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リンクスがしつこい。庭に居た俺を捕まえてヤシン、ティキと何を話していたのか根掘り葉掘り尋ねてくる。ティキが教会へ所属出来ないか相談していた。と、伝えても「いつから?」だとか「どこの部署に?」だとか、とにかく執拗に食い下がってくる。

「そんなもんは俺には分からんぞ。そもそもお前等教会の都合なんだから俺に聞くのがお門違いだ」

「しかし!」

「しかしもクソも、お前もくどいなぁ」

「……ミチオ様、どうか俺の事もお口添え願えませんか?」

ちっ、コイツやっぱりしっかりバッチリ盗み聞きしていやがったな。しかも俺の言葉は【念話(テレパシー)】なので耳では聞き取れていない筈なのにヤシンとティキのやり取りだけで文脈を理解している辺り馬鹿じゃないのが厄介だ。

「お前ね、盗み聞きしてたのバレてないと思ってんのか?」

「な! しししし、失敬な! ぬぬ、ぬ、盗み聞きなんて人聞きの悪い……」

「しらばっくれんなって。このタイミングで俺に口利きの依頼なんて不自然極まりないだろ」

「ミチオ様、俺は初めてお会いした時から貴方様に魅了されたのです。鮮烈なる存在感、神へと至るに……」

「うるせぇ! 盗み聞きした上に手前ぇも良いポジションに就きたくてその神を利用しようとしてるだけじゃねぇか!?」

「ぐぶっ! そんなぁ……なぜ!? ティキさんだけだなんて狡いっ!」

「本音が出たな」

「はぐぅ、俺が1番ミチオ様を崇拝しるのにぃぃーっ!!」

厄介だな。【混沌の種(カオスザーメン)】って【予め決定していた未来(モナド)】に派生して終わりじゃないのか?

『否定、魔法やスキルの影響は検知されていない。及び個体名リンクスに状態異常も認められません』

「マジかぁ……。ナチュラルであれならそれはそれで怖いぞ」

ん? リンクスは土下座ポーズになり両手で俺の左足首を掴み額を足の甲に乗せて懇願している。

「何卒、何卒……」

「お前……逆効果だぞ……」

「なんですとっ!」

「俺を困らせてどうするよ。頭の回転は良い癖に他人の心を慮る事が出来ないのは致命的だな。そんな人間をどこに推薦しろと言うんだよ?」

無理矢理言いくるめてみたが、どうだ?

「さ、流石はミチオ様! 含蓄に満ちたお言葉、確かにその通りでございます。俺は何を自分の事ばかり押し付けていたのでしょう……」

「熱狂のあまり我を忘れる者に俺の補佐など務まらんよ」

「はい。心を入れ替えて精進致します」

本当か? あまり信用出来ないがこの場は上手く収まったかな? コイツ、マジで怖ぇよ。悪気は全く無いのが面倒なんだよな。苛立ちが募りつつも穏便に説得を試みる。

「リンクスよ、覚えておくが良い。他人(ひと)の力に頼って手にする地位なんて軽くて脆い不確かなものにしかならんぞ」

それでも立場が人を育てる事もあるだろうがコイツは近道を探している小狡い感じしかしないからな。

「はっ! ありがたいお言葉、よく自分に言い聞かせます!」

ジルにもお灸を据えてもらおうかと思ったが、生憎道の整備をする傭兵達に護衛として同行していて社には不在だった。ん? 何気なくその集団を確認したら……。

「おい、不味いんじゃないのか?」

ここから数km先、丁度傭兵達が居る付近で森が燃えている。何事だよ?

『詳細不明、ジルに確認するのが早いかと』

「だな! おい、ジル? 何が起きてる?」

「……」

見れば、傭兵達がてんやわんやで消火活動をしている様子の中にジルの姿は確認出来ない。

「リンクス、緊急事態だ! とりあえず話はここまでだ」

差し当たってまずは消火だと俺も向かうや否や空に【水生成(ウォーター)】で大量の水を作り出す。結果的に規模はボヤ程度で済んだのか? 残火に気を付けつつ周囲を確認しているとジルが飛んできた。

「あー、ミチオ様、申し訳ありません」

「何があった?」

「ナクトマンの群れが現れまして対処しておりました」

「群れ? 7匹以上だったのか?」

「28匹、4チームといった所でしょうか? リーダー格も4匹おりました」

ジルの後を追う様にサイが駆け寄ってくる。

「神さんか……ナクトマン(猿共)の大きな群れに襲われた。あの数で動いてるのはオレも初めて見た」

「そうか、処理済みなんだな?」

「ええ、大丈夫よ」

「なら良いんだけど、そんで? ボヤ騒ぎの方は? 戦闘の余波か?」

「ボヤ……?」


道の整備も無事に完了した一行はハーミルの神殿へ戻っている途中で昼食を兼ねた休憩を取っていた。銘々それぞれ談笑したりまったりしている所からやや離れ腹ごなしに武術の鍛錬に励んでいたサイ。食後である為激しい動きはせずに体の各部の細やかな連携を確認する様に、または最近意識し始めていたマナに集中する様に静かに。それを眺めていて興味を持ったジルが声を掛けた。

