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【身体操作(人間)】

大きな問題も無く人間達の巡礼の旅は続いた。キークスの社でも管理者権限を巫女へと譲渡した。名前は確かヒィだったな。ニオの社へはゴーレムもどきのシロをキークスの社へはブチをそれぞれ配置する事になった。滞りなく俺の役目は完了したので一足先にフレールの社へと戻ってきた。

「よぉ、ブラガ。その後どうだ?」

ゲルを転がして近付いていく。

「おかえりなさいませマイスター。ん見て下さいっ!」

両前腕、胸部、脛から足にかけて双龍(ダブルドラゴン)の鱗が融合されている。ん? 装甲だけじゃなくて手首から肘、肩。足首から膝、股関節等の可働部にも繋がっている?

「流石はマイスター、視認出来る部分以外にも気付かれましたな」

「素材としては最高の筈だけど実際どうだい?」

「素晴らしいですな! 軽量かつ高硬度、マナとの親和性も非常に良く、正にゴーレムの素材としては最上級ですぞ!」

ここから更に馴染んでいく筈だと興奮気味に熱弁するブラガに俺も満足する。明後日には巡礼者達がここへ戻ると伝えてから俺の意識は別の場所に……。


サーチャル遺跡の近くに人型の人形を置いて操作する。格好は今まで見た傭兵達に準ずる一般的な戦闘職で目元まで隠れる兜の上から更に外套のフードを目深に被っている。まだまだ目の周りが不自然だからだ。そしてキュリヤも実体化している。こちらも一般的な傭兵の様に見える装備に外套。周囲に無駄な不信感は与えない程度には馴染んでいる。意外に思ったのは商店や宿屋もあるという事だ。ただ、全てがオンボロで雨風さえ凌げれば良いというレベルなので食料を買う以外にここで寝泊まりしたいとは思えない。そんなこんなで遺跡の入口をくぐるとエントランスの様な広いフロア、右手奥には例の干物が横たわるベッドが置いてある。人の声は翻訳されるが書かれている文字は読めない事に今更気付く。

「なんて書いてあるんだ?」

『迷宮踏破者ゴ・ゴ』

「そんだけ?」

『その下の小さな文字は……踏破日時、一緒に踏破したメンバー、それぞれの装備、討伐した魔物等々』

「そうか、そんで? 勝手に入る訳にはいかないよな?」

入ってきて正面にカウンター状に長い卓があり3人の人間が座っている場所がある。カウンターの左右には奥へ続く廊下があり、奥の部屋には地下へと進む階段がある。

『受付で聞くのが早い』

「だいぶ話せる様にはなったと思うけど会話はキュリヤに頼んでも良いか?」

『肯定、即行動』

「なんだ? お前も楽しみなんだな」

受付で聞いた話を要約すると遺跡の迷宮内で起こる全ての不利益は自己責任。物を失くしたり、怪我や死亡する事まで一切の責任は遺跡側には無い。探索者(エクスプローラー)同士の協力や連携は自由、ただし妨害行為は御法度との事だが監視体制もなければ強制力も無いので遺跡側からのお願い程度だと受け取れる。迷宮内で手に入れた物の所有権は原則として手に入れた人物にあるが遺跡の一部でもあるという解釈から寄贈してくれるならやぶさかでは無いとの事。これもお願いの範疇だな。入場に資格や制限は無し、氏名を記入してお布施という名の入場料を支払えば入場券代わりの物が発行されて中では基本的に自由。キュリヤが早速記名している。入る気満々だ。俺はこの世界の字が書けないし料金はどうするんだ? 金はナラン王国の物しか持っていないけど?

『ミチオの名前も連名で記入済み。左手にあるカウンターで両替や換金が可能』

「あっちのカウンターはそういう類いのものだったのね」

早速来てみると……。魔物の素材はほぼ二束三文で買い叩かれる感じじゃないか? 希少でもない物はこんなものなのだろうか。とりあえず2人分の入場料に足る金額を捻出する為に受付と相談して適当な素材の買取りを依頼する。キュリヤが背負った小さめの背嚢から出した振りをしながらだ。

「お待たせしました」

低い声で受付の男性が出してきたのは紙幣でも硬貨でもなく2つの紐付きの札?

