表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/151

45

「確かこの辺だったよな?」

『肯定、ミチオが多頭竜(ヒュドラ)の糞尿に塗れて転げ回っていた場所』

「あぁ、はいはい。そんな事もあったな」

改めて森の中心部の泉近辺へやってきていた。あの時なんでこの場所の浄化に固執する様な感覚になったのか今ならよく分かる。そして異変にも気付く。

「なぁ、また汚くなっていないか?」

『否定、大気、地面、及び湧水に汚染物質等は確認されない』

「という事は……これ、マナの異常だな」

『肯定、水源よりネガティブなマナの湧出を確認』

「そして、これは地球から引っ張って来られた連中の魂だ」

意識を向けると夥しい数の残留思念が渦巻いている。憎悪、無念、恨みつらみ、中には天寿を全うした満足気な者もいた様だが大多数が神の所業への恨み節を語っていた。


スケートボードを普及させたいと考えた神により連れて来られた若者は地球の記憶を残したままこの世界に赤子として誕生した。幼少より才覚を現し神童として親をはじめ周囲の大人達が大いに将来を期待したのだが、少年に与えられたこの世界での仕事はスケートボードの普及。地球ではスケーターであった彼だがスケートボードを制作した事など一度もなく、試行錯誤の結果ある程度妥協すればスケートボードと呼べる物を作り上げたが元を知っている人間からすれば素人の工作レベルの代物でしかなかった。結果としてこの世界にはスケートボードは普及しなかった。彼の口癖は「スケボーも無い世界でスケーターなんて出来る訳ねぇだろ!」だった。この世界へ来た事で得られた恩恵である【別次元の理】というスキルにしたって元の世界の記憶を残しておけるだけ。何かを成す為には相応の対価が必要なのは何も変わらない。それなりに滑る事は出来ても一流のアスリートとは到底呼べないレベル、休日に趣味でパークへ行く程度の元高校生。そんな彼に一から全てを作り上げる事は当然叶わずに30歳前には諦めてしまい平凡な生涯の幕を閉じるまでに現地人を娶り2人の子供にも恵まれながらも心の隅に消えない汚れの様にスケートボードの事がこびり付いていた。


ある者もまた地球の記憶を持ったままこの星に生まれ落ちたのだが、神に与えられた使命はゴーヤを広める事。何十年も家庭菜園を続けていた彼女だった為、野菜を育てる技術は問題無かった。しかし、この世界にゴーヤという野菜は存在せず、無い物をどう普及すれば良いのか分からずについぞこの世界でゴーヤを見る事無く亡くなってしまった。彼女の周辺の農業レベルが少しだけ上がったがそれだけだった。


ある種の成功例としては、この星のとある地域に根付いたサッカーがある。細かな差異はあるものの足でボールを蹴りゴールへ入れるのを目的とした対戦型スポーツという意味では概ねサッカーと呼んで差し支えない。こうした成功例は決して多くなく、そもそも神の理不尽な仕打ちに途方に暮れる人間も相当数存在していた。そして俺はというと面白半分の思い付きでゲルに人間の精神を突っ込んでみたらどうなるかの実験の為に異世界召喚された寸法だ。


「キュリヤ、この負の感情の坩堝みたいなマナ、全部吸収しようと思ってるんだけど……」

『却下、影響が推測不能』

「これ見てたら種族変化した時に吸収したマナ溜まりみたいに見えてきてさ」

『否定、類似点はマナ集合体である部分のみ』

「よく観察してみてくれ。ベクトルを持ったマナという意味では同じじゃないか?」

『肯定、一定の類似性を確認。ただし、吸収する事は承服不可』

「こいつらは神の勝手な都合で望まない世界へ連れて来られた俺の同郷達だ。もしかしたら嬉々として異世界を満喫した奴もいたかもしれないけどな……」

死んだ地球人の魂がどういうシステムでこの場所に集められているのかは分からないが、おいそれと一般人が踏み入れられぬ場所だし意図的なものだと感じられてしょうがない。俺が確認出来ていないだけかもしれないが、こうして見比べてみると今まで他の場所に漂っていた残留思念の様なマナに元地球人はいなかった筈。今、足元から噴き出してきているマナには共通点があるからだ。何、と問われても分からないが明らかに一つの共通点があるのだ。

