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深夜の森を徘徊しながら出会った動物、魔物を片っ端から平らげている。出来る事が増えるという事は消費するエネルギーも増すという事だ。しかしながら最近は全てを吸収しきらずに多少の素材をゲル収納に残す様にしている。何かの役に立つ事もあるかもしれないからな。そして眠らなくても良い体の為疲労感も無く動き回っている。小学生の頃の無尽蔵のエネルギーの様だ。どれだけ走り回ってもヘラヘラ笑っていたあの頃が懐かしい。今では粘菌生物になってヘラヘラしているぜ。


さて、本当に家とか要らない訳で、数日間彷徨った末に辿り着いた森の端っこ。この先は背の高い木が少なくなっていて、いずれは草原地帯になる様だ。なんとなく外周を回ってみようと思い付いた。以前立てた仮説では外縁側はさほど強い魔物は居ない筈だ。現在地は、キュリヤによれば森の北東部らしい。反時計回りに一周ツアーのスタートである。


それから暫く、キュリヤ情報だと森の西部、虫型の魔物と初遭遇していた。俺の見え方が間違っていなかったらトンボだ。シルエットは完全にトンボ。ただ、大きさが違う。全長1m程の巨体! ホバリングの羽音の振動が俺の体をプルプル振るわせる。昆虫界では空の支配者とも呼ばれるトンボが巨大化している。しかし、俺の持論から言えば外骨格の生物は大きくなれない筈なんだ。丸見えですよ? 紙装甲が! ものの数ではない! 幾ら来ようがこの程度では屁でもない。……強がってみたが、デカい虫とかちょっと、ねぇ……。キモ……。とは言いつつ、しっかりと捕食。軌道が読み難いあの独特の飛び方が懐かしい。ただ気になるのは奴の体内でマナが魔法的な動きをしている部分だ。攻撃的な魔法の感じではないから自己バフか、こちらにデバフを仕掛けてくるのか? とか思っている内にトンボはどんどん迫ってくる。何を仕掛けてくる気だ? ん? こちらの射程に入った! あれ? ()っちゃって良いのか? 触手射出! パシュッ!


パァーッン!


音速を超えた触手による斬撃で相手が気付く事も無いまま頭を両断。そして浮かぶ疑問。あのトンボは一体何がしたかったんだ? 虫と捉えて考えるなら知能の様なものは無いとか? 分からん。ディスコミニュケーションな連中としか出会わない己の運命を呪うよ。それとも人間の思考、或いは俺の考え方に当てはめるのが良くないのかもな。とにかくトンボは吸収だ。……ゲル(同族)ですら何考えているのか分からなかったしな。この世界の生物の有り様がそもそも分からないのだからしょうがない。森の西部は虫系の魔物が多い様だ。てか、ほぼ虫だ。マナ化しての瞬間移動は使っていない。森の外縁部に近い辺りをジグザグに進んでいる感じだ。幅1km程の距離を斜めに行ったり来たりしながら前進している。前方に魔物発見。体高1m程のカマキリだ。すでに虫の魔物は敵ではない。索敵殲滅サーチ・アンド・デストロイである。こちらの射程に入った瞬間に絶命。そんな事を繰り返しながら森の外縁部を周回していく。


この世界にも人間社会がある事は判明しているのだが、果たして俺はそれらと関係を持つべきであるのか。自我が在るとはいえ存在としては魔物な訳だ。御伽噺じゃあるまいし、カエルにされた王子様かよ。「ボク、わるいゲルじゃないよ」ってか? 虚しい。3大欲求の悉くが無い為、無性に虚無ってしまう今日この頃。そろそろ森の南西部。半周した事になるな。人間の徒歩なら2日程の行程を1日で到達した寸法だ。今の全速力で森の外周を走ったら1周4時間程、マナ化瞬間移動だと1時間半程だろうか。ジグザグに魔物を狩りながらの道中だとこんなものかな? 更に眠る必要がない俺は先へ進む。


虫の魔物が出なくなり、魔物自体ほとんど現れなくなってきた頃。森の南端付近を通過してから暫く。

『報告、ここより南南東10kmの地点に人間の集落。森から1番近い人間の集落と補足』

「へぇ、ま、立ち寄る訳にもいかないんだがな」

『人間は捕食対象ではない?』

「う〜む、難しい質問だな」

以前襲ってきた連中は溶解吸収したんだけど、好んで食人したい訳でもない。正当防衛を主張したいんだけど、食べちゃったしな。あれ? どういう感情なのだろう? 積極的に捕食しないけど危害を加えるなら反撃して、勿体無いから食べちゃう方向だな。野生動物かよ!?

