表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも女神は続けたい。  作者: ikaru_sakae
7/18

チャプター13~14

≪ ふん、使えない。もうこれだから、最底辺の無魔力民は―― ≫

≪ほぉ。そりゃつまり、惚れちまったのか?≫

≪ 勝算? バカめ。んなもんはよぉ、テメェでこれから作るモノ、だろ? ≫

 ≪ 偉いのよ、わたし。おまえが塵なら、わたしは高貴な惑星の虹 ≫



13


「おお??」「なんだ、何事だ??」「侵入者だと??」

 まわりで大勢の声と足音。立ちのぼる、土ぼこり。

「いった~ なんなのよ、これ??」

 あたしはぶつけたアタマを、さすりながら文句言う。

「取り押さえろ!」「何者だ!!」

 って、

 いきなり上から、力がかかった。

 なんかごっつい、黒の鎧きた兵士らが。ぐいぐいあたしを、しめあげて。アタマ、石の地面におしつけられて。

 いたいいたいいたい! 腕、後ろに組み伏せられて――


「やめろ! おれはレグナだ! 貴様ら、おれがわからんのか!」


 ちょっぴりあたしから、離れたところ。地面に組み伏せられたレグナが、叫んだ。

 そのとなりでは、ユメが。ごっつい兵士に、こちらも押さえつけられて。

「レグナ様…?」「なぜ、今、こちらに…?」

 兵士たちがどよめいた。そこに集まった、三十人くらいのごっつい鎧の男たちが。

「質問したいのはこちらの側だ。なぜ今、城壁上にこれだけの兵がいる?」

 兵士の腕を払いのけて。レグナがゆっくり立ち上がる。コートについたほこりを払う。

「ふだんは無人に近い東の城壁上だ。そこをあえて指定して転移してきた。なのに、ここにこれだけ、人を集めているとは。これは、いかなる事態だ?」

 なにげに偉そうに、レグナがきいた。

 黒の鎧を固めた兵士たちが、ちょっぴりうろたえて、顔を見合わせる。

 なにそれレグナ。なんでそんな、偉そうなの? んでからなんで、兵士の人らは―― レグナのことを、そんなにビビって見ているの…?

「…ねえ、レグナ! 何でもいいから、とりあえず。こいつらに、あたしを放すように言ってよ! あんただけ自由とか、それ、ずるいんだから!」

 あたしは地べたから、叫んだ。

「ああ。そうだったな。忘れてた」

 レグナが、どうでも良さそうに、こっちを冷たく見下ろした。

「おい。そいつを放してやれ。そいつは見た目は有害そうだが―― 事実はあんがい、そうでもない。野放しにしたところで危険はないぞ」

 なにそれ、ひどい言われよう!!


「ってか、いったいどこなのよここ? まずそれ、言いなさいよ」

 あたしは腕と肩をさすりながら、見まわした。

 なんだかムダに、でっかい石を組み上げた、黒い城壁の上。で、その、城壁のてっぺんにそって作った、道みたいなやつ? ながい城壁の上を、ずっとたどって歩ける―― そこにあたしは立っていた。雪がけっこう、ここでも降ってる。んでから、その城壁の左側。そっちは街だ。黒いどっしりした、石造りの建物ばかり。丘の斜面を、びっしり埋めて。うす暗い雪雲の下―― ん? なにあれ? 街からあちこち、煙が出てるけど―― 

 でもでもなんか、火事とかそういうのではなくて―― 

 工房の、煙? なんか、製造所みたいなやつ? 

