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異世界人外転生してから……どの位経ったっけ? 9ヶ月とか? 1年には満たないだろう時間が経過したのだが、ようやく俺の身に起きた事情が見えてきた。この世界、惑星ディートは地球を模して創造神ミルユーによって創られた。それだけならば俺もそんなに気にしなかったのだが、あたかも自らの実験場の様に世界へと干渉している神には我慢出来ない。神がサイコロ遊びをしていて、ある時は地球から酒作りが出来る者を召喚してこの世界に酒を広め、またある時は地球から登山に精通した者を連れて来てこの世界で登山がちょっとしたブームになった。そうして徐々に歪に拡大していく文明の為に地球から連れて来られた連中には同情もあるが、事はそう単純ではなかった。創造神ミルユーは確かに超常的存在であろうが四神と呼ばれる神々は元地球人だった事実には触れねばならないだろう。何故創造神ミルユーに従っているのか、それは分からない。トントン拍子で美味い地位に就く事が出来たからか、反発しようにも力及ばず麾下となっているのか……。勿論、神に反旗を翻して消えていった者が居たかもしれない。いや、この事実自体に気付いた奴がこれまで居たのだろうか? ありがちな話だと何も知らずに神に踊らされているパターンか? いずれにせよ俺が現状で把握している事項で進めるしかないんだが敵対するには神は規格外過ぎるだろうな。
「キュリヤ、俺の状況はどこまで観測されている? 正直に答えてくれ」
『可能性であれば99.9999……以下9が無限%全て観測可能。ただし、無意味であると思われる為に一定の水準を満たす事象が生じた場合にのみ観測するパターンであると推測』
「ふむ、神への蜂起とも取れる言葉を吐いた訳だが、どうだろうな」
『不明、なお当機に自分自身では不明な何らかの意図が込められたシステム取付の可能性を提言』
「確かにな。キュリヤ本人に分からない細工ねぇ。そこだけは大丈夫だ。そう、さっき確信したばかりだが間違いなく今現在のキュリヤに神の手による痕跡は一切無い」
これは初めてキュリヤがゴーレムの残骸で実体化した時まで遡る。どちらともなく何の意図があったのか今となっては分からないが、お互いに神の干渉をなんとなく嫌っただけの事だったのか……。俺はキュリヤから神の残滓を濾し取る様な感覚、一方でキュリヤは俺の体内に神の干渉の痕跡を置いていく様な感覚でもって実体化したのだった。そして神の思惑の一端を垣間見た今なら分かる。キュリヤの中では神は死んだ。きっと【超個体】の働きなんだろうけど、まるで生命維持と最適化の権化だな。何かの可能性を今も陰ながらプチプチ潰してくれている事だろう。更にはキュリヤが俺に対して神の意図を心配する物言いがあるのが何よりも頼もしい。それすらも演技なら俺にはお手上げだが……。
「キュリヤ、良いんだな?」
『肯定、ミチオのやりたい放題』
「なんだそりゃ……」
俺はこれからこの世界の人間と敵対するかもしれないぞ? 最悪この世界の生命を全て食い散らかしてでも神様とやらをぶちのめしてやる! まずは潜伏して力を蓄える。
「はぁ、折角知り合った人間達も立場はこの世界の神様寄りなんだろうなぁ……。創造神だもんなぁ……」
『報告、信仰心の受信を確認』
「ん? 信仰心?」
『現在、ミチオを信仰している個体数は4』
「何? 4人の信者がいるって事?」
『肯定、神の器を入手済みの為』
「神の器? 相変わらず唐突で分からない事ばかりだな!」
『存在値100超、魔那、多種族の眷属化、別次元の理』
「最後のヤツ気になるな。別次元の理?」
『肯定、地球での経験であると仮定』
「で、色々な要因が重なって神の器ってか?」
『肯定』
