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カナンという街で滅茶苦茶な思想集団が俺を崇拝していた事は誠に遺憾である。という事で公開裁判真っ只中だった。

「それじゃあ、奥さんや娘、使用人の方々の前でギリス卿に聞こうか。俺の頼みを無視して逃げようとしたな?」

「……はい」

「それはなぜ?」

「な、なぜって……それは、……危険な気がして」

「危険ね……。じゃあ奥さん、俺はギリス卿に仲間を集めてくる様に頼んだんだけど、それを無視して街から逃げようとしたんだ。神の頼みを素直に聞くのと承諾したうえで無視してしまうのとどっちが危険だろう?」

「は、はい、逃げてしまう方かと存じます」

「うん、俺もそう思う。お嬢ちゃん、約束した事を守るのと破るの、どっちが悪い事だろう?」

「破っちゃダメです」

「うん、賢いね。だそうだギリス卿」

「か、家族は関係無いでしょう! もうお許し下さい! お願いです!」

土下座をして懇願するがやめる気は無い。

「関係無いとは言うけど俺の頼みを無視した状態で家族と一緒にいたら間違って全員殺されるかもしれないだろ? むしろ、お前が自ら危険な状況に巻き込んでる形だな?」

「そ、そんな……そんな理屈っ」

「通らんか? 第三者代表ブリムさん」

「ま、まず前提としてミチオ様の頼みを承諾していたのを俺も見てましたし、街の外へ出る寸前で連れ戻したという事で逃亡は言い逃れ出来ませんね。そうなると粛清の対象になってもおかしくないし、ギリス様の一団を一気に葬る事も起こり得るかと考えます」

「だってさ、どう? ギリス卿?」

「じ、自分可愛さに街を出ようとしました……」

「神様との約束を無視するって凄い事だよね? どうにかなると思った? それとも俺が舐められているのかなぁ?」

「その様な事はございません! ただただ逃げるのに必死になり周りが見えておりませんでした」

「ん? うん、それって不敬だと思わないか?」

「……はい、申し訳ありません」

「それに仲間に対する裏切り行為でもあるよな?」

「……はい、全て自分勝手な行動でした」

「もう1個、さっきの話に戻るんだけど、守る者が居なければお前は素直に従った様な言い分だったよな?」

「そ、それは違います! 言葉のあやと言いますか! ただの言い訳と言いますか、とにかく、あれは違うんです! 家族はどうか、どうにか寛大なお心でもって……」

「ふむ、そうか……分かった」

未だに実害を被っていないし、多くを語らないので対処に迷う教会関係者の男にも問い掛ける。

「司祭はどう考える?」

「な、何に対してでしょうか?」

「アンタ等の一連の行動全般だな」

「我々は間違っていたと言わざるを得ません。謝罪を受け入れて頂けると幸いに思います」

「そうか、じゃあ所長は火龍の涎決定として他の奴は?」

「……他のとは?」

「いやだなぁ、ギリス卿は自分で不敬であったと認めたぞ? あと、アノー市長の態度は明らかに不敬だと思うし、門兵の彼も罪を認めたな」

「……全員拷問にかけろと言うのですか!?」

「ん? 拷問? 火龍の涎は宗教儀式だと聞いているんだけど? 罪が雪がれるとかそういうのじゃないの?」

「……はい、その通りですね」

「ん? で?」

「で? で、とは?」

「だから、4人で終わりか? 他にも仲間がいっぱいいるんだろ? 例えばアンタ自身とかさ」

「…………」

「どうした? 良い感じの躱し方が出てこないか?」

「……いえ、その様な事は……」

「ブリムの旦那! どうだ?」

「は、はあ、ただ、火龍の涎はあまり見たいものじゃありませんね。あと、すみません、些細な事かもしれませんが彼は司祭ではなく司教です」

「そっか。まぁ、そうだな、コイツ等が熱狂して興奮してる様は、とてもじゃないが理性的な人間とは思えなかったな。俺が不快感を覚える儀式を俺の名を出して行っている事は不敬じゃないか? なぁ司教?」