 そういう、でっかい煙突のある、おっきな建物が、どーんどーんと、街のあちこちにそびえてる。そこからたなびく、黒い煙。ゆっくり空に立ち上り―― さいごは雪雲に溶け込んで。 

 んでから、んでから。こっちの城壁の、右側は。

 そっちは外だ。街の外。どこまでも続く、雪と岩の丘。みわたす全部が、荒れ地って感じ? 荒っぽい岩肌に、あちこち雪がつもってて―― そしてさらに遠くには、いくつも重なる、雪の山脈。これもまた黒々として、不吉な感じだ。


「おー。レグナか。戻ったのか。はやかったなぁ、あんがい」


 城壁の上の、道のむこうから。おっさんがひとり、かけてくる。

 ごっつい兵士がおおぜい立ってる、この城壁の上でも。ひときわ誰より、ゴッツい体躯で。いかつい重量級の黒鎧、ごわっと大胆に着込んだそのヒトが。鎧をガシャガシャ言わせながら、こっちに全力でかけてくる。

「よぉ。無事だったんだな。女神に反旗をひるがえしたって聞いたからよ。てっきりもう、どっかの荒れ野でブッ殺されてギタギタに切り刻まれて、血みどろの首の一個でも女神から届くんじゃねーかと。半分はおれもあきらめてたぜ?」

 ゴツい黒鎧のおっさんが、野太い声で言って。レグナの肩をバシッ! と叩いた。

「お? んでから、こっちの娘さんは?」

 ぐちゃぐちゃもつれた、まとまらない黒髪。きめの粗い、浅黒い肌。大胆にそりのこした、あごいっぱいの無精ひげ。そのおっさんが、急にその顔の向きかえて―― 今度はユメの方を見た。

「じゃ、あれか。これがその、あの。星選民の娘さんってやつか? おお。なにげに儚い系のうら若い美人さんかよ? なんだレグナ、おまえあんがい、面食いだな。こういう系の美人さんが好みだったのかよ?」

 おっさんが、なにか珍しい生き物みるみたいに。体かがめて、ユメを品定めする。ユメは、警戒モードで二歩ほど、後ろに下がった。その目が、ちょっぴり怯えてる…?

「まあしかし、ほぉ、この嬢ちゃん、なんだかおもいっくそ、教養ありそうだな。知的な香りってやつだな。なんだおまえ、レグナよ、この娘さんに、じゃ、惚れちまったとかか? それでわざわざ――」

「うるせえ。ぐちゃぐちゃくだらねーこと、言ってんじゃねえ!」

 レグナがおっさんの膝、思い切り蹴とばした。けど、そのオッサンは―― ぜんぜんこたえてない感じ…? にやにや笑ってレグナを見てる。

「…ま、じっさいおれにとっても予想外の事態だ。星選者など、普通に見捨てるつもりだったが―― なりゆきで、うっかり助力しちまった… って感じだな。あんたや、この街の者に迷惑かけたことは謝罪する。まあだが、もとはと言えば、こっちにいる、このバカが――」

 ちらっとレグナが、こっちに視線ふった。バカとか、紹介のしかた、ひどくない??

「こいつが、本能の赴くままに、星選者をかっさらって逃げようとした。おれはやむなく、こいつを補助して、転移して逃げた。ごく簡単に、まとめるならば」

「ほぉ。そっちはそれ、山猫民族の娘さんか」

「タフーウェル族よ! きやすくネコとか言うな!」

「ほほぉ。気の強い、いい感じの嬢ちゃんじゃねーか。おれ的には、むしろこっちの方が好みの路線だがな。ん? 待てよ? ははぁ、レグナよ。おまえこっそり、じつはこっちのネコさんの方に、惚れちまったパターンかよ? それで、その、助力とか―― げふ??」

 あたしの全力のまわし蹴りと レグナの全力の肘うちが。同時におっさんのアタマに決まった。

「お、王??」「大丈夫ですか、王??」「やりすぎです、レグナさま!!」

 とりまきの兵たちが、なんか慌ててる?