「こちらを入場受付で登録して下さい」

なるほど、一度現金化して受付を変えて入場券を購入という手間を省いているのだろう。ただし、差額がある様な気がしていたがお釣りが出てくる気配は無い。手数料だと割り切るが、どこが清貧思想の国だよ……。


先程の入場受付へと戻ると札を差し出す。受付の男性が眼鏡を掛けると小さなタガネとハンマーを取り出して彫金の様にコンコンとタグに何やら刻んでいく。多分名前を彫って個人を特定出来る様にしているのだろう。数分で2人分のドッグタグが返却されて晴れて迷宮の入場資格を手に入れる事が出来た。

『ミチオ、早く』

せっついてくるキュリヤの肩に手を置き声に出さずに伝える。

「直接見ないで確認してくれ。換金カウンターから入口側の壁の方にいる5人組」

『……』

「迷宮の中までついて来るなら要警戒な」

『了承』

「よし、じゃあ行ってみるか」

声に出して元気に宣言した。


階段を降りて最初のフロア、創造神(ポンコツ女神)が創ったのか人間に造らせたのかは定かではないが地面は石畳が敷かれ壁も所々補強されているのか? 幅7〜8m、高さは3〜4m程、長く伸びる廊下の壁には等間隔に灯りが取り付けられている。熱は感知していないので火ではなく光の魔法的アイテムなのだろう。周囲には意外な程人間が居る。単独で入ってきている者は流石に確認出来ないが概ね3〜5人のパーティか……。

「あんたら2人か?」

1人の男性が声を掛けてきた。

『肯定』

「迷宮は初めてだな?」

『肯定』

「じゃあ、これ買わないか? 浅い階層限定だが地図だぞ」

『否定、不要』

「迷宮は最初からかなり広い上に入り組んでるからきっと役に立つと思うんだがな」

『否定、不要』

「随分自信があるみたいだが精々吠え面……」

男の言葉が終わる前にキュリヤは奥へと歩き出した。するとまた別の男性から声が掛かる。

「よお、姉さん迷宮は初めてだろ?」

『肯定』

「この辺りは灯りが点いてるが奥の方には灯りが無い場所もあるんだ。こいつは携帯出来る灯りなんだが買っていった方が良いと思うぞ?」

『否定、不要』

「灯りの準備はあるのか?」

『肯定』

言うのと同時にビカッと光った。

「ぐわっ! 目が! 目がぁぁっ!!」

叫ぶ男に「様式美かよ!?」と、心の中でツッコミながらキュリヤの後を追う。降りてきてすぐに居る大勢の人間の半分は探索者(エクスプローラー)相手に商売をしている連中の様だな。どんどん進むと人も疎らになり道も分岐してきた頃。

「やっぱり来てるな」

『肯定、速やかに排除……』

「待て待て! 相手の真意も知らずに先制攻撃は駄目だぞ? ふむ、丁度良い」

分岐の先が小さな部屋で行き止まりになっている方へ入っていく。

「……」

『……』

あら? 分岐点で立ち止まってそれ以上追跡してこない? 撒くならそれでも良いんだけど、ここの奥の部屋に何かあるのか? 魔物の気配は無いし殺風景な小部屋でしかない様だが……。程なく着いた部屋でキュリヤと相談だ。

「人目を避けられれば一気に最深部へ行っても良いかと思ってたんだけど、キュリヤは探索を楽しみたいんだろうな」

『肯定、(ずる)は駄目。迷わず進めるだけでも不正に近い』

「そうか、じゃあのんびり攻略していくか」

普段の効率化の鬼っぷりは何処へ行ったのかと指摘する間も無く追跡者(ストーカー)の1人が駆けてくる。俺達の居る部屋に入ってきたかと思ったら石畳の1箇所を踏むと踵を返し走り去った。


ジャリジャリジャリジャリ……ズズン!


部屋の入口を塞ぐ様に石壁が降りてきた。密室トラップ? それが分かっていて追跡を止めていたのか? これは死ぬまで閉じ込めておくものなのか? 魔物でもで……湧いて来たな。

「キュリヤ大丈夫だな?」

『肯定』

どんな原理だよ! 何も無い天井からボトボトと落ちてくる魔物。ゲルである。観察してみるが弱い種類の様だ。入口を塞ぐ壁のすぐ向こうには追跡者(ストーカー)諸君が集まっている。思惑通りにはいかないけどな。キュリヤは一気に駆け出すと問答無用に近くの個体から次から次へと腕を突っ込み核を握り潰していく。どんどん敵の数が増えてくるのだがキュリヤは止まらない。腕だけでなく足も使いピンポイントに核を砕いていく。人間形態から逸脱しないで戦っているので全然問題無いのだろう。俺の出番が無い。一応数えていたのだが丁度100匹で打ち止めとなった。掃討後すぐに入口を塞いでいた壁がせり上がっていくと……。

