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空いた口が塞がらない。いや、急いで駆けつけたゲルボディには口も何も無いんだけどさ。もっと言うと駆けてもいないし急造した体がゲルだった事に我ながら唖然としたが、それよりもだ。

「するってぇとあれか? ジルとサイで非実体相手の攻撃方法の実証をしてみたと?」

「はい」

「ああ」

「で、サイは見事にジルの体へと干渉する攻撃が可能だったと?」

「はい」

「ああ」

「そのどさくさの最中(さなか)にナクトマンの大規模な襲撃があったんだな?」

「はい」

「ああ」

「核心の確認だ。サイの攻撃でジルの体の一部が吹き飛ばされた」

「は、はい」

「ああ」

「傭兵の1人に聞いたんだが、ボヤが起きたのはお前等が居た場所だって事だ」

「……はい」

「ああ」

「俺の予想を口にしようか?」

「い、いえ! 恐らく正しいかと……」

「?? どういう事だ?」

「サイは分からない様だな。ジル、見解を述べよ」

「……はい。恐らくサイの攻撃で四方へと散った(わたくし)の体の一部が火種かと……」

「なっ、るほど……炎の精霊……」

「それを踏まえてジル?」

「申し訳ありません! 配慮が足りておりませんでした!」

「千切れた体の一部にまで意識がいってなかったのとナクトマンが襲ってきたタイミングが悪かったのは認めるが迂闊過ぎたんじゃないか?」

「返す言葉もありません……」

「済まなかった。オレも考えが及ばなかった。燃えているみたいに見えてもそれ程熱さを感じなかったもんだから……」

「大事に至らなかったから良いけど森が焼失なんて御免だぞ?」

「反省しております」

「悪かった」

「よし、とりあえず一件落着。完全に鎮火を確認したし、ナクトマンも残党はいないんだな?」

「え、ええ、そちらは大丈夫かと思います」

ジルが12匹、サイが7匹、残りの傭兵で9匹の合計28匹の討伐を確認した。例外なく7匹1チームであったこれまでを考えると合計4チームで数は合っている。周囲を軽く探ってみるけど残党、増援は見当たらない。

「……それじゃ、戻りましょうか」

傭兵達はジルの提案にそれぞれ肯定し隊列を組んでハミールの社へと戻っていく。

「はあ〜、今回は珍しく(わたくし)の方が迷惑を掛けてしまいましたね」

「……それって普段は自分の方が迷惑掛けられてるって愚痴か?」

「ふふふ、そうかもしれないわね」

うぅむ、腑に落ちん! ゲルの分体を消して社の人形に意識を戻す。


人形の周囲には人々が集まっていた。

「どうした集まって?」

「ミチオ様! 何か問題があったんですね?」

ポゥが急に声を上げた人形に気付き尋ねてきた。

「あぁ、もう解決したから心配ご無用だ」

「何があったんですか?」

要点だけ掻い摘んで説明したのだが皆んなひとまず安心してくれた。リンクスも緊急事態だと聞いた張本人だけあって心配していたようだったが、とりあえず危険は脱したと分かると安堵していた。ナクトマンの大群についてティキに聞いてみるが……。

「28匹4チームってのはアタシも聞いた事がないね」

「そうか、規模が規模だけに不安は残るか……」

「そうだね、4、5人のパーティでその数に襲われたらと思うとゾッとするね」

「俺は基本的に単独行動だから考えもしない発想だな」

「アハハッ、流石だね。ま、猿がいくら集まろうがアンタには羽虫が(たか)る程度なんだろうけどさ」

「お、羽虫といえばこの辺から南下していくと虫型の魔物が出てくる筈だったな」

「そうかい、アタシはボーツに近い北東部しか知らないから実際に戦った経験はないよ。明日の出発前までに皆んなに教えてやってよ」

「オーケー、傭兵連中が戻ってきてからだな」

リンクスも危険な目に遭った傭兵達がいる事で俺に口利きを頼むのは遠慮している様だし上手く有耶無耶になってくれれば良いな。程なくして傭兵一行も帰ってきたが、ひとまず体を拭きたいと言って順番に社の中の水場へと向かって行った。

