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「神さん、それはロックか?」
「おぅ、サイ」
区切りの良い小節まで弾くとギタールを脇に置く。
「分かってくれたか? もっと言えばヘビーメタルのつもりなんだけどアコースティックじゃ迫力が足りないんだよな」
「オレはあんまり音楽は詳しくないんだけどな」
「そうか、俺は地球に居た頃は音楽鑑賞が趣味でね」
「あんたは惑星ディート来て1年足らずだったか……。オレは18年も経っているから地球の思い出も薄れてきてるのかもな」
「そんなもんかね?」
「ああ、こっちの文化に慣れるだけで精一杯だったとも言えるがな」
「ちなみにサイが元地球人だと知ってる人間はいるのか?」
「いや、あんたが初めてだな」
「そうか。まぁ、余計なトラブルの原因になりかねないからな」
「そういうあんたは割と周知の事実になっているみたいだが……」
「あぁ、ゲルって魔物は存在そのものが下等種扱いでな。教会連中とスムーズに話せる様に明かした感じだ」
「ふっ、オレはオレで苦労してきたと思っていたが、やはり魔物に生まれ変わる方が難儀な様だ」
「そりゃそうだろ! 何も分からずに森に放り投げられて体の動かし方も分かんないし目すら見えなかったんだから。……まぁ、目は今も欲しいのに変わりないんだが」
「なあ、マナで見ている視界ってのはどんな景色なんだ?」
「お? 興味ある感じ? 試してみるか?」
「可能なのか? 危険が無いのなら興味はあるな」
「じゃあ……」
【幻覚】で最初の頃のゲル視覚を再現して掛けてみる。
「うおっ! なん……だ……これ……。気持ち悪いな……」
「だろ? 360度、球状に広がる視界をマナのみで知覚する感覚は筆舌に尽くし難いだろ」
「すまん! 解いてくれ」
「オーケー」
「ふう……よくもこんな視界で生きてこられたな。頭が処理しきれないぞ」
「慣れだよ慣れ。そして今も見え方自体は変わってないからな」
「凄いよあんた。素直に尊敬する」
「そんな事ないって。簡単には死にたくないから必死になって生きてきただけだよ」
「ところでそんな状態から独力でここまでのし上がってきたのか?」
「いや、そこは1つだけ転生特典っぽいのがあってだな。キュリヤ、喋れるか?」
『肯定、不甲斐ない主を神へと至らしめた功労者であるキュリヤ。お見知り置きを』
「お、おう? 女の声だな……」
「この社で白い少女像みたいなゴーレムは見てないか?」
「あー、見てるな」
「あれがキュリヤで俺がこの地に生まれた時から色々な知識やアドバイスでサポートしてくれてるんだ」
「そうだよな。ゲルに生まれ変わったって言ったってオレ達はゲルなんて生物どころか魔物すら存在しない世界から来てるんだし、なんの説明も無いままだと発狂してもおかしくないよな」
「ちなみに先に発狂していたらキュリヤのサポートすら発動しなかったっていう笑えない余談もあるぞ」
「ふっ、やはりあんたは只者じゃないな。定義は中々難しいだろうが神と呼ばれる存在なのも頷ける」
「やめてくれ。神云々は俺の意思が介在しない創造神の独断だ」
サイが胸の辺りから何か取り出して……口に咥えると火を付けた所から煙草的な物だろうと理解する。
「で、あんたはこれからどうするんだ?」
「そうだなぁ……サイは傭兵なんだっけ?」
「いやまあ、基本的には単独行動の狩人で傭兵の仕事があれば雇われる事もある程度だな」
「ソロか! あの体術の技量があればこそだな。それにしても傭兵メインではなくて狩人か」
「ま、そんなんだから半自給自足みたいな生活だ。飲食店で肉や野草類の買い取りをしてもらったり」
「ハハッ、これまでの俺はこの森で完全自給自足の生活だな。森の外の物といえばポゥに貰ったこいつだけだ」
脇に置いたギタールに人形の手を置く。
「で、これからは?」
「何も考えてはいないんだけど世界を見て回るのも面白いかな? とか思ってるんだよね」
「ふっ、神様の世直し行脚か?」
「そんなんじゃないよ。ただの好奇心……かな?」
「なんだい、男2人で語り合っちゃってんのかい? 随分と馴染んでるじゃないか?」
不意に掛けられたティキの言葉に思う所はある。サイには半日前に喧嘩を売られる様な出会い方をしていたからな。
