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それでも女神は続けたい。  作者: ikaru_sakae
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チャプター6


 次またいきなり、視界が戻ったときに。

 あたしはそこに立っている。雪の上。街の中。どこだここ…?

 街の… 通り? なんかいっぱい、人が… 行商人とか、馬とか、行き交ってて。

 ガッシリした木造の商店も―― 雪の道沿いに、いっぱい家が並んで建ってて――

「おい! 危ないだろ! 進路に立つな!」

 いきなり馬がいなないて。でっかい馬車が目の前で止まる。御者の男が、ひとしきりこっちに罵声あびせて。そのあと、通りのむこうに走り去った。車輪がたてる雪煙を残して。

「おいこら。ぼんやりするな。ここはまだ、目立つ。さらに移動だ」

 見ると、そいつが。

 あたしの右手、またぐいぐいと引っ張ってるし。

「え?? 何? どこ行くのよ?? 痛ッ! そんな引っ張らないで!」


――逃げたぞ! 星選者が、逃げた!


 遠くで誰かが叫んでる。カンカンカンと、警報の鐘も、あっちこっちで鳴り始めた。

 遠くを走り回るヒトたち。叫びまわる人たち。

 駆けまわる人たちの中には―― 武器をもった兵士のヒトも、大勢いる。

「え?? やばいよ? ちょっとやばくない?? これ捕まったら、相当ヤバいよ??」

「なんだかすごいことに、なってますね……」

「おまえら二人、わかりきったこと言ってんなよ。ほら、もっとしっかり、手ぇ握れ。いまからもう一回、飛ぶ。転移するぞ。ほら、」

 そいつが急に足とめて、こっちをふりむいた。浅黒い右の手のひらを、あたしの方へ。左の手のひらを、もうひとりの女の子の方に。

「握れ。すぐに飛ぶ。ほら、はやく!」

「え? 何? 飛ぶ?」「…ここからもういちど、転移―― ですね…?」

「ああ。こんどはもう少し長く飛ぶ。座標はすでに固定した」

 そいつが真剣な声で、早口にささやいた。

「だが、今度は少し時間が長い。その間、ぜったいに手を離すな。放すと、どこか未知の亜空のはざまに落ちて、二度とは出られなくなる。危険な跳躍だ。だからぜったい、放すなよ?」

「え、ちょ、ちょっと。そんな危ないのに、いきなり準備しろとか??」

「しっかり握って、放さなければ良いのですね?」


「いたぞ!」「あそこだ!!」

 路地の向こうで声がした。でっかい剣もった、鎧を着こんだ兵士らが。六人? 七人?

 もうこれ、きてるきてるきてる! 足元の雪を蹴散らしながら! ダッシュで来てるよ! もうそこ、来てるから! 来てるし! やばいやばいやばいって!

「あんたちょっと! 飛ぶなら、はやく飛んでよ!! やばいよ、そこ、ほら!」

「うるせー。おまえはちょっと、口とじてろ」

 そいつが言って、目を閉じた。そのまま沈黙。そのあといきなり、目を見開いた。

「飛べ! ウドゥ・マ・スル・ア―ドゥン!」

 視界が一瞬、暗くなり。そこだ!とか、捕らえろ!とか、いまそこで言ってた兵士らの声も、一瞬でうしろに、かき消えた。

 いま視界に広がるのは、いくつもの色に輝く、ひたすらつづく文字たちだ。その、不思議な文字がつくりだす、途切れない色の模様が―― トンネルみたいにどこまでも。それをくぐってくぐってくぐって。くぐり続けて。

 でもやがて。またそこに、光。視界に何かが、見えてきた―― 見えてきた見えてきた、

 見えてきたけど! ああ、なにこれ。めまい? なんかもう、上下の感覚がぐちゃぐちゃして、何がなんだか、わかんないよぉ!!



【 読者の二つの選択肢 】

  

  ① すぐにストーリーの続きを追う 

     ☞ この下は読まずに次のチャプターへ


  ② 女神の視点も見ておきたい 

     ☞ つづけて下のシーンを読む





 ばかな。まさか、そんなばかなこと。

 転移で、姿をくらました? まったくほんとにばかげてる。なんたること。北星庁の者たちは、いったい何をしていたの? もう、これだからもう、ゴミのような原始生命に重要な職務を割り当てるのは、いつも不安で仕方がない―― でも。いまそれを言っても仕方がないわ。

 北星宮の大魔法陣は、もうすでに発動を始めてしまった。あの機構の回転動作は、不可逆的なもの。いちど回転をはじめたら、すべてを終えるまでは止まらない。他にはあれを止めるすべはない。解決策は、ただひとつ―― 

 すぐにも。今すぐにもでも。星選の娘を。そこまでただちに、連れ戻す。すぐによ! そうでなければ、熱が―― 魔法機構が熱暴走を始めてしまう。ああ、もうすでにその熱が。魔法糸をつたって、こちらに届きはじめている。

 いけない。いけない。いけないこれでは。溶けてしまうわ。すべてが溶けて、なくなってしまう。ああもう、でも―― それよりすでに、心臓が。わたしの心臓。ああ、もう、止まる―― く、止め、て、なるものか。なるものかなるものか。ああ、動け動け、わたしの心臓―― 

 でも。しかしどこへ? 転移先の、座標が読めない。魔力が少しも読み取れない。あれはあるいは、ゴミなりに―― 魔力偽装を? 座標の隠蔽? それなりの魔法知識を、持っている者なのかしら。くッ、いまいましい。下層世界の塵のくせに。わたしの命を、危険にさらす、などと―― ああ、もう本当に憎らしい。苦しい。痛い。わたしの心臓――

 とにかく。いまは。探す。探すわ。探し出す。そうだ、布告を。世界に、同時に。下層世界の隅々にまで。伝える。伝えよ。伝えなければ。魔法陣の熱暴走が―― これ以上、加速してしまわないうちに。探す。見つける。見つけ出すのよ。すぐにも。すぐに。絶対に――




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