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未明の巨獣狩りの影響を全く考えていなかった俺は素直に人間達に謝罪した。そういう事なので今日は大人しく過ごす予定である。しかしながら予定は未定である。
「皆さん食事が出来ましたよ」
ポゥがまだ表に居た面子を呼びに来ると俺とお喋りしていた教会衛士のレヒツとリンクス、後は敷地内をブラブラしたりブラガと会話してみたりしていたティキとハーシルも食事へ向かう。
「ベヒモスの肉だな!」
ティキが喜びに満ちた声を上げたのが分かった。そんなに朝飯が待ち遠しかったのか。
「俺達に構わず食べてきてくれ」
ジルの翻訳に頭を下げて衛士2人が社へ歩きその後をティキ達が続いていった。
さて、今日は大人しく過ごすといっても何かしてないと落ち着かない性分なんだよなぁ。庭をコロコロと文字通り右往左往していると社から叫び声が聞こえてきた。
「なんだ! これっ!」
「きゃー!」
「なん……、だと!?」
言葉は理解出来ずとも只事では無い気配に急いで室内へと入っていくと食卓は歓喜の色に包まれていた。
「ミチオ様! 美味しいです! ベヒモス美味しいですぅ!」
ポゥが興奮しながら迫って来る。他の皆んなもそれぞれ興奮気味に何かを喋っている。感動する程美味かったって事か? 喜んでくれたみたいで嬉しいぜ。ただ話はそれだけではなく食べただけで存在値が上がったのだとか。それは前代未聞の出来事の様で、ここに居る面子の誰もが食しただけで存在値が上がる食べ物の話など聞いた事がないらしい。
「凄いよあんた、やっぱりXXXだよ!」
ケラケラ笑いながらティキが俺の体をポヨンポヨンと叩いてくる。
「こうなってくるとミチオ様の存在値が気になりますね」
レヒツに何やら訪ねられているみたいだ。キュリヤに翻訳して貰ってさして考えもせずにジルに翻訳させる。
「きゅ、きゅ、きゅうにゅうじ? じゃなくて92?」
噛み噛みの小太り司祭が鼻息混じりに聞いてくる。
「あぁ、ベヒモスを倒したら上がって92らしいぞ」
「か、神様っ! やはりミチオ様は私の神様なのですね?」
待てポゥ。俺は神ではない。この娘ゲルでイケちゃう特殊性癖の持ち主なのかな? そんな事より、人間でも100超えが居るって聞いた気がするんだけど92で驚かれるとは思ってもみなかった。
「確かに人間で存在値100を超えた例は少なからずあるわよ……。そしてそのほとんどが歴史に名を残している英雄みたいな存在ね」
「え? 普通にゴロゴロ居るもんじゃ……」
「ないわよっ!」
小太り司祭38
魔法使い36
教会衛士32
教会衛士31
傭兵団若手30
神殿管理者29
イコール戦闘能力の高さという訳では無いので一行の中ではナシオが1番高いらしい。そして50を超えればそれなりのカリスマとして名を馳せるだろうとの事。ちなみにブラガ47、ジル53って事で魔物は人間より高いもんだと納得しつつ、またしてもキュリヤ情報の[間違っていないけど的を射ない 当を得ない]が発動した様だ。
『テヘペロ』
「どこで覚えやがった!」
そんなこんなで騒々しくも賑やかな朝食が進んでいった。
朝食が済み腹ごなしに出掛けるというティキ、ハーシル、レヒツ、リンクスの4名。傭兵団の2人は街で売れる物があれば狩猟採取、教会衛士の2人は周囲の探索という名目の元敷地外へと出て行った。念の為分体に追跡させている。さて、今日は大人しく過ごす予定なので手元にある戦利品を観察しようと思う。吸収せずに残しておいた頭蓋骨を庭先に出して分析してみる。頭だけでも5m程の長さがあり硬度は非常に高く、固くした触手の先端で叩くとカンカンと乾いた音が響く。なんとなく残してみただけの思い付きだったが何かに使うアイデアがあるでもなく頭頂部に登ってみたり眼窩を出入りしてみたりする。
