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双龍の2体はこの世界に於いては神に次ぐ存在で最古の超越種にして世界の守り手という扱いの様だ。気軽に喧嘩を売りに行く相手ではなかったみたいだな。
「ミチオ様ぁ、そろそろよろしいで……あれ? キュリヤちゃん?」
ポゥが社の中から駆けて来ると見た目の変わったキュリヤに気付いた。
『肯定、語彙力を総動員した様々な賛辞を要求』
「えっと、可愛いね。えへへ」
語彙力の欠片も無い。
「そろそろ管理者権限を移すのか?」
「そうですそうです! 神殿をざっとお掃除しましたのでよろしくお願いします」
同じ設計図で建てられたのだろうか、四神の社は全て同じ造りとなっている。地下2階、マナ供給用のコンソールが地面から伸びているコントロールルームに教会本部から来ている3人と巫女4人、巫女さんの大先輩であるジルと俺の人形が立っていた。相変わらず狭い。ここの当代管理者であるノークがコンソールの前に歩み出て緊張した様子で口を開く。
「そ、それでは、よろしくお願いします」
「あぁ、大丈夫だ。痛くないから楽にしてな?」
フレールの社でやったのと同じ要領で無事に管理者権限はノークへと渡った。当人はぶつぶつ呟いたりポゥに質問しながら諸々の確認をしている様だ。
「完全に後付けですけれど神を祀る神殿の管理者が別の神というのもおかしな話よね?」
「ハハッ、ほんとそうだよな」
ジルの話はご尤もで、そもそも管理する気もないのに成り行きで行動していただけの無責任なゲルの仕業だからな。なんならジルのお願いを聞いただけだったと責任転嫁までやりかねない業の深さだ。
「確認終わりました」
ノークが一通り確認作業を終えた所で1階まで戻ってきた。1週間前後はこんな日々が続きそうだが俺の自由は約束されているので窮屈には思っていない。むしろ意外と形式ばった管理者の仕事から解放してくれると思えば率先して協力する所存である。
庭の隅には芝刈りを終えた分体が1つにまとまってちょこんと鎮座していた。散々不気味だのと言われてきたからなるべく人間の目に入らない様に社の裏手でひっそりと存在感を消していた。いや、だったら存在そのものを消せよ! と、思い出した俺はゲル分体をマナ化して終わったら姿を消す所まで命令しておけば良かったと反省。人間達の集団は各々適当にくつろいでいる様子で特に問題は無さそうである。気になる事があった俺は【眷属の秘事】で皆んなに意見を聞く。
「ここの社にはブラガみたいな現役ゴーレムを設置しなくても良いのか?」
「そうね……あった方が良いのでしょうけれど現状だと難しいのかしら」
「謂わばワタシの兄弟機と呼べる者達でしたが今はワタシ1機のみとなってしまいましたな」
しんみり言って感慨深い空気を出すけど……。
「いや、多分だけど会った事もねぇだろ?」
「いやはや、マイスターも手厳しいですが事実ですな」
ほっほっ、と笑いながら飄々としている。
「これは、あれか? 教会連中にも進言した方が良いのか?」
「そうね。私がヤシンに伝えておきます」
と、言うとジルはフワフワと社へと飛んで行った。流石にゴーレムは作れる気がしない。体はどうにか出来るだろうが、擬似人格とかいうのはさっぱりだ。ん? 分体を搭載すればイケるか?
