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件の寺院跡の様子見をしてはみたものの、侵入するには時期尚早と判断し一旦離れる事にした。森を散策しながら色々な物を溶解吸収してみたりしていた訳だが、ふと疑問が……。

「キュリヤ、俺って地面も溶かして吸収する事ができるじゃん?」

『肯定』

「そのままずっと、ずぅーっと掘り続けると星の中心部まで行けちゃう感じ?」

『否定、おそらくマントル層で蒸発します』

「なるほど、そりゃそうだわ」

行けるとしても地殻部分、せいぜい数十km位までだな。思い付いた事をキュリヤと確認しながら森の散策を続けた。


夕方頃、子虎を調教(テイム)するべく寝床に近付いていた。分体で様子を見るに目覚めてから掘り返した朝食(時間帯は夕方だが)に齧り付いている。親虎が、埋めた物だろうが、いつ埋めたんだ? 腐ったりしないのか?

『報告、墓虎(グレイヴティガー)の唾液には防腐性が含まれています。また、多少の腐肉を摂取しても大丈夫な耐性も所持』

「へぇー、よく出来てんだな」

仕留めた獲物を舐め回してから埋めてんのか?


そんなこんなで視界に子虎を捉えられる位置までやって来た。コロコロと回転移動で近付いていくと、こちらに気付いた子虎が威嚇してくる。

「ゥルルルー!」

頭を低くして、いつでも飛び掛かることが出来る体勢の子虎に構わず接近していく。射程内と捉えたのか子虎の踏込みからの右前脚猫パンチが数cm先の空を切った。

まぁ、俺が間合いを見切っていたんだが、カウンターでゲルパンチ(手加減)を右横腹に入れる。軽く吹っ飛んだ子虎は空中で体勢を整えて軽やかに着地。

「ルルァッ!」

尚も威嚇している子虎に対し、【影渡(ハイドシャドウ)】を発動すると背後から飛び出して体の上にのしかかる。ひとしきりもがいて暴れて諦めたのか、ぐったりとした子虎の鼻先を触手でペシペシしておく。今日はこの辺にしといてやろう。


その後数日間は森を徘徊しては襲ってきた(ナクトマン)の群れを何度か撃退したり、自分から魔物に襲撃したり、夕方過ぎには子虎にちょっかいを出したりと充実した日々を送っていた。

【身体操作(ゲル属)】

【魔法適性】

【属性魔法(闇)】


それから更に幾日か経過したある日。

「この世界に来て2週間位経つのか?」

『正確には16日目です』

「この体にもだいぶ慣れてきたな」

時刻は正午になろうかという頃……。

『警告、索敵魔法の類いを感知』

「うん、今のは分かった」

今の感覚が索敵系の魔法に引っ掛かった感じか。不自然なマナの流れが波紋の様に広がってきて、通り過ぎていったかと思ったら、今度は同じマナの流れが広がってきた方向へ戻る様に収束していった。

「目当ては何だ?」

『不明、今のところ……、判明、こちらへ真っ直ぐ接近』

「俺かぁー、討伐隊の類いかね?」

『不明、手近な魔物を狩っていく為の索敵の可能性もあり』

「ピンポイントで俺を倒しに来た訳でもないか」

俺を狙ってくるのは専ら猿ども(ナクトマン)だしな。ん? 待てよ?

「キュリヤ、読み違いかも!?」

索敵魔法が発動された方向と俺の現在地の間には子虎の巣がある筈だ。ていうか、そっちが本命じゃねぇのか? 子虎の所の分体に意識を向ける。木の根の隙間でのんびりお昼寝タイムだ。子虎が狙われているとしたらまずいな。言うが早いか、球状メタルボディによる回転移動を行う。最大速度だ。

「あっ……」

子虎が攻撃された……。氷魔法だろうか? ひんやりとしたマナの塊が次々と子虎に向かって飛んでくる。様子見の為だけに作った分体では護衛どころか援護すら出来ない。状況を飲み込めていない子虎が巣穴から飛び出した。魔法を発動した者は分体の視界の外で、どんな奴に狙われているのかは俺には分からない。尚も飛んでくる氷の塊を子虎はステップを踏む様に回避していく。

