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「ミチオ様……」
フレールの社へと到着した悪魔は一直線に俺の元へやって来て仰々しい態度で頭を下げる。左手を自身の胸へ当て右腕は横に広げて……芝居掛かっていて嫌味に感じる。
「此度の慶事、幸甚の極み!」
なんだ? 喋り方まで芝居掛かっている様で気持ち悪い。元々こうだったのかは翻訳してもらっていたから分からないけど大袈裟でクサいな。
「我も畏敬の念を抱きつ共に在らん事をここにお誓い致します」
「ん? あれか? 神になった俺に挨拶しに来たのか?」
「勿論で御座います!」
創造神の降臨を察して来たのかと思ったが俺の方が目的だったのか。それと、どさくさ紛れに共に在らんとか言い出したぞコイツ……。
「何卒、我も眷属の末席へと……」
「いや、そういうのは間に合ってます」
ピシャリと言う事は言っておくに限る。コイツは図に乗らせると絶対に面倒な事になる予感しかしないからな。
「そ、そんなっ……」
「お前ね、今は敵対しない事になってるけど俺に殺されそうになった事は覚えてないのか?」
「おふ、またまた、そんな昔の話を蒸し返して……」
「何百年生きてるのか知らんがお前からしたら昨日みたいなもんだろ!」
「ミチオ様! どうか、ご再考の程を……」
「くどい! 敵対しないだけでもありがたく思っておけ」
「ぐぬぅぅ……」
そんな【念話】のやり取りを見ていた傭兵連中が近付いてくるとサイが口を開く。
「そいつは悪魔だな。仲間かなにかなのか?」
「仲間ではないよ。前に一悶着あっただけの縁だ」
「そうか。あちこちで悶着を起こしてんだな」
「失敬な! 人をトラブルメーカーみたいに言わないでくれよ」
「ふっ、自覚無しか?」
「え?」
あれ? なんか思い当たる節が無い事もない?
「いやいや、コイツはニオの社に巣食っていた魔物だったんだよ。んで、殺してしまうのは忍びないって事で解放してやったんだぞ? 理性的で優しい対応だろ?」
「優しい? まぁ、そう取れなくもないが……」
「アハハッ! XXXの優しさは時に傲慢だからね」
あれ? 俺は声を出してないのに文脈に違和感なくティキに突っ込まれた。腑に落ちない……。まぁ、良い。人間4人と悪魔へ同時に会話する様にして……。
「何やらミチオ様と知己の様だが、図に乗るなよ? 人間!」
「やめい!」
高密度のマナをピンポン球程の大きさでマリスの腹にぶつける。
「フグゥォッ!」
なんならマリスよりも人間達の方が好ましいと思っているんだ。邪魔だからお引き取り願おうか……。
「ミ、ミチオ様、この気安い人間共の肩を持つのですか!?」
「あぁそうだよ。お前はもう帰れよ」
「なんたる仕打ち!? 新たな神の誕生を祝し馳せ参じた次第でありますのに……」
「あぁ、そういえば狼の群れには何しに行って来たんだ?」
「あ、はい、群れの長とは古い付き合いでして、超越種を狩って回っているミチオ様とは敵対しない様に助言をと思いまして……」
「そうか、無駄足だったな」
「いえいえ、有意義な話が出来ましたよ」
「ちょ、超越種って超越種だよな?」
「そうだよワーキヤ。たぶん今のは月狼の事じゃないか? そして、ミチオはXXXって訳だ! アハハッ」
「超越種を狩って回ったって……」
「そうか、知らない連中も多いのか。昏き森に居た4体の超越種はXXXが狩っちまって今は月狼1体しか残ってないよ」
「マジかよっ!?」
「ふっ、やっぱりあちこちで悶着起こしてんじゃねぇか」
「ああ、ちなみにですが狼の長からミチオ様に会う事があれば神へと至った事を祝って欲しいと言伝がありましたな」
「あぁ、アイツは賢くて慎重派な感じで悪い印象はないな。ありがたく祝辞を受け取るよ」
「な、なあ! 巨獣もやられたのか?」
「ああ、最初にやっちまったぞ。そしてアタシ等はその肉をお裾分けしてもらって食べたけど、この世で1番美味い肉だったな。しかも食べただけで存在値が上がるって代物だ」
「なん、マジか! 巨獣を食った!?」
「もう二度と食べられないと思うと悲しさすら覚えるよ」
「改めてこの方の力量が理解できる話だが……」
「巨獣ってのはそんなに強い魔物なのか?」
「相変わらずサイは世の中の事に疎いな。とりあえずデカい! んで、硬い! らしい……」
