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カナンという街で冤罪というか罪状すら不明のまま捕縛されて兵士の詰所だという場所へ連行されていた。そこの地下にある部屋へ連れて来られると事情聴取を受けさせられる羽目になっていた。
「私はここの所長でカシャーラ・ズィーマンだ」
この部屋で1人だけ椅子に腰掛けた男がそう言って一旦間を置き続ける。
「君達は邪神ゲルボーヤー様を知っているか?」
「……」
首を縦に振り肯定する。
『肯定』
「ああ、知ってる」
「ゲルボーヤー様は新しき神である為その実体はまだ分からない事ばかりだ。そこで我々はどんな些細な事でも良いからと市民達にも情報提供を求めている訳だ」
「所長! 1点申し上げたい事がございます」
俺を連行した門兵が声を上げる。
「なにかね?」
「はっ! お、私が連行した男がゲルボーヤー様誕生に立ち会った人間の話を示唆致しました」
「ほう、面白い話だ。それは君か?」
「……」
また首を縦に振る。
「ゲルボーヤー様の誕生に立ち会ったとはどういう事だ?」
「そういう人間がいると話しただけだ」
「ゲルボーヤー様は人間の前で生まれたという事か……。他には? ゲルボーヤー様が何か仰ったとか、どういう行動をされたとか……」
「ひぎっ、ぷふくく……」
サイの発作が始まった様だ。
「所長、ひとつだけ先に言っておきたい。連行してきた兵士には伝えてる話だ」
「なにかね?」
「誰に向かってこんな事をしてんのかよく考えて行動しろよ? 行動のひとつひとつに細心の注意を払ってな」
「君はどこかの国の王族か貴族か? そうは見えんが考慮しよう」
「ふごふっ……く、ふく……」
「それで、どうなんだ? ゲルボーヤー様について他に知っている事があれば教えてくれ」
「そうだな、ゲルボーヤーと呼ばれる事を嫌っていて本当の名はミチオというとか?」
「ほう、一介の旅人が言う言葉を簡単に信じる訳にもいかないが面白いな。ただし、ミルユー様の御言葉では邪神ゲルボーヤーと呼ばれていたので今はそう呼称する。他には?」
「ぶぃぃひっ! ひにぎ、いひ、ひ……」
サイは小刻みに震えながら必死に笑いを堪えている。
「理不尽を嫌い創造神にすら自分の意見を通すとか?」
「おお、おお! 素晴らしい!」
周囲の兵士達からも「おお……!」と、感嘆の声が上がった。
「それで他には? 何かあるか?」
「今は最初の7体の龍に会う為に旅をしてるとか」
「何!? 龍と会うだと? それは本当か?」
「本当だけどアンタ達は自分に都合の良いものしか信じないんだろ? もう俺達が何を話しても無駄じゃないのか?」
「貴様ぁっ!」
俺達のすぐ後ろに立っていた門兵の男が腰の警棒を手にすると俺の太腿辺りを殴打した。ガンッ! ……カラコロカラン。
「な、なんで……?」
警棒は太腿で弾かれると部屋の隅に転がっていった。
「あぁ、そうそう、邪神の報復は熾烈を極めるみたいだな」
「えぎひっ、ひひ、ぶふっ! ふふ、ぷく……」
サイの肩は大きく揺れ始めて限界が近い様だ。警棒を拾い戻ってきた門兵は更に激昂して警棒を振り上げた。
「き、きさきさ貴様っ!」
ゴン! ゴン! ゴン! ギャリッ! バズッ! バギャッ!
「おい、もうよせ!」
所長の右後ろの男が門兵に声を上げる。俺は壊れてしまった兜を外して地面に放り投げる。
「もう良いわ! よく分かった。キュリヤ、茶番は終わりだ。サイの拘束を解いてやれ」
『了承』
キュリヤの手首から一瞬だけ刃が飛び出すと縄ははらりと地面に落ちた。
「それで、俺達がここへ連れて来られた罪状は?」
「貴様はっ!」
まだ騒いでいる門兵以外の兵士全員に【重力影縛】を掛ける。異変に気付かずに尚も警棒を振るう門兵は俺の顔を見た瞬間に動きを止めた。
「なん、貴様はなんなん、なんだん……」
「お前、何回叩いた?」
「うわぁーっ!!」
出鱈目にめった打ちにされるが勿論ダメージはゼロ。
「所長、アンタ等が会いたいのが俺だ。意味は分かるな?」
「な、何を!?」
門兵に【幻覚】を掛けて兵士達全員が俺に見える様にする。
「ひっ!? きざ、きぁ! いぎぁっ!!」
キュリヤとサイと共にマナ化して他の兵士達の拘束を解く。暴れ回る門兵を抑えようと近付いた者が叩かれる。
「痛っ! や、やめろ! 俺だって!」
「いっ! ひぃ! わぁーっ!」
背後から羽交締めにしようとした者は中途半端な格好になり振り回された警棒に顔面を叩きつけられて倒れた。尋常じゃない事態に所長も立ち上がり門兵へ向けて両手を突き出して言う。
「落ち着け! 落ち着くんだ!」
