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寺院跡に巣食っていた魔物は一掃された。背後に何やら組織だって行動してる魔物の存在を確認したが、それどころじゃない! この建物を守る様に配置されていたゴーレムが突然起動した。起動は確認した。……動かないな……。
「キュリヤ、何か分かる?」
『現状の情報、種族名・盲目の守護者、稼働に必要なマナをこの建物より供給、故にミチオのマナで稼働しているも同然』
「え? 何それ? それで敵対するとか恩仇な奴だなぁ」
プンスコきちゃうよもう!
『敵対には疑問』
「あぁ、そうね? 起動しただけだもんな」
『肯定』
うん、確かに俺のマナが潤沢に使われているな。確かめに行くしか無いよな……。
てな訳で玄関と思しき場所まで上がって来たんだけど……。未だゴーレムに動きは無い。ふむ、分体を表に出してみようか。さして意識もせず適当に作った分体にメインの意識を持っていく。それからマナ状態となって壁抜け移動。ゴーレムの手前数mの所で実体化。建物に背を向けていたゴーレムが振り向く。思ったよりも滑らかな動きの様だ。身長2.5m程、動き同様に感じたのは、思ったよりもスリムな印象だという事。その後直立不動のまま地面から数cm浮いた状態で移動、俺の目の前まで来たかと思うと着地して恭しく傅く。左手を胸に、左膝と右手の拳を地面に付ける格好で頭を下げる。
「@@、@@」
また分からない言葉っ!
「キュリヤ先生お願いします」
『了承「おはようございます、新たなマイスター」』
「マイスター?」
『建物にマナを満たした者に従うものと推測』
「その様だな」
『翻訳「マイスターのマナは素晴らしい! この地に錬成されてから感じた事の無い万能感に満ち溢れております」』
「それは良かった」
『翻訳「ええ、ええともさ! 200年前ワタシを錬成した創造者を遥かに凌ぐ質と量を兼ね備えていらっしゃる!」
「200年? そんな前からここに居るのか?」
『翻訳「ナラン王国、その建国の祖が神々を讃えて建てられたこの神殿を守る為に造られたのがワタシです」』
「へぇ、てゆうか、もしかしてエネルギー切れとかで起動出来なかったとか?」
『翻訳「かれこれ……70年になりますね」』
「んー、そっか、お前の対策の為にあれこれ奮闘していたのが馬鹿らしく思える……いや、魔物の組織とは直接関係は無い感じか?」
『翻訳「ぐぬぬ、彼奴等! 狡猾にもワタシが待機状態で行動に制限が掛かっているのを良い事に目の前を素通りで侵入していきおって!」』
「そうか、お前が敵ではない事は分かった」
そして、やはり魔物の組織が動いていた事も。更に言うと自分の愚かさもだな。もう少し知恵を巡らせていればゴーレムのエネルギー切れに気付けたんじゃないか? ゴーレムが居るのに中に魔物が居たんだからな。以上、反省。
「いつまでも分体に相手させているのも悪いな」
玄関扉を開き分体と合流。
『翻訳「おおっ! な、なんとこれ程とは? 建物内に強大なマナの奔流を感じていましたがマイスターのマナは凄まじいですね!?」』
「ご、ごめん、ちょっと待って!」
建物にマナの遮断か隠蔽が施された? 感知されていた筈の反応とは違うぞ? もう一度分体と別れて建物の中と外からマナ感知を試す。なるほど……中から外を窺った場合には特に何も違和感は無い。しかし、外から中を窺ってみるとマナの感知が曖昧になるというか、何かに阻害されている感じだな。
『肯定、建物内にはマナ阻害、魔物忌避が常時展開』
「おぉ、すごいな」
でも魔物忌避……? 俺、大丈夫だけど? ひとまず検証終了、ゴーレムの元へ戻る。
『翻訳「ささっ、それではワタシとの契りを……」』
「契り? なんか契約とかあるの?」
『翻訳「ワタシをマイスターの眷属の末席へ加えて頂く事を、どうか、どうか!」
「眷属の末席ったって……俺、今のところ独りぼっちだよ?」
『翻訳「そちらの方はマイスターの眷属ではないのですか?」』
「そちらの方? どちらの方? 何が見えちゃっているんだよ! 怖ぇぇって!」
『コホン……』
「あ、あぁ! キュリヤの事か? てか、見えているの?」
『ゴーレムはミチオと同じくマナの感知に長けています』
そうか……目を持たない仲間が出来たんだな。
『ただし、ゴーレムは【マナ感知】のみならず、【熱感知】【振動感知】【魔法感知】【擬似視覚】等の方法を複合して外界の情報を得ています』
「うぐっ!」
こちとら専らマナ感知一筋ですよ! まぁ、それは置いておいて……。
「キュリヤ? 契約は大丈夫?」
『現状で不利益は無いと推測』
「オーケー、んじゃ、契りを交わそうか? どうすれば良い?」
『翻訳「ワタシの心臓部にマイスターのマナを直接注いで下さい。そうすれば自ずと理解できると思います」』
心臓部ねぇ、多分ここら辺のコイツの保有マナと全て繋がっている箇所だな? ふむ、ゴーレムってのは非生物だと痛感するな。マナに一切の揺らぎが無い。ただただ効率的に稼働しているんだろうな。分かり易いとも取れるがな……。さて、マナの注入を開始する。俺のマナをゴーレムの心臓部へ還元させていく様に……。
『翻訳「あぁ、あぁぁぁぁっ! マイスター、無機物であるワタシの擬似人格がっ! これが涙? 感情の奔流? あ、ああっ! 涙を流す錯覚を覚えます……」』
【接続強化(ゴーレム・盲目の守護者)】
のわぁっ! キタキタキタキタキタキタッ!! 存在値が上がった感覚だ。脳が蕩けてしまいそうな感覚に恍惚としてしまう。ま、体は半分溶けかかっているんだが……。意識をマナに集中する。マナが情報伝達にも役立つとは思っていなかった。俺のマナとゴーレムのマナが接触した際に意識を汲み取る事が出来た。それに従いマナを注入していく……。すると…………。うむ、変化無し! 俺の感知出来る範囲内では全く変化が無い!
