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元地球人の転生者サイ・シグインと模擬戦をしていた俺は彼の戦闘能力に驚愕していた。
「それ中国拳法か?」
「ベースはそうだ」
「詳しくないんだけど、たぶん発勁という技法を使う時にマナを使っているんだと思うよ」
「そうなのか?」
「うん、絶えず流動的なマナがインパクトの瞬間に体内で凄まじい流れで動いている。格闘技は地球の頃から?」
「あぁ、一銭にもならないのに続けていた。ガキの頃からの習慣みたいなものだな。この世界に生まれてからも物心ついた頃には始めていた」
やはり無意識に使っていた……。というより、これまでの体の動かし方にマナが追従している感じかな? これは意識的に使えば更に化けるんじゃないのか?
「まずはマナを意識する事から始めたらどうかな?」
「あー、【マナ感知】ってスキルだな。悪いが分かりもしないものを鍛えるつもりがなかったからレベル1だぞ」
「そうかい……。あとは【マナ操作】も同時に鍛えたら良いね」
「マナねえ……どうやって知覚するんだ?」
「こればっかりは自分でどうにかというか感覚的な問題というか……ちなみに俺がさっき凄い量のマナを込めたのは分かったんだろ? あとは地球に居た頃と比べて体の動きとか攻撃の威力とか上がってない?」
「ん、んー、確かにそれはある」
ふむ、無意識に使っているものを意識させる……試してみるか。
「逆突きを一発打ってみてくれる?」
「あ、ああ……」
人形の胸辺り目掛けて左拳が飛んでくるがインパクトの瞬間にマナの流れを強制的に止める。ボスッ! と、それなりに痛そうだが先程までの様な威力は出ていない突きにシグイン氏は不思議そうにしている。
「今のはマナの流れを俺が止めたんだけど分かった?」
「分かるというか、分からない事が分かったというか……」
「それが意識的に分かれば更に強くなれると思うよ」
「そう、だな……。うん、試してみる価値はありそうだ」
「ちなみにシグイン氏は神に何か使命を与えられているのかい?」
「サイで良い。そうだな、その辺の話は込み入ってくるんだが、まず与えられた使命はこの世界に徒手空拳を広める事だな。だけどオレはそれに従っていない」
「ん? そういえば使命云々は俺には分からないからな。従わなくても大丈夫なもんなのか?」
「まあ、大丈夫ではないというかどう言ったものか……。12歳より使命に則った行動をせよとの事だったがオレが使うのはスポーツや健康体操の類いではなく効率的に人体を破壊する技術だから……広める気にはならなかった。そもそも頭の中に響く神を自称する輩の声に従うつもりなど起きなかったんだがな」
「へぇ〜」
「で、16歳の時、今から2年前に神の声がこう告げた。君は神様のお願いを聞いてくれないから罰則を与えるとかなんとか……。結果的にはオレの存在値? とやらが上がらなくなったらしい」
「え?」
「だからといって鍛錬を積めば技術は向上するしスキルだとかのレベルは上がっている。特に弊害があった訳ではないな」
「ふぅ〜ん。ま、存在値ってのはゲームやなんかのレベルとは違って強さと直結ではないみたいだからね。ちなみに幾つかきいても?」
「ああ、19だ」
「そうか。まぁ、歴史に名を残す事はない様に神が制約したのかもね」
「ちなみにあんたは?」
「不明だな」
「不明? そういうのが分からない様にされてるのか?」
「……いや、なんというか……。256以上になっていてそれ以降は不明になるらしい」
「なっ! 256!? い、以上!?」
「ただの数字だよ」
「オレもあんたを崇拝しようかな……」
「やめやめ! 神なんて柄じゃないから」
「ふっ、確かに話していると普通の人と変わらない気もするがな」
その後もサイと話していて色々分かる事もあった。人間に転生したとしてもそれはそれで苦労があった様だ。他に元地球人には出会った事はなく俺が初めてとの事だが、妙な含みのある言い方には引っ掛かるものがあった。地球と惑星ディートの文化の違いは非常に興味深くサイはナラン王国からは出た事がないのでここいら一帯と言い直していたが……。
「なるほどね。興味深いけど時間軸のズレみたいのも感じるな」
「オレの地球最後の記憶と、あんたとの間に22年の差があるのにオレが生まれたのは18年前……」
「それに戦神フレールも元地球人だけど、転生は千年単位で時間を遡るのに平安時代の人とか、弥生人、縄文人とは思えなかったしね」
「戦神フレール? 地球人だったのか?」
