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満を持して実体化したキュリヤは身長1.6m程のゴーレムとなっていた。細かな仕様はマナによる視覚では分からないけど自分で自由に動かす事が出来る体を得たキュリヤは嬉しそうではあった。
「さて、考える事がまた増えてきたな。4つの社にマナを補充しただけで存在値が爆上がりした事とか、悪魔の処遇とか、キュリヤが実体化した事もだし、どこから手を付けたもんか」
『報告、四神を祀る神殿の解放によりミチオは前例の無い状況にあります』
「うん、多分だけど1人で全部を管理している状態だろ?」
『肯定、信仰心も無いのにとても不思議』
「おい! 確かに信仰している訳じゃないけど……」
『種族名・悪魔であるマリスの方が信仰心が強い』
「ジルとの会話を聞いていた限り悪魔も放置されていた社をどうにかしたかった訳だしな」
『肯定。ミチオの居た世界はともかく、この世界に神は実在』
「そうだな。そんな神の気まぐれが俺を粘菌生物にしたんだけどな。はぁ、ひとまず帰ろうか」
『肯定』
ん? どうすんだ? 実体化したキュリヤは自力で帰るのか?
『否定、ミチオの中に戻ります』
「そうか、オーケー」
ゲル収納でキュリヤのゴーレムボディを仕舞うと同時にふと思う。あれ? 北東の社に居る分体の座標まで一気に瞬間移動出来ないかな? うーん……無理だな。原理は分からんが駄目なものはしょうがない。場所も分かるし細かい風景も分かるんだけど、そんなに都合良くはいかないな。地道に刻みながら帰る事にする。それでも人間が歩いて戻るよりも遥かに速いんだけどね。
社へ戻るとジルの尋問は終わっていた。悪魔どうするだろ?
「ただいま」
「おかえりなさい」
「早かったですな、マイスター」
「あぁ、とりあえずマナの補充は終わったから4箇所全部特別な問題でも起きない限り向こう10年は稼働するんじゃないかな」
「そうですね、ひとまず私の目的は果たせました」
帰宅の挨拶を済ませていると、キュリヤが実体化した。
「おおっ! フロイライン、素敵なお姿ですな!」
『肯定、更なる称賛の言葉を要求』
ブラガがキュリヤのゴーレム体を褒めている。寄せ集めとはいえ満更でもないキュリヤの事が気になった様子で悪魔が何かジルに問うた様だ。
「彼女は元々私たちの仲間よ。というよりも元々彼のパートナーだったと言った方が良いわね」
「%%%%、%%%%?」
相変わらず言語を理解出来ない駄目な子の俺である。ま、悪魔の処遇はジルに丸投げだな。
「あら、それはいけないわ。ミチオ様に決めていただかないと?」
「うぉい! 急に俺に返答するなよ。……ていうかそもそもジルの提案で連れて来たんだろ?」
「それはそうですけど……」
「敵対するつもりが無いのなら解放して良いんじゃない?」
「ですが何の咎も無しというのも……」
「じゃあ食っちまうか?」
「それを決めていただこうかと……」
「あぁもう焦ったい! そんな奴の事はどうでも良いって! そんな事よりキュリヤにもっとまともな体を用意してやりたいんだよ」
「あら、いっそ悪魔を素体にでもする?」
「お? 良いねぇ! ……とでも言うと思うか!?」
「うふふ、冗談よ。じゃあ敵対心が無いのなら解放と伝えても良いのね?」
「うん、それで良いんじゃない?」
って事で悪魔は呆気なく解放される事になったのだが、俺に質問があるとの事でジルを介しての会話になった。
「き、君は一体何者なんだ?」
「何者ったって、ケイオスゲルのミチオだよな」
「そうか……。その力でもって何を為すつもりだ?」
「んー、特に何も」
「なれば我々を潰した理由は?」
「なんか神様の社を魔物が占拠してるって言うから……、まぁ成り行きだな」
「分かった。それでは今後は敵対するつもりは……」
「俺からも一個良いか?」
「あ、ああ、勿論」
「魔物も神を信仰しているのか?」
「ん? おかしな事を聞くな。少なくとも知性ある者は神に感謝を捧げているのではないか?」
「ふむ、そんなものなのか?」
『この世界の生命は全て神が創造したとされている』
キュリヤの補足に理解は出来るが納得は出来ないな。なんせ感謝の念を抱けないでいるのだから。前世で死んだ俺の魂をこの世界に連れて来た事に感謝は必要か?