「マイスター……分かりますか?」
「おぉ? ゴーレムの言葉が分かる?」
けど、これ音じゃないな? 【念話】か?
『訂正、【眷属の秘事】です』
ん? キュリヤも会話に入ってきている?
「【眷属の秘事】って?」
『眷属間のみで会話が出来る技能です』
「その通りですぞマイスター、意識で会話している以上、言語の理解は必要無いという事ですぞ!」
「意味でコミニュケーションをする感覚?」
『肯定、続けて提案、ゴーレムへの名付けを推奨!』
あれ? キュリヤがまた"フンス"している? 企みを感じない事も無いが、今まで不利益も出していないからな……ここは乗る!
「あんた名前は有るのか?」
「名前、名前……はて? 守護者やガーディアンといった呼ばれ方ばかりでしたので……」
「じゃあ、俺が呼びたい様に呼ぶぞ」
「ええ、構いません」
種族名は盲目の守護者だったよな? 聞き覚え……聴き覚えのある名前だよ……。
「じゃ、ブラガで!」
あっ……マナの繋がりが濃くなっていく……ん? キュリヤ?
『肯定』
キュリヤが見える……。小柄な女性か? 表情までは読み取れないけれど、姿形は自在だって話だったからアレは素体の様なモノなんだろうな。シルエットだけで細かな部分は分からないな。
【接続強化】
「随分可愛らしい姿じゃないか、キュリヤ?」
『肯定、容姿に過不足は無いと自認』
「それじゃあ、あれ……」
【接続強化】
マッチョな男性型が居る……ブラガなんだろうな。
「おお! マイスター、この短時間でここまでの深い理解度……感服致します……」
『肯定、ミチオの現状理解度は異常』
「え? 悪口? え?」
『否定、ミチオは当機の演算の及ばない行動を取ります』
「意味不明の行動をしていたって事?」
『肯定、神からはゲルへと転生した人間をこの星でナビゲートせよ! との御命令でしたが……ゲルが人間の思考を持つ事に恐怖を覚えた事もしばしば……』
「え? なんか、ごめん……」
『冗談です』
「へ? 冗談? キュリヤが? ハハ、アハハハハッ!」
意思の疎通が更に高まったって事だな。悪い事では無いさ! 悪い事では無いよね? 思考ダダ漏れ状態が2人に増えたんだけど……。悪い事では無いって誰か言って!
……徐に自分の右手を見つめてみる。おぉ……おぉっ! どうやら俺の形は人間の様だ。ゲルの体に必死で慣れようとしてきたけど、俺の本質は未だに人間のままだったという事か? 何か深い感慨を感じてもいるが、それが何なのかは分からない……。安堵感、懐かしさ、ひょっとしたら人間に戻れるのかもしれないという希望、そんなものがごちゃ混ぜになりながら胸に去来する。人間の姿形に憧憬を覚えつつ不確かな感情を噛み締めながら、右手を閉じたり開いたりしていた。
でだ、拠点を得た訳である! 寺院跡改め、我が家である! いまいち家屋の必要性を感じない俺はすっかりゲル生活に慣れてしまっている様だ。まぁ、俺がマナを補充して復活させた施設だ。現在の保有権は主張させてもらいます。改めて寺院跡はこんな感じか……。10m×10m×10mの立方体の様な地上部分、地上2階、地下2階。地下1階はだだっ広い空間、儀式か何かでも行っていたのかな? 地下2階は例の建物にマナを補充した場所、コントロールルーム的な場所だったのかな? 地上1階は木製のベンチが列を作っていて、所謂礼拝堂みたいな感じだろうか、奥には祭壇みたいな物もある。そして、まだ手を出していない地上2階部分、小部屋が4つあり、その内一部屋にマナを感知している。建物にマナを満たしてから、ずっと同じ場所にある気になる箇所。一難去ってまた一難か?