「おう? おうって? 何、まさかほんとに…?」

 あたしは、そこで飛び出した耳なれない単語に。

 それ以上、なにか言う言葉を。なくしてしまった――



14


「ふ、あいかわらずいい動きだぜレグナ。さすがおれが、まだおむつ取れてねぇガキの頃から仕込んだだけのことはある。んでから、そっちの嬢ちゃんも。腰の入った、いい蹴りだったぜ。この俺に反応すらさせねぇとはな。あんた筋が、なかなかいいんじゃねぇか?」

 おっさんが、偉そうに腕くんでこっちを見下ろした。威厳ある声で言ってるけど、前歯、それ、ぐらついてない? 右のほっぺた、腫れてるし。

「ひとまずは、ようこそって言っとこうか。星選民のそっちの娘さんと―― そっちの、山ネ―― いや、野性味あふれる嬢ちゃんと。大歓迎とはいかねえが、最低限の保護ぐらいはしてやるぜ。まあ、ほかならぬレグナの仲間ってことで、話が合ってるならな」

 そのとなりで、レグナは不服そうに、何かいいかけたけど、

 まあでも、何も言わない。不愉快そうに、視線はずして、どっか遠くを見るふりしてる。

「ウルザンド王、ギルだ。よろしくな。んでから、もう聞いてるかどうかは知らんが、こっちのレグナは、おれの息子ってことでよろしくな! まあ、こいつぁ態度は悪いが、頭はそれほど悪くねぇ。仲良くしてやってくれ」

 そういって、でっかく微笑んだ、そのおっさん。

 えっと。でも――

 え、けど、王って言った? 言ったよね??

 ってことは、その息子――

 え?

 王の、息子?

 じゃ、レグナって――

 マジで??

 げげっ! 冗談?? けどほんとに?

 マジのマジの、マジほんとなの…??


「で、説明してもらおうか。なぜだ?」

 レグナが、ギル王を見上げて、にらむ。

「なぜ今、城壁上にこれだけの戦力を?」

「ばかめ。なにを寝言いってやがんだ」

 ギル王が笑った。ゴツい左手で、自分のあごを触りながら。

「てめぇのせいだろうが。攻められてるんだ。女神どもの勢力からな」

「なに…?」

「東を見ろ。見えるか、あの雪煙が?」

 ギル王が、遠視筒をレグナに手渡した。

「む…」

 レグナが見る。そっちを。ずっと東の、荒野の先。

 そして目のいいあたしにも、それは見えた。遠視筒、つかわなくても。

 雪煙。派手に、山と山の間に、ふきあがる煙が。

 それと、振動。ズン、ズン… って感じで。

 なんか地震っぽく、足元の地面が、ときどき小さく震える。

「いま、あそこの峠でザーグド将軍指揮下の師団が敵にあたってる。が、いつまで持ちこたえられるか…ってところだな」

 ギル王が、両手を腰にあて、東の荒野を見やった。鋭い感じで、目を細めて。

「なんなんだ、あれは…? 敵は?」

「アイスゴーレム、ってやつだな。おそらく」

「ゴーレム?」

「ああ。どでかいやつが、目下のところ十五体。後続で、まだまだもっと来てるっぽいがな。やっかいな敵だ。なにしろキリがねえ。コアってものがなくて、完全に手足をバラバラに砕いても、また再生して動き出す。熱魔法で蒸気化するのが有効だってのは、前線の伝令からの情報で聞いてはいるが。しかし、あとからあとから来てやがる。前線の魔法部隊の連中もさすがにへばってきててな。盛大に魔力切れ起こしやがって。ついさっき、増援の要請がきた。魔法できるヤツのみで固めて、あと2師団よこせと言ってやがる。無茶言いやがるな」

「女神の魔力… なのか…」

 レグナがうなって、右手の親指の爪を噛んだ。

「まあ最初は少し、たまげたな。今朝、いきなりバカでかい幻術魔法で、女神の布告があった。星選者をかくまうな。すぐに出せ、と言いやがる。市街の上空全部埋め尽くすデカさの魔法映像でもって、大音響で言いやがるもんだからな。市民が動揺してな。ったく、やつめ、加減ってものを知らねえ」

「それで…? なんと返答を?」

「返答もなにもねぇ。こっちとしては、寝耳に水だ。星選者をかくまうもなにも、知らねえ、そんなもん。だが話をきくに、どうやらレグナのバカが、なんだか星選の儀式の最中に、でっかいへまをやらかしたようだと。そこだけは理解した。ま、あとはもう、決裂よ。おれらは星選者がどこかなんて知りもしねぇし、レグナ自体も戻ってねぇし、かくまうも何もねぇ。レグナの単独行動に関してはおれらは責任を負えねえっていって、即刻、つっぱねたよ。で、そしたら速攻で、これだ。東方面と、あとは北方面からも。どでかい氷の化け物どもが絶賛進軍中だ。ちなみに北の戦線は、さっき一部が破られたっぽいな」

