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豊穣神ハミールの社では夕食を楽しむ人間達が庭を賑わせていた。何の変哲もない人形、やや痩せ型の男性を模したものに意識を乗せる。
「お待ちしてました」
ジルが声を掛けてきたのだが、先程光龍の所で思っていた事の延長で小ちゃい婆ちゃんだななどと思っていた。
「はぁ、別に良いんですけれど思った事は伝わっているんですからね」
「そうなんだよな。俺の方に皆んなの思考は届かないってのにさ」
「それで、あのゴーレム3体はどこです?」
「あぁ……」
目の前に自慢の品を並べるとジルと俺が遣り取りしているのを確認したのか王国教会本部の神殿管理部の3人がやって来る。俺の人形の前で膝を折り頭を下げるのだが続けて3体のゴーレムもどきの前でも順番に頭を下げていく。
「こちらが例の……?」
「ええそうよ。我が主人が思い付きで作り出したゴーレム……の様なものね」
「素晴らしい……」
「見事ですね」
カイとカークが絶賛しているのを得意げに頷きながら聞いていると……。
「安全性等を考慮する必要がありますが……あ! ミチオ様の手腕を疑っている訳では決して……」
「大丈夫だよ。そこら辺は細心の注意が必要な事は理解してるさ」
流石に俺が作ったものが不具合でも起こして人間を傷付けるなんて事にはなって欲しくない。
「それで、どうなの?」
「ええ、こちらでお預かりするのは可能でしょうか?」
「ミチオ様」
「あ、あぁ、構わないぞ。色々と制約を付けているから危険性は低いと思うから納得いくまで確認してくれ」
3体共柔軟に思考出来る筈なので後は任せる事にした。
「んじゃ、俺はもういいのか?」
「お待ち下さい」
ジルに呼び止められる。
「その、双龍の方々ってどんな感じなのです?」
「お? 珍しいなジル。お前が気に掛けるだけの存在だったと思うぞ」
うずうずとした様子で次の言葉を期待している。
「そうだなぁ……流石5000年を超える齢というか、堂々としていながら腰は低く俺の様な無礼者にも寛容で、威厳と柔軟さを兼ね備えユーモアも理解する偉大な存在かな」
「そ、それで?」
「ダーさんが爺ちゃん、ライさんが婆ちゃんて印象だったかな?」
「ダ、ダーさん、ライさん? いえ、男女の性差みたいなものが存在しているのかしら?」
「闇龍のダーさんと光龍のライさんな。ほんと気さくで話しやすかったぞ」
「で、で? あとは何かあるのかしら?」
随分食いつきが良いなと半ば呆れながら続ける。
「あ、と、わぁ〜……2人が番いだって事は周知なのか?」
「なん? え? 番い? それは新事実ね!」
「そうか、2人の馴れ初めなんかを聞かせてもらったな」
「そもそも雌雄という概念で考えた事もなかったんですから」
「漠然とした感想だけど自然崇拝に近い信仰の対象みたいなもんなんだろ?」
「えぇと……」
確かに存在するんだけど観測自体は極めて困難。いや、あの山の棲み家に行けば片方は居るのか……? 麓の集落じゃ崇められているって話だった。
「それは無理ね。超越種に自ら近付く様な馬鹿な思考は今の所人類は持ち合わせていないわよ」
「馬鹿で悪かったな」
「ち、違うわよ! 人類に限った話で貴方は既に神へと至っているじゃない」
「その前も人類じゃなくてゲルだったけどな」
「もう! 今はそんな事よりも御二方の話を……」
「そうは言うけど今はこんな所じゃないか? 2人の鱗を使ったキュリヤの体とかさっきのゴーレムもどきを感心して見ていた事ぐらいだな」
「はぁ〜あ、素敵! 始原の龍にして最古の超越種がまさかご夫婦だったとはねぇ」
「うっとりしてるとこ悪いがダーさんだぞ」
社の敷地外の地面から生えた闇龍の首が俺達を見つめている。
「よぉ、ダーさん。こいつらが例の巡礼者達の集団だ」
「左様か、楽しそうで何より」
