12
折角逃してやった人間は集団で俺を討伐する事に決めた様子だ。現在までに判明している情報は、傭兵団【火中の栗】なる連中の総勢18名(内2人死亡)が相手だ。リーダーの名はジーマというらしい。傭兵団というからには、それなりに戦闘能力がある集団なのだろう。そして、3日後に森へやって来るという事だ。それなりの準備があるのだろう。こちらもおもてなしの準備をさせてもらおう。
まず、集団戦闘を想定して猿どもに協力してもらう。お呼びでない時は襲って来るくせにこちらから探すとなると面倒だな。【闇拡張】を時々使いながら回転移動で辺りを駆け回る。発見……、されました。結果オーライなんだが腑に落ちん。3匹が投擲攻撃、1匹が牽制で近寄ってくる。
「ギョィー!」
リーダーが何かしら叫んでいる。残り2匹は枝の上から様子を窺っている。【影渡】で影に潜伏、続いて【暗闇】で視界を奪い、更に続けて【影縛】で動きを制限する。【影縛】は、効果範囲内の闇のマナによって対象をその場に拘束する事が出来る魔法で、今は夕方だが、昼間でも薄暗い森の中ならば強い拘束力を発揮できるだろう。7匹全てがその場で動けなくなっているのを確認、後は順番に命を刈り取る作業。猿どもは既に敵ではないな……。武装した人間が倍以上の数と考えると、練習にもならなかったかな?
もっとこう……、違うな……。液剤生成で作る事が可能になった致死毒を霧状にして周囲に散布出来ないか実験中である。
【身体操作(ゲル属)】
うーん、こういう感じか……。体の側面360度に無数の細かい穴を開ける感覚で、上に伸ばした体を一気に下方向へ押し付けてやる。ブシューッ! 成功だ。自分を中心とした半径5〜6mに液剤を噴霧、効果を変える事が可能だし便利そうだ。俺が生成できるありとあらゆる薬や毒を噴霧できると考えると恐ろしくもある。
すっかり夜になった頃、定番になった浮遊霊狩りの最中に新たな魔法が発現した。【魔法分解】、放たれた魔法をマナに分解してしまう魔法だ。浮遊霊の魔法【見えざる手】が俺に触れる直前に闇のマナに還元されていった。これは色々試してみないと効果の有効性が別れそうだ。
「キュリヤ、この魔法って……」
『魔法発動のマナの動きを感知した瞬間に分解可能』
「複数同時に……」
『可能』
「効果範囲は……」
『ミチオのマナ感知範囲全域』
割とえげつない効果だった。
【魔法適性】
【属性魔法(闇)】
【情報処理能力】
それから3日間、実験したり、特訓したり、脳内シミュレーションしたりして過ごした。倒した魔物は猿3チーム21匹、墓虎1頭、浮遊霊13体。
【幻覚】というその名の通り相手に幻覚を見せる魔法を覚え、更に試行錯誤の末に派生した魔法【醒めない悪夢】を習得。これは闇属性魔法と【幻覚】の複合魔法の様で、習得時に存在値が上がった。効果の程はというと、拘束した相手に非常に強烈な幻覚を見せるというものらしい。それはもう気が狂う程らしい。"らしい"というのも自分で掛かる訳にもいかず、掛けた相手も猿1匹だけで、後はキュリヤによる説明だけだからだ。
『複数の魔法を掛け合わせる事により派生した謂わばオリジナル魔法と言えます』
「体系だった魔法とは別のものって事ね」
『肯定、その過程で得られた知識により存在値が上昇したと推測』
「確かに魔法を根本から考え直してみたからな」
マナの特性をより深く理解した気がする。後はいつ傭兵団【火中の栗】が来ても良い様に奴等が来るであろう方角の森の外縁部方向に移動して来ている。森の外までは20〜30kmの辺りだ。残念ながら傭兵団の魔法使いに付けていた分体は、活動を維持するマナを補充する事が出来なくて昨日消滅してしまった。永久機関は未だ実現せず。そして直近の情報が得られないのは正直、痛手だった。それでも準備万端の心構えで敵の来訪を待ち続ける。
太陽が真上に上がった頃……。
……来たな。
『肯定、索敵魔法を感知』
まぁ、今回は俺が目的だし黙っていても真っ直ぐ接近して来るだろう。仕掛けは充分。後は中衛の皮の中にまあまあのマナを持たせた分体を入れて……、待つとしよう。
索敵魔法に掛かる事2回、望遠モードの視界に捉えられる距離に人間の集団が侵入してきた。元人間様が人間を蹂躙する為に用意した仕掛けはお気に召してくれるだろうか?
「××! ××××!」
「キュリヤ……」
『「囲め! 死角の無い様に動け!」』
言葉として聞こえたのはこの命令だけで、後は話し声なのだろうが、雑音にしか聞き取れなかった。
「キュリヤ、以降意味のありそうな言葉は随時翻訳してくれ」
『了解』
次第に周囲を取り囲む様に1人、また1人と視界に入ってくる人間を数えると15……。
事前情報よりも1人足りないな。
「キュリヤの索敵では?」
『15名』
俺の視界、約50m内に全員捉えたが、残り1人がマナを隠蔽、或いは遮断する等して潜伏している可能性もあるか?
