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それでも女神は続けたい。  作者: ikaru_sakae
5/18

チャプター10~11

10


「――って、おい。それは何だ?」

 レグナがいきなり、立ち上がる。

「な、なによ、いきなり? なんのこと言ってるの?」

「だから、それだ。そこ。なんだ? 何が光ってる?」

「え? これ? ああこれね。ほんとだ。なんか、光りはじめたよね?」

 あたしは首のそれを、指でつまんだ。コートの下から、引っ張り出した。青い光を発する、そのペンダントは――


 「星の護り」だ。


「え、って、何コレ?? 熱ッ! アツツツッ」

 いきなり青の光が高まって――

「え、待って待って待って! ナニコレ! 熱い! ああ、ちょっと、もう、ほんと、」


  ギンッ!

 

 砕け散ったのは、それ。その、ペンダント。

 それがいま、無数の破片に砕け散り。

 青の光と、熱が、急激に消えていき。

 あとには、砕けた石の粉だけが。雪の地面に、散らばって――

「…危なかったですね、ササカ。術式の発動加速度がもう少し大きければ、ほんとに危ないところでしたよ?」

 銀に光る短剣で、機敏にそれを砕いてくれたのは――

 ユメだ。その、なんだかとってもアンティークな、刃わたり短いその剣で。

 ユメはそれを、いままた、鞘に戻した。腰のとこ。コートの下の、見えない位置に。

「あ、ありがとう。助かったよ。でも、なんだったの、あれは? あたたた、ここ、ひりひりする。首のとこ、ヤケド。まったくもう、ああ何、髪も―― 何これ、焦げてる??」

「お前なぁ。髪焦げたくらいで終わって、幸運だったぞ」

 レグナが言って、雪の上にかがむ。散らばった宝石の粉に、顔を近づけて。

「ったく。まさかご丁寧に、あのアイテムをまだ首からかけてるとか。想像もしなかったぞ。不注意すぎるぜ、ササカおまえ」

「え、だってだって。あの星庁のヒト、言ってたもん。これは絶対、外しちゃダメですって」

「ばかめ。それは、星選式までの話だ。その場を荒らして逃げまくっておいて、そのあともまだ、律儀に付けたままとか? ありえねー。まっさきに捨てるべきアイテムだろ?」

「位置がおそらく、漏れたと思います」

 ユメが言って、空を見上げた。雪がちらちら舞い落ちる、厚ぐもりの空を。

「一瞬でしたけど、女神自身が組んだ術式魔力の放出が、ここで今ありました。女神であれば、おそらくその位置を、見逃すことはないでしょう。つまり――」


「ん。ここか。座標情報は、あんがい正確だったのね」


 え??

 いきなり、知らない声がした。

 ふりむくと、そこにいる。

 なんか知らない、女のヒト。すらっと背が高く、手足は長くて―― 顔立ちも、きれい。

 っていうか。きれいすぎるよ。完璧すぎるよ? 美人もさすがに、そこまでいくと――

 んでから髪は―― あたしがあまり見たことのない、うす水色の髪。長くて、まとまりがなくばさばさしてて。そのばさばさ具合に関しては、あたしの髪と、いい勝負かも。

 肩にはふわっと、白毛皮のコート。でも。その下が薄着だ。薄着すぎるよ。黒い光沢ある、肌にぴったりの短いドレスで。それ一枚だけだ。太ももから下は、まったく何もつけてない。足は大胆にも―― 裸足だ。なぜか靴も、はいてない。雪のつもりはじめた岩の地面、そのまま裸足でふみしめて。