うんうん頷くダーさんを尻目に、悲鳴、怒号、慟哭、絶叫、社の庭で行われていた楽しい夕食会は一転して阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。これが一般的な反応なのかとのんびり考えている時間は無いのでさっさと説明していく。ずらっと並んだ人間達30名が膝を着き頭を下げるという壮観な風景が厳かな雰囲気に包まれた。
「いやはや、今宵、儂の気紛れに驚かせてすまぬな」
「ダ、闇龍様! お会い出来て光栄です!」
ジルが鼻先付近まで飛んで行った。
「うむ、お主は……なるほど。新しき神の眷属であるか」
「は、はいっ! はわあ〜、世界の理を垣間見た気分!」
「儂なぞよりもあの御方の方が余程優れておるのだがな」
「何を仰いますか!? あんな気狂いの元ゲルよりも貴方様の御威光の方が遥かに尊いのです」
「ほぅ、儂の友人を気狂い呼ばわりするか……」
「え? い、いえいえいえいえっ! そ、それぐらい気安い間柄と申しましょうかっ、ミ、ミチオ様っ!? 何か言って下さい!」
「ゲルは人語を解さないんだよな? キュリヤ」
『肯定、ミチオは神へと至る以前、この星の共通言語を未習得』
「いやいやっ! 今は分かっているでしょう?」
「アー、アー、キコエナイ、キコエナイ」
「そんっ、ふざけていないで、ちょっと!?」
「クフフフフ、悪ふざけが過ぎたかな? お嬢さん」
「なっ、え? 悪ふざけ……?」
「言っただろ? ダーさんはユーモアも理解する偉大な存在だって」
「クフフ、御前と本気で事を構える者には容赦する気は無いがな」
……それが困った事にそうなる可能性が高いのは創造神ミルユーなんだよな。ダーさん達は巻き込みたくない案件だ。
「すまぬな、余り長居は無用故立ち去るとしよう。では、御前また……」
すると闇龍の首はスゥーっと地面へと引っ込んでいった。
【接続強化】
「はぁはぁ、生きた、心地が……」
ジルには良いお灸になったんじゃないか? 奉る必要はないけど最近俺への敬意が見られないからな。人間達の方もほっと一息つけた様子、周りの連中と「奇跡だ!」とか「夢じゃないよな?」とか話し始めている。
「ミチオ様! どういう事ですか?」
ポゥが狼狽しながら駆け寄ってきた。
「あぁ、双龍のお二方と仲良くなってな。人と一緒に居るって言ったから興味を持って見に来たんじゃないかな?」
「やっぱりミチオ様は凄い神様ですっ!」
凄い凄いと繰り返すポゥに続いて庭に居た連中全員が俺を取り囲んでいた。質問責めは御免だぜ! って事で人形をポンッと消してしまう。そして皆んなに【念話】で伝える。
「ダーさん達の事で分かっている事はジルに伝えてあるからそっちに聞いてくれ。俺もまさかここに現れるとは思ってもいなかったからな。本当にお茶目な爺ちゃんだよ……。つー事で何かあればジル経由でよろしく」
「そんな、ミチオ様、狡いっ!」
大体の事情はジルが説明してくれるだろう。【眷属の秘事】で愚痴を言う分には許してやる。頑張れ! それにしても1日に3回も会う事になるとはな。あれで意外と自由なんだなダーさん達も。別に被害を受けたでもないだろうし、驚かせはしたけど人間達にも貴重な体験になったんじゃないかな? きっと巡礼者達の旅は実り豊かなものになるに違いない。そして、この森で出会った神秘を人里に広めてくれる事だろう。
『肯定、ただし神秘の元凶は概ねミチオが関与していると補足』
「ん? そうか? そう……かもな」
今や命を脅かすものも無くなって毎日楽しい事がないかという行動原理で動いては周りを引っ掻き回す? あれ? サイに言われたよな「あちこちで悶着を起こしているのか?」って。しかしながら今更変えるつもりもないし、同じ日々の繰り返しじゃつまらないだろ? 昨日より今日、今日よりも明日、より良く、より強くがモットーだ。明日はどんな日になるのか……の前に今夜は何して過ごそうかな? が、先だな。世界中の景色をザッピングしながら穏やかに夜が更けていく。夜が平和なのもダーさんのお陰なんだろうな。感謝感謝。




