18「想い」
目を疑うような光景に絶叫するショタリフ。
駆け寄ろうとするショタリフを、バイセプスが、羽交い締めにして止める。
「放せ! リヴィさんが!! リヴィさんが!!!」
「落ち着け! お前もやられちまうだろうが!」
「僕はどうなっても良い! リヴィさんを助けるんだ!」
「胴体を貫かれてるんだ。無理矢理引き抜いたら、出血多量で死ぬ。だから、俺っちの魔法で空間転移させることも出来ねぇ」
「だったら、回復魔法を!」
「お前も知ってるだろ? 魔族で回復魔法を使える奴なんて、ほとんどいねぇ。基本的に、みんな攻撃特化型だからな。俺っちも、回復魔法は使えねぇ」
「クソッ! どうしたら!? リヴィさん!! リヴィさん!!!」
そんな二人の会話を、ブラックドラゴンのうなじの上で、変形した鱗によってその身を突き刺されたリヴィが、薄れ行く意識の中で、ぼんやりと聞いていた。
(力が……入らない……)
激痛と共に出血・吐血した彼女の身体からは、生命力が、急速に失われて行く。
朧げな意識で思い浮かべるのは――
死んだ母親のこと。
ロイエのこと。
人王国の友達たちのこと。
お世話になった人たちのこと。
そして――
「……ショウ……く……ん……」
――眼下で、自分を救うために駆け寄ろうして、バイセプスに止められている魔族の少年。
(……これで……ショウ君と……お別れ……)
魔帝国に来てからというもの、死を覚悟した事は何度かあった。
そもそも、敵国でたった一人という立場からして、かなり危ういものだったのだ。
魔王の命令に背いてしまい、ただショタリフを巻き込まない事だけを願い、〝ここで自分の生は終わるのだ〟と覚悟した事もあった。
だが――
――今、彼女の心の底から湧き上がって来る想いは――
「……い……や……だ……!」
(……死にたくない……!)
(……もっと……一緒に……いたいよ……! ……ショウ君……!)
その瞳から、涙が零れ落ちる。
生まれて初めて感じる、生への激しい執着。
しかし、無情にも――
致命傷を負ったその身体には、刻一刻と死が迫っており――
――意識が遠のいていく。
――と、その時――
「あやつめ……! よもや、このような事までしでかすとは!」
――怒気を孕んだ声が、地面を震わせた。
――否、それは地面ではなく、リヴィが触れているブラックドラゴンの身体だった。
怒りで震えるその声と巨躯に揺さぶられ、辛うじて意識を繋ぎ止められたリヴィ。
「儂が必ず助けるのじゃ! だから、気をしっかり持つのじゃ!」
光に包まれたままのブラックドラゴンは、消滅に抗いつつ――
「治すのじゃあああああああ!」
――嘗て一度も成功したことが無かった〝回復魔法〟を――
「治れええええええええええええええええ!」
――強引に発動しようとして――
「ぐはっ!」
――無理が祟り、大量に吐血し――
「くっ!……まだじゃああああああああああああああああああ!」
――その巨体が、徐々に縮んでいく――
「治れええええええええええええええええええええええええええ!!」
――彼は――
「治れえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
――ドラゴンとしての〝生命力〟を全て与える事で――
「治れええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
――〝回復魔法〟を、無理矢理発動させた。