『肯定、理論上可能』
「……だよな。マナの供給さえ欠かさなければ自立行動は可能だよな」
双龍の鱗を1枚ずつ取り出して、それを三等分にする。多少アバウトだが、そこはあまり気にしない。身長2m程度の人形も3体作り出し、あとは適当に余っている魔物や動植物の素材を取り出し並べてみる。
「そんで……どうしよっか?」
マナ同士を結合させる様に人形と各種素材を融合させていく。頼りは俺のイメージのみ! 外部装甲は丈夫な龍の鱗、中の骨格もやはり丈夫な龍の鱗を使いたいな……。1体は光龍の外装に闇龍の骨に、もう1体は反対に闇龍を外側光龍を中身に使い、最後の1体は趣向を凝らして双龍の鱗をミックスさせた物で内外両方を作り上げる。
「よし! どうだ?」
頭脳部分には社の守護、人間に対しては基本的に攻撃不可、敵性行動を取る相手は非殺傷攻撃でもって制圧、簡単な庭掃除、等々細かいイメージを与えていくが不完全な良心回路の様な物は搭載しないので悪しからず……。
「キュリヤ、何か不具合とか拙い部分はありそうか?」
『否定、問題無く自立行動可能』
「そうか。僕の考えた最強ゴーレム! と、までは言わないけども、それなりの物になったんじゃないかな」
「ちょっと、ちょっと!」
慌てた様子でジルがすっ飛んで来る。
「どうしてヤシン達と話し合っている間にこんなもの作れるのよ!?」
【眷属の秘事】で大体の事情を察していながらも教会本部連中との会話を不自然に切り上げる訳にもいかず……。そうしている間に事は全て終わっていたジルの嘆きは暫く続いた。
「はあ〜……。どうしてこう……はあ、まあ良いわ。結果的に問題が無いのならば採用しましょう」
「お、おぅ、なんかすまんな」
『問題無い。むしろ問題が起きた場合、ミチオの対応が必要』
「……てな感じだ。まぁ、見てよ! このゴーレムもどき」
「……」
あまりの出来に声も出ないか? そうだろう、そうだろう。
「そうねえ……。端的に言って最高ね」
「よっしゃ! ご意見番に最高の評価を頂きました」
『肯定、当然の結果』
「それにしても……ブラガ殿が嫉妬しそうね」
3体のゴーレムもどきの周りをふよふよ飛びながら眺めてジルが呟く。
「そうなのか?」
「双龍の鱗を使ったゴーレムなんてこの世界の何処を探しても出てこないわよ」
だいぶ陽が傾いてきた時刻、夕陽を背にした3体の勇姿……という光景にはこの鬱蒼とした森の中ではならず薄暗くなってきた社の庭に静かにただずむゴーレムもどき達。
「達成感、満足感で今夜はぐっすり眠れそうだぜ」
『否定、ミチオに睡眠は不要』
「貴方、寝ないでしょ」
「2人して即ツッコミはよしてくれ。気持ちの問題だよ」
あとはどこの社にどの機体を置くかだけど、人間達に決めてもらおうか? 上手く決まらない場合は俺の独断で良いだろう。
「それじゃあ、既に問題が解決した事を伝えてくるわ」
またもや社へ飛んで行くジルを尻目にそろそろ昼と夜の狭間であるので双龍2体の所へ行ってみる事にする。一旦3体のゴーレムもどきはマナ化して収納しておく。何かあれば話し掛けられる様に俺の人形はその場に残して意識を移す。
「やぁ、ダーさん。さっきぶり!」
「ダ、ダーさん!? いや、新しき神よ、何か問題でもあったか?」
「いやぁ、折角だからライさんにも早く会ってみたくてさ」
「左様か、クフ、ライさんときたか。なれば良い時合、そろそろあやつも戻る頃だろう」
キュリヤを実体化させて説明したり、ゴーレムもどきを見せてみたりして鱗のお礼をしていると上空に大きな影が現れる。優雅に山の中腹にある巣まで降り立つと……。
「なぁに、これ? あら? 知らない……新しい神……?」
「やぁ、はじめまして。あんたがライさんだな?」
「クフフ、なかなかに愉快な御方だぞ」
「あらあら、はじめまして。ライさん? ですか?」
