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フレールの社の1階、聖堂の様な広間で人間達と会話する。専ら俺という新しい神に興味津々の様子だ。取り敢えず教会のお偉方の相手をジルに任せて社の当代管理者達と挨拶を交わしている。
「知恵の神ニオ様の神殿管理者エニルと申します。新たな神の誕生、心よりお慶び申し上げます」
「豊穣の神ハミール様の神殿の当代管理者です。名前はノークと申します。神様の誕生に立ち会えた事、本当に感無量です」
「わ、私は文化の神キークス様の神殿管理者に任命されているヒィです。よろしくお願いします邪神様」
「ご丁寧にどうも。ミチオと言います。神となったらしいけれど、そんなに気を遣わないでもらえると嬉しいな」
「戦の神フレール様の神殿管理者……」
「ポゥ、お前の事は知ってるから改めて挨拶しないでもよろしい」
「そんなぁ、私も一緒に挨拶したいじゃないですか〜」
そんな感じでワイワイ管理者の娘達と話しているのだが管理者、巫女、シスターと色々な呼ばれ方していたけど特に区別はなく周りの人達が好きに呼んでいるとの事。皆一様に使命感を持っているのを感じながら感心して話を聞いている。会話の中でエニルが質問をしてきた。
「ええと、ミチオ様? と、お呼びすればよろしいのでしょうか? 確か、ミルユー様の啓示だと邪神ゲルボーヤー様と仰られていたかと思うのですが」
「何? 邪神ゲルボーヤー?」
……ゲル坊やって呼ばれていたのが誤訳された? 聞けばポゥ以外の娘達はゲルボーヤーだと思っているらしく、ミチオという名前はポゥ等から聞いていたが神としての名はゲルボーヤーだという認識だったとか。あの創造神! つー事はなんだ? 世界中に俺の事をゲルボーヤーだと宣言しやがったって事か!? 本当に碌でも無い事しかしねぇな! 気を取り直して、あれはミルユーが勝手に付けたあだ名みたいなもので出来ればミチオと呼んで欲しい旨を伝える。そうこうしている内に最初は恐る恐るといった具合だった会話もスムーズになってきた。比較的親しいポゥがいてくれて助かる。恐らく皆んな若い女性なのだろうが囲まれているというのに嬉しさとかが湧かないのは視覚情報のせいだろう。一人一人判別するのは可能だけどいかんせんマナという謎物質を3Dの点描画で見ている様な光景では下心も何もあったものじゃない。
「キュリヤ、出ておいで」
『了承』
超越種3体の素材を惜しげもなく使ったボディが出現し管理者の娘達に一瞬緊張感が走る。
『ミチオの補佐役のキュリヤ。以後お見知り置きを』
キュリヤが挨拶すると一変して美しい白磁の少女像に娘達が群がると口々に可愛いだの綺麗だの言い出すものだから……。
『称賛の言葉を更に要求』
「はいはい、いい加減にしとけよキュリヤ」
『否定、賛辞を贈られるのは至極当然』
「分かった分かった、話が進まないから後でな。で、皆んなジルの事は知ってるよな? あとは表に居るゴーレムのブラガ、この3人が一応俺の眷属というか仲間だな。俺共々よろしく頼むよ」
挨拶と簡単な自己紹介も終わり管理者の娘達はキュリヤを囲んで談笑を始めた。お次は教会のお偉方の相手だな。
「やぁ、どうも」
社の1階奥、祭壇の前で会話をしていた一行の前に音も無く人形が現れるとギョッとした反応から警戒の色を見せる。
「貴方ねえ! 普通の人間はポンポンポンポン急に現れると驚くわよ」
「分かってるって。で、どんな話になっていたんだ?」
「取り敢えず貴方に直接関係のある話ではなくて私が人間だった頃の昔話が中心ね」
「そうかい。改めてミチオだ。いいか? 俺の名前はミチオだ! ゲルボーヤーとは呼ばないでくれ」
「あ、ああ、お初にお目に掛かります。ナラン王国教会でトレスグリューンにある四神の神殿関係の責任者をやっているヤシンと申します」
跪き胸に手を当て頭を下げる所作は堂に入ったものだ。まだ若そうな男なのに責任者とは優秀なのだろう。他の2人もそれに続く。
「同じく王国教会で神殿管理部に在籍しておりますカイです」
「カイと同僚のカークです」
「神となった身だけど気軽に接してくれて構わないから」
3人共若いという事は神殿関係の部署自体が刷新したのか森への行程を考えての派遣なのかもしれないな。まず気になる小太り司祭の件をヤシンに尋ねる。
「ボーツの司祭ナシオですね。彼の最期は我々も見ていましたし目撃者も多数居りますのでミチオ様が責を負う必要はありません」