「……はい、仰る通りです」

「じゃあ? 自分の罪はどう罰する?」

「じ、自分では決められません……」

「それじゃあ俺が決めてやるからな。今まで不当に殺された人達を生き返らせてくれ。それでチャラで良いぞ」

「な、そんな事は無理でしょう!」

「無理が通れば道理が引っ込む。そうしてきたのは他でもないお前等だろ?」

「そんな、理不尽な!」

「だから、その理不尽を他人に強いてきたんだから早くやれよ! ほら? 早よ! すぐやれ! 今やれ! なぁ?」

「出来ません……」

「じゃあ死ぬしかないよな? そうしてきたんだろ?」

「……」

「また黙る! 自分達だけはどこか高みにいて他人を見下してたんだろ? 命の重さなんて想像出来ない程に感覚が麻痺して、それでも自分達のちっぽけな利益の為に犠牲者を増やして、どこまで行く? どうなったら終わりだ? お前達が軽々しく殺してきた連中から引き出そうとした情報って何だよ? 俺本人はこんな事到底許さないぞ?」

「……な、そ、何も言えないです」

「反省した素振りで逃げるなよ? 良いから今すぐ全員蘇らせろっ!!」

「出来ません……」

「出来ないじゃねぇよ。やれよ!」

「……申し訳ありません! 出来ません!」

俺は広場の中央に聳え立つ鉄柱の周りに残留思念の様に漂うマナを見ながらやるせない気持ちになっていた。無念、恐怖、絶望、何よりも激しい怒りが渦巻いている。それを感じる事もない目の前の男達を一瞥して野次馬に問い掛ける。

「信仰は自由だ。だけど俺の名を使って不当な行いをしているのは見過ごせない。それを指摘したら俺の為だったと言い始めるし、むしろ俺の方が間違ってると言い出した。おかしくないか?」

パチパチと拍手が起こる。

「それでも、この者達の命を俺が……」

ドスッ! 

「……こんな事までされる始末か」

司教が背後から俺の人形の胸を目掛けてナイフを突き立てた。野次馬からは悲鳴が上がる。

「どういう了見だ?」

「……は、はは……もう貴方を殺すのが手っ取り早いのでしょう? ははは、はは……」

ナイフを引き抜くともう一度、何度も突き刺してくる。

「ふー! ふーっ! ふー、ふー! ふぅー……」

「早く殺せよ」

「ふー、ふぁーっ!」

向き直った俺の正面からも何度も何度も刃を突き立てる。野次馬から悲鳴は消えて異様な静寂に包まれていた。両手を左右に広げながら司教の行動を無視して周囲に語りかける。

「誰も止めてはくれないのかぁ?」

戸惑い、困惑が辺りを支配する。

「俺が何をした?」

未だにナイフを握り締め一心不乱に刃を突き刺し続ける司教。

「ふぅ、こんな街滅んでしまえば……」

司教が吹っ飛び地面を転がっていった。

「神さん、街ごとはやり過ぎじゃないか?」

サイの蹴りが司教の腹部を捉えていた。

「だって、誰も助けてくれないんだぞ? もう皆んな同罪で良いだろ?」

「いやいや、割って入るなんて出来ない雰囲気だったって!」

ボロボロになった衣服から覗く皮膚には血の一滴も流れない裂傷が無数に付けられていた。

「ほら、誰も安否を気遣う言葉を掛けるでもない。これがこの街の総意なんだろ」

「いや、それでも街を丸々ってのはオレは同意できんな」

「そうか、ブリムさん、どういう落とし所が妥当だ?」

「す、すみません、もう、なんていうか、俺には分かりません……」

パニックになった野次馬の一部が方々へ駆け出して行ったが街の四方にある門は既に石壁で埋めてあるので誰も街を出入りする事は出来ない状態だ。それを知れば更にパニックが広がるだろう。

