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眼前に平伏す神を睥睨しながら思案する。どういう落とし所が良いんだろうか? 人の話を聞かない奴ってのは厄介なもので更にとんでもない力を持っているのだから目も当てられない。【超個体】フル稼働で解析しているとまた1つの結論に行き着く。そうだよな、仮にも神だ。こんなに簡単に倒せる訳がない。実体化してはいるが本体ではない。俺が使っている分体とも少し違う。これはこれで神である事に間違いはなく倒してしまえば少なからずダメージにはなるだろう。例えるなら右腕だけを地上に降ろしている状態か? それを倒すという事は右腕をぶった斬られる程度にはダメージがある筈だ。
「むむぅ〜……ミルユーちゃんのマナが全然無いじゃないか!」
今更気が付いたのか。既に人間より少し多いというレベルになってからようやく認識した様だ。
「【魔法破壊】」
ボソリと呟いた神、拘束を解く為の発動だろう。魔法を解除する魔法に対しての解除は無理だった様で上手く打ち消し合ってくれれば儲けもんのつもりだったが拘束と解除を繰り返す泥試合になるのだろうか……と、思ったが魔法はあらぬ方向へ。
「ミチオ様! ナシオ司祭が……」
「かか、神よ! 愚かなこの者に裁きをっ!」
バダッと社の扉がまたも勢いよく開かれた。神は自身の拘束を解除したのではなく小太り司祭の隷属を解除していた。なんで? 意図を読み切れずに判断が遅れた。
「【生贄】【神の秩序】【聖杯】」
ぶつぶつと何事か唱える神が魔法を使っているのは分かるのだが攻撃的なものでもバフ、デバフ系の予兆でもない。情報不足、予測不可能、未知の魔法に徐々に焦りが出てくる。急に力無くナシオが倒れるとその体からマナが溢れ神の元へと収束していく。
「【夢物語】」
少し間を空けもう一度呪文を唱えた神の体がふわりと宙に浮くと直立し、構図は逆転して見下ろされる格好になる。【超個体】により多角的に解析してはいるが全く何も分からない。辞書に載っていない文字は調べ様がないのと同じ。とっかかりすら無ければ予想すら出来ない。キュリヤもお手上げなのか何も助言は無い。実際には流れる筈がない冷や汗が出ている感覚。
「ミルユーちゃんが定義する。この者は邪神である」
神の言葉と共に俺が操っていた人形がぶるりと震えた。遠巻きに見守っていた人々からワァッと声が上がり大きな歓声の後口々に何か話し始めている。何が起こっている? 神の言葉で何らかの変化があったであろう人形も特に行動に制限も無く、ゆっくりと地面に降りてきた創造神ミルユーが口を開く。
「ゲル坊やは凄い進化をしたので神の末席へ加える事にしたよ」
【邪神】
神の末席……御免被る。神のやり方に憤って敵対をも辞さないつもりだったのに同じ系譜へ連なってどうする。そして進化と言ったが、俺の記憶だとキュリヤの言葉は種族変化であって進化ではなかった筈。向こうも俺に手が付けられないから手っ取り早く懐柔策に出たんじゃないのか? それにしても周りの人間達が歓喜や祝福の様な雰囲気を出しているのが気になる。ジルは? この状況を説明出来るか?