「おい。気軽に言ってるが―― 相当だな、それは。大丈夫なのか…?」

「まあだから、ここもそれほど長く安全かどうかはわからねぇ、と。市民にはもう伝えてる。逃げてぇやつは、市街戦なるまえに、今のうちに西市街方面から地下にもぐれ、ってな。まあだが、実際に移動したのはごく一部だ。大半は、市街防戦になったら義勇兵でとことんやったるぜ!って言って地上に残留してやがる。まあ、気合だけはよそには負けねえからな、うちの街の連中はよ。で、ま、そういうお楽しみのところに、お前が転移魔法ぶっこんで戻ってきやがったてわけだ。ったく、盛大に迷惑かけやがって」

 ギル王が豪快に笑った。それから遠望筒を、レグナの手から取り返す。

「…すまない。俺も、ここまで話を大きくする意図はなかった」

「バカやろ。もうやっちまったことでグダグダ反省してんな。なに、考えようによっちゃ、いい機会だ」

「いい機会?」

「ああ。おれも長年来、あの女神の野郎のくだらねえ冬の儀式には、うんざりしてたところだ。星選だか何だか知らねぇが、くっだらねえ支配の仕組みを作りやがって。とはいえ、面と向かってガチでバトルやるのも、あれだ。被害が大きくなりすぎるからな。そういう正面切ってのバトルよりは、まあ、めんどくせえ儀式に年1でつきやってやる程度なら、我慢してもいいかってな。思ってはいた。妥協ってやつだな。まあだが、潮時だろう。これを機会に、おれらウルザンドは北星庁の勢力圏から一抜けして、昔どおりに独立都市で張るってのも、いいんじゃなぇのか、ってな。さっき腹、くくったよ」

「…たしかな筋の情報によれば、三日だ。三日守れば、勝てる」

 レグナが言った。まっすぐ王を、その目で見上げて。

「あん?」

「細かい根拠の説明は省くが―― 三日だ。その期間、女神の側が星選者を確保できずにいる場合―― 女神の魔力は無効化する。そういう話を聞いた。確度の高い情報だと言ってよい」

「ほう。なんだ。情報収集もぬかりなしか? なかなか抜け目のねぇヤツに育ったな、レグナよ――」

「余分な感慨はいい。だが。どうだろう? 勝算はあるか? 三日間――」

「勝算。はッ、そんなもんはよ、これから作るんだよ。いいかガキ、おれの戦歴、なめんじゃねーぞ? おれはこう見えても、王位につくまえは、地底のバカでかいドラゴンの化けモノ相手にも一歩も引けをとったことはねぇ。北の巨人族の討伐戦でも、しっかり生き残って完勝で凱旋してきた。まあだから、だ。あの程度のゴーレムなんぞは、かるく気合で、バシッと勝ち切ってやるまでだ。がはははは」

 ギル王は、でっかい歯を見せて豪快に笑った。

「おいこら、親父。威勢のいい言葉はいい。だが。言っとくが今回の敵は、気合いレベルで勝てる相手じゃねー。今ここでは、気合がどーこーじゃなく、もっと慎重に戦術を――」

「バカタレ。んなもん、わかりきってるぜ。嬢さん方の手前、景気いいセリフで安心させようって粋な心づくしじゃねぇか。そこを察しろよ、バカ息子」

 ギル王が、バシッ! と。手形がのこる勢いで、レグナの背中をたたいた。

「おいおいレグナよ、お前もあれだ。ここで兵どもの時間とらすのもこれくらいにして、とっとと館もどって、休め休め。魔力、尽きかけてるじゃねーか。それじゃ、足手まといになるだけだ。とっとと睡眠と栄養とって、復活してこい。詳しい話はそれからだ」








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