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早朝の豊穣神ハミールの社の庭、扉の正面ではなく側面側のやや狭い場所で動く人影。格闘技の型を繰り返す元地球人サイである。まだ社の中で眠っている者もいそうな時間から精が出るものだ。その勤勉さがあの強さを裏打ちしているのだろう。ダーさんもそろそろライさんと役割を交代する頃だろうか? 新しい1日の始まりに……あれ? そういえば日付けって深夜に変わるからとっくに新しい日は始まっているのか? この世界の時間とか時計とかの考え方は分からないけど……。などと不毛な思い付きが頭をよぎりながらも、なんだかんだでやっぱり夜明け、朝方が1日の始まりだなと再認識していた。

「さて」

庭に突っ立っている人形へ意識を憑依させる。

「お゙あ゙お゙ぅ……。ん゙ん゙、おあよう」

先延ばしにしていた発声練習を再開しながら自分でも不思議に思う。ぱっと見では人間の様に見えるらしい人形だが骨格と皮膚は再現しつつも中身は内臓なんて皆無だし脳みそも入っていない。では、これは何か? と、問われればゲルが擬態しているのに近い。どこまでいっても結局はゲルである。昨夜マリスが捕獲したイーヴルゲルを思い出し身震いする……様な気持ちになる。一体人間ってのは何だ?

「おへわ、いんげんか?」

「おはようございますミチオ様。……豆なんてどこにもないですよ?」

近付いてきていたポゥに変なツッコミをされる。

「なめ? なめおはらして……」

「ミ、ミチオ様?」

念話(テレパシー)】で意思を伝える。

「音声ではまだ伝わらないか」

「お喋りの練習ですね」

「そうなんだけど……。ミルユーはそんなに俺を孤立させたかったのかな?」

「……そんな事ないんじゃないですか? ほ、ほら、少しずつ言葉が分かったりとかしてるじゃないですか。それにゲルの中に入っていたんですから人間の言葉が喋れなくても仕方がないですよ」

……ゲルの言葉も分からなかったんだがな。まぁ、ポゥを困らせては悪いから話題を変えよう。

「今日は1日ここで過ごすんだよな?」

「そうです。あ、あと傭兵の方達はここから北西へ向けて森の外に通じる道を整備してくれる予定です」

「そうか」

4箇所の社へ森の外から最短の道を四方に伸ばすのは合理的判断だと思うが……。眺めてみると、なんとなく木が生えていない1本の筋が分かるが下草は荒れ放題で最早獣道とも言えない状態だ。

「大変そうだな。少し手伝おうか?」

「いえいえ、お昼過ぎには終わる見込みですから」

「そうか」

今の俺なら30分もあれば綺麗に片付くだろうか?

「それでは朝食の準備に行ってまいります」

「あぁ、何かあれば言ってくれ」

ポゥは庭の一角に石組みの簡易的な竈の様な物が作られた場所へと向かう。ちらほらと社から出てくる人間達にも疲労感は見られない。慣れない森での一夜にも拘わらずなによりだ。

「よぅす! XXX(トリプルエックス)。……アンタ神殿が変わっても定位置はこの辺なんだな?」

「よぅ、ティキ」

言われて気付く。フレールの社の庭でなんとなく定位置になっている場所とほぼ同じ位置に立っている事に。

「無意識だったな」

「アハッ、そんなもんだよな」

「ふぁようござぁす」

欠伸混じりのハーシルもいつもティキの後を追いかけているのが定位置だな。

「よぅ、ハーシル。飯を食ったら早速森に向かうのか?」

「そうだね。ティキは留守番だけど……」

おや? 金魚の糞だと決め付けてしまったが今日は別行動の様だ。聞けばティキともう1人は万が一に備えて社に残り道の整備は総勢10名で行うとの事。

「なあ、あんたどうせ暇なんだろ? ちょっとアタシに付き合ってよ」

暇だと決め付けられるのは不本意ながら事実なので何をするのか聞き返す。

「まあ、とにかく後で時間作ってよ」

はぐらかす様に言ってティキとハーシルは朝食の並ぶ卓へと歩いていった。暇人扱いされても否定出来ない俺は独り発声練習を続けた。


道の整備隊が出発してやや経った頃、庭で棒立ちしている人形の元へティキがやってくる。

「待たせたね」

「いや、待ってたって訳でも……まぁ、良い。で、どんな用件だ?」

「アタシさ、傭兵を辞めて教会に入ろうと思ってるんだ」

「そうか」

「そうか、って……。そういやあんたはここいらの文化に疎いんだったね」

『通常、傭兵から聖職者への転職など異例中の異例だと補足』

「で、あんたも神になったろ? あんたを信仰する宗派にでも入ろうと思っててさ」

「あー、これから作られるんだろうな。それよりヤシン辺りに聞いた方が話が早いと思うぞ?」

「いい年齢(とし)してから教会に入るなんて難しいんだよ。そこであんたの出番だ」

ティキの言い分はこうだ。それなりの魔法職としてやってきたけど限界が見えた。この辺はジルとの戦闘の後に感じ始めていたらしいがアイツと比べてもな……。そして呪法に手を出し子を孕めぬ身となり将来を真剣に考えていた折に思い付いたのが教会への転職だった訳だ。この世界の宗教関連の事情は分からないが出家して尼にでもなる感じか? 更には俺に口利きを頼みたい旨を語っていた。なんせ崇めるべき対象からの推薦ならば無碍には出来ないだろうという予想だった。(したた)かというか小賢しいというか逞しい女だ。

