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「貴様ぁぁっ!」
激昂した小太り司祭がズカズカと音が聞こえそうな勢いでこちらに向かってくる。肩を怒らせ一直線に近付いてきたかと思ったら激しく捲し立ててきた。
「人心を惑わす邪悪な魔物よ! 貴様の思い通りにいくと思うなよ!」
「ちょ、司祭様? 落ち着いて下さい」
レヒツが慌てて止めに入るがナシオの勢いは増す一方で……。
「とうとう化けの皮が剥がれおったな! お前達! こやつに騙されるでないぞ!」
1人ヒートアップしているナシオに対して周囲の反応は困惑というか冷ややかというか、幸い彼の意見が多数派ではなかった事に安堵した。ナシオは高濃度のマナを人形に集めたのを感知して神の降臨と勘違いした様だが蓋を開ければ俺だったのが気に食わないらしい。数人がナシオを囲んで宥めているがギャンギャン喚くばかりで一向に鎮まらない様子に痺れを切らし【隷属化】をナシオに発動させる。
「あぅ……」
大人しくなったのを確認してジルに社の中で取調べをお願いする。
「はあ〜、どうしてこのナシオは……ま、良いわ」
一体なんだって言うんだよ。そんなに気に食わないのなら来なければ良いのにな……。と、考えたその時、一瞬世界から全ての光が消え失せて漆黒の闇に包まれた。それは本当に一瞬で次の瞬間には眩い閃光が世界を駆け巡るとやいのやいのやっていた社の庭に人影が現れる。
「アーハッハッハッハッ! 君、本当にあのゲルの坊やなの? 随分と面白い事になっているじゃない」
異常な程膨大なマナ集積体、神である。そして、脳内に直接語り掛けてくる言葉の意味は翻訳されずとも理解出来たのか、日本語で話しているのか……。
「どれどれ? ん? あれ?」
少しでも多くの情報を手に入れる為に全神経を……【超個体】フル動員で相手を探っていく。
「おかしいわね。ステータスに虫食い? まあ良いわ。君に感想を聞いても良いかな?」
感想だと?
「どう? ミルユーちゃんが創ったこの世界は?」
そうか、コイツが……。仮想ラスボスの創造神ミルユーか。
「ん? どしたぁ? 黙っちゃって? 神様相手に緊張してるのかい?」
あれ? 演算結果の悉くがコイツに勝てると判断している。
「それにしても君のマナ保有量が異常になっちゃって驚いて見に来てみたんだけど……。ん〜、どうして所々視えないのかな?」
「感想か……。まだ終わってもいないのに感想なんて無いんだが、ひとつだけ言っておく。お前のお遊びに付き合う気は無い!」
「そうなの? でもそれだと神ちゃん困っちゃうんだよねえ……。ま、いっか。君の場合、経過観察が目的だし。とにかく色んな事を試してちょうだい」
「例えば神の打倒とかな」
以前ならばゲルボディで直接拘束していた方法は今や周囲に散らばるマナでどうとでもなる。練りに練り、圧縮、収束、積層を重ねたマナで神の体を捕える。
「あら? どういうつもり?」
「あんたのやり方に納得していないもんでな」
「お馬鹿ちゃんね。神様にこんなの通用しないのよ」
と、言ったきり微動だにしない神に【醒めない悪夢】を発動。こっちはどのくらい効果があるか分からない。
「……ぁ、れ? ひっ!」
神殿の庭に集まっていた人々は一種の恐慌状態となっていた。
「何が起こって……」
「どうなってんだ?」
「ミチオ様……」
「アハハ! やりやがった! XXXが神様に噛み付いたぞ!」
膝を折り祈っていた人々の中でも事情をある程度理解している者達は多少楽観視し、そうでない者達は不敬を指摘する者もいれば大半が狼狽えながら固唾を飲んで見ている事しか出来ない。神に楯突く。普通の人間ならば誰もそんな行動を取ろうとはしないだろう。だが、現実として目の前で神へと武力を行使する人型の何者かが居るのだ。拘束された神は無抵抗でいる様子だが傍目には何が起きているのか分からない。実はミチオにも実態が掴めておらず疑心暗鬼の中で試行錯誤して神の実力を探っているのだった。
「取り敢えず動きは制限出来ているのか?」
「……」
細心の注意を払い観察してみても一切動く気配はないので神のマナを吸収していく事にする。神とは言ってもマナそのものは森羅万象と大差なく、このまま全て平らげてやるのも可能な様だ。
「それにしても凄い量だな」
神を神たらしめる構造は特に見当たらない。ただただ膨大な量のマナを吸収していくだけの簡単なお仕事だ。
「ん〜、困っちゃうなぁ。神様にこんな事しちゃ駄目なんだから……。おしおきが必要だね!」
創造神ミルユーは確かに動きを制限されていたが精神攻撃は最初の一瞬しか効いていなかった。ステータスが一部見られない点、神をも拘束出来る力を使う存在を多少不思議に思いながらもどこか満足な気分だった。
『警告……』
「分かってる!」