『報告、人間3人と判明』

人間? 異世界に来て初めての人間との接触がこんな形になろうとは……。あぁ、もう! 子虎すらも分体の視界の外へ消えていったので、急いで分体を追わせる。その途中、大きな体躯の人間が分体の視界を横切っていった。まずいな、人間3人相手じゃ、あいつに勝ち目は無さそうだぞ。望遠モードの視界の端に動くものを捉えた! 氷の魔法に追い立てられる様に誘導され、大柄な人間が得物を振りかぶって近付いていく……。最高速度で近付いてみると全容が分かった。大柄な人間が前衛、中間にもう1人、後衛で魔法を放っているので3人だ。子虎は魔法を避けてステップをした着地を大柄な人間が振り下ろした得物にまさに倒された所だった……。

「あぁ、クソッ!」

間に合わなかった……。

「××、××××××!」

子虎を仕留めた大柄な人間が何か喋っている。

この世界の言葉は俺には分からないんだな。それにしても、親を俺の勝手で殺されている子虎の敵討ちも糞も無いんだが、どうにも腹の虫が収まらない。

「××、××××、イーヴルゲル××××」

「××? ××××!」

俺の事を認識したであろう事は分かった。大柄な人間が得物を構えて俺と正対する。だが、そこはもう俺の射程内だ。極細触手を眉間に挿入し、溶解液を注入。刹那、大柄な人間は力無く膝を付いて倒れる。

「××××、××? ××××××!」

「××」

中衛の人間の言葉に後衛の人間が短く答えた。

「何言ってるか分かんねぇんだよっ!」

『肯定、ミチオはこの星の共通言語を未習得』

ふぅ、冷静なキュリヤの言葉で少し落ち着いた。

『翻訳「スグマ迂闊だ、何をされた? ティキ、魔法で援護しろ!」「わかったわ」』

向かってくるか……。後衛の体内ではマナが回転しだす。中衛が構えたままこちらへにじり寄ってくる。長い得物……槍の使い手の様だ。高速回転移動で中衛に急接近し、触手を伸ばそうとした瞬間、中衛もこちらに急接近して槍による連続突きを仕掛けてきた。急制動し真横へ移動。マナ操作を持ってすれば慣性すらも無視した動きも可能だ。槍を突き出し無防備な中衛へ攻撃しようとしたがタイミングが悪い……、いや、タイミングを合わせていたんだろうな。長さ30cm程のラグビーボール型の氷の塊が俺に向かって飛んでくる。数は10以上。一度放たれたなら軌道を変える事は出来ない様なので躱す事は難なく可能。後衛との間に中衛が入る位置へ移動していく。

「××、××××! ××××!」

『翻訳「ティキ、俺に当たらなければいい! 撃ち続けろ!」』

ここで【影渡(ハイドシャドウ)】発動。この森の中だから昼間でも可能な動きだ。どんなに細くても影ならば移動できる。そして繋がっていれば何処へだって行ける。中衛の影に潜む事に成功。ほんの一瞬、嫌悪感を覚えたが躊躇せずに()る。真下から極細触手を突き上げる。股の間から挿入し、胸の辺りで溶解液を注入。俺を探してキョロキョロと警戒していた中衛がどさりと体の右側を下に地面に倒れる。

「××! ××?」

『翻訳「カリス! どうしたの?」』

「キュリヤ、残りの1人にこちらの言葉を伝える術はある?」

『肯定、ミチオの言葉を翻訳して【念話(テレパシー)】で伝達可能』

「そっか、んじゃあ頼む」

倒れた中衛の足元から地上へと戻る。

「こう伝えてくれ。立ち去れ、俺の事は誰にも伝えるな! もし、また来たら次は皆殺しだ!」

『了解』

「××? ××イーヴルゲル××××? ××、××××、××××」

『翻訳「念話(テレパシー)? まさかこのイーヴルゲル特殊個体だとでもいうの? わ、わかったわ、貴方の事は誰にも言わないし、森に来る事ももうないわ」』

そそくさと後衛の人間はその場を後にしていった。


あぁ、むしゃくしゃする……。俺の身勝手で親を殺された子虎だが、こんな風に呆気なく殺される事には憤りを覚える。どの口が言っているんだよ、とも同時に思う。こんな姿になっても、どこまでもエゴの塊なんだろうか、人間って生き物は……。結局【調教(テイム)】するには至らなかったなぁ。可哀想、と、だけは思うまい。それは俺が持って良い感情ではない。3人の人間にしたってそうだ。狩りで生計を立てているだけだったかもしれない。それを半ば俺の八つ当たりで2人殺してしまった。人間を殺しても何の感慨も浮かばない……。子虎をやられた苛立ちなのか、心まで人外になってしまったのかは分からない。ただ、2人の人間と子虎の死体の傍らに所在なく佇む事しか出来ない。

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