STORIES 028:エル・ドラド
STORIES 028
メリーゴーランドといえば、まず思い出すのは…
回転木馬のデッドヒート(村上春樹)
恋はメリーゴーランド(大黒摩季)
そして…
としまえんのカルーセル・エルドラド。
2020年に閉園してしまった有名な遊園地の、名物だったものだ。
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夕暮れ時、華やかにライトアップされた回転木馬が薄闇に浮かび上がる。
速度の違う3つの輪になった木馬が、みんなの笑顔を乗せて、くるくると回り続ける。
幻想的な光と音楽の空間。
乗るのはもちろん、ただ外から眺めているのも好きだった。
思い出深いあの遊園地の中でも、特に際立って象徴的なアトラクションだった。
ドイツで生まれた手彫りの木馬たちは、海を越えてニューヨークに渡り、やがて日本に迎えられた。
丁寧なメンテナンスが繰り返され、100年くらい稼働していたという味わいもある。
日本最古のメリーゴーランド。
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としまえんには何度も遊びに行った。
都心部に近い遊園地だったので、幼い頃に親に連れられて行った、ということはない。
当時の彼女とのデートコースのひとつ。
友達ともグループで行ったかな?
朝から乗りものを待つ列に並ぶこともあったし…
暑い時期にプール目的で泳ぎに行き、夕方から乗りもので遊ぶ、というパターンもあった。
派手に動くアトラクションは苦手だけれど…
いわゆる遊園地の雰囲気、少しノスタルジックな感じが心地よい。
なによりも、陽が落ち始めてから暗くなるまでのあの時間が大好きだった。
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あちこちに明かりが灯り、家路につく人も増え始める。
少しだけ寂しさが漂う園内。
待ち時間が少なくなり、何度もコーヒーカップに乗ったりする。
2人だけでね。
係の人が呆れてたりするけど気にしない。
もちろん、この時間の主役はなんといってもカルーセル・エルドラド。
黄金郷と呼ばれるのに相応わしい、煌びやかな空間が広がる。
周囲の子供たちの目を気にして、少しすました顔で跨っているけれど…
本当は声を上げてはしゃぎたい。
暗い気持ちも晴れてゆくような、夢の世界。
でも、夢から覚めたようにみんな消えてしまった。
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遊園地は廃業となった。
思い出の場所って、どうして消えていってしまうのだろう。
二度と戻れない場所がまた増えてしまった。
手を繋いで一緒に回ったあのコも、今はどこでどうしているのかわからない。
そういうの、思い出すととても切ないね。
次のステージが用意されるのを…
どこかの倉庫の中で眠りながら静かに待つ木馬たち。
いつの日か、彼らにまた会うことができるだろうか。