「そうだ! キュリヤのボディ素材としてどうだ?」
『同意。骨素材としては最高品質』
「じゃあこれはキュリヤにプレゼントだ」
『感謝、早速同期を開始』
上手く人型に形状変化していく骨を見つめているとポゥが庭へ出てきた。
「何をされているんですか?」
そういえばキュリヤを皆んなに紹介していなかった事を思い出す。きめ細かく滑らかなベヒモスの頭蓋骨で作られた体にキュリヤも満足気だ。
『ミチオのサポートを担当している固有名・キュリヤ。以後お見知り置きを』
骨を素材にした体だが、所謂骨格標本ではなく白磁の人形の様な外見をしていた。
「これはご丁寧に。こちらの神殿の管理者を任じられておりますポゥ・オーシンと申します」
オーシン? ジルの苗字と同じじゃないか? キュリヤに聞いて貰う。
「ええ、そうなんですよ。高祖父がジル様のお兄様なんですよ」
「じゃあ、ジルは親戚の婆さんみたいなもんだな」
「誰が婆さんですって?」
「やぁ、ジルおはよう。今日も綺麗な紅炎を描いているね」
「誤魔化しても聞こえていましたからね」
「そんな事より身内ならば言ってくれても良かったのに」
「別に隠していた訳でも無いのですが改まってお話しする程でも無くて……」
「キュリヤ様も魔物に該当される方なんですか?」
『概ねその解釈で間違いありません』
「綺麗なお人形さんに見えて凄い方なんですね」
『肯定。更なる称賛の言葉を希望』
マナによる視界でもって見ていても現在のキュリヤの容姿は美しい。理路整然と等間隔に並んだマナ集合体で出来た少女像。簡素なワンピースを着た10代半ば程の見た目をした動く白磁人形。規則性の塊過ぎて周囲の景色から浮いてさえ見える究極の美ともいえる。
『肯定、ミチオもだいぶ分かる様になってきた』
あぁ思考ダダ漏れだったっけな。ま、本気で思っているから良いんだ。この美しい相棒のおかげで今日まで生き延びてこられたんだから。
「本当ですな。美の極地とは言い得て妙」
ブラガが音も無く接近してきてキュリヤを観察している。
「フロイライン、これはまたお綺麗な姿に溜め息しか出ませんな」
『肯定。同意して補足、溜め息以外に感嘆の声も聞こえる』
「フロイラインには敵いませんな……」
あんまし鼻息荒くなり過ぎるなよ? 折角の美しい姿が少々残念に映るからな? まぁ、新しい体を気に入ってくれているならそれで良い。
「さて、する事も無いし暇つぶしの定番、魔法実験を開始しよう」
発声練習していた時に体をスピーカーの様に使える事が分かったので俺の言葉はさておき音楽ならば再現可能な気がしていたのだ。嗜む程度の趣味ながらギターだって弾けていたんだから、今となっては変幻自在のこの体を試さない訳にはいかない。辺りには歪んだギターの音が響いていた。重々しく陰鬱な音が戦神フレールを祀る神殿を中心に広がっていく。曲調が変わると次はもっと速く勇ましく魂を鼓舞するかの様な音が響き渡る。
「ミチオ様、それは音楽の一瞬ですか?」
気持ち良く体を震わせていた俺にポゥが問うたのをジルが翻訳してくれた。
「音楽に聞こえたのなら良かったよ」
「しかし独特ですね。少し怖い感じもしましたし……」
「ポゥは感性が素晴らしいね。この音楽にはそういった側面もあるのは事実だよ」
「それにしてもミチオ様は何でも出来るんですね」
「……」
皮肉では無いのはこの娘のこれまでの振る舞いから考えても分かる。時に純粋な疑問が人を傷付けてしまう事があるものだ。うむ、翻訳したジルが寂しそうに言うのも悪いんだ。
「俺は何も出来ないぞ? 現に会話は眷属に訳して貰っているし、さっきの音楽だって声を出す為の特訓の成果だしな」
「す、すみません! そういう意味で言ったのではなく……儀式を行っていたのではないのですか?」
ん?




