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『報告、一直線にこちらへ向かって来る個体を捕捉』

「敵襲か?」

『不明。敵意は感知されません。個体を特定、種族名・悪魔(トイフェル)固有名・マリスと断定』

「マリス? 何の用だ?」

程なく到着したマリスが挨拶もそこそこに矢継ぎ早に話し続ける。

「ミチオ殿、ご無沙汰しております。こんなに早く神を降ろすなんて想像を超えておりますなっ!?」

「お、おぅ、何て?」

ジルが翻訳してくれて会話が続く。

「神の現世降臨を祝してやって来た次第。供物をお納め下さい」

そう言って手を差し出してくるのだが、そこにある物が俺には何なのか分からずに困惑していると……。

「手紙か何かかしら?」

ジルにも詳細が分からない様でマリスに問いかける。

叙情的叙事詩(リリカルエピック)である。戦の神は武勇を誉れとするので詩を奉納するのである」

「ふ〜ん」

さして興味も無さげにジルが受け取ると、くれぐれも宜しくと言ってマリスはさっさと立ち去った。ジルの所作を見るに巻いてあった紙状の物を開いた様だ。やがて読み終えるとぞんざいにクルクルと丸めると紐状のものでまとめた。

……。

…………。

「いや、感想とか無いの?」

「無いわね。内容を知りたい? きっと残念な気持ちになるわよ」

「気になるだろ? そんな風に言われたとしてもさ」

「掻い摘んで説明すると、とある場所、とある時、神の祝福から遠ざかり荒廃していたその地に知恵有る者が現れました。その知恵有る者はなんとしても神の祝福を再びこの地に溢れさせる為に立ち上がりました。その後知恵有る者は数々の活躍を見せて知謀策謀、因果の裏に見え隠れする陰謀の数々を持ち前の知恵でもって全てをまるっと解決。そうして最終的にはとても心強い仲間を手に入れた事でこの地に再び神の祝福が溢れるのでした。後世まで語り継がれる知恵有る者の名をマリスという。めでたしめでたし」

「なんというか、不快な気分になるな」

「ええ。なので敢えて中身には触れませんでした」

「英断を無駄にしてしまい申し訳なく思うよ」

「お気になさらず。好奇心が猫を殺す様なものよ」

時間的には夕方頃だろうか。黄昏時に胸に去来する虚無感にやるせ無い気持ちを乗せてもう一度ヘビーなリフの音を森に響かせるのであった。


森に響いていた重低音は真っ暗になる頃には静まっていた。今は漆黒の闇と静寂を邪魔するのは微かな葉ずれの音か小動物の呼吸音か……。社の中では人間御一行様の森での最後の晩餐というには些か粗末な晩飯が終っていた頃だった。

「はあ〜、明日には帰らなきゃいけないんですね」

ポゥが少し寂しそうに呟いた。

「巫女さんは、随分とあのゲルに懐いちまったもんだ」

「無礼を働くでないぞ? あれは本物の化け物だからな」

「無礼なんて働きませんよ。それにミチオ様は化け物じゃなくて神様ですよ」

「お前に掛かっているのかもしれないからな。あれは人の世に放たれて良い生物では無い」

「あんまり酷い事言っているとミチオ様にも報告しなければなりませんね……」

「ま、まあ、なんだ、儂も感謝はしておるんだぞ」

「当たり前です。神殿を正常化してくれただけでなく、向こう十年分のマナを補充してくれて、それも4箇所全てですよ!? それから到底人の手では敵わない様な巨獣を倒したり、本当に神様をお呼びしたりって、もうミチオ様が神様かよ! って、カァー! 堪らん! 積層マナの塊に貫かれたいっ!!」

「巫女さんは何か患ったのか? 程々にしとけよ?」

「それにしても、知恵ある魔物(インテリジェント)とはいえミチオ様は凶悪ですよ。人間の知恵を持ったゲルなんて悪夢みたいなものじゃないか?」

「どうしたリンクス? さっきまではミチオ様に興味のある様子だったのに……」

「俺、見ちゃったんだよ……。ミチオ様が何気なく庭を転がっているんだと思っていたら、通った跡には何も無くなっていたんだ」

「それがどうした?」

「気になって俺は芝生に触れてみて妙な違和感を覚えたんだが、それが何なのかまでは分からずに掌で芝生を弄びながらミチオ様を目で追った。すると、先程の違和感が更に強まる感じがしてじっとミチオ様を見つめていると答えが分かった。ミチオ様は通過した場所の芝生を刈っていたんだ」

「なんだ、そんな事かよ?」

「それだけじゃないぞ! 土と芝生以外何も無いのだ! 虫どころか枯れ葉、石ころ、一切何の痕跡も無いピュアな芝生に気付いた時、あの方の狂気を垣間見た気がするんだ……」