「ハーシルにこの事は?」

「あいつには、まだ、何も……言ってない」

「俺には姉弟(きょうだい)の様に見えてたんだけど相談したりしないのか?」

「いずれ伝えなきゃならないと思ってるんだけど……」

「まぁ、そっちには深く首を突っ込む気はないけどな。んで、俺にはどういう口上を期待してんだ?」

「そうだね、いずれあんたの宗派が確立するんならそこのシスターにでも推薦してよ」

「そんだけ? なんか重要なポストとか、特別な権限とかは?」

「無い無い! 贅沢な事は言わないからさ、上手い事あの本部連中に奨めてくれないか?」

「んー、その程度なら構わないけど……」

「キュリヤ、問題は?」

念の為【眷属の秘事(インナーサークル)】で確認しておく。

『否定、問題無いと推測』

「わかった。じゃあ、早速ヤシンの所へ行こう」

「きゅ、急だね!」

「なんだ? 早い方が良いじゃないか」

「それもそう……だね」

「それに、すぐに採用となるかは分からんぞ?」

「それも確かにそうだ」

「じゃ、とりあえず話だけでも通しておこう」


社の中、1階奥にある祭壇前に教会関係者が数人、その中にヤシンを確認した俺達は歩を進める。

「これはミチオ様、いかがされました?」

恭しく礼をしてヤシンが迎える。

「あぁ、ちょっと耳に入れたい話があってな」

「左様でございますか。場所を変えましょう」

2階へ上がるとヤシン達が寝床に使っている一室へと向かう。それにしても6畳間位のここに男6人が寝ていると思うと……。

「お手数かけて悪いね」

「とんでもない事でございます。我が教会に神にまつわる事柄より優先すべき事はございません。それで、お話というのは……?」

「あぁ、まだ少し先の話になるかとは思うんだけど、俺の、その、俺が神として教会に認めらた場合にな?」

「何を仰いますか! 既にミチオ様は神の1柱として確固たる地位におられるのですよ? 教会が認める事にはなりません」

「やー、そうじゃなくてな。教会に俺の部署みたいのは出来るだろ?」

「それは勿論です」

「そうなった時にだ。彼女をその部署へ編入させる事は出来ないか?」

「……確か、傭兵のティキさんでしたね? 彼女を?」

「あぁ、付き合いも長くなってるし、俺の方からも接しやすい人物を1人ぐらい推薦したいと思ってな」

「左様でございますか。私の一存で今すぐにお応えするのは無理ですが王都へ戻った暁には必ず口添えするとお約束致します」

「そうか、助かるよ」

「滅相もございません。神のお言葉、必ずや教皇の元へお届け致しましょう」

胸に左手を当て今一度恭しく礼をするヤシン。

「シスター見習いとして1からやっていくつもりだから、よろしく頼むよ」

ティキもヤシンへ頭を下げてお願いする。そして、部屋の外で先程から聞き耳を立てているであろう人間。俺の視界には壁も扉も関係無いのを理解していないなリンクスよ? 盗み聞きとは趣味が悪いが、どうしたものか……。人形の人差し指を立て口元に置き2人にジェスチャーで静かにする様に伝える。そのまま扉の向こう側を指差してから手の平を広げて耳に当てて誰かが中を窺っている事を伝える。上手く伝わった様で軽く頷く2人に【念話(テレパシー)】を続ける。

「リンクスだ」

静かに歩いていったヤシンは扉を勢いよく開ける。

「わあーっ!」

開かれた扉に押されて廊下を転げるリンクス。

「おや? リンクス、あなたの部屋は隣では?」

「あ、え? 失礼しました。間違えてしまった様ですね……」

白々しい言い訳を吐いた後、左側頭部をさすりながら自分が使っている部屋へと入っていった。

「まったく……。失礼致しましたミチオ様」

「いや、ヤシンが謝る必要はない。アイツ、行儀の悪い事しやがって……」

「アハハッ! リンクスはトリプル……いや、ミチオ様の熱狂的信者だからね」

「だからといって許される行為ではありませんね」

「あっ! そういえば、もし既に俺の宗派とかを作る動きがあったら邪神ゲルボーヤー派とかになってるんじゃね?」

「そこもご安心下さい。私が戻り次第、徹底的に修正して回ります」

「うん、頼むよ。割と切に」

「あんたにはそっちの方が重要なのね……」

今まで見てきてヤシンは出来る男に違いないと確信している。とりあえずはコイツに任せて問題無いだろう。

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