確かに地球人に神の代理をやらせようという意図は見て取れた。今までに地球から引っ張って来られた人間達の魂は3桁をゆうに超える。それぞれ何らかの文明発展の為に利用された被害者と見るか、新たな世界で崇拝にも似た眼差しを受けて調子に乗ってしまった者が居たのではないか? そうして地球人をホイホイこちらに召喚している事も気に入らないし、そもそもゲルの体に人間の精神を入れてみたのはただの思い付きの面白半分だっただけなのは許せない。文明発展関係無いじゃん! 俺だけテキトー過ぎだろ! 神の悪ふざけに本気で反抗してやる所存である。だのにどうして神へと至る道を与えられているのか……。創造神側で起こしたきっかけが思いもよらない結果になったのが俺なのかもな。
「という事で、リンクスとポゥが信者濃厚だとして、神に対抗するにはこちらも神になった方が良いのか?」
『不明、不確定要素が多過ぎて推測不能』
「不確定要素しか無いよな……」
具体的に神へと挑むのならマナ保有量の増加は絶対条件として、この世界を創ったという事は原理原則も作り上げたという事になるので綻びや抜け穴的なものを探すか? 自分で創った世界の文明へのテコ入れの為に地球から沢山の人間を連れて来ている位だから詰めの甘さやケアレスミスに期待だな。そういえば、もう1週間程度の時間で人間達の大きな一団が来る予定だったな。流石にこの世界がムカついたので全員殺すとかはしないけど世界に対する俺の在り方はちゃんと説明しておこうとは思う。
「知っているかい? 新たな神様の事を……。その御方は我々の代弁者!」
ボーツの街、教会の前でリンクスが興奮気味に声を上げる。
「新たな神は創造神様が過ちを犯した時に顕れる存在!」
側から見ている人間はちらほら居るが苦笑と嘲笑が殆んどで話半分といった域を出ない。そんな中リンクスを見つめながら訝しげな視線を送る男が1人。次回の森への遠征を新たな神との邂逅であると声高らかに叫ぶリンクス、神という言葉に反応したのかじっとリンクスの言葉に耳を傾けている男。
「アタシもまた同行出来るのかい?」
ふらりとリンクスの隣りに歩み出た女性が問い掛ける。傭兵団【火中の栗】の魔法使いだった。
「勿論でございます! ティキさんならばミチオ様もきっとお喜びになる!」
「ミチオ様……ミチオ……?」
2人のやり取りを見ていた男が近付いていくとリンクスに声を掛ける。
「その遠征にはオレも参加可能なのか?」
「え、ええ、まだ編成には余裕がある筈です。戦闘要員に限ればの話ですが……」
「サイ・シグイン?」
「どの程度だ?」
「2〜3人で猿1チーム」
「なら問題無い。1人でいける」
「おお、ではこちらへどうぞ」
と言って男を教会内へ案内していくリンクス。
男は軽装の様に見えて急所はカバー出来ている必要最低限の防具を身につけ、腰には鉈の様な物を下げているがメイン武器ではないらしい。目の前に現れた森猫へ向けて目にも止まらぬステップから蹴りを放つと頭部のみがどこかへ吹き飛んだ森猫の肢体はフラフラと数歩動き回りやがてパタリと倒れた。神速の蹴り。脛当てに付いた血糊を気にもせず頭の吹き飛んだ森猫の死骸を首が下になる格好で後脚をロープでまとめて低い木の枝へと引っ掛ける。ボトボトと血を流している獲物を尻目に男は胸元から取り出した煙草の様な物に火を付ける。
「シパーッ! 巨人系でも来ない限りは苦戦しないな」
そのまま煙草状の嗜好品らしきものを吸いパフパフと咥えタバコの要領で煙をモクモクと上げる。
「南無……」
言葉にならない様な小さな呟きの後、すっかり血抜きを終えた森猫の皮を剥ぎ、肉を切り分けてそれぞれ大きな葉で包むと大きなショルダーバッグに詰めていく。
「この世界の神様の神殿てのはどんなとこかね……」
やがて先行していた男の元へ後続の調査団の面々が続いて来る。教会関係者19名、護衛に雇われた傭兵12名、計31名の大所帯だった。その後も特にトラブルなく戦神フレールの神殿まで辿り着いた一団の前には宙を漂う火精霊と音も無く地上数cmを滑る様に移動するゴーレムの姿が映るのだった。そして一同を驚愕させたのは鬱蒼とした森の中に建つ質素な神殿そのものではなく一定の長さに綺麗に刈り込まれていて石ころどころかゴミ1つ無い前庭の方だった。