「お前だってテキトーだろう」
「アタシだって実際見た事はないからね。XXXの感想しか知らないよ」
「あれだな、全長15m位の超硬いカバだな」
「「カバ?」」
「カバは地上最強説も上がる猛獣だな。それが15m級って化け物の中の化け物だな」
「アハハッ! 化け物の中の化け物を一晩で狩ってくる本物の化け物が目の前に居るよ!」
「そういやマリス、お前も長い事生きたら超越種になれるのか?」
「我は300年程生きておりますからまだ3倍は時が必要ですかね」
「そうか、まぁ仮に超越種へと至ったならば眷属に入れる事を考えても良いかな」
「本当ですねっ! 言質を取りましたよ?」
「お、おぅ、考えてやるだけだからな!」
「ふふふ……」
やがて満足そうなマリスは社を後にした。ティキは巨獣討伐の夜の話を傭兵2人に語っている。あの夜の恐怖をハーシルが付け足しながら……。
社の周囲をぐるりと歩いて周り世界中の景色を眺めながら物思いに耽る。……この世界を創った奴を退ける程度には強くなった。初めはそこいらの魔物にやられない様に強くなろうと思っていたのがいつの間にかこの世でも指折りクラスの魔物になり、果ては神へと至った。実感なんて無い。何せ明確な使命も無くただ創造神のカウンターとして邪神なんて称号を付けられただけ……。言い様によっては俺は俺だ! って事だな。お? サッカーだ。ハハッ、随分とボールは転がらないし弾まない様だが、二陣に分かれて足のみを使ってボールをゴールへ運ぶ。細かい所は分からないけど確かにサッカーと呼んで良いんじゃないかな? 他にも色々な人々の営みが確認出来る。人だけではないな。魔物や動植物、この星に息づく全ての生命が、そして無機物までもがマナに満ちている。さて、これからどうしよう? 諸国漫遊なんてのも良いかもな。おあつらえ向きにこの星の上ならば何処へだって一瞬で移動出来る。移動という概念でもなかったか……。
「ミチオ様ぁ!」
ポゥが声を上げながらキュリヤと共に歩み寄ってくる。
「ミチオ様、神殿のお庭で煮炊きをしてもよろしいですか?」
「なんだ、遠慮せずに好きにすると良いさ」
「そうですか、なんだか綺麗な芝生の上で火を使って良いのか少し気が引けて……」
「芝なんて1ヶ月もすりゃ生えてくるし、そもそも愛着があるわけでもないからな」
「分かりました。ありがとうございます」
そろそろ夕飯の準備に取り掛かる時間なんだろう。周囲の探索に行っていた連中も戻って来ている。森で孤独に過ごしていた粘菌生物からすれば随分と賑やかな社の雰囲気が感慨深く映る。ゲルってだけで不当に蔑まれていた存在が神様か……。誠意を持って接してくれる奴には誠意を持って答えたいものだ。
『同意』
「キュリヤちゃん?」
短く答えたキュリヤが急に実体化を解除したものだからポゥが驚いて声を上げる。表で稼働している間は常にマナを消費しているからさっさと消えたのだろう。効率化の鬼の本領だな。ポゥと連れ立って庭の人々が集まる場所へと歩いていく。探索に出ていたグループ8人が近付いて来ると目の前で跪き、口々に新たな神の誕生を祝う言葉と挨拶を発する。薄暗い森の中に漂う明るい空気に当てられて自ずと楽しくなってくる。皆んなに振る舞う様な食料は持ち合わせていない為、何かもてなしを考えていると……。
「気遣いは無用ですよ」
ジルがいつの間にか近くに現れて続ける。
「王国教会の3人は有能そうで安心しました」
「そうか、紆余曲折あったけど最悪のシナリオは回避出来たな」
「そうね、貴方が自身の命を自ら捨てない限り人類滅亡まで想像出来たものね」
「酷い言われようだが……やりたか、ないけど……ん〜、そうなったら人間全てを敵に回しても生き延びただろうな……」
その後どうなるのかは想像したくもない。
「こうして昔の様に神殿に人が集まっているのを見ると私も嬉しく思います。貴方のお陰よ」
「どうした? いつになく感傷的だな」
「ふふ、きっと守護者殿も同じ思いよ」
「そうか、ま、悪い事ではないかな」
陽が落ちる頃にはささやかながら笑顔溢れる宴会が始まった。俺は少し離れた位置で独り、以前ポゥに貰ったギタールでリフを掻き鳴らす。人々の盛り上がりを満足気に思いながらも1つ不満が浮かぶ。目と声が欲しい……。