「……という訳で、こっちから一方的に襲ったりはしないよ」

『了承』

まったく、キュリヤは俺の事を魔物として見ているのか、人間として見ているのか……。人間との付き合い方かぁ……。


マナの変化に気付けたのは偶然だったのか。初めて【眷属の秘事(インナーサークル)】でキュリヤとブラガと話した時の感覚が似ているだろうか。感情といえば良いのか、人の意思の様なものが反映されたマナを感知した。残留思念? みたいな感じか。まあ、なんのことはない木こりがこの辺の木を切っていった時の記憶を垣間見た程度だったんだが。近くにあるという村から来た人なのかな? 意思をマナに乗せる。コミニュケーションに使えないだろうか? 敵意はありませんよ的な気持ちをマナに込めて相手に送る魔法? 検証が必要な案件が出来たな。


その後、出てくる動物、魔物を狩りながら順調に行程は進み遂に森1周を走破。森の全体像は大体横長の楕円形で南北約60km東西約100km位の大きさかな。やはり外縁部には強い魔物は居ないという俺の仮説は今のところ有効だ。そしてマナによる意思疎通の可能性を模索中である。試す相手が居ないのはご愛嬌だ。あとは森の中心方向にも徐々に足を伸ばしていきたい所だな。あれ? これって異世界スローライフなのでは? 仕事や義務に拘束されずに好き勝手に振る舞っている現状。魔法も使えて、周りには脅威となる魔物も居ない。悠々自適、快適生活じゃないか!? ……ゲルじゃなければ! 粘菌生物でさえなければ!! いかんいかん、現状を受け入れ出来る事を模索するべきだな。意思をマナに乗せる……。


寺院跡(わがや)に帰ってきた。敷地内に生い茂っていた雑草が綺麗になっている。ブラガの仕事だろう。気になるのは雑草は燃やされて片付けられた形跡だな。あいつ、一気に焼き払ったんじゃねぇか?

「ギ、ギクゥッ! お、おかえりなさいませマイスター」

「おぅ、ブラガ、戻ったぞ」

雑草を焼いて処理したぐらいでいちいち咎めたりしないさ。(コイツだって久々に動けるようになってハッスルするだろうさ)それにしても、一度認識したら目に付く様になったのか、残留思念(意思あるマナ)が結構あるな。流石寺院跡だけあって感謝や祈りみたいな穏やかな感情が溢れている。戦乱が終わった事への感謝、平和が長く続く事への祈り。

「キュリヤ、ここって創造神ミルユーを祀っているの?」

『否定、ここには戦の神フレールが祀られています』

「へぇ、神は何柱か居るって事だ?」

『肯定』

マナに乗せた想いが神に届くと良いな。そして、その要領で俺の気持ちも他者に伝わる様になれば良いのだが。マナに意思を込めて飛ばす。概念を伝える。敵意が無い事を分かってもらう。伝達、発信、イメージ……。


時折周辺の魔物を狩りつつ数日が過ぎた。意思疎通の手段を模索しながらマナをこねくり回して過ごしている。

隷属化(エンスレイヴ)

あっ……、存在値(ダーザインレベル)が上がった。

『報告、新たな魔法を習得』

「お? やっと魔法として発動したか」

『しかし、意思疎通(コミニュケーション)手段としては疑問』

「へ? どんな魔法なの?」

『【隷属化(エンスレイヴ)】一定の確率で対象を隷属させます』

「いやいや、どうしてそうなる!」

『こちらの意思を伝える所から派生して、こちらの意思を強制させる方向へスライドしたと推測』

「ふむ、だけど交戦を回避するには使えるかもな。隷属化は任意で解除できる?」

『肯定』

なら、とりあえずオーケーだ。確率がどの位かは分からないけど、戦意を削ぐ意味では有りだと思う。そうに違いない。多分、きっと……、恐らく…………。

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