「ミチオ様、今回は本当に……」

改めて謝罪を口にするジルだったが、それよりもナクトマンの大きな群れについての対応を協議する。

(わたくし)も14匹2チームというのは見た事はありましたけれど、更に倍の数でというのは記憶にありませんね。あれにしたって偶々(たまたま)だと思っていましたし」

「やっぱりか。社に残ってた連中もそんな規模は見た事も聞いた事もないって話だったな」

良くない予想としては超越種(ダブルエックス)3体を一気に消した事で森の生態系に影響が出た線、要するに俺のせいって事。勿論偶然大移動に出くわしたって可能性もあるし人間達に確認されていないだけで大きな群れを作る事自体珍しくないという説など今の所結論は保留するしかないのだが……。

「少しよろしいですか?」

教会関係の男が声を掛けてくる。豊穣神ハミールの巫女ノークが所属するカラーム領の西側と隣接するガッスル領ゲーロの街にある教会から来た司祭だ。

「なにぶん古い文献の一節のみなので詳細は分かりませんが……」

と、前置きした上で続ける。

「ナクトマンは50匹からなる猿系の魔物で、1匹の絶対的なボスが君臨していてその下にいる7匹のサブリーダーが6匹ずつを従えていたという内容を読んだ事がございます」

それが今は大きな群れを従える器がおらずにサブリーダー以下7匹で行動しているって事か? 余計に分からなくなってきたな。大規模な群れを従えられるボスが現れたって可能性も考慮しなきゃならなくなった。森の中を彼方此方と眺めてみるが大きな群れは見当たらない。杞憂に終われば良いけど、人間達に被害が及ぶ事だけは絶対に避けなければならない。

『報告、50匹の群れというのが定説。しかし、1000年程前より確認されていない為、現在は7匹の群れで行動する魔物とするのが通説』

「マジか! 裏付けにはなったが、でも解決には至らないって感じだな」

「……キュリヤちゃんのデータベースって何が元になっているのかしら?」

ジルの疑問も分からないでもないが残念ながらこの世界の創造神なんだよな。

『肯定、創造神ミルユーの知識に準拠』

「ハハッ、そうなるとあのポンコツ具合が逆に不安になるけどな」

『否定、言動はともかく蓄積されているデータはあくまでもデータ』

「そうだな、信憑性を担保出来るとしてもデータはあくまで()()()だ」


まだ太陽は沈んでいないけどこの森だと薄暗さが増してくる頃合いに、ようやく人心地つけた傭兵達が庭でリラックスしているので虫の魔物について話していた。

「それでしたら僕等が少し詳しいというか戦闘経験があるっすね」

ナラン王国の最南、ケントニス領から来ている傭兵2人が挙手して発言した。

「トンボとかカマキリのでっかい奴だったな」

「?? まあそうっすかね? カマキリの方は落ち着いて対処すれば1人でも対処可能っすけどトンボが少し厄介なんすよね」

「トンボ? 特に苦労もなく射程に入ってきたら斬る(kill)で良かった様な……」

「それはミチオ様が強者であるからで、あの飛行能力は意外と脅威なんすよ」

「トンボって森の外にも居る?」

「勿論っす。むしろ森の西側で戦ってたんすよ」

「だったらたぶんだけど難易度、脅威度は下がるかもしれないぞ? なんせ、飛ぶには木が多い森の中だからな」

「あー、それはありそうっすね。自由に飛ばれると軌道が読みにくいんすよねあいつ等」

ガッスル領から来ている傭兵も虫の魔物とは割と戦っているとの事で、対処法や注意点などを傭兵達、教会衛士達と情報共有を行っていく。

「デカい虫ってのは活動可能なのか?」

地球生まれのサイの疑問にも答える。

「思った通りの紙装甲だったな」

「カマキリとは興味深いな」

「お、蟷螂拳か?」

「ふっ、そうだな」

「まぁ、そんなご大層なもんでもなかったぞ。鎌の鋭さと射程だけには気を付けてな」

「あとは蜂っすね」

「蜂は遭遇してないな」

「基本、こっちからちょっかい出したり巣に近付かなければ無害っすけど、敵対するとなったら大群に襲われますね」

全長40〜50cmの蜂の魔物がいるらしい。その大きさの蜂が大量に押し寄せてくるのは相当怖いな。毒針も脅威だが噛みつきの方がメインらしい。そんな感じで夕食の時間までディスカッションが続いた。

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