腰に抱きつく様にタックルを仕掛けた別の兵士よって倒される門兵だったが、警棒を縦にしてタックルをしてきた兵士の首筋を滅茶苦茶に叩くとやがてぐったりとして動かなくなった。また別の兵士は自らも警棒を手にして門兵の太腿から膝の辺りに叩きつけた。バランスを崩した隙を狙い所長が飛び出すのだが、パニックで異常な興奮状態となった門兵は下からも警棒を出鱈目に振り回し続ける。
「ちっ、どうにか取り押さえろ! あ……」
門兵の脚を叩いた兵士の顎が砕かれた。
「お゙がぁー……あ゙ぁぁー!」
その後めった打ちに遭うとやがて動きを止めた。最初に叩かれた兵士が部屋から逃げていき、部屋の中で動いているのは門兵と所長だけとなった所で姿を戻す。門兵に掛けていた【幻覚】も解除して所長に問い掛ける。
「なぁ? 誰に対してどんな態度で接した?」
「……あ、ああ、きさ、貴様はなんという事を……」
「俺は何もしてないさ。むしろコイツに散々叩かれた被害者じゃないのか? それよりも、俺の質問に答えろよ」
「ま、さか……本当に……?」
「お前は愚かにも本人に対して尊大な態度を取りあれこれ詮索し……」
「ぅうあぁぁーっ!!」
バギィッ!! 門兵が渾身の力で振り抜いた警棒は俺の人形の後頭部に当たると折れてしまった。
「サイ、押さえ付けとけ」
「はいよ……」
鮮やかな動きで門兵の腕を極めて腹這いにさせる。
「所長、早く!」
「も、もうし、わけ……?」
人形にマナを凝縮させていく。破裂しない程度にだが、明らかに尋常ならざる存在を目の当たりにした所長の鼻から血が垂れた。
「所長、もう一度だけ問うぞ? 俺は最初に注意したよな? 誰に対しての行動なのか考えろと」
「はい……」
今にも消え入りそうなか細い返答。
「誰に対しての行動だ?」
「し、知らぬ事とはいえ取り返しのつかない事を……」
「違うな。誰に向かってだ?」
「邪神ゲルボーヤー様……」
「違ぇよ!!」
目の前で土下座している所長の頭をスパン! と、叩く。
「ミチオだ! ミチオ!! 分かったら復唱!」
「ミ、ミチオ様!」
「よろしい。で? よく考えてから行動したんだよな? 俺はそう言った筈だもんな? その結果がコレだ」
「そ、そんな、まさか神ご本人が……」
「想像出来なかった? そりゃ、見当違いの言い訳だ。俺は行動ひとつひとつに細心の注意を払えと言ったからな。無視したのはそっちだろ?」
「それは……確かにそうですが……それでもまさか……」
「それじゃあ何か? お前は龍が相手でも同じ態度を取ったんだな?」
「いえ、その様な事は……その……」
「俺の見た目だけで舐めてたんだろ?」
「い、いいえ、その……あの……」
「答えられないのか?」
「も、申し開きの程も……」
「謝罪は要求してない。お前は一体誰に向かって理不尽な尋問を行ったんだ?」
「じゃ、邪神ゲルボーヤー様ご本人とは露知らず一介の……」
「お前、よっぽど俺を怒らせたいのか!? 分かってて言ってるよな? 俺の名前はミチオだっ!!」
「も、もあ、もも、申し訳ありません! ミ、ミチオ様とは存じ上げずに無礼な態度を取ってしまいました!」
「うん、お前等の集団の1番上の人間は誰だ?」
「……その様な者はおりません」
「間があった割にすんなり答えたな。で、誰だ?」
「いえ、その様な者は……」
「じゃあ、お前が首謀者な! それから、この街の中央の広場でやってる拷問みたいなのはなんだ?」
「そ、そん! いや、なんと、まにらかなあれのことは……」
「早く答えろよ! それとも非人道的な手段を使った方が手っ取り早いのか?」
「何卒! ご容赦を! 我々は邪神ゲルボーヤー様の……」
所長の左目を消し去った。マナの接続部分を綺麗に除去しているので一滴の血も流れない。
「あぎゃぁぁーっ!?」
「所長、俺の名前はミチオだ。ゲルボーヤーではない」
「おしゃ、仰る通りす……。もしわけ、ありら……」
「よそ者が街に来たら取っ捕まえて拷問まがいの方法で情報を集めてた所長が今、1番話を聞いてみたいのは本人じゃないのか? こんな機会滅多にないのにまどろっこしいなぁ」
「ミ、ミチオ様、今一度お時間をいただけないでしょうか? 我々も、その、質問をまとめてからお伺い出来ないかと思いまして」
「いや、それは通らんだろ? 無実の旅人を理由後付けでしょっ引いてきてんのに自分等が困ったら時間をくれ? おかしくないか?」
「は、はい、その通り、ございます」
「連れてきたのお前等だろ……。で? 街の中央でやってる拷問の事は答えてくれないのか?」
「拷問なんて、滅相もありません! その様な事実は決して……」
「分かった。じゃあ、同じ事をお前にやってみよう」
所長の襟首を掴むと引き摺りながら歩き始める。
「ひぁっ! そん、やめ、助けてっ、ぉっちょ……」
「サイ、ソイツも縛り上げるなりして持ってきてくれ。重かったらキュリヤに頼むと良い」
「あ、ああ」
階段もお構い無しに悲鳴と呻き声を漏らす所長を引き摺っていく……。