「ブリムさん、よく考えて答えてくれよ? 俺はこの街に旅の途中でたまたま立ち寄っただけだ」

「は、はい」

「そこで邪神崇拝者を自称する集団に不当に扱われた」

「はい、お聞きしました」

「俺が邪神本人であると知っても利用する事ばかり優先させる様な連中が俺を崇拝? この辺でおかしいよな?」

「そ、そうですね」

「そんな連中に偽物だと罵倒され、公然と殺害予告からの実行。まぁ、死んじゃいないがな。ここまで間違ってないな?」

「間違いないです」

「俺に非は?」

「……ありません」

「じゃあ、どうする? 俺がこの街を丸ごと滅ぼすか、住民で解決させるか……」

「わ、我々でどうにかします!」

「そうか、じゃあ早く行動しないとな?」

「は、はい!」

ブリムは頭が良いらしく、更にはやはり人望がある様で何人かに声を掛けるとスムーズに事が運んだ。イカれた邪教団の連中が縄で手首を縛られて広場の中心に集められてくる。総勢30名を超える集団は神妙な面持ちとはならず、それぞれ不平不満や罵声を上げる者が多かった。抵抗する者もいるが押さえ付けられてそれぞれ全員が1本の縄で胴体を繋がれていった。

「ミチオ様、これで全員の筈です」

ブリムが伝えてきたが真意を計りかねる。

「ふむ、で?」

「い、いえ、あとはこの者達を処断されればよろしいかと……」

「ん〜、想像力が足りてないみたいだな。俺がやるなら街ごとだ。だから住民に任せると言った。最後まで責任を果たせ。アンタ1人に業を背負わせるのは忍びないが、それも含めて住民達皆んなで解決してみせろよ」

「……はい」

ブリムと何人かで話し合いが行われて数分、結論が出た様だ。

「ミチオ様……この者達は死罪となります」

「そっか」


諦め、怯え、反感、ギャーギャー喚く者、妙に落ち着いている者、抵抗して暴れる者、邪教団全員の頭に布の袋が被されていく。呼吸を荒くしたブリムが大きな斧を肩に担いで立っていた。バトルアックスに若干のトキメキを覚えつつもそんな状況ではない事は理解しているので成り行きを見守る。……その後は淡々と粛々と進んだ。1人を腹這いにさせると胴体に跨る者、頭部を押さえ付ける者、傍らで斧を担いだブリムが問い掛ける。

「ミチオ様に謝罪を……」

「た、助けてくれ! 俺が何をしたって……」

「神への謝罪を!」

「う、うるせぇ! こんな事おか……」

ズダンッ!

首と胴が別れドクドクと血が流れ出す。次々に執行されていくが誰一人として謝罪の言葉を口にする者はいなかったのだが……。

「心より謝罪を……誠に申し訳ありませんでした」

門兵の男だった。次は所長の番となる。

「ミチオ様に謝罪を……」

「ひひひひ……神の下へ召されるにひひ」

既に正気ではなくなっている様子ですぐに首が落とされた。

「ミチオ様に謝罪を……」

「こんな、許される筈が……儂は認めん!」

「神へ謝罪を!」

「ふざけるなよ! 誰が謝罪な……」

アノー市長は謝る気は無いだろうと予想通りの最期となった。そうして最後の1人は司教だけになった。

「ミチオ様に謝罪を……」

「お断りします」

きっぱりと言うとそれ以上言葉を発しない司教の首も落とされた。粛清された30人超の遺体が広場の中央の鉄柱周辺に積まれると油と共に火が付けられる。瞬く間に大きく燃え上がる炎を野次馬達は静かに見つめていた。この夜の出来事は邪神による仮面舞踏会(イーヴルマスカレード)と一部で呼称され語り草となっていくのだった。

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