16「空から降り注ぎしもの」
いつもよりも高い視線から見えるのは――
見慣れた、ナース服に包まれた肢体。
そして――
「!」
――こんな機会でもなければ、一生拝む事の出来なかったであろう角度からの、リヴィの胸の谷間。
「くっ!」
ペチッ。
たとえ偽者であろうと、リヴィの身体を傷付けてはいけないため、自分で自分を殴れないショタリフは、代わりに、右手で優しく頬を叩くと同時に、左手をギュッと握り込んで、爪を手の平に食い込ませて――傷は付かない程度にだが――痛みで何とか、消滅を免れようとする。
(って、あれ? 確かにこの姿はリヴィさんだけど、中身は僕な訳で、じゃあ、偽者だから、異性にドキドキしている事にはならない?)
(もしくは、もし中身が僕であっても、これが女性という事ならば、今度は、僕自身が中身も含めて一時的に女性になっていると考えられて、そうすると、やっぱり、異性にドキドキしている事にはならない?)
混乱するショタリフ。
「いや、今はどうでも良い! 見なければ良いだけだ!」
顔を上げて、出来るだけ自分の身体を見ないようにする、声までリヴィになっているショタリフに、バイセプスが声を掛ける。
「それなら、気を引けるだろう。行くぞ、二人とも!」
「分かりました!」
「はい!」
ショタリフとリヴィが頷くと、バイセプスが両手を翳して、魔法を発動した。
「『空間転移』!」
再びリヴィの姿が消えて、ブラックドラゴンの――今度は上空に出現する。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
防衛本能から無意識に排除しようと、身体を捻って尻尾で攻撃するブラックドラゴンに対して、バイセプスは――
「『空間転移』!」
――立て続けの空間転移で、リヴィの位置をずらして、回避する。
(すごい!)
(僕も!)
バイセプスがリヴィの位置を空中で移動させつつ、隙を探しているのを見て、ショタリフも動いた。
「こっち! こっちこっち!」
手を大きく振って、リヴィの姿となったショタリフが、気を引こうとする。
――が。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「何で!?」
――本物のリヴィに対しては鋭い反応を示すブラックドラゴンは、姿を変えたショタリフには見向きもしなかった。
(偽者だって、バレてるのかな!?)
バレているも何も、先程目の前で変身してみせた事を失念するショタリフ。
(一体、どうしたら!?)
ショタリフが焦燥感に駆られた。
――その時――
「パンツ!!!」
「「「!?」」」
――空から、美しい声で、予想外の三文字が降り注いだ。