「はい。創造神ミルユー様、ミルユー様が地上に遣わした智神ニオ様、戦神フレール様、豊穣神ハミール様、文化神キークス様、それに連なる新たな神、邪神ゲ、ミチオ様の誕生となりました」
「まぁ、そこまでは文脈を読んでいれば分かるんだが……」
「そうね。新たな神の誕生なんて人間にしてみれば神話を自ら体験している様なものね。200歳の婆さんの私でも身震いしてしまう程の出来事よ」
「ふむ、なんとなく理解はしたけど創造神ミルユーを絶対者として崇めているこの世界の連中にとっては。という注釈が必要だな」
「う、貴方と出会っていなければ本当に手放しで喜んだのでしょうね。新たな神の誕生なんて御伽話みたいなものだもの」
「そう、そこだ。今は手放しではいられないんだろ?」
「……なるほどね。立ち位置が違うと見え方も違う。ミルユー様が間違っているとは誰も考えないのだから彼等の反応に違和感があると……」
「当たり前だ。ここに居る人間達すら巻き込む規模の魔法を放とうとする奴をまだ崇めるか?」
「あれは……本当に感謝しているわ。でも発動前に貴方が消したんだもの彼等の中に気付いた者が居たかどうか……。それよりナシオ司祭が神の供物となったのにそれすら神の元へ召されたと羨む感覚が理解出来ないと言われれば私の方も理解は出来るけれど共感は難しいのよ。生まれてこの方そう在ったのだから」
「オーケー、スタート地点が違うなら仕方ない。だが、俺は自分を曲げないぞ」
「でしょうね。はあ〜、こんな主に仕える事になっていたなんてね」
「なんだ? 眷属を抜けるのか?」
「それこそご冗談を! 神の眷属なんてフレール様に願ってもなれるものではないもの」
「あとはナシオが供物とかって辺りでよく分からない魔法を神が何度か繰り出していたんだが分かるか?」
「本質は分からないけれど神の宣告により貴方が新たな神であると認定して世界に知らしめた感じかしら」
「あぁ、そういう魔法……というか魔法的に世界に干渉したって事か」
「ええ、そしてこの星の生命全てが神の啓示として受け取った。その結果周りの人間達が歓喜したって流れかしらね」
そうこうしている間に神もまた何事か続ける。
「ミルユーちゃんも間違う事があるの。でも、そんな時は邪神ゲル坊やが戒めてくれる。皆を豊かにする為にこれからも頑張るからね」
ドッと沸く周囲の人間達、歓声を一身に浴びて満足気な創造神ミルユー、若干置いてけぼりな俺、ブラガは……ブラガは庭の定位置で跪き微動だにしない。キュリヤは最低限の翻訳以外は神の降臨以降息を潜める様にだんまりだ。そして上手い事まとまったと判断したのか宙に浮かびながら皆んなに手を振る神、有耶無耶なまま帰るつもりなのか?
「おい! 待てよ。話は終わってないぞ」
「んら? ゲル坊やもしつこいね。ミルユーちゃんこれでも忙しいんですけど……」
「まず地球人を殺して連れて来るのはやめろ」
「ギクゥ! なんで君にそんな事言われ……」
「ふざけるな! さして考えもせずに連れて来て思い付きの使命を与えて、どれだけの人達が無念の内に死んでいったと思ってる?」
「そ、そんな事ないもん! みんなミルユーちゃんの為に頑張ってくれてたもん」
「ほんの一部の人間だけだろ! 大半の人達はお前に運命を翻弄されて苦悩を味わっていたんだ。仮にも神を僭称するなら目を背けるなよ」
「僭称って……ミルユーちゃんは本物の神様なんですけどー?」
「話をすり替えるな! いいか? 二度と地球人を引っ張って来るなよ!」
「む〜、善処します?」
「曖昧な上に疑問系ってお前!」
「という事で今回の降臨は以上だよ! いつだって地上の平穏を見守っているからね。じゃあねバイバイっ」
言うが早いか、ぐんぐん上昇していくと神は眩い光と共にその痕跡を消した。
「手前ぇ! 逃げんな! クソッ!」
地上の何処にも神の姿はなくなっていた。なんなんだよ! 消化不良も甚だしい! 意趣返しどころか逆に上手く利用された様な不快感が残る後味の悪い結果になった。
「ミチオ様ぁぁっ!」
ポゥが駆け寄ってくるのだが……言葉が分かる……?
『肯定、神の1柱となった事により、この世界の理がインストールされた模様』
「インストールって……ソフトやアプリじゃあるまいし」
それにしてもキュリヤの奴、神が居なくなった途端に喋り始めたな。絶対に神との接触を避けているだろ。そして言葉が分かるって、なんて、なんて素晴らしいんだ! 眷属達よ、今まで翻訳してくれてありがとう! 俺はやっと言葉の壁を乗り越える事が出来たぞ!
「あら、労いなんて珍しいわね」
「そんな事ないぞ。これまでも感謝すべき時には感謝していたって」
大きなストレスが取り除かれて清々しい気持ちでいっぱいだ。ゲルの体からも脱却したし俺の異世界生活はようやくスタートラインに立ったんじゃないか? コホン! 改めてこの世界の人間達との会話を楽しもう。
「ヴォフェロ、バババゲェヴァ、ミ゙ミギョギャ」
「ミチオ様? 何か伝えたいんですか?」
そういえば発声練習は途中で投げ出していたんだった……。