「ん? まぁ、責任なんて取るつもりは無いんだが、彼にも家族がいたり悲しむ者が居るんじゃないのか?」
「すみません、地方都市の一司祭の家族関係までは存じておりません。しかしながら、創造神ミルユー様が自らの元へと誘ったのですから聖職者としてはこの上ない名誉ではないのでしょうか」
「ボーツの街で問題とかにはならないよね?」
「大きな問題には……いえ、逆に問題なのか?」
「ん?」
「えーと……今回の件の事実だけ並べると創造神ミルユー様が地上に降臨し司祭の命を供物として新たな神の誕生を宣言した訳です」
「まぁ、そうかな」
「という事は司祭はとんでもない偉業を成したと言っても過言ではないのです」
「あー、そういう……理解は出来るな。うん」
「これから彼は偉人として名を残す可能性が高いという事ですね」
「アイツが? いや、理屈は分かるが……」
少しの同情と共に奴に宿っていた【混沌の種】と【予め決定していた未来】の影響が謎のままな事にモヤモヤが残る。もしかして俺が神へと至る為に必要な存在だったとか? 今更考えた所で奴はもう居ないので答えは分からないが少なくとも友好的な関係ではなかったよな。
「な、なぁ、お前達はナシオが俺を罵倒しているのを知ってるよな?」
「ま、まあ、そうですね。我々も目の当たりにと言いますか興奮した彼に【麻酔】という魔法を掛けて眠らせたのこちらのカイですからね」
「そうだったか。じゃあ、そんな奴のお陰で神になったのって変じゃないか?」
「それは……そうかもしれませんが……」
「ミルユーがそれを戒めて、虐げられていた魔物を神座の末席に迎えたって事じゃないかな?」
「えっと? あれ? そう聞いても違和感はないですかね」
「だろ? 森で四神の社を解放した知恵ある魔物が友好的に接しているのに魔物だという理由だけでナシオが罵声を浴びせ、あまつさえ衛士に討伐命令を下し、見かねた創造神様がそれをお止めになられた。社を解放して回る程信心深くも強大な力を持った魔物は神となり人々と友好を結ぶ様に創造神様より御言葉をいただいた。どうだ?」
「あれ? なんだかそうだった気がしますね」
「ナシオ司祭は異常な程ミチオ様に嫌悪感を抱いていましたしね」
「ええ、確かに」
「そうだろうそうだろう」
神殿管理部の3名は納得してくれた様子、脚色はしたが大きな嘘は吐いてはいない。ナシオのお陰で神へと至ったなんて神話は作られないんだぜ。
「教会には神やその伝承の類いを専門にした部署もあるのか?」
「え、ええ、ございますよ」
「新たな神の誕生の一節は君達の証言が非常に大事になってくるんじゃないかと思うんだよ」
「は、はい」
「ところで君達は超越種と呼ばれている魔物は知っているかな?」
「ええ、まあ、実際目にした事はありませんが……」
徐にマナ化して収納している魔物の素材の中から多頭竜の鱗を3枚取り出して人形の足元に並べる。
「これは多頭竜の鱗なんだけど1枚ずつ持っていくと良いよ」
「なっ、買収しようというのですか?」
「嫌だなぁ、王都より遠路はるばるやって来た新たな友へ労いと感謝を込めた贈り物をして何が悪いんだ?」
「しかし……」
「ヤシン殿、友誼の品だ。嵩張るかもしれないが受け取ってくれないか?」
「ゴクリ……。我々の様な者に新たな神が下賜された尊い品だ。カイ、カーク、有り難く頂戴しよう」
「ヤシンさん……」
「よろしいのですか?」
「ヤシン殿、素直さは人間の美徳の1つだと俺は考えているんだけどな……」
「ええ、分かっている……つもりです……」
「ふむ、賢い人間は嫌いじゃないぞ。それに俺は虐げられていた魔物だからな」
「ミチオ様、ありがとうございます」
深々と頭を下げて3人共それぞれ1枚ずつ鱗を受け取った。持ち帰るには確かに荷物になる大きさかもしれないが思ったよりも軽くて丈夫な素材はそれなりに価値があるだろう。これにて小太り司祭に関するディスカッションは終了、神殿管理部の質問に答えながら雑談に移行していった。
「それにしても今頃王国教会本部は上を下への大騒ぎでしょうね」
「なんでだ?」
「いやいや、ミチオ様が新たな神へとなられた事への対応で大混乱ですよきっと」
「自分では聞いてないから分からないんだけど本当に世界中の皆んなにアナウンスされてるのか?」
「少なくとも今回こちらへやって来ている面々は受け取っているのでまず間違い無いかと……」
「そうか、出会い頭にゲルボーヤーって名前を訂正するのが面倒臭いな」