『肯定、ただし限りなく低いと推測』
「オーケー、それでは状況を開始しますか……」
1人が先行して接近してくる。その後ろに6人、やや広がった陣形で来る。偵察1人と前衛6人といった所か。更にその後ろ、部隊の丁度中心付近に3人、更に更に最後尾5人が広い間隔を開けて居る。中心の3人の内、1人はリーダーのジーマだろう。後衛5人の中には魔法使いが居る事を確認。大きめの石の上に腰掛けているカリスは外套のフードを目深に被り地面に目を落とす様に俯いている。傍らには槍も立て掛けてある。俺本体はそこから7、8m離れた場所で【影渡】で潜伏。そうしている間に偵察役と思しき奴がカリスに気付き声を上げる。
『翻訳「カリス!? お前、無事だったのか?」』
軽々しく走り寄って来るのを見るにこいつは斥候失格だな。よし、【幻覚】発動! 本物のカリスと話している気にさせてやる。
『翻訳「生きていたなら何故戻って来なかったんだよ?」』
二言三言話したかという頃、後続がやって来た。
『翻訳「おい、ティシフ! 急に走って……って、カリスか!?」』
『翻訳「何っ!」』
『翻訳「本当だ」』
口々に驚きながらも走り寄る前衛5人。ちっ、1人用心深いのが居た。
『翻訳「おい、待てよ! おかしいって」』
だが、もう遅い。偵察君と前衛5人は射程に入った。折角手に入れた人の皮だが、ここで使い潰す。カリスの全てをゲルクレイモアとして発射! バラバラババババーッ!!
6名様御案内!
飛び散った弾はすぐに本体へと戻る様に移動。
仲間達が文字通り蜂の巣状態で、1人残った奴の狼狽が伝わってくる様だ。
『翻訳「なっ! ……おい、お前ら……」』
一瞬呆けていた様だが、すぐに後ろへ振り返った。リーダーに報告するのだろう。が、甘いな……。影が繋がっていた。生き残りは影に潜伏されている事に気付きもしない。程なく3人の人間と合流して何事か話し始める。
『翻訳「すまん! 先行していた部隊はオレ以外全滅した!」』
『翻訳「見れば分かる! 何があった!?」』
『翻訳「ああ、カリスの死体に何か細工して置いていたみたいで、皆が近付いた所で爆発して……」』
『翻訳「ティシフの野郎、あんだけ注意するよう言ったのに……」』
『翻訳「で、どうするジーマ?」』
『翻訳「奴の正確な現在地はわかるか?」』
『翻訳「い、いや、それどころじゃなくて……」』
『翻訳「わかった、慎重にいくぞ! ティキ、【広域探査】だ! それからロシウ、【魔那探査】だ!
待ってやる義理も無いのだが、なんとなく会話を聞いていた。ま、もういいか。……シューッ……。
『翻訳「なんだ? 急に霧……」』
バタバタッ、バタン、バタ、バタッ……。4名様御案内! 致死毒の霧を吸い込んで数秒で全員死亡。残りは後衛5人だけだな。
『翻訳「ジーマ? ジーマ!?」』
ぼんやりしている暇は無いってのに……。魔法使い以外は速やかに排除する。【影渡】で近付ける者から順番に極細触手による溶解液注入。残り2人、丁度陽の当たる場所にいる奴は俺の正確な位置を捉えている様な動きだ。さっきの【魔那探査】ってのでバレているんだろうが、関係無い。
地上に戻り高速回転移動で急接近、位置が分かっていたって対処出来なければ無意味だ。そのままメタルボディで体当たりだ!
ボゴッ!
5m程吹っ飛んで後頭部を木に打ち付けてピクリとも動かなくなった。再度接近して極細触手で脳を溶かす。残りは魔法使いのみとなった。
「あ゙ぁぁぁぁーっ!!」
絶叫である。
さっさと拘束する為に接近、5m程の距離で極細触手を地に這わせる。相手の足首を掴み、そのまま引っ張り寄せる。ギャアギャアと喚いているが、淡々と作業を続ける。頭だけを出す形で俺の体内で身体を拘束。中途半端な所で自害されても困るので口の中に体の一部を突っ込んでおく。
「キュリヤ、【念話】&翻訳お願い」
『了解』
「ティキ、俺との約束は覚えているか?」
『翻訳「ぁ、ぁ、ぁ、ぁあ、お、覚えてるわ……」』
「どういう了見だ?」
『翻訳「だ、だって、仲間が殺されたのよ? 報復に出るに決まってるでしょ!?」』
ふむ、理解は出来る。
「【火中の栗】にはもう1人メンバーがいる筈だな?」
『翻訳「な、なんでそれを……? いや、え? 私達の団名も……、え? なんで!?」』
「質問しているのはこちらだ」
『翻訳「と、特殊個体と思われるゲルが確認されたから、領都へ伝令に出したわ」』
ふむふむ、今後更に人間の襲撃があるかもしれないと……。
『翻訳「あんた、何者なの? ゲルが人間と会話するなんて聞いた事がないわ!」』
「約束を反故にする様な奴に答える義理は無いな」
「くっ!」
「では最後だ。慈悲を求めるか?」
『翻訳「この期に及んで、まだ生かして帰すつもり!? い、いいえ、殺さないで! お願い!」』
「分かった、殺しはしない」
【醒めない悪夢】発動……。
念の為、一応念の為、俺の溶解液は任意の物を溶かす事が可能。任意の物"だけ"を溶かす事が可能。そういう種類のアレだ。大事な事だから2回言ってみたけど、そんな展開にはならず……。魔法使いは叫んだり、ぶつぶつと囁いたりを繰り返している。どんな夢幻に囚われているのやら……。