「うーん、けど、いまいちね。ここではやはり、こんなもの? がっかりだわ。もう少し高い再限度を期待していたけど。ん、ま、いいわ。今はこれで、満足するしかない」

 その女のが、なんかひとりごと、ぶつぶつ言ってる。自分の手のひら、ひとりでながめて。あたしたちのこと、完全無視だ。

「…何者だ? 北星庁のやつか? 名を名乗れ」

 レグナが言った。左手に剣、握ってる。やたらと作りの、しっかりしたやつ。おお。なんか武器とか、持ってたんだ。魔法だけの人かなって、なんかちょっぴり、思ってたけど。

「ふうん? 辺境異族? では、おまえなの、ここまで飛んで、星選者を逃がしたのは?」

 その女が首をかしげ、はじめてレグナを見た。とてもきれいな、水色の目だ。声もきれい。きれいすぎる。でもそのきれいさは―― 「氷のきれい」だ。そこには温度が、ひとつもない。

「おい。むしろ答えろ。お前は誰だ? 女神のさしがねか?」

 レグナが剣を、女にまっすぐつきつけた。

「だまりなさい。下層の塵の分際で。おまえのことなど、どうでもいいの。用があるのは、そちらよ。星選の娘。おまえ。さっさと来なさい。あまりつまらないことで、時間をかけさせないで欲しい。わたしもそれほど、暇ではないのだから」

 何…?

 視界が一瞬、ぶれた気がした。そしてそこに、現れた――

 でっかいあれは―― 槍?? いきなりそこに。女の後ろ。背中のところ。

 やたらぶっとく長い槍。黒光りした握りの部分が、女の肩から、上にむかって突き出して。

 そして裸足のままで。娘がゆっくりと―― 

 流れるみたいな、自然なきれいな、身のこなしで。

 何歩かそのまま雪を踏み。ユメにむかって手をのばす。

「さ、触らないでください!」

 ユメが、瞬時にそこからとんで。女のあいだに距離をとる。

 それからユメは―― なんか魔法? 発動させてる。両手に、なにか、銀色の――

 燃えたつ炎? 銀の炎を両手にまとって。なんだか本気の、臨戦モード…?

「…なるほど。おとなしく来るつもりはない、ということ? まあでも無駄よ。抵抗は無駄。さあおまえ。少し時間が遅れたけれど。今から一緒に、星の門へ――」


 言葉が終わる、その前に。

 斬りつけたのはレグナだ。女の肩に、いきなり剣を――

 けど、止めたのは、女だ。

 素手で?? レグナの剣を受け止めて。

 まるでそれ、子供の、おもちゃの剣みたいに。指で、ふつうに受け止めて。

 ちらりとレグナに目をやって。左手で、女が槍をふるった。

 風圧。一気に地面の雪が散る。

 そいつは槍を、ちょっと振っただけなのに――

 あたしもレグナも、風におされて、よろけた。

 うまく立っていられない。あたしは雪の上、片膝をついた。


 いきなり銀の炎が、はじける。

 ユメが、ぶつけた。

 輝く、みなぎる、炎のかたまりを。

 女の頭に。まるごとぶつけて、叩きつけ――


 けど。四散した。炎は散って、すぐ消えた。

 ユメが、驚愕、あるいは絶望に近い、表情を浮かべて――

 一歩。二歩。雪の上をあとずさる。

 けど。そのすぐ後ろは、岩壁だ。逃げられない。逃げ場はゼロ。

 岩に背をつけて、ユメが――

 

 また影がとび、真後ろから女に斬りつけた。

 レグナだ。動いたのはレグナ。

 けど―― 

「なッ??」

 目を見開くレグナ。

 剣が散る。粉々に砕けて、金属の粉になって。


「あんた! もうやめな! ユメはそれ、いやがってるでしょ!!」 

 あたしは短剣を抜き、肩の上にふりかぶる。はじめて使う、その剣を。故郷でるとき、護身用にって言って、わたしてもらった―― その軽い、細身の剣を。

「あんたいったい、何者よ? 女神の部下なの? ちょっと! なんとかちょっとは、答えなさい!」

 って、ながく言ってみたのは、時間稼ぎだ。狙いをつける、その時間――

「ふうん? おまえ、魔力耐性あるわけ? まだ意識、保ってられるんだ」

 女がこっちを振り向いた。その場で女が、槍をかるく一振りした。

 魔法の風が広がって。こっちにぐんぐん、吹いてくる。なにこれ! 魔法風…?