「う、うむ、お前の言う事も一理あるかもな。うん……」

「だけど、それが本当だとしたら、あいつ瞬間的にとんでもない量の情報量を瞬時に計算しているって事だろ? 人間にそんな事出来るかよ?」

「魔物固有のスキルとか?」

「それにしても彼は人間なのか魔物なのかという疑問もあるのだがな……」

超移動(エクソダス)してきた人間の精神が入っているゲル。だな。今の彼を端的に表現するならば」

「そうだね。理性的である反面、俺達の社会や文化には疎いと本人も言っていたよね」

「なんて難儀な(カルマ)を背負ってるんだ? あいつは。アハハッ」

「それに、向こうがどういう社会や文化を背景としているのかこちらも分からないというのが問題ですね」

「少なくとも無闇矢鱈に他者を傷付けるタイプでない事だけは救いだったね」

「……」

「単に人間に取り入ろうと虎視眈々機会を窺っておるやもしれんぞ?」

「どうして司祭様はそうやってミチオ様を悪く言うんですか? 私も怒りますよ?」

「いや、どうもあの姿を初めて目にした時から嫌悪感が拭えないのだ。理性では分かっておる筈なのにどうしても……」

「あの見た目が人間と同族だと理解するのに大きな壁があるってのは認めますがね」

苦笑混じりにリンクスが答える。ポゥですら積極的に反論せずに、各々咳払いをしたり自分の爪を眺めたりと微妙な空気になった所でティキが声を上げる。

「なあ、あいつが人間か魔物かって事よりも、あいつがこの世をどうしたいのかって方がアタシ達には大事なんじゃないか?」

「そうですよ? ミチオ様の方がどうしたいのかが大事ですよね」

「いや、巫女さんの言うのも一理あるけど、もっと根本的な話だ。我々を滅ぼす事が可能な魔物であるという事実」

「政治的な混乱までありますね」

「その通り。手綱を握れる人間は?」

「我々で出来るだけ友好を結ばなくては!」

「さぁて、人は突拍子もない荒唐無稽だが真実。そんなものを伝聞だけで知った時どうなると思う?」

「誰も信じちゃくれぬだろうな。数日前の儂がその様な者だったからな」

「はてさて、教会のあんたらは忙しくなりそうだね」

「ミチオ様の素晴らしさを布教しなくては!」

かくして、ミチオの知らない所でも処遇を巡り話し合いが行われていた。


翌朝。ミチオの知らない所で自分のスキルが発動していた。人間達は一通り挨拶を済ませて帰路へと就こうとした時だった。

混沌の種(カオスザーメン)

『報告、未知のスキルが発動』

「未知のスキル?」

『肯定、【混沌の種(カオスザーメン)】という名称』

「なんか物騒なスキルじゃないよな?」

『分析中……判明。ケイオスゲルの固有スキル。相対した者の心の弱い部分にランダムで種を植え付ける。これは物理現象では無く魔法的現象故に物理的に無効化する事は不可能。種は然るべき時に発芽し、【予め決定していた未来(モナド)】という派生現象へと結実』

「ん? ん? 久々に全然分からない説明がきたな」

人間達に時間は大丈夫か確認してから待機してもらう。

「キュリヤ先生、馬鹿な俺にも分かる様に説明して下さい」

『肯定、【混沌の種(カオスザーメン)】はミチオと遭遇した全ての生命体に対して最大30%の確率で発動。確率変動は多岐に渡る為、今は省略。魔法として発動する為、具体的に種の様な物質が存在する訳ではない。更に種の保有者は発動者にも保有者自身にも誰にも観測は不可能。種が植えられた者は【予め決定していた未来(モナド)】発動と同時に種を失う。【混沌の種(カオスザーメン)】の観測が不可能である以上、【予め決定していた未来(モナド)】の影響も予測不能』

「要約すると俺がこの人達の誰かに無意識に種を植えていて、いつかそれが何かを起こすかもしれないって事?」

『肯定』

「中身が何も分からない上に厄介かどうかも分からない厄介なスキルだな。どう皆んなに説明したものか……」

「あら? 黙って帰す手もあるわよ? その種の事が誰にも分からないんじゃ仕方ないじゃない」

「それは、なんか倫理的にどうよ? こっちは発動自体は分かっているんだし」

「真面目ね。じゃ、素直に教えて差し上げなさい。謎スキルが発動したからこの中の誰かにいつか何らかの現象が起こります。ってね」

「うっ、そうなんだよ。だから、どうしようかと……」

「全く……適当に伝えておけば良いでしょう」

ジルが上手いことまとめてくれた事に感謝しつつ今度こそ人間達とお別れだ。ポゥは少なくとも1ヶ月以内にまた来るとの事。その時はレヒツとリンクスも一緒なのかな? 小太り司祭(ナシオ)にティキ、ハーシルと続き社の庭の門まで歩いていく。

「では、森の端まで送ってきます」

そう言うとジルが一行を先導する様に飛んで行った。なかなか濃厚な2日間を過ごした事に精神的疲労感がどっと湧いてきた。

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