「ふっ、オレもまだ未熟だったって事だ」
「アハハッ、こいつから見たら人間なんてちっぽけな生き物なんだろうね」
「そんな事ないぞ。神だから……とかって言うんなら四神も元々は人間だったんだからな」
「へえー、じゃあアタシもなれるものなのかい?」
「それは、ゴニョゴニョ……」
うっかり口を滑らせるのを避けてサイだけに【念話】を送る。
「どうも元別世界の人間にだけある要素が神になるのに必要みたいな気がすんだよ」
「……そうか……」
「なんだい? アタシじゃやっぱ無理か。アハハッ」
「いや、そう在ろうとする事は無駄ではないと思うぞ」
「神様からの有難いお言葉かね?」
「ふっ、だな」
「2人して茶化すなよ。俺だってなろうと思ってなった訳じゃないし、神としての在り方なんて俺自身分からないんだからな。「今から貴方は神様です」なんて言われて急に聖人君子の様にはならないだろ?」
「そりゃそうだ」
ケラケラ笑うティキを交えて大半がどうでもいい雑談に興じると夜が更けていくのだった。
時間にしたら深夜だろうか? ゲルでなくなっても睡眠を必要としない俺は相変わらずマナをちまちま弄っていた。傍らにはゴーレムのブラガ、実体化していないがキュリヤも居る。ジルは社の中で一応万が一の為に備えている。眷属の中では1番現地人に近しい存在というか、現代の皆んなにとっては伝説の聖職者の1人だから心強いに違いない。で、俺は何をやっているのかというと成り行きだが神へと至った俺に相応しい人形を作ろうという事だった。
「いまいち見た目については分からないんだよなぁ」
「今のところ一般的な人間の形には見えておりますぞ」
「神の威厳とかは?」
「特に無いですな」
「格好から入ろうか? ヒマティオンとかトガみたいな布を……」
「……なんだか逆に見窄らしくなった様ですぞ」
「うぐ、人形が細過ぎるのか?」
身長2m近くで筋骨隆々、髭も貯え髪も長く伸ばしてみる。
「はて、マイスターは野盗の頭領でも目指していたのですかな?」
「ぅおいっ! 和装はどうだろう……」
日本神話の神様のイメージで服装を変える。
「これは見慣れぬ衣装ですな」
「どうだ?」
「ふーむ、神の威厳と言われれば些か……」
「駄目か……。なんかアドバイスとか無いの?」
『翼を生やし額に第三の眼、左手をドリルに……』
「どこのガキの妄想だよ! そして、情報元が俺の記憶というのが恥辱の極みだよっ!!」
「マイスター、ありのままが1番よろしいのでは?」
「本末転倒にして正論だな……」
『側頭部より角を伸ばし、下半身はキャタピ……』
「ちゃんキュリは少し静かにしとこうか? そして、ありのままって言ったら実体が無いんだよ。もう一周回って更に本末転倒だぞ?」
「いやいや、マイスターが適当に拵えた粗末な人形でもそこに宿るマイスターの神性は微塵も霞むものではございませんぞ」
「そ、そうか? ハハッ、そんなもんかな?」
(ちょろ過ぎますぞマイスター……)
「そういえば、他の神々はどんな見た目なんだ?」
「ミルユー様は……先程マイスターが纏っていた布地に近いかもしれませんね」
「おい! 俺には見窄らしいとか言ってた癖に」
「ですが、ミルユー様は神々しくも清廉なイメージですな。フレール様は白銀の兜に全身鎧の勇ましいお姿ですぞ」
「他の3人……3柱は?」
「残念ながら直接お会いした事はありませんので正確な姿形は分かりませんな」
「そうか」
「俺から見たミルユーにしろフレールにしろ……マナ濃度が濃過ぎて真っ黒い塊に近かったからな」
「そうですな。マナによる視覚だとそう映りますな」
「それ、良いんじゃないか? 光すら反射しない漆黒のボディ」
色そのものは俺に知覚出来ていないのだが慣れたもので想像と推測で人形を真っ黒に仕上げる。
「マ、マイスター、不気味ですぞ! 空間に人型の闇が浮かんだ様な……」
『イーヴルゲル、ケイオスゲルの頃と同様の悍ましい容姿』
「これも駄目かよぉ……。てか、そもそも悍ましい見た目だったんだから今更姿形に拘りもないんだよな」
もう素直に生前の自分に近い成人男性を模して適当に作った人形で良い様な気がしてきた。こうして不毛な時間を過ごした後、元の木阿弥となるのだった。




