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異世界粘菌生活も慣れたもので、魔物は索敵殲滅で向かう所敵なしである。森の北東部方面にある戦神の社の他に、南東部方面の文化神の社、北西部方面の豊穣神の社を解放し、ついでにマナも満たしている。社にはそれぞれ悪魔が居座っていたが頭の悪さは以前会った奴と大差無く、【我あり】という擬似蘇生技術を持っていたけど種が分かっている俺には無意味な為速やかに退場してもらった。そして悪魔は変わらず【我あり】が俺には全く通用しない事を何度か死んでもらってから丁寧に説明したり、ジルから聞いていた首謀者マリスの名前をちらつかせたりしながら情報を探ったんだが、組織は大した規模ではない事、ある程度の知能を持った魔物で構成されている事、首謀者マリスは魔法に長けた悪魔だという事なんかが分かった。本当に間抜けな連中だ。首謀者も同種族だと思うと侮ってしまいそうだが油断は禁物、本人を相手にする前から決めつけては駄目だよな。
「つー事で、社の解放も残り一軒となりました」
「お疲れ様ですマイスター」
我が家以外の2つには特にジルの様な守護霊的な人? も居らず、荒れ寺状態は拍車をかけて酷かったし、2ヶ所ともゴーレムは起動すら出来ない程に壊れていて社にマナを補充しても動く気配はなかった。何に使うでもないが、そのままにしておくのも勿体無いのでゴーレムの残骸は体内に収納しておいた。そして、その2ヶ所も俺のマナを満たしてあるので所有権を主張するつもりだ。残すは南西部にある智神の社のみとなった。
「さて、最後の社もサクッと解放してくるか」
「お気を付けて、マイスター」
ブラガに見送られた後に森の中心部を避ける様に北東部から一旦南下して、それから西方向へ進路を取る。マナ化しての瞬間移動は時速換算約100km前後にまでなるので然程苦労せずにあっさり到着。まずは望遠モードに視界を伸ばして様子見をする。50m程離れた場所から探りを入れると、社の形状は他の場所と変わらない。中には魔物が居る事が分かる。そして、一体だけ他とは群を抜いてマナ保有量の高い奴がいる。
「キュリヤ?」
『捕捉済み、種族は悪魔』
今まで見てきたどの魔物よりもマナの量が段違いだ。俺には劣るがな。だが、油断は禁物。魔物は建物内1階部分に集まっていて数は全部で10体。今までの社を占拠していた悪魔程度の奴が1匹居る事が分かる。これは、ひょっとして首謀者があの大量のマナを持った奴って可能性もあるか? 慎重かつ大胆に出たとこ勝負だな。
「行く!」
瞬間移動2回で一気に敵群の真ん中へ躍り出る。全方位に触手を伸ばし10体同時撃破を狙うがそうそう上手くはいかない。が、マナ保有量多めの2体どちらかの眷属だと思われる雑魚を6体削った。今や俺の【吸収】は瞬間的に大量のマナを吸収可能だ。例え優しく触れるだけでも雑魚ならば即死レベルである。
「%%! %%%%?」
「キュリヤ、お願い!」
『翻訳「ゲルだと! 一体何処から入り込んだ?」』
やや強の方が話している様だが、悠長にお喋りしている暇は無いと思うんだけどな。少し離れていて難を逃れていた雑魚2匹に瞬間移動で近付いてタッチ。
『翻訳「一瞬で移動した? 何が起こっている?」』
『翻訳「狼狽えるな見苦しい。……見た事の無いゲル? 貴様か? 我が神殿を解放していたのは?」』
俺からすれば"神殿"なんて規模とはとても思えないが今はどうでもいいか。キュリヤに翻訳【念話】で返してもらう。
「ならば?」
強者っぽい方の体内のあらゆる箇所でマナが活性化している? 攻撃魔法の類いでは無く、探知や自己バフか?
『翻訳「鈍色の体表を油でも落としたかの様な虹色がぬらぬらと……、上位個体の様だが甘くみるなよ? サモン!」』
突如、マナが床に魔法陣を描き出す。嫌な感じはしないが一旦距離を取る。サモンって言ったな? 召喚って事か? マナが幾何学模様に広がっていくと中心部からマナが溢れ出てくる。
「キュリヤ、何か分かる?」
『不明。ですが、脅威は感じません』
同感だ。出て来る前に対処も可能そうだが変身ポーズに横槍を入れる程野暮じゃないので大人しく待ってやると、ゲルだ……。そして多分イーヴルゲルだ。懐かしき同族。
『翻訳「こちらにもゲルの上位種が居るのだよ!」』
ゲラゲラゲラゲラ! ヤベェ、笑いが止まらない。どんな冗談だよ!? 逆にセンス良いのかよ? ゲラゲラゲラゲラ!