「なんっ、早過ぎるだろ!」

「嘘だろ!?」

驚愕の追跡者(ストーカー)達に問う。

「なんか用か?」

「ぃ、ぃゃ」

「お、俺達は初心者らしき奴等が罠部屋に嵌った様だから助けに来たんだよ」

「お前には聞いていない。お前だ。お前に聞いている」

最初にか細く否定した男、罠を踏みにわざわざ走って来た奴の前まで歩み寄り問い掛ける。

「なんか用があったんだよな? 用件を言えよ」

ペタンと腰を抜かした男は言葉を紡げないでいる。

「そんな……いや、す、こりつりゃの……、そそ、そ、そうな……」

後頭部に鈍い衝撃が走るが構わずに腰を抜かす男の襟首を左手で掴み持ち上げる。

「良いか? これが最後だから気を付けて答えろよ? なんの用だったんだ?」

脇腹に剣が刺さっているが今は外野は無視だ。ガンガンと頭部を叩かれ、腰や腿の辺りやらをガシガシ蹴られながらも持ち上げた男の返答を待つ。

「ひぎっ、バ、バケモンだっ!」

「それがお前の答えか? 良いんだな?」

「だっ、だずげぇぇ……」

声を上げずにキュリヤに命令する。

「1番遠くで様子見している奴を拘束。殺すなよ?」

『了承』

ガシャン、ガシャガシャ、パサ……。身に付けていた物以外持ち上げられていた男が影も形もなくなった。

「何しやがった!」

「ロピード!?」

「マ、マジで化け物かよ?」

俺の人形の左手首から先がゲルの触手状に3つに分かれると鈍器で頭部を殴っていた男、脇腹に剣を突き立てた男、体に蹴りを入れていた男、それぞれの首に巻き付く。

「良く考えて答えろ? お前達はどうして近付いてきたんだ?」

「くっ」

「このっ! 離れねぇ!」

「……」

頭部を攻撃していた男の鈍器を右手で奪う。木製の棍棒に金属の補強がされている。持ち上げて右肩をトントンと叩いてから持ち主の左膝目掛けて振り抜く。

「あがぁぁーっ!」

曲がってはいけない方向に向いた膝から下を治してあげようと反対側からも叩く。

「ぎぃやぁぁっ!!」

「なんだ? 痛いのか? 大きな声を出して。そんな物で人の頭を叩いちゃ駄目じゃないのか?」

「ぅぅ……、ひぐっ、え゙ぐ……」

「質問してるだろ? 答えろよ」

「だ、だめでじゅ……」

「駄目な事をどうしてするんだよ? え?」

「ずみ゙ま゙ぜん……」

「謝罪は要求していない。どうしてこんな物で俺を叩いたのか聞いてるんだよ」

「ロ、ロビードをだずげょぉ」

「ふむ、仲間思いの良い奴なんだなお前」

「ずみ゙ま゙ぜんでじゅだ……ゆる゙じでぐだじゃぁ」

「ひゅっ、ひゅっ」

「ふぅ……はぅ……」

棍棒を足元へ放って次は剣を奪い取る。……つもりなのだが固く握り締めて離そうとしない。

「か、か、勘弁してくれ! 俺達が悪かったからぁ!!」

握り締めている指を溶かして剣を取り上げる。

「あえ? なん……。ふぎゃーっ!!」

剣は持ち主の左太腿へとすんなり差し込まれた。なかなかの切れ味である。

「お前も痛いのか? 自分がされて嫌な事は他人にしちゃ駄目だろ?」

「だだっ、駄目です!」

「じゃあどうしてやっちゃうんだよ?」

「ロピードを助けたくて」

「ふぅん、お前も仲間思いな奴なのか」

貫通した剣の先端を金属魔法を使いグニャグニャと出鱈目に変形させ手を離す。最後に蹴りをくれていた奴の左膝を前蹴りで踏み抜く。

「やがぁぁーっ!」

ありゃ、棍棒男とは変えて前後逆方向にしてやろうと思ったら膝から下が吹っ飛んで後ろの壁まで行ってしまった。首で固定している場所を支点に体を大きく揺らす男にも問う。

「お前、何発蹴ってたよ?」

「ひぎにっ! い゙い゙ぃぃ、覚えてばぜん゙」

「そうか、18回だな。自分の行動なんだから覚えておけよ?」

「ぐぁい! じゅはじがい゙でず」

「で、どうして蹴っ……」

「な゙がま、ながまを助けるだめ゙でず」

「よろしい。最後にもう一回聞くけど俺達に近付いた用件を素直に答えろ」

「ぴゅぅー、ぶゅー……」

「に゙ぎじぎぎぃ」

「も、もう分かってんでしょう? 追い剥ぎだよ」

まだ少し余裕がある剣の奴が答えた。

「他人を害して金品を奪う者達だな? 同じ目に遭っても文句は言えないよな?」

「ど、どうにか勘弁してくれないか? なんでもするから!」

「なんでもする。か……。サーチャル遺跡(ここ)でそんな事は言わない方が良いと思うぞ?」

「頼む! 勘弁……たのむ……」

「ぐひっ……」

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