「創造神はどうか知らないが四神はどうも元地球人らしいぞ」
「オレはそんなにマンガやゲームなんかを趣味としていなかったけど時間操作ってのは厄介なんじゃないか?」
「よくある話だね。時空系の能力とか」
「腹いせに過去に戻ってあんたを消すとか……」
「んー、そこは気にしない事にした方が良いかな。タイムパラドックスとかパラレルワールドとか考え出したらキリがないからさ」
「そう言うもんなのか……」
「過去に戻って俺を消したら俺を消す原因も無くなるっていう様な話だな」
出会って間もない俺を案ずる程度にはサイと馴染めているのだろうと思うと心に温かいものが湧いてくる。同郷というだけでグッと距離が縮んだ気がする。それも海外どころか異世界ならば尚更だ。
「1つ教えておくけど俺は遍く存在する多であり個という状態なんだ」
「何? どういう事だ?」
「たぶん目の前の人型の奴をゲルが擬態した俺個人だと思っているんだろうけど、それただの人形なんだ」
「??」
「ほれ」
人形の首がゴロリと地面に落ちる。ギョッとした様子のサイを見て更に続ける。左腕が肩からもげ落ち、首から股まで真っ二つに割れた胴体が左右にドサリと倒れる。……のと同時にサイの背後に新しい人形を作り出して肩を叩いて驚かそうとしたのだが、すぐさま振り返り構えるサイ。
「おっ、あんたか。一体どうなっている?」
「その反応速度の方がどうなってる!?」
「あーまー、これでも前世と合わせると30年以上武術を嗜んでるからな」
「お、おぅ。……ま、そんなこんなで俺はここに居る様な居ない様な曖昧なものになっているんだよ」
「俄かに理解し難いな」
「サイの苦手なマナって代物そのものみたいなもんだな。ちなみにさっきの時空系の能力だけど空間の方は俺もな」
「流石、神と呼ばれる存在なんだな」
話が一段落した時ポゥが話し掛けてくる。
「ミ、ミチオ様よろしいですか?」
若干オロオロしながら……。
「どした? 話はまとまったのか?」
「は、はい。それにしてもミチオ様のく、首が落ちた時はびっくりしちゃいましたよ」
見ていたのか……。サイと盛り上がっている様子だから話し掛ける頃合いを見計らっていたのかもしれない。
「それでですね、ここ以外の3箇所の神殿へ向かう話なんですが……」
まとめると巡礼として一団全員で3箇所を半時計回りに巡り、最後にここへと戻ってくる。移動は半日もあれば次の場所へ行けるので社の状態を見て2日前後1箇所に滞在する。その際、管理者を当代の巫女達に移譲して欲しいとの事。了承して手始めにここ戦神フレールの社の管理者をポゥへと移そうという話になった。
社の地下2階、コントロールルームとでも言おうか。殺風景な何も無い部屋の中央の床から30cm×30cm、高さ1m位の四角錐状のコントロールパネルが伸びている。四神の巫女4名、王都から来ている教会のお偉いさん3名、あとはジルがここに降りて来ている。6畳間程の空間が狭く感じる。
「……」
「それではお願いします」
ポゥが元気にお願いするが……どうするんだ? ジル、分かる?
「ええ、まずポゥ、操作盤に手を置いてちょうだい」
「はい!」
ガラン……。鐘の音? みたいなのが地下室に響く。
「あっ、えっと……」
「続けてミチオ様もお手を」
「あぁ」
人形の手をコンソールに翳したら頭にアナウンスが流れる。
「神殿管理者権限」
するとステータス画面を出した時みたいに文字の羅列が目の前に並ぶ中から管理者移譲の欄を見付ける。そこを意識してみるとポゥ・オーシンと名前が表示されたので了承を込めて選択する。
「承認。現時点をもって管理者をポゥ・オーシンと認定」
脳内アナウンスが告げると……。
「わ、わっ」
管理者権限の画面でも浮かんできたのだろう。ポゥが慌てながら何事か確認している様だ。俺の方としても個人的にマナを注入した時には何も聞こえなかったのを思い出していた。……これが世界と繋がったという事なんだろうか?
「お疲れ様。無事に完了した様ね」
「あぁ、簡単に済んで良かったよ」
他の巫女さん達も難しいものではないと分かっててホッとしている様子、一方でお偉方は興味深そうに何やら話し合っている。70年も放ったらかしだったので管理者の交代も伝承に残っているだけで実際に目の当たりにした事が随分と感動を与えた様だ。一通り確認を終えたポゥを取り囲み皆んなが質問を繰り返しているが、そろそろ上に戻らないのか? 狭いって……。
「さ、無事に終わったのなら上に戻りましょう」
ジルが促すと我に返った様にぞろぞろと1階まで戻っていく一行であった。