「不思議なマナの動きね」

「あんたは神さんの仲間の……」

「ええ、ジルよ。それにしても面白いわね」

「何がだ?」

「魔法やスキルではなく純粋な身体強化でもない。その体内で練り上げているマナはどの様に運用するのかしら?」

「ふっ、悪いな。オレは未だにマナってもんが良く分からないんだ。神さん曰く元々の動きにマナが追従しているだけらしいな」

「貴方、武器を用いず手足のみで戦っているのでしょう? (わたくし)の様な実体の無い相手はどうしてきたの?」

「実はまともに相対した事は無いな」

「そう。夜になればこの森にも浮遊霊(ガイスト)という魔物も出るのよ? 対処方法が無いのならば危険ね」

「まあ、今は多分大丈夫だ」

「どうするのか興味があるわね。(わたくし)に攻撃してみなさいな」

「大丈夫か? 本当にダメージは通ると思うぞ」

「多少の事ではどうと言う事は無いわよ」

「そういう事なら遠慮なく……」

一歩進みながら無造作に突き出された左掌が地上1m程に浮かぶジルの体に当たるとブワッと背後に向けて大きく揺らめいた。続けて左右の手足を入れ替える様に右の突きが繰り出されると更に大きく揺らいだジルの体から後方へ広く細かに千切れた体の破片が飛んだ。

「本当に凄いわね! マナ生命体に干渉出来るのに本人は仕組みを理解していないだなんて」

「神さんのアドバイスのお陰だな」

「あー……マナに関してはミチオ様は化け物ですからね」

「ふっ、炎の精霊が言うんだ。間違い無いのだろう」

その後、ミチオのこれまでの規格外ぶりを聞いたサイは久しぶりに声を出して笑ったりしていた所で異変が起こる。

「ジルさん、サイ! ナクトマンだ!!」

いつの間にか一行を囲む様に接近している魔物に対処する為合流すると投石による牽制が既に始まっていた。ざっと感じ取れた個体数が10を超えている事に異常を察知する。

「10匹以上いるぞ!」

サイの言葉に一同気を引き締めるが……。

「いいえ、20以上が来るわ!」

ジルの訂正にやる気を出していた連中に戦慄が走る。

「なっ! 20以上だと?」

やや浮き足立った空気をジルがまとめ上げる。

「サイは(わたくし)と最前線、他は3人1組で近付く個体へ対処。いいわね!?」

「は、はい」

幸い完全に包囲されている訳ではなく、半円程の形である為背後は気にしなくても良さそうな事に一同安堵した。そして、そこからの行動は早かった。曲がりなりにもトレスグリューンへ護衛として来ている者達、落ち着いて対処すればナクトマン程度ならば死者は出ない。遊撃に突っ込んできた個体の攻撃を体の大きなワーキヤが受けると、すかさず横から別の人間がナクトマンの横腹に剣を突き刺して一撃で仕留める。

「まだまだ来るぞ!」

一方で投石を掻い潜り前に出たジルとサイは……。

「サイはこの辺ね。対応しきれないならば退がりなさい。(わたくし)は上からいきます」

「承知した」

木々を飛び越え上空から戦況を見渡すが鬱蒼とした森の中、【マナ感知】を駆使しながら目視出来ない相手へも容赦なく魔法を撃ち込む。

「【燃えろ(バーン)】【燃えろ(バーン)】」

ピンポイントでナクトマンを爆散させていきながらリーダー探しを怠らない。戦場全体は把握しきれないが20数体に及ぶ敵を確認しているジルはリーダーが1匹とは限らない……複数の群れの集合体であると結論付けていた。

「まずは1匹……」

包囲網の最奥、喚き声を上げる個体の真上まで飛んできて速やかに命を刈り取る。

「【燃えろ(バーン)】」

飛来物も無くその場で爆発したナクトマンリーダーに群れが一気に混乱しだす。こうなれば傭兵の一団への危険性は下がったと判断し、リーダーを優先し各個撃破で潰していくだけ。

「……」

サイは黙々と近付く個体を仕留めていく。立ち並ぶ木々を上手く使い自分の死角からの攻撃を極力をさせぬ様に立ち回りながら……。やがて新手が現れなくなった頃、自分よりも先行したジルが戻ってくるのを確認する。

「終わりか?」

「ええ恐らく。後方が心配だわ」

「そうだな。戻ろう」

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