「それにしても業の深い土地だったな。良くも悪くも国家ぐるみで遺跡迷宮を食い物にしているとはつくづく人間ってのはさぁ……」
『そんなものになりたいミチオも大概』
「うぐ、違うだろ? まともな人間もいるだろうよ」
『肯定』
「じゃあ、次はどうする? どっか行くべき場所は?」
『否定、ミチオにお任せ』
「なんだそれ? 日曜お昼か?」
『否定、並びに意味不明』
「ハハッ、なんでもないよ。どうしよっかなぁ」
飛んできたのは深夜の荒野? 砂漠? そんな所に2人っきり……ではなかった。
「折角キュリヤと2人でロマンチックに語り合おうと思ってたのにな」
『否定、そんな雰囲気は皆無』
「そうか? ……来るぞ!」
『肯定、迎撃に入る』
ゴゴゴゴ……! 地面から大きな振動を立てて接近してくる魔物、体長7〜8mのミミズ?
『蠕虫だと報告』
「そのまんまな」
音と振動は凄いが遅い……。これでは生きている動物を捕食出来る気がしないぞ? 普段は死骸なんかを食っているんじゃないだろうか? 接近してくる魔物をのんびり分析しながら大きく飛び上がったキュリヤの様子も見る。
「おい、馬鹿っ!!」
瞬時に人形を消してしまうと次の瞬間、音も無くキュリヤから放たれた光弾は地面を抉りながら何度も爆発を繰り返す。ヴムッ! バゥッ! ドボッ! ゴゥンッ! 見る見るうちに深い窪地を作った。
「おま、お前、俺も巻き込むつもりか!?」
『否定、ミチオに当たる訳が無い』
「いや、結構ギリだったぞ……」
『否定、結果的に回避している』
「そうだけども!」
蠕虫は体の8割方が消し飛んでいたが、残りの2割がまだウニウニ動いている。
「キモっ! なんつぅ生命力だよ」
『追撃に移行』
言うや否や追加の光弾を発射すると魔物の姿は消え去った。ボッコリと凹んでクレーター状になった地面を見つめる。このまま放置して良いものだろうか、この辺は砂漠の様だから風がいずれ消してしまうよね? 念の為に目立たなくなるまで土魔法で誤魔化しておく。
「さて、仕切り直してこれからの事を考えよう」
『否定、ロマンチックに語り合う予定』
「ハハッ、そうだな。ロマンチックに2人の将来を語り合おうか」
……とは言ったものの基本的に全世界生中継をザッピングしながら気になる物事を探すだけだ。ここら辺から東南東方向に進むと広場で1人の人間を拷問して喜ぶ連中の街があったよな。物騒な軸を避けて明るい時間帯の方へ視点を変えていく。
ナラン王国南方の海に浮かぶ島、群島に街を発見。街というより町という規模だろうか? それとも漁村? とにかく今まさに魚の水揚げをしているボートが数隻木製の桟橋に停泊している。沖にも陸を目指して航行中のものが浮かんでいるのだが櫂やオールで漕いでいる様子はなく船体後部でマナが流動している箇所があり魔法的なファンタジー機関が動力の様だ。そして、その内の1隻が引っ張っている大物が圧倒的存在感を放っていた。興味の出た俺はキュリヤと共に見に行く事にする。
「嗅覚は無いから磯の香りや生臭さは感じないな」
『否定、臭い』
「ハハッ、イーヴルゲルとどっちが臭い?」
『言わずもがな初期のミチオ』
「おい! 個人名で答えるなよ!」
『良い香りも感知、左前方約200m』
「行ってみるか」
キュリヤと並び歩き海沿いの道を進むと獲れたての魚介類を並べる露店が何軒か並んでいた。地球に居た頃は貝が好きだったなぁと思いながら更に進むと火の着いた炭の上に網を乗せた焼き台を備えた店、この場で焼いてくれる様だ。
「よお! この辺の者じゃねぇな? なんか食べないか?」
中から火バサミ状の物を手に持つ男に声を掛けられた。
『肯定、オススメを1つ』
「あいよ。ちょっと待ってな」
そう言うと男はホタテの様な二枚貝を網に乗せた。焼けるのを待ちながら先程の大物を引っ張るボートの様子を見ると順調に陸へと向かっている。マグロか? とにかくデカい。露店に並ぶ物、魚は生も干物も加工品みたいな物もある。あとは今焼いてもらっている貝の他に巻貝もあるがイカやタコは無いみたいだな。網の上でパクッと口を開けた貝に男が液体調味料を一垂らしする。まさか醤油か?
