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どこから湧いて来ているのか分からない万能感に根拠の無い自信を持って肯定出来てしまう。敢えて言おう俺は多分強い。この世界の魔物の強さがどれ程インフレしているのかは知らないけど俺を脅かす存在はそう居ない筈だ。
「ちょ、ちょっとマイスター? どういう理屈だか分かりませぬがマイスターの思考にディレイが掛かっている様ですぞ?」
「思考にディレイ?」
『肯定、【超個体】による同時思考、並列演算、思考実験、演算結果の更なる検証、分岐し続けながら加速していく可能性と収束する事実の羅列、通常の人間では凡そ耐えられない情報量を一瞬の内に処理している為遅延して聞こえるのも当然』
「そうなの? 本人はボケーっと俺も強くなったなぁ。とか考えていただけなんだけどな」
本当はそんな事なくて加速していく思考の束を必死に捲っていたのに照れ隠しについそんな返しをしてしまった。
『言い訳は無意味であると報告』
「知ってるよ。それでも本音と建前ってのがあるんだよ」
はっきり言って今の俺は想像し得る凡ゆる現象が実現可能である。原理原則の範囲内という当たり前の法則の内側ではあるが。例えば、俺を中心とした半径50mの視界に捉えたマナには瞬時に干渉出来る。生殺与奪権と言い換えても良い。膨大なマナを持っていた巨獣みたいな強者だと瞬殺は無理かもだけど猿だと余裕で瞬殺可能だ。物理的に攻撃しなくて良くなったというか、思考だけで相手を殺害出来る驚異の能力だな。手加減については要特訓だが。人間への擬態も目玉だけはそれなりレベルだけど服を着て目元を隠せばほぼばれないであろうお墨付きを眷属より貰った。尤も、マナ感知に引っ掛かる可能性が高いとの事なのでマナ量を調整した分体で作るのが手っ取り早いと結論。何故か爆発的に様々な事柄が思い浮かんでは流れていくのを疑問に思う。【超個体】の精度が上がっているのか? 新しいスキル? 思考加速的な? そんなものでも習得したのだろうか?
『否定、最近変動したステータス値は存在値のみだと報告』
「そっかぁ、レベルはいくつになった?」
『現在のミチオの存在値は100』
「100? 遂に大台に乗ったか」
何だかキリの良い数字だし、100の壁を超えた事で影響でもあったのだろうか? 考えても分からないものは仕方がないな。とかなんとかやり取りしていた所にキュリヤから報告が入る。
【混沌の種】発芽
【予め決定していた未来】結実
『【混沌の種】の発芽、及び【予め決定していた未来】結実のアナウンスを受信。詳細は不明』
「おっと、どんなタイミングだよ? 今は? 時間的には日中か? 以前来た人間達の中の誰かに何らか影響がある筈だ。リンクスの様子に異変があったらしいけど、アイツに何か起こったのだろうか?」
すぐに確かめる手段が無い訳ではない! 緊急連絡用にポゥに付けている分体があるので、ジルに連絡を頼む。
「ええ、ええ、それで問題は無いのね? ええ、何か異常があったらすぐに伝えて。ええ、大丈夫よ。それじゃ……」
大事になっていなければ良いんだが……。
「結論から言うと問題無いわ」
「ふぅ……。で、何事だった?」
「リンクスの信仰心にちょっとだけ変化があったそうよ」
「どういう事? ミルユーからフレールへ……みたいな?」
「貴方を神として認める為に布教活動を始めたそうよ」
「俺? 俺を神としてって、ポゥがそんな事を口走っていたけどリンクスが?」
「ええ、簡単に説明すると創造神ミルユー様の下に四神であらせられる智神ニオ様、戦神フレール様、豊穣神ハミール様、文化の神キークス様が生まれたとされる神話があるの。そこに末弟とも言える立場として貴方を付け加えているというわ」
「どうしてそうなる? 神になんて到底届かないぞ? 俺は」
「あまり詳しく聞けなかったけれど、街で問題になったりはせずに鼻で笑う者、面白がって聞く者がいるのだとか」
「異常じゃないのか? 森であったゲルを神だと信じだす様な行動は?」
「その言葉だけを聞くなら異常ね。でも、貴方の存在そのものの方が遥かに異常なのよね……」
「おいっ! さらっと悪口言うなよ!」
「う〜ん、人間の立場から見ると自分達よりも神という存在に近いと感じてもおかしくないのよ」
「そんなにか?」
「ま、今の所リンクスが超常の魔物の話を街の人々にしている程度だし、あんまり気にしなくて良いんじゃないかしら?」
「そうか? 変な事に発展しなければ良いが……」
ともあれ、何か異変があればポゥから連絡が来るだろう。タイミング的にリンクスの異常行動は【混沌の種】の影響と考えて良さそうだけど確定でもないという事がモヤモヤと心に留まる。ポゥに聞いた話だと小太り司祭や衛士の片割れには特に異常無し。ただし傭兵団の2人、ティキとハーシルの事は現状確認出来ていない。
「……あぁ、そうか、そういう事か……。今1つの未来が確定して帰結した」
「唐突に何です?」
今得られている情報や状況から演算された結果……なんて運命だよ……。神の真似事をさせられるとは。人の営みの行末を夢想してみた事ぐらいはあるけれども、まさか人間という枠組みを逸脱する事になるとは夢にも思わなかった。既に人間ではないんだけど、まるでバタフライ・エフェクトの観測を可能としているみたいな馬鹿げた状態だろうか?