『翻訳「見た事も無いか? イーヴルゲルという。……どうした恐怖で震えているのか?」』
ヒーヒー! やめて! 笑い死ぬ!! 笑い過ぎでプルプル震えてしまった様だ。まさか俺みたいに中身が人間なんて事は無いだろう。瞬間移動でイーヴルゲルの真上へ飛んで体を広げる様に覆い被さる。召喚魔法陣が消えてしまう前に幾何学模様を描くマナごと全て吸収。ペロリと平らげて核の部分だけは溶解吸収せずに体内に保管しておく。
『翻訳「馬鹿なぁっ! イーヴルゲルが一瞬だと?」』
「あんた、頭が良いのか悪いのか分からない奴だな?」
『翻訳「なんだと……?」』
「難しそうな召喚魔法を使ったかと思えば、俺と会話が成立している事には疑問が無さそうだし、常にこちらの間合いや行動を探る様な周到さがありそうなのに、俺より下位のゲルを呼び出すなんてな」
『翻訳「何? 貴様の種族は……?」』
「教える義理も無いんだが、冥土の土産だ。ケイオスゲルだってさ」
『翻訳「ケイオスゲル……? 聞いた事がない……」』
「ちなみに少し前までイーヴルゲルだったけどな」
ボソボソ……。
「ん?」
『聞き取り不可』
『翻訳「ふざけるなぁーっ!!」』
おお! 体内でマナが高速循環している。勝手に怒ってもらっても困るんだが。そして、やや強の奴、上手い事俺に攻撃するつもりなのか、さっきから空気に徹しているが俺の視界に死角は無いので悪しからず。
「そろそろ飽きた。いいから来いよ?」
ん? 物凄い量のマナが練られていく? コイツ社ごと吹き飛ばす気か? やっぱり馬鹿なんじゃねぇか?
『翻訳「炎よ吹き荒れろ!【火炎烈風】!」』
発動と同時に【魔法分解】で消し去る。
『翻訳「何ぃっ! バ、馬鹿なっ!」』
ふむ、コイツの底も知れたな。瞬間移動で俺の体内に拘束する様に……。おや? 回避された。
『翻訳「何を仕掛けるつもりか分からんが、貴様の動きは捉えているぞ?」』
瞬間移動に対応されたのが初めてでちょっと感動した。
『翻訳「全てを破壊する波動【破滅の時】!」』
懲りもせず魔法を撃ってくる。魔法使い系統の戦闘スタイルなのか? だが、俺に魔法は効かない。またもや発動と同時に消し去る。
『翻訳「貴様ぁぁっ! 魔法を無効化……、否、発動後に消しているのか?」』
迂闊にこちらの射程距離には入らない辺りは評価できるし、魔法の威力も凄そうだけど、もうそろそろ終わりにしよう。分体を3つ作り出し四方へばらけさせる。屋内で逃げ場は無いので射程内に捕捉可能となった。
『翻訳「分体ごときにやられはせんぞ! 【衝撃】【衝撃】【衝撃】!」』
分体に向けて魔法を放つが即座に解除。一番近い分体の極細触手を相手の右足首に伸ばし切断。切った部分は分体の体内に保管する。
『翻訳「マ、マリス様っ!」』
『翻訳「う、狼狽えるな、足の1本なんぞくれてやる!」』
マリス、か……。当たりだったな。しかし、学習能力の無い奴だな。単純に倒すだけなら最早敵では無いのだが、どうにか情報を聞き出したい。ん? 必要か?
「ジル、今話せる?」
「なんでしょう?」
「例の首謀者マリスと交戦中なんだけど、生け捕りとかした方が良い?」
「交戦中に呑気に会話出来る程度の相手だったって事ですね?」
「まぁね」
「あれでいてマリスもそれなりの魔物だった筈なんですけれどね……」
ジルの溜め息が聞こえてきそうだ。
「一応捕縛可能でしたらお願いします」
「オーケー」
殺さない方が難易度的には上がってしまうんだが、やってみるか。ちなみに残っている2体共【我あり】の魔法は見付けているので復活は出来ない。……そっちからアプローチしてみるか。気配を消しているつもりのやや強の方を先に仕留める事にする。マナ化して瞬間移動後、触手を突っ込んで【我あり】が刻まれているマナを破壊する。
『翻訳「クッ! だが無駄だっ!」』
「いや、そっくりそのままお返しします」
やや強はそのまま絶命。戻って来る事も無い。
『翻訳「き、貴様ぁ! 何をした!?」』
「何をって手前ぇの配下を殺したんだけど?」
『翻訳「ころし……、こ、殺して……、い、いや、殺してから……、いや、殺したって、な……に……?」』
「【我あり】なら解除してるから戻って来ないぞ? 正真正銘死んだし、あんたの【我あり】も発動しないと思ってくれ」
『翻訳「な、何を? いや、馬鹿な! だが、ここまで神殿に派遣していた四天王を悉く倒されてきたと考えるならば、【我あり】を解除しているというのが結論か!?」』
し、四天王? そういう設定あるの? ダサいって! コイツ笑いのセンスだけは有るんじゃないのか? プスススス!
『翻訳「貴様の目的は何なのだ?」』
「目的か……無いな。強いて言えば社の解放か?」
『翻訳「目的も無く我等を潰すか……。殺せ……」』
「ところが殺せない理由もあるんだわ。黙って連行されてくれ」
無抵抗となった悪魔を拘束して戦神フレールの社まで連行するのだった。