「【神の鉄槌】」
拘束されている筈の神の体内でマナが急速に魔法発動の動きを見せる。感覚的に捉えてみても相当大きな魔法に違いない。単純に破壊力に換算出来るものでもないが規模が大き過ぎて想像出来てしまう。放たれれば一帯の広範囲が無に帰すだろう。
「周りの人間はお構いなしかよ! お前の信者だぞ!」
【魔法破壊】で構築途中の魔法を随時潰していく。魔法での拘束を解き神に問いただす。
「お前、正気か?」
「ん? あ、動ける」
「周りの人間まで巻き込むのは違うんじゃないか?」
「あれ? 魔法が発動してない?」
「何が起こるか分からんが、あんな物騒な規模の魔法を放てば周囲一面虚無だぞ!」
「ゲル坊やが悪いんだぞ! ミルユーちゃんを縛り付けたりして」
なんとなく神の本質が見えた気がする。自分の思い通りにならなければ容赦なく極大魔法を放つ危険な存在……。
「いいもん! もう君はいらないんだから。じゃあ死んじゃえ! 【即死】」
魔法は発動させない。少しでもマナに魔法的な動きが見えたら速攻で潰す。そうしながらもマナの吸収は引き続き行っている。根比べ、とまでは時間は掛からないだろうと予測はしているが何事にもイレギュラーはあるので集中力だけは切らさない様に……。
「あれ? なんで? なんで魔法が打てないの! 神様の魔法を掻き消すなんて無理な筈なんですけど?」
苛立ちを見せた神は両掌を上へ向けて小指側の側面を合わせる様に胸の前に置くと何か呟いた。
「【死は始まりに過ぎない】」
何かの呪文みたいに聞こえたがマナは魔法的な動きを見せていない。
「……」
「……」
自分にも周囲にも特に変化は無く、神のマナ量も既に神とは呼べぬレベルにまで低下している。
「え? なんで? 契約だけは絶対の筈なのに……」
苛立ちから一転、狼狽を見せる神は焦りから愚行に出た。
「む〜、ミルユーちゃんの言う事を聞けぇ!」
4m程離れた位置から殴りかかってくる。最早ケイオスゲル時のミチオよりも少ないマナしか持っていないのに……。
「癇癪起こすガキかよっ!」
改めて【重力影縛】4重掛けで拘束。
「ギィィー!」
その場で土下座状態になった神を見下ろす。
「か、神様にこんな事して赦されないんだからね!」
「お前の許しなどいらんっ!」
既に人間よりもマナ量が少し多い程度になった神では相手にすらならない。いっそこのまま……とも思ったが仮にもこの世界の創造主、自分の怒りに任せてしまうのでは神と同じだし、どんな影響が出るのか想像もつかない。最悪この星が崩壊するなんて可能性もゼロではない為軽率に行動するべきではないと堪えた。実際、自分に起きた異世界転生の顛末を知った時の怒りは神を殺す事も厭わないつもりだったし、今も怒りが沸々と湧いているのも事実だが地面に這いつくばっている神の無様な姿を見てこんな奴の身勝手で大勢の地球人が翻弄されていたと思うと虚しさすら感じる。
「ミチオ様、僭越ながら創造神ミルユー様を滅ぼすのは……」
「あぁ、この場ですぐにどうこうする気はないよ」
ジルが緊張気味に進言してきた。だが、この愉快犯をこのまま野放しにしても同じ事を繰り返すだろうし、こちらの言葉を聞くとも思えない。超常の力を持った我儘なガキとは面倒この上無い存在だな。ならば、より上位の存在として神を戒める鎖となろうか?
「おい、お前じゃ俺を消す事もコントロールする事すら出来ない。逆に俺はお前の事をどうとでも出来るんだ。理解出来るか?」
「ん゙ー! そんな事ないもん! ミルユーちゃんは神様だもん!」
まだ駄々をこねる元気が残っている神に辟易しつつも1つの解析結果に自分でも驚いた。色々な断片が繋がっていく。まず俺は神の思い付きで人間の魂をゲルに入れられた存在だ。その時点で既に神へと至る可能性が生じていた。それは神の意図ではなく神謹製のキュリヤという存在が鍵だった。謂わば神性を帯びた何か、ゴーレムの様な擬似人格にマナ生命体という在り方、データベースであり演算装置でもある。そしてゴーレムの残骸で受肉した時点では詳細不明だった神の残滓の様なマナがあったのだが、あれは神側からすれば安全装置か保険みたいな役割も兼ねていた。どちらかと言うと神とキュリヤのホットライン的な側面が強かった様だが俺の転生から3ヶ月程までは時折報告していたのを不信感を抱いた事からやめていた。キュリヤの自我の目覚めか? ……という事でキュリヤの早い反抗期が今、俺が神を圧倒している要因の1つだった訳だ。思えば神側の存在である筈のキュリヤが戦神フレールが降臨した時も関わろうしなかったのは何か思う所があったのかもしれない。
「むぐー! こんなのへっちゃらだもん」
地べたに伏した神はまだまだ元気なようだ。
「クソッ! 誰かこの魔法を解除しろ!」
すっかりミチオの意識外で拘束されたままのサイ・シグインがいた。