「糞っ! 神とはなんて利己的な存在であるか!」
『警告! 演算結果に改竄の痕跡』
「それこそ、そんな事出来るのは神様くらいのモンだろ! ふざけやがって! 人体実験かよ!? 俺の存在はっっ!!!!」
あぁ、そうか、そういう事だったら徹底的にやってやるさ。理解しているみたいだから、敢えて言っておいてやるが……。
「模倣された星の民とオリジナルの人間だとどっちが上なんだろうな?」
この世界の成り立ちはこうだ。
創造神ミルユーは両掌を何かを掬う様な形で上に向けて合わせていた。やがて、掌の上の中空に球体が現れてくると周囲からあらゆるマナを吸収し始める。神の知識より森羅万象のマナを学び球体はやがて大きな星となった。生命を育む水と緑に満ちた神の箱庭。――俺から言わせれば別名、悪夢の地下実験施設だな。そんな代物を創り上げた神は属神の様な存在として人が生きていく為に必要な知識を与える為に知恵の神ニオを、狩りや戦いの術を伝えるべく戦の神フレールを、作物を育て安定した生活を知らしめたのは豊穣の神ハミール、そうした人の営みを後世へ残すべく文化の神キークスは詩を歌い楽器を奏でた。……全員地球から引っ張ってきた元人間。そんな感じがこの星だ。そして、創造神ミルユーが創ったのはこの星だという事実。宇宙ではなく、あくまでもこの星を地球の模倣品として創り上げたという事実。更には超移動してきた連中は神によるイベントだった事も併記しておく。創造神ミルユーはこの世界の運営に苦労している様だ。だが、俺にとっちゃ知ったこっちゃねぇ! 実験に行き詰まった結果、異世界人をゲルボディに突っ込んでみようってか? ふざけるな! 例え免れぬ死の運命にあった身だとしても死した魂を興味本位のレベルで異界のそれも異形の生物へとぶち込まれる謂れは無い! ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……。
『ミチオ……疑問への回答を要求……』
「なんだよ……」
『当機は創造神ミルユーにより創られた存在である為、ミチオの憤りに賛同しかねる部分が多い。何故、ゲルであったのかよりもゲルである事で出来る事を追求してきた姿勢にこそ重きを置くべきでは?』
「キュリヤ、いつだってお前は正しいよ。ただ、人間て生き物の頭の中には正しさだけでは割り切れない方程式ってのが沢山あるもんなんだよ」
『……』
「そして、お前はいつだって正しいよキュリヤ! 俺にしか出来ない事があるんだよな! 今のゲルに出来る方法で絶対に奴に一泡吹かせてやる!」
俺は降りかかる火の粉を払うだけだ! 運命に抗う事すら奪うならば、それすらも乗り越える試行錯誤を! 仮にも神と呼ばれる者の遊戯盤に乗っけられる寸法ならばやり様はいくつか思い付いている。楽しみ半分で思考実験を繰り返すのよりも若干気乗りしないがケイオスゲルにした事を後悔させてやる! この世に混沌を齎らす存在を生み出した己れ自身を呪えば良い! 遊び半分の思い付きを試した事を悔いても絶対に許さない。




