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自分の作品の面白さをプレゼンできますか?

作者: 黄舞

勢いで書いた

後悔はしていない

 先日X(旧Twitter)でとあるポストが一部の人に話題になった。

 私が小説を書き始めた際の直接的なきっかけとなる作品を書いた書籍化作家さんの読みます企画である。

 よく見かけるタグも無いそのポストには、いくつか参加する条件が書かれていた。

 その中のひとつの条件に、応募者が四苦八苦し、話題になったのだ。

 その条件とはずばり、「リプで作品の面白さをプレゼン。」である。


 まず前提として、募集条件を読まずに参加した方は候補から省こう。

 きちんと募集条件を読んだ上で参加した方のポストにいくつか書籍化作家さんからリプライが付いた。

 募集要項をちゃんと読もう(主旨)と。

 指摘を受け、再度トライした人が数名いたが、そのやり直しに対しても、そうでははい(主旨)と再度リプライが付いた。

 簡単に説明すると、「作品紹介ではなく、作品の面白さのプレゼン、を書いて欲しい」という指摘だ。

 リプライが付かなかった応募者の中でも、自分も同じ指摘を受けるだろうと理解した人たちもいたようだが、多くの人が、自分の作品の面白さとは何かを言語化できずに、再度トライができずに終わったと、後から供述している。


 さてここで問題なのが、作品に一番詳しいはずの作者がなぜ、作品の面白さを他人に説明できなかったのか、である。

 このことに関しては、別の方がリポストする形で「書いてる作品が好きな作家は実は少ないのか、言語化が難しいのかどちらなのだろうか」という疑問を発していた。

 個人的な感想から言わせてもらえば、自作が好きでない作者はいないとは言わないが、全体から見れば少数派だろう。

 そうなると別の要因をひとまず横に置いておくとして、主原因は「自作の面白さを言語化できない」ということになる。


 ではなぜ言語化できないのか?


 もし、今読まれている方で、書いている作品があったら、一瞬読むのをやめて、自作の面白さをプレゼンする文章を考えてみて欲しい。

 文字数はせいぜい100-200文字に収まるように。


 どうだろう?

 すぐに文章が思いついただろうか。

 面白さを言語化できただろうか。


 前述のリポストに複数の別の書籍化作家さんから同じ主旨のリプライが付いていたので紹介する。

 それは面白さをプレゼンできる作家さんは、書籍化されているので募集条件から外れてしまう、という内容だ。

 実は、話題のポストの参加条件のひとつに「商業化していない人のみ」とあった。

 つまり、プレゼンできる人が書く作品(の多く)は書籍化している(商業化している)ので、応募できない。

 結果として、プレゼンできない人ばかりが目立った、という論理だ。


 ここで勘違いされないように著者から補足をする。

 プレゼンできなければ書籍化できないというわけではない。

 噛み砕いていうと、自作の面白さを理解し他人に説明できる作家の書く作品は、実際に面白いことが多く、結果的に既に書籍化している可能性が高い、ということとだ。

 もちろん書籍化を先に果たしてから、後からできるようになった書籍化作家さんもいるだろうし、自分は苦手だ、という書籍化作家さんもいるだろう。


 さて、なぜ言語化できないのか、に戻ろう。

 まず一番初めに考えられる原因は、慣れてない、ということだ。

 面白さを説明した経験がない、面白さとは何か文章にしたことがない、などだ。

 一般的に(稀に初めてやってできてしまう天才もいるが)、経験が無いもしくは浅いことは修練度が低く、経験がある人たちと比較して、できないもしくはできたとしても質に落ちることが多い。

 もしくは、やり方が分からないという人もいるかもしれない。

 ということで、自覚的に慣れてないと思った方は、ぜひ自作の面白ポイントを短く文章にまとめる、もしくは書き始める前に書こうとしている作品の面白さを短い文章に書き起こすことをしてみてほしい。

 最初はまとまらなかったり、説明にならなかったり、四苦八苦するかもしれないが、諦めないで続けてほしい。

 その内、この作品の面白さはこう! と書ける日がくる(かもしれない)。


 (かもしれない)と書いたのは、理由がある。

 まずは創作活動の壁のひとつである、一人だけの努力では解決できないことがある問題。

 やり方が分からない人が、頑張って一人で分かるようになるのは難しい。

 自分の練習の成果の確認に対して、面白さを言語化できてるかの客観的視点も欲しいところだ。

 というわけで、後付けだが、もし創作活動を相談できる信頼のおける人のあてがある人は、都度相談してみるといいと思う。

 ただし節度は守ろう。


 (かもしれない)の他の理由として、こちらは身もふたもないのだが、やってできるようになる人とならない人がいる、という純然たる事実だ。

 こればっかりは向き不向きがあると思うしかないのかもしれない。


 言語化ができない原因には、他にそもそも「面白さとは何か」という問いかけに答えられない(言語化できない)、というものもあるだろう。

 最初に紹介したポストのリプライとして目立ったのは「〜な話」というプレゼンだ。

 例えば、「桃から生まれた男の子が鬼を退治する話」という文章。

 言わずもしれた桃太郎の説明だが、これは作品の紹介ではあるが、ポストで要求された面白さをプレゼンできていない。

 桃太郎の面白さとは何か、の答えになっていないからだ。

 大きな桃が川から流れてくるのを見たお婆さんが驚く様子が面白いのか、桃から生まれた男の子が主人公だから面白いのか、きびだんごというチート級アイテムで次々と犬畜生たちを配下にしていくのが面白いのか、人々を苦しめていた鬼をばったばったと切り倒すのが面白いのか、金銀財宝を手に入れてめでたしめでたしが面白いのか。