「分かったよ。じゃあ達者でな! 敵意を向けられない限りは森の同居人って事で」
「分かった。まあその、世話になったな」
悪魔は社の敷地から出て行った。なんだか胸にモヤモヤしたものが残る俺は、この世界の常識の範囲外の存在なのだろうな。悪魔が神を信仰ねぇ……。
「よし、とりあえず一件落着だな」
『肯定』
「私の目的も果たされたわね」
「マイスター、次は何をするんですかな?」
「何も決めてないんだよなぁ」
『更なる強者の討伐を次の目標に推奨』
「強者ねぇ……。デカい相手には苦戦するだろうな」
「はあ〜、ゲルのドラゴン退治なんて聞いた事が無いわよ?」
「この森にも龍が居るそうだからな」
「多頭竜の事ね。確かに貴方でも苦戦するでしょうね」
「ほぅ、ヒュドラか。頭が9つって認識で合ってる?」
「その通りよ。猛毒を持っていて森の中心部近くにある湿地帯を縄張りにしているわね」
「俺が知っているのと同じだと再生能力も高い筈だな」
「そうなの? 私は直接見た事がないからそこまでは分からないわ」
「そうか、首を斬り落としたらそこから新たに2本生えてくるなんて逸話というか神話というかがあったんだよ」
『肯定、この世界でも概ねその解釈で間違いありません』
「ま、首を斬り落とす様な戦い方は俺には必要がないからそこは考えなくても良いかな」
「ところで、全然関係無い疑問があるんだけどブラガ? 盲目の守護者ってなんやかんやで盲目ではないよね?」
「マイスター、藪から棒にどうされました? 確かにマイスターよりも視覚情報は優れておりますが……」
「いや、最初からすっごく気になっていたんだけど、聞くタイミングが無くてさ」
「そうですか……。これは最初に造られたワタシと同型ゴーレムが所以と言われているのですが、何らかの制約を設ける事によって能力を向上させる技術ですな」
「視覚に制限を掛けて強くなるみたいな?」
「そんな感じですな。ワタシの場合はこの神殿より離れられない代わりに能力が上がっております」
「へぇ、やっと疑問が解決したよ」
「人間だと呪法の類いになりますかな」
「人間でも可能なの?」
「あまり褒められた行為ではないけれどね」
ジルが後を続けた。
「同じ様な事は可能よ。過去にあった有名な話だと、両手の指10本全てを失う代わりに強力な魔法を使った者が居たわね」
「んで、代償が大きければ恩恵もまた……って感じだな?」
「ええそうよ」
「それってもしかして俺に適用されてないよね? 人間の五感を失う代償に強くなっているとか……」
『否定、呪法は術式を刻印として肉体に刻まないといけない』
「それに件の指無し魔法使いの最期も悲惨なものだったわ。戦乱の時代において1人で魔法使い10人、20人分の活躍をしたのだけれど、魔法耐性の高い装備を揃えた戦士団に接近されれば後は……ね」
「出る杭は打たれるじゃあないけど突出した能力は目を付けられる……」
「そういう事」
「ま、外法の類いって事だな。俺には関係無いだろ」
「思考する上に呪法を刻まれたゲルなんて悪夢ね」
ジルの乾いた笑いが響いた。大型の魔物を狩るのなら森の中心方向へ足を運んでみるのが良さそうだな。体格差だけは如何ともし難い問題だから対策を考えなくてはいけないだろう。ただ大きいだけの魔物ならば今の俺でも大丈夫だと思うけど多頭竜か、面倒臭そうだな……。