「なるほど……魂そのもの。周囲に漂うマナがその場に残っている感情や思考を具現化しているのではなくオリジナルのマナと呼ぶべきものか……」

『解析の経過報告、この世界で生まれた住人の魂とも言えるマナの根源は死亡した際には世界を巡りやがて新たな生命へと輪廻を繰り返している。しかし異世界より召喚された者の魂は元々この世界に居場所等無く行き場を失いこの場に(おり)の様に集まっている模様』

「マイスター、よろしいですかな? 人間の一行が神殿へ到着致しました」

眷属の秘事(インナーサークル)】により報告が入る。

「オーケー、ブラガ。もう少ししたら戻るから丁重にもてなしておいてくれ」

「あい分かりました……」

「そんな訳だ。キュリヤ、やるしかないぞ?」

『否定、現状では……』

混沌の種(カオスザーメン)】発芽

予め決定していた未来(モナド)】結実

『【混沌の種(カオスザーメン)】の発芽、及び【予め決定していた未来(モナド)】結実のアナウンスを受信。詳細は不明』

「またか? 今度は誰だよ? ってか何人に影響を与えているんだよ?」

謎スキルが本人の預かり知らぬタイミングで発動している。前に発動した時に変化が大きかったリンクスが1人目の対象だとして、残るはボーツの教会の小太り司祭(ナシオ)戦神の神殿管理者(ポゥ)教会衛士(レヒツ)、傭兵団【火中の栗チェスナッツ・イン・フレイムス】の魔法使い(ティキ)若手(ハーシル)、この中の誰かだと予想は出来る。ブラガとジルに事情を説明し5名の人間が来ているか、更には何か変化がないか聞いておく。この状況では影響が未知数の地球人のマナ吸収は保留にするべきか?

『解析完了、マナの吸収を推奨』

「さっきまで慎重だったのに、どんな解析結果だった?」

『【超個体(スーパーオーガニズム)】の能力と演算を分担、帰結する未来に大きな不具合は無いと判断』

「そうかい。じゃあ、一丁吸っときますか」

なるほど地球人であった証が【別次元の理】、現地人との差異としてくっきり分かれるのがこの部分なんだな。……地の底から次々に澱んだマナが湧き出ている箇所で集中する。地表に顔を出しては泡の様に消えて、また新たなマナが湧いてくる。正直、皆んなの無念を晴らすなんていう正義の味方みたいな考えは俺には無い。創造神と敵対するつもりなので少しでも戦力に繋がるならば手段は選ばないだけだ。ただのエゴイズム。

「ふごっ! ぐぬぅぉわぁ……、こ、ギギギギ……、い゙ぃぃっ!」

思考や感情といった物理的に存在しない感覚器官に直接触れられたイメージ。頭蓋骨を蓋の様にカパっと綺麗に外して脳みそを優しく撫でらているかの様な気持ち? 想像すらも追いつかないもっとこう……寒気がするのに嫌悪感は無く、ゾクゾクとしながらも微動だに出来ない。一人一人のマナを吸収するごとに存在値(ダーザインレベル)がぐんぐん上がっていく。実際には数分程度の時間が永遠とも思える程に長く感じ、浮遊感、吐き気、目眩、高揚感、まとまりなく加速してゆく思考と同居する思考停止、回転しながら明滅しているかの様な視界、その場を一歩も動かずに激しい運動をしている様な錯覚、二重螺旋を描きながら続々と俺に吸収されていくマナ達、意識が飛びそうになりながらも過覚醒状態、目も鼻も口も耳も四肢すらも失ったというのに知覚というのはこんなにも膨大な情報量だったのだなぁ……と思っている間にゲルボディが弾け飛んだ。

「うぉぉっ!」

【種族変化】

【マツロワヌモノ】

『報告、種族が変化』

「ん? なん……だ……? 体が無い?」

『否定、現在のミチオの状態は……、……、…………、……………………』

「ぅおいっ! 随分溜めるなぁ。キュリヤでも分からないのか?」

混沌の種(カオスザーメン)】発芽

予め決定していた未来(モナド)】結実

『報告、種族変化により種族固有スキル【混沌の種(カオスザーメン)】の強制発芽、及び【予め決定していた未来(モナド)】結実のアナウンスを受信。詳細は不明』

「そっち? 俺の状態の方は?」

『現在、ミチオの種族名は不明(アンノウン)