『魚醤に分類されると断定』
「お前そんな事まで分かるのね……」
程なくして男がキュリヤに革手袋の様な物を渡す。
「お待たせ! 熱いからな。これ着けて持て」
恐らく素手でも問題無いが素直に左手に手袋をはめ貝を受け取ると、更にフォークも渡してもらってキュリヤは器用にフーフーと息を吹き冷ます様な仕草まで見せる。
「美味いか?」
『肯定、海に感謝』
「良い事言うな! お嬢ちゃん」
露店の男に手袋とフォークを返してその腕前も褒める。
『焼き加減が絶妙』
「嬉しいねぇ。どれ、これ持ってけ」
男に差し出された物を受け取るキュリヤを見ながら気付く。この辺のお金持ってないぞ……。
『問題無い。ナラン王国の通貨が使用可能』
「そうですか……」
支払いも済ませ桟橋の方へ向かう。キュリヤは横で露店の男に貰った物を齧っている。
「それ何?」
『不明、魚卵を乾燥させた物だと断定』
「不明な物をよく口に入れられるな?」
『食用可能。毒物や細菌その他有害物質は検知されない』
「カラスミみたいなもんか? 美味いのか?」
『肯定、美味』
「なら良いか」
潮風を感じる……事はなく、のんびりしていると例の大物がいよいよ水揚げの時を迎える。どうするのかと眺めていたが……。
「おおーい! 良いぞー!!」
獲物の尾にロープを括り付けてボート上の男が叫ぶ。ロープの先端には直径長さ共に30cm程の円柱状の物が付いている。
「行くぞー!」
陸側に居た男が横に立つ鉄柱? に手を当てながら応える様に大声を出し、続けて呪文を唱える。
「【重力】」
するとロープの先の円柱が浮かび上がり陸にいる男の側に立つ鉄柱へと魚を持ち上げながら進んでいく。やがて頭を下へ向けて宙吊りにされた魚体に周囲から歓声に似た声が続々と上がる。
「デッケェーなぁ!」
「やったな!」
「今日はお前の奢りな!」
俺はそんな事よりボートの動力や魚の引き揚げに魔法が使われている事に感動した。どうしても魔法と言えば戦闘の為に用いる技術だと無意識に感じていた。こんなにも生活に密着した使い方があったんだな。人の世を見て改めて異世界なんだと実感する事にもなった。
「運が良いな兄ちゃん達!」
先程の貝を焼いていた露店の男が背後から声を掛ける。この辺りでも滅多に見られない大物って事だろうか?
「大物が揚がったら振る舞いがあんだよ」
「振る舞い?」
「おうよ、ま、お裾分けだ」
そうか、近くにいる連中に少しずつ振る舞われるのか。魔法で魚を引き揚げた男は何事か書き込んだ紙を獲物を持ち帰った男に渡していた。計測結果か何かだろう。するとガラガラと音を立てて大きな台の様な物が運び込まれると、あれよあれよと捌かれていく大魚。ある程度の大きさに切り分けられた物は木箱に入れられて露店が並ぶ方向へと次々に運ばれていく。やがて大きな台の上には大皿に乗せられたぶつ切りの刺身だけが残った。
「みんなー、振る舞いだ! 食ってってくれー!!」
「「おぉぉーっ!」」
言っても小さな漁村、集まっているのは20人程だ。それでも辺りは豪快な漁師達の賑やかな雰囲気に包まれる。
「キュリヤ、食うんだろ? 行っといで」
『肯定』
皆んな手掴みで刺身を摘んで口に運んでいる。商品価値としてはやや劣ると予想する尾に近い部位だけど食った連中は口々に美味い美味いと繰り返す。良いな、こういうの。ゴツい男達に混ざって刺身を堪能しているキュリヤも『美味』と鼻息荒く答えながら次の手を伸ばしていた。