 けど。負けない。あたしはそれでも、倒れない。

 あたしは右手を後ろに振って。まっすぐ、そいつの首に狙いを定めた。

「警告しとくよ。あんたそれ、ユメを放しなさい! じゃないと、本気で投げるよ、これ? 急所いくよ? 容赦しないよ?」

「おいばか! 投げるなら、無警告で投げろ! しかもそんなもん、効くはずもねーだろ?? 見たろ? おれの剣すら、粉砕してたろ??」

「レグナはうしろで騒がない! 集中、乱れるから。あんたはちょっと黙ってて!」


 でも。水色髪の、裸足のそいつは―― あたしのことは、完全無視だ。

 視線をわずかも、動かさない。ユメの腕を、きつくつかんで。

 ん? 何あれ…?

 なんか魔力を、ねってるみたい。女のまわりに、うす水色の霧がひろがって――

「くそっ! あいつめ、転移するぞ!」

 レグナが叫んだ。レグナは魔法の風圧に、抵抗するのが精いっぱい。雪の上から、一歩も動けない。


 あたしは視点を固定。

 右手を、いつもの狩りのモーションで。

 そいつの首に、一点集中。


 行けッ!


 あたしが投げた短剣が、まっすぐそいつに吸い込まれ――

 そいつがふりむき、微笑する。

「ばかね。こんなもので、わたしを―― を?????」


 いっぱいに見開かれた、女の瞳。

 刃先が、とらえた。

 そいつの首。あたしの狙いは完璧だ。

 けど。ん…?

 手ごたえが、ない。

 刺さらなかった…?



11


「消えた…?」

 ユメが雪の上にへたりこんで、言った。

 ユメもまだ、正確に何が起こったか、わかってないみたい。

 それはあたしも同じ。なんであいつ消えたの?

「ひとりでテンイしたの、あいつ?」

 左右を見る。でも見えるのは、降ってくる雪。あとは岩山と。

 あいつの姿は―― あのよくわかんない敵は、もうどこにも見えない。

「いや。そうじゃなさそうだ。実体化が解消された、って感じか?」

 レグナが言った。そいつなりに疲れのか、地面にそのまま座りこむ。

「ジッタイカ? それって何?」

「本体からは遠く離れた位置に、仮の分身を送ってきた… てのが、いちばん近いと思う。コピーみたいなもんだな。相当に高次元な魔法だが。そういう術があるのは聞いたことがある」

「それって何? コピイ? もっとちゃんと説明してよ」

「うるせー。おれ自身も少し混乱中だ。おれにすべての説明を求めんな。ササカ、お前、いったい何をした?」

「何って? ただ単に、投げただけよ。短剣。首ねらって、当てようとした。けど。ほんとに当たったのかな? なんかぜんぜん、手ごたえなかった」

 レグナが雪の上にから、それを拾った。短剣。あたしが投げたやつ。そいつの体をすりぬけて―― むこうの岩に跳ね返り、雪の上に落ちたそれを。

「…む。妙な魔力を感じるな。何だこの剣は?」

 レグナは目の近くに、短剣の刃をもっていく。そのあと二、三回、素振りした。重さを確かめるみたいに。

「ちょっと。返してよ。地元の偉いヒトにもらった、大事なものなんだから」

 あたしは言って、レグナの手から取り返す。柄のとこに、まるい緑の石がはまった―― きれいな銀の、細い剣。その刃渡りは短くて。たいした重さも感じない。

「これね。村を出るときに、アススヤのおばあからもらったの。護身用だっていって」

「誰だよ、アススヤのババアって?」

「うーんと、わかりやすく言うと、長老みたいな感じ? なんかいろいろ物知りで。村の相談役、やってるヒト―― って、ねえこれ、何? なんか緑に、光りはじめたよ???」

「おいおい、またかよ。なんかまた、たちのわるい遠隔魔法の呪いとか、かかってんのか?」

「え、だってまさか、アススヤのおばあが、呪いとか?? あッ??」

 世界がいきなり、緑に染まった。

 なにこれ、まぶしすぎだよ!!



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