「どういう事?」

『不明、この星の生態系から逸脱したと推測』

「ははぁ〜ん、イレギュラーな種族変化で神の創造物から脱却出来たとも取れるか? 想定外、結構じゃないか」

『限定的ながら肯定、種族変化後に取得したスキルに当機では解析不能なものが存在』

「へぇ、どんな名前?」

『マツロワヌモノ』

「まつろわぬもの……? 劇的というか運命的なものを感じるが作為的とも取れるか? それとも数百人の地球人の怨念が創造神に従わせないのか……。で、詳細は不明と」

『肯定』

「……ター、マイスター……、マイスター聞こえておりますかな?」

「どした? ブラガ」

「ああ! 繋がっておりましたか。数分間ですがマイスターとの接続が不明瞭になっておりましてな。して、先程の【予め決定していた未来(モナド)】の件ですが、どうもティキ嬢に変化が見られた様でございますぞ」

「へぇ、詳細は……の前に近々の一個前だよな。ブラガ、実はつい今しがたもう一度発動したから他の連中にも気を配ってくれ。んで、ティキはどうした?」

「まったく目まぐるしいですな。ティキ嬢はどうもマイスター打倒の為に刻んだ呪法が解除された様ですぞ」

「本人は良い方に捉えているのか?」

「ええ、それはもう文字通り憑き物が落ちた表情でしたよ。もっとも欠損部位の回復は恐らく望めないでしょうが……」

「そっか、本人にとって良い変化ならば問題無い。もう間も無く戻るからもう少し待っていてくれ」

「ちょ、ちょっとちょっと! そんなのんびりとした会話だけで終わらせないでちょうだい!」

「ジルか?」

「貴方、自分の現状を把握してないでしょ? キュリヤ様との会話の途中からしか聞いていないのだけど……」

「おっと、そうだった。物理的な存在であるゲルの体が無くなったんだよ。純粋なマナ生命体になったって事か?」

『否定、現在ミチオの存在を特定する言語がありません』

「おっと? どうゆうこった?」

『生命体であると断定不能』

「余計に分からないぞ?」

『この星のマナそのもの?』

「お? キュリヤが疑問系を使って困ってるぞ」

「はあ〜、茶化してないで(わたくし)達にも分かる様に説明して欲しいわ」

『逆に質問、ミチオは現在世界をどう捉えているのか』

「世界? 視界か? ぁ……」

マルチタスクの如く世界の様々な景色が見える。見た事もない景色ばかりで新鮮だが見え方そのものはゲル時代と変わらないという理不尽。戦神フレールの社には人間が沢山来ている。悪魔(マリス)(ガルム)の集落に居るのも見える。何やってんだアイツ? 暫し景色をザッピングしながらキュリヤに問う。

「なんか世界中の景色が見えるんだけど」

『肯定、推測ながらミチオは現在この星に存在するマナと同様の存在としか形容出来ない』

「ん? マナ単位に分裂した……? 感覚的に聞くけど世界中あらゆる場所に同時に存在しているし、存在していない状態でもあるって感じか?」

『肯定、ゲルという器に入りきらないマナ量であった為に【超個体(スーパーオーガニズム)】による最適化が行われたと推測』

「物凄い量のマナを吸収していたら入りきらなくなってそこら中に散らばったってか?」

『肯定、ただし単純なマナ量よりも大量に【別次元の理】を取り込んだ結果と補足』

「地球の皆んなオラに力を! なんてな。……パワーアップだよな? 弱体化とは思えないしな。ところで、じゃあ一体俺は何処に居るんだ?」

『主体が指定する場所?』

「珍しくキュリヤが断定出来ない事ばっかりだな」

姿形を持たず何処とも知れず、されど確実に存在している状態。いよいよもって理解の範疇を超えているんだけど不思議と不安感は無く妙に落ち着いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