 昔話などは正直要素の塊なことが多いので、話のほとんどが面白ポイントなのかもしれない。


 自分で書いておきながらなんだが、面白さとは何か、について明確に答えを出すのは難しい。

 その人が何を面白いと感じるかは千差万別で、中学や高校で習う数学のように、答えがひとつに決まる、なんてことはないからだ。

 なので、「作者が思う面白さ」を素直に書くのがいいと思う。

 それに対して興味を持つかどうかは相手次第だが、正しく言語化できていて、それを面白そうだ、と思ってくれる人はその作品にとって適した読者である可能性が高い。


 一方で、面白さになりやすい要素と、なりづらい要素というのはありそうだ。

 例えば「読みやすさ」。

 読みやすい文章です! という紹介を見て、面白そうだ、と思う人はあまりいない気がする。

 読みやすかったです! という感想には、面白かったという意味が含まれているかもしれない。

 一方で、同じ文章への言及でも、「全て三、五、七の文節で構成された、独特の語感のある文章です」と書いてあったら、人によっては面白そうだ、もしくは気になる、と思う人もいるかもしれない。

 感想で「語感が独特で面白かったです」と書かれれば、それが面白さとして成り立っていたと自信にも繋がる。


 非常に分かりやすく有効なのは、自分の(へき)を書くことだろう。

 こんなシチュエーションが楽しめる作品です。気になるでしょう? と紹介されたら、そのシチュエーションが深く刺さるようであればあるほど、間口が狭くても特定の読者にはキラーワードになり得る。

 注意しなければいけないのは、ありきたりなシチュエーションの場合は、単にシチュエーションを書くだけでは面白さの説明にならないことだ。

 例を挙げると――

 有能な力を持っているのに追放された不遇な主人公が、新しい仲間と成り上がっていくんです。追放したやつらは落ちぶれていくのでざまぁみろ、という痛快感も得られます。

 筆者も大好きな追放ざまぁのシチュエーションを紹介した文章。

 この系統の作品が少ない内はこの説明でも面白さのプレゼンになるのだが、同じ設定の作品が多く出回った現在では、この説明だけでは「差別化」ができておらず、面白さが伝わってこない。

 俗にテンプレと呼ばれるものだが、こうなってしまうと「設定」のひとつとして認識されてしまうためだ。

 そういう作品の場合は、その設定で、他の同じ設定の作品と比べて、面白さはどこにあるのか、を考える必要がある。

 主人公のキャラ造形なのか、仲間キャラとのやり取りなのか、成り上がっていく過程なのか、別の何かなのか。

 もっと解像度を上げないといけない、という言い方もできる。


 ちなみに言語化できない理由についてこれまで個人的な考えを元に書いてきたが、そもそも面白さを言語化できるメリットって何? という人もいるだろう。

 メリットは大きく考えると、書くためのものと読まれるためのものに大別できる。

 

 書くためのメリットは、簡単に言えば筋を外さずに物語を書き続けることができることだろう。

 作者が考える作品の面白さを言語化し客観的に理解できれば、その面白さを中心に物語が進んでいくはずだ。

 そうならない人は、ぜひそういう書き方を試して欲しい。

 作者の考える面白さが読者に色んな意味で届くかどうかはまた別の問題だが、少なくともその作品の面白さの一本の筋が通った作品は、良い意味で読みやすいし、面白さが薄まらない。

 

 読まれるためのメリットとしては、宣伝しやすいことだろう。

 どんなに面白い作品でも、読者が読もうと思ってくれないと届きようがない。

 タイトル、あらすじ、一話、SNSなどの宣伝、あの手この手で読者に興味を持ってもらえるように努力が行われているが、件のポストにもあるように、プレゼンできるかできないかでいえば、できた方が読者に届く可能性は格段に高くなる。


 プレゼンとは売り込みだ。

 商品であれば買ってもらえるのがゴール。

 商品の良さをあの手この手で説明して宣伝して、買うという意思決定を引き寄せる。

 そのためにはその商品がどのように良いのか文章や言葉、つまり言語化できないと難しいだろう。

 自動でお米が炊けます。

 という説明と、

 スイッチを押すだけで、毎回火加減の心配もなく美味しいお米がどなたでも炊けます。火を使わないので安心してその間、別のことに時間が使えます。

 という説明であれば、より多くの興味を惹くのは後者の説明に思える。

 最終的に買う判断も後者のプレゼンを受けた人のが多いのではないだろうか。


 小説の場合も同じで、その作品の良さの内大きなウエイトを占める、面白さを説明できることは宣伝効果を高くすることができるということだ。

 タイトルに盛り込んだっていいし、あらすじに書いたっていいし、それが読者に伝わりやすいように一話を作り込んでもいい。

 人によってWeb投稿のゴールは様々だろうが、読まれるというのは多くの人のひとまずのゴールではないだろうか。

 読まれるためには、作品の売り込みをかけ、開くという行動を引き出す必要がある。

 何も意識せずに誰かが見つけてくれたら……と思っているよりは成功可能性は格段に高くなるはずだ。


 と、長々勢いで書いたけれど、あくまで個人的な意見として是非に関しては容赦願いたい。


 最後に一言、もう一度だけ問い掛けたい。

「あなたは自分の作品の面白さを言語化しプレゼンできますか?」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 興味深いエッセイをありがとうございます。 X(旧Twitter)をやっていないので、作者が興味を持つ内容の情報エッセイ助かります。 エッセイを拝見して共感したのが、確かに自作品の面白さを…
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