そう言うと大きな頭が俺の人形へ向かって降りてくる。なんか大きな馬でも目の前にした様な気軽さで鼻先をポンポンと優しく叩いていた。
「あら? あらあら? 凄いのねぇ。分かりました。新しき神の誕生に祝福を……」
首を空へ向けて伸ばし大きく翼を広げた光龍から光のマナが俺の人形へと降り注ぐ。
【属性魔法(光)】
【光源】
「お、龍の祝福で魔法を覚えた?」
『肯定。尚、闇龍との邂逅で変化が無かったのは【属性魔法(闇)】のレベルが高かった為と推測』
「なるほどのぉ。御前は闇魔法の適性が高いか」
「ちなみにレベルは8。そして、これで全ての属性を覚えた事になるな」
「なんと! 全ての魔法に適性を持つなど前代未聞ではないか!?」
「やっぱり凄いのねぇ」
「いやぁ、でも火とか最後まで覚えられなかった光とかはやっぱ適性が低いんだと思うけどね」
「左様か、なれば儂も背中をもう一押しせねばな」
横たわっていた闇龍が立ち上がると先程の光龍の様に翼を大きく広げた。
「【闇拡張】」
短い呪文の後、闇のマナが俺の人形を包み込む。
【属性魔法(闇)】
【深淵】
「おぉ……なんか【深淵】って魔法を覚えたみたいだな」
「然り、此処ではない何処か、何処でもない真なる闇へ対象を捕える魔法である」
「いやぁ、なんか悪いね。双龍の祝福を受けたなんて知られたら人間達に羨ましがられるんじゃないかな? ハハッ」
「御前は人間と共にあるのか?」
「えっと、最近ちょっと成り行きでね」
ナラン王国の森にある四神の社にまつわるあれこれを説明した。
「クフフ、クファーファファファファーッ! 御前はまるで出鱈目だな」
「そうねぇ。それより、そろそろ……」
「うむ、名残惜しいが儂は行かねばならぬな。御前はゆっくりされると良い。では、再会を楽しみにしておる」
そう言うと闇龍は地面に溶ける様に染み込んでいった。影と同化したんだろう。
「本当にびっくりしちゃったわ。最初、闇龍がお人形遊びでも始めたのかと思ったわ」
「あぁ、そういえば人形みたいなもんしかいねぇな。ハハッ」
改めて光龍にも説明して鱗のお礼をしておいた。
「お礼なんて勿体無い! ワチ等は自然現象の様な存在。ただ恵みを享受してもらえれば良いのですよ」
流石5000歳を超える大先輩達は2人共余裕がある。
「ライさん達は最初から番いとして生み出されたの?」
「いいえ、初めはもっと機械的? ……ただの役割としてここら辺の昼と夜を統べる者として振る舞っていたかしら」
「へぇ、んじゃ馴れ初めは?」
「馴れ初めなんて、御前は照れ臭い表現をするんですね。ウフフ……」
要約すると明け方と夕方と1日に2回顔を合わせて報告し合っていた関係から、どこそこに面白い物があったとか、綺麗な風景、美味しかった食べ物、人の営みの不思議、色々な話を共有していくうちに自然と……。という事らしい。意外と人とそう変わらないのかもしれないな。
「あっ! 大事な事を忘れていた!」
「なんでしょう?」
「2人共俺の事を御前と呼んでいたからな。俺の名前はミチオだ。くれぐれもゲルボーヤーとは呼ばないでくれよ。あれはミルユーが勝手に付けたあだ名みたいなものだからな」
「あらあら、そうなんですね。覚えました。闇龍にもしっかり伝えておきますよ」
尤も2人の中では神の名を軽々しく口にしないという不文律がある様なので今後も御前と呼ばせてもらうとの事。
「ミチオ様、ゴーレムの件で少しよろしいですか?」
「オーケー、少し待ってて」
ジルから呼び出しが入ったので今回の訪問はこれまでだと伝える。
「あら、そうなんですね。何のお構いも出来ずに失礼を……」
「大丈夫、大丈夫! 鱗も貰ってるし、色んな話も聞かせてくれたじゃん」
ジルが婆ちゃんだとしたら光龍は超大婆ちゃんだな。などと考えながら再会を約束する。
「じゃあライさん、また来るね」
「ええ、いつでもいらして下さいね」
双龍の巣を後にしてハミールの社の人形